今日は朝から、司法局や軍部、ヒーローたちの集まるトレセンと移動ばかりの一日だった
トレセンに来た理由は、鏑木とアントニオに礼を言うため
そこで軍部に忘れ物をしたことに気づき、一人で取りに行くことにした
サクッとお願いして、俺は一人軍に戻ろうとすると悠月と悠花が両手を伸ばして小さなトンネルを作っていた
悠雪がそのトンネルを潜りながら歌い始め、トンネルを潜った悠雪は悠月と変わる
「こーこはどーこのほそみちじゃー」
「てんじんーさまのほそみちじゃー」
悠月はトンネルを潜ると悠花と変わる
そうして悠花が潜った後に、歌詞を引き継いで歌いながら、悠月と悠花で再び作ったトンネルの前にしゃがむ
「ちっと通してくだしゃんせ〜」
「ごようのないものとおしゃせぬー」
悠雪が後ろから抱きついてくる
あら、俺のこと引き留めたいのね
「このこのななちゅのおいわいにー」
「おふだをおしゃめにまいりますー」
お、油断した
体が小さいから、油断するとすーぐ幼児言葉出ちゃうもんね?
「行きはよいよい、帰りはこわい」
「こわいながらも」
「とおりゃんせーとうりゃんせー」
「とおりゃんせーとうりゃんせー」
ぐぅーっ、と頑張って伸びてトンネルを大きくしてくれる
その間を通り抜けて、三人に手を振る
「じゃあ、行ってきます。ちゃんと良い子にしてたら、今日の夜ご飯のデザートはお汁粉です」
「いってらっしゃい」
「いってあっしゃい」
「いてあっしゃい!」
今日の朝、恐竜パーカーを選んだ俺グッジョブ
めっちゃ可愛い恐竜が目の前にいる
トレセンのトレーニングルームの一角
ちょうど、小さな体格の子供たちだけなら入り込めそうな隙間
そこに弟たちを押し込んで、ただひたすらに、ジッ、とヒーローたちを見つめる
気分は悠仁に拾われる前の廃墟である
「どうしちゃったのかしら…ほーら、いらっしゃい?」
「そんなとこじゃ狭いよ?」
返事はしない
かと言って、背も向けない
口では保護だのなんだというが、向こうは戦闘の仕方を知っている
油断したところで何をしてくるかわからないからな
だから、見つめる
「こっちを警戒してるだけだろ。そのまま放っておいてやれ」
「タイガー?」
「……もう、教育は始まってたのかもなぁ。あれだけNEXTを使えるんだ。すぐにでも使えるようにしたかったんじゃねぇの」
元軍属だったか
まぁ、いい具合に勘違いしてくれてるな
「今まではユウジがいたからな。安全だと理解していたんだろう。無理に引きずりだそうとすれば、警戒して余計に出てこなくなるぞ」
「ハァ」
あー、こうやってくっついて寝てるとあったかい
眠くなってきたな
「信じられませんよ。そんな話」
「バニーちゃん。ここは年長者の言うことを聞いとけって、な?」
「大体、なぜ僕たちが面倒を見なければいけないんですか。シッターに任せればいいじゃないで、ッ!?」
襟首を掴まれ、引き摺り出された
それが、悠仁に拾われる前の
あの荒廃した廃墟で、ゴロツキたちに襲われた時の手つきに似ていて、咄嗟に、術式を飛ばす
手に走ったであろう痛みに俺を手放したヒーローの足元を駆け抜ける
弟たちも、俺についてくる
「っ、」
なるほど
体が幼くなった分、元の反応に戻るのか
どうしたもんか
お
あの陰なら隠れられそうだ
「からだがちいさいと、むかしのはんのうをするんだな」
「そうらしい。ゆうじはよじにかえってくるといった。おとなしく、かくれていよう」
「だれかきたぞ」
弟たちを奥に押し込んで、積まれた段ボールの陰に身を滑り込ませる
俺たちを追ってきたのは、ほぼ素顔で活動するヒーロー、ワイルドタイガー
本名を鏑木・T・虎徹
アイパッチだけをつけたトレーニングウェアで、俺たちのことを探していたらしい
「ああ、いたいた。ごめんなぁ、バニーちゃんが」
俺を見つけた虎徹
俺たちが隠れる段ボールの近くに腰を下ろす
「おじさん」
「近寄んな」
バディにこんな冷たい声を出すことがあるのか
時系列的には一期なのは間違いなさそうだな
「おやおやぁ?こんなところにヒーローのお二方が。初めましてぇ月刊オニキスの記者、ジーンといいます」
「……ここは、関係者以外立ち入り禁止のはずですが」
「おかしいですねぇ受付に上にどうぞと言われたのですが」
「NEXTか」
「はいぃこのNEXTのおかげでスクープガッポガポでして。ところでぇその段ボールの陰にいる子供たちは?もしやぁ誰かのお子様ですかね?」
気味の悪い話し方だな
早く、帰ってこないかな
「……なぁ、セキュリティ甘すぎじゃね?」
悠仁?
「悪いな。お前の子供たち、怖がらせちまった。急に大人に囲まれたのにビビったらしい」
「ふぅん。オッサン、今持ってる記録媒体全部ここに置いてビルから出ていけ。そうすれば警察に突き出すのはやめといてやるよ」
「おやぁ?あなたは一体」
「F部隊だよ」
「!?」
ガチャガチャと何かを落としていく音
「これ以上はないぞ!」
「じゃあさっさと出てけ」
バタバタとかけていく音に、段ボールの隙間からその姿を見る
丸ハゲの男だった
「お、もしかして鞠か?」
「はい!子供のおもちゃにちょうどいいかと思いまして」
色とりどりな糸で模様を縫いつけられた、手毬
これ、女の子用のおもちゃなんだけどな
お、遊ぶの?
「ひとつ、ひとよりハゲがある」
ぽむん、ぽむん、と鞠をつきながら、悠雪が歌い始める
「ふたつ、ふもとにハゲがある」
「みっつ、みかづきハゲがある」
えw?
数え歌、だけどw
「よっつ、よこにもハゲがある」
「いつつ、いつでもハゲがある」
「むっつ、むこうにハゲがある」
ニコニコと悪気はありませんって顔で笑ってるけどw
絶対腹の中であの嫌な記者への鬱憤溜まってるでしょw
「ななつ、ななめにハゲがある」
「やっつ、やっぱりハゲがある」
「ここのつ、ここにもハゲがある」
「とおで、とうとうツルッパゲ!」
「とーで、とうとうツルッパゲ!」
「とおで、とーとーツルッパゲ!」
「あっはっはっは!」
「おまっ…おwまwえwwなんちゅう歌教えてんだww」
「俺じゃねぇしwww」
絶対、藤村組のあんちゃんたちだろwww
こんなとこで披露しないでwww
「タイガー?一体、どうしたっていうのよ」
「あー、…日系人なら知ってるんだが、ハゲっていうのは……ゴニョゴニョ……」
きょとり、とこちらを見上げる子供たちを抱き締める
アントニオからハゲの意味を聞いたヒーローたちの吹き出す声を聞きながら、滲んだ涙を拭った