魂の寄る辺、生きる寄す処   作:少彦名

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シャツに手を通す
滑らかな生地に引っかかりは全くない
スラックスを履いて、ベルトを締める
ジャケットを手に取ったところで、むずがるように声を上げた子供たちに破顔した

「ゆじぃい!」

「はいはい」

小さな手でボタンを締められなくて、ぐずる悠花
悠雪はなんとか締めたようで、悠月のボタンを締めている

「よし、できた」

「んー!」

F部隊の所属といえども、俺は派遣員という扱いで司法局にお勤めになるそう
俺たちがどこぞの犯罪カルテルから逃げ出した、というところがネックだそう
そんなものないんだけどね

「じゃあ、いこうか」

「おー!」

「ゆーじ、おちごと」

「そうだよー」

子供たちはプリスクールに預けることになっていて、初日にわざと軍服で預けにいくのはちょっとした脅し
片親であることを噂するだろう保護者たちにはこれが抜群に効く
それから、子供たちにとってはかっこいい親というものに憧れるものである
新入りだとしても、輪に入りやすくなるだろう

「あら、ま」

「おはようございます」

「まぁまぁまぁ!軍人さんだったの!」

「ええ。妻がこの子たちを遺して逝ってしまって…ようやく落ち着いたので、復帰を」

隣に住むのは元看護婦であったという高齢の女性
夫には先立たれたそうで、幼い子供たちの声がうるさいだろうと挨拶に行った時に優しく迎え入れてくれた人だ
ゴミ出しに出てきたようだが、俺の格好を見て目を丸くする
こういう嘘をつくことに慣れたの、いつだったかなぁ


血走る眼に溜息をついた

「なぁなぁなぁ!パパ、かっこいいな!」

 

「かっこいいだけじゃないぞ。つよい」

 

「バーナビーよりつよい!?」

 

「つよい」

 

「すげぇ!!」

 

悠仁に送られて、やってきたのはプリスクール

日本でいう保育園のようなところだ

俺たちが幼すぎるので、シッターを呼ぶか、プリスクールに預けるかの二択で、迷わず悠仁はプリスクールに放り込むことを決めた

兄は早々に他の子供たちに囲まれていて、悠仁の強さを語っている

弟は女の子たちに大人気のようだ

まぁ、伏黒恵フェイスである

女の子みたいに可愛いのは自覚済みであるし、それをうまく使って女の子たちの初恋キラーをしているようだ

俺は、プリスクールの職員に抱っこされている

 

「やっぱり日系人だからなのかしら。周りの子より小柄だけど、お顔がプリチーよね」

 

「約束された将来しか見えないものね。それにお父さん見た?」

 

「なんか、滲み出る色気があったわ!」

 

「シングルファザーなのよ。狙っちゃおうかしら」

 

「ちょっとやめなさいよ〜」

 

悠仁、思いっきり狙われてる

気を引き締めないと

悠仁は俺たちのものなんだから

 

「そろそろお昼の時間よ。ほら、立った立った」

 

「はぁい、グランマ」

 

「みんなー。お昼の時間よ〜お片付けしましょうね」

 

ようやく解放された

子供らしくないのは十分理解しているが、大人しい子供を代わる代わる抱っこするな

抱っこされるのも疲れるんだからな

 

「ゆづき」

 

「ん」

 

兄に手を引かれ、弟の隣に座らされる

このプリスクールはお弁当を持参する

俺たちのお弁当は、悠仁の作ってくれたおにぎらずだ

焼き海苔にご飯を敷いて、具材を載せてパタパタと畳むだけでできる

これ一つでおかずもご飯も食べられる、万能食だ

 

「いただきます」

「いたーきます」

「いたーきます」

 

デザート用のタッパーにはりんご

飲み物は麦茶

俺たちの口の大きさに合わせて、全部小さめ

半切サイズの焼き海苔を三つ折りにしたおにぎらずは一人2個

幼くとも大食漢の兄弟なので、これくらいがちょうどいい

兄は5歳なので、チーズボールがおかずにプラスされて、デザートが多め

これが全部、悠仁手作りの巾着袋にサンドイッチ用のランチボックスに入っている

他のみんなはサンドイッチだったり、シリアルだったり

 

「うちで日系人の子預かるの初めてだけど…ランチボックスが豪華よね」

 

「ちゃんと手作りってわかるランチボックスだわ」

 

「あの黒いのってもしかしてNORIかしら?」

 

「じゃあ、もしかしてあの子たちが食べてるのがONIGIRI?」

 

めっちゃ見られてるな




「お待たせ。迎えにきたよ」

「ゆじ!」

「ゆーじ!おしょい!」

「ねーえー。ここでくらい俺のことお父さんって呼んでもよくなーい?」

姿が見えるなり、俺に飛びつきにきた悠月と悠花
外で遊んでいたからか、遊具から飛びかかられるようなものだったけど、このくらい屁でもない
しっかりと抱き直してやれば、二人が頬を擦り寄せてくる

「ゆうじがつかいものにならなくなるから、いわない」

「なんでぇ?」

ガックリ、と首を落とす
悠雪は二人の分のカバンも持ってきてくれた

「お疲れ様でした」

「ああ、先生。今日はありがとうございました。様子はどうでした?」

「喧嘩もすることなく、むしろ他の子達の面倒を見てくれてました。お陰で助かりました」

「そうですか」

プリスクールの先生たち、そして、同じ時間に迎えにきたお母さんたちの視線
まぁ、顔面にこんな目立つ傷あるし、なんなら左手は指二本ないし目立つよな

「ユーカくん!」

おや?

「かえっちゃやっ!エリーとよ!」

マジかw
これは初恋キラーやっちゃったかな?

「こら!エリーゼ!」

「ユーカくんとあしょぶの!」

「すみません!うちの子が…」

「あ、いえ、なんか、逆にすみません?」

すぴぃ、と抱きついて秒で寝てる悠花
夕飯前に寝ないで欲しいんだけど

「おーい、悠花〜?」

「ゆうじ。ゆうか、ねてる」

「ほら、エリーゼ。今日はもう疲れちゃったのよ。また明日あにしましょうね」

「いーやー!」

悠花が落としちゃったらしい女の子
その子の母親に、早く行ってくださいとジェスチャーをされる
会釈だけ返して、三人分のカバンを持った悠雪がジャケットの裾を掴んだのを確認して、プリスクールから離れた
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