風の祝が奇跡を運んでくれることを   作:ミスブルー

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台風が迫ってきているので雨の回です


第一章 雨を追いかける

休校の日

 

六月

 

梅雨前線と台風が重なった朝だった。

 

俺――書本護が目を覚ました時、窓の外はまだ夜の続きのように暗かった。

 

時刻は午前五時四十分。

 

目覚ましより早い。

 

原因は簡単だ。

 

雨。

 

尋常ではない雨音だった。

 

屋根を叩く音が絶えず続いている。

 

まるで誰かが空の上から大量の砂を撒いているような音。

 

布団の中で一度寝返りを打つ。

 

そして枕元の携帯を確認した。

 

学校から通知が届いている。

 

でも予感はした。

 

通知を開く。

 

 

 

本日、暴風警報発令のため休校とします。

 

 

 

「……だよな〜」

 

思わず呟いた。

 

高校生としては喜ぶべき知らせだ。

 

でもこれほどの天気だと外出もできない。

 

休日をもらったのに何もできないのだ。

 

少し損をした気分になる。

 

窓を見ると庭木が大きく揺れていた。

 

雨粒が窓ガラスを斜めに流れていくのが見える。

 

まるで外の世界そのものが水の中に沈んでいるようだった。

 

そんな時だった。

 

携帯が震える。

 

東風谷早苗。

 

予想通りの名前だった。

 

『護くん!』

 

朝六時前なんだが。

 

元気すぎないか?。

 

続いて次の文章。

 

『休校ですね!休校!』

 

 

また携帯が震える。

 

『暇です!』

 

俺は返信した。

 

『寝なさい』と

 

数秒。

 

既読。

 

即座に返事。

 

『眠くありません!』

 

だろうなぁ。

 

知っている。

 

『神奈子様と諏訪子様もこんな大雨では暇そうです!』

 

神様まで暇なのか。

 

守矢神社は大丈夫なのだろうか。

 

神社として。

 

『なので諏訪湖を見に行きませんか?』

 

 

 

俺は携帯を閉じた。

 

見なかったことにした。

 

しかし相手は東風谷早苗である。

 

そんなことで諦める人間ではない。

 

案の定電話が鳴った。

 

 

「もしもし」

 

『あ、出てくれました』

 

「切るぞ」

 

『待ってください』

 

開口一番だった。

 

『護くんは雨の日の諏訪湖って好きですか?』

 

「好きとか嫌いとか考えたことないぞ」

 

『私は好きなんです』

 

早苗の声が少し弾んでいる。

本当に好きなのだろう。

 

『雨の日って空が近いんですよ』

 

何だその感想は。

 

意味が分からない。

 

だが東風谷早苗らしいとも思った。

 

『だから見に行きませんか?神社から』

 

「神社から?」

 

『はい』

 

なるほど。

 

外へ出るつもりではなかったらしい。

 

それならまだ常識的だ。

 

少しだけ安心する。

 

「……昼頃なら行く」

 

『本当ですか!?』

 

「本当だ」

 

『やった!』

 

電話の向こうで3人の歓声が聞こえた。

 

たぶん神様達も騒いでいる。

 

想像できてしまう。

 

昼過ぎ。

 

雨はさらに強くなっていた。

 

俺はレインコートを着込み守矢神社へ向かった。

 

山道は霧で白く霞んでいる。

 

木々は風に揺れ続けていた。

 

鳥の声もない。

 

車の音もない。

 

世界から人が消えたようだった。

 

守矢神社に着くと鳥居の下で早苗が待っていた。

青いレインコート姿だった。

 

巫女服とは全く違う。

 

どこにでもいる高校生のようでだけどやっぱり東風谷早苗だった。

 

「遅いですよ」

 

「十分前だ」

 

「私、三十分前から待ってました」

 

「馬鹿だな」

 

早苗は笑った。

 

怒らない。

 

こういうところは本当に強い。

 

二人は拝殿へ向かった。

 

境内には誰もいない。

 

風だけが吹いていた。

 

雨だけが降っていた。

 

その静かな世界の中で早苗は縁側に腰掛ける。

 

「綺麗ですね」

 

そう言った。

 

目の前には雨の諏訪盆地。

 

遠くの町並み。

 

霞む諏訪湖。

 

灰色の空。

 

確かに綺麗だった。

 

晴れの日とは違うな。

 

雨の日にしか見えない景色だった。

 

 

そしてその時だった。

早苗の視線が遠くで止まった。

 

「あれ……?」

 

声色が変わる。

 

いつもの好奇心を見つけた時の声だった。

 

「護くん」

 

「なんだ」

 

「湖の方を見てください」

 

俺も目を凝らす。

 

雨の向こう。

 

諏訪湖の岸辺近く。

 

そこに何か白いものが並んでいるように見えた。

 

人?。

 

いや人影…。

 

十人。

 

二十人。

 

いや、もっとかもしれない。

 

全員が傘も差さず雨の中で湖を見つめて立っていた。

 

「……何だあれ」

 

その瞬間。

 

早苗と俺は顔を見合わせた。

 

同じことを考えていた。

 

これもう普通じゃない。

 

 

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