早苗と食べる学校でのお昼ご飯
昼休みのチャイムが鳴る。
午前の授業を終えた生徒達が一斉に席を立ち、友人同士で集まったり購買へ向かったりと教室は一気に賑やかになった。
そんな中。
俺――書本護は、弁当箱を持って窓際の席へ移動する。
「護くん、お待たせしました」
いつものように東風谷早苗がやってきた。
「今日は少し遅かったな」
「ごめんなさい。委員の仕事を頼まれてしまって」
「そういうことなら仕方ない」
二人で机を寄せる。
外は六月らしい曇り空。
雨は降っていないが、いつ降り出してもおかしくないような空模様だ。
「いただきます」
「いただきます」
ぱかりと弁当箱を開く。
「お…」
思わず声が漏れた。
「今日の弁当、美味そうだな」
「本当ですか?」
早苗は少し嬉しそうに笑う。
「今日は朝、少し早く起きたんです」
弁当の中には、
綺麗に焼かれた卵焼き。
ミニハンバーグ。
ブロッコリー。
ほうれん草のおひたし。
タコさんウインナー。
そして俵型のおにぎりが二つ。
「豪華だな」
「神奈子様が『高校生なんだからしっかり食べなさい』って」
「なるほどな」
「諏訪子様はタコさんウインナーを見て喜んでました」
「好きなんだ」
「好きみたいです」
早苗がくすっと笑う。
「お二人とも、結構子供っぽいところがあるんですよ」
「そうなのか?」
「ええ。昨日なんて、お酒を飲みながら二人でテレビを見ていて」
「また飲んでたのか」
「最近暑くなってきたからでしょうか」
少し困ったような笑顔。
「神奈子様は日本酒がお好きですし、諏訪子様はビールですね」
「なんとなく想像できる」
「昨日も二人ともご機嫌でした」
「酔っ払うのか?」
「酔いますよ?」
「神様なのに?」
「神様だから、でしょうか?」
「逆にか」
「神奈子様なんて昔話を始めると長いんですよ」
「へえ」
「諏訪子様も途中から一緒になって盛り上がって」
「それで?」
「最後は二人とも寝ます」
「寝るのか」
「寝ます」
二人で笑った。
「護くんのお弁当は?」
「俺も自分で作った」
「え?」
早苗が目を丸くする。
「自分で?」
「あぁ」
「毎日ですか?」
「まあな」
「凄いです……」
「慣れればそうでもない、早苗だって自炊しているじゃないか」
「卵焼きも?」
「作った」
「唐揚げも?」
「これは冷凍」
「正直ですね」
「全部手作りはさすがに無理だな」
早苗はくすっと笑った。
「でも、十分ですよ」
「そうか?」
「はい。私、一人暮らししたら絶対苦労します」
「神奈子と諏訪子がいるだろ」
「料理はしてくれますけど、たまにお酒が入ると味付けが大胆になるんですよ」
「それは怖いな」
「一度、味噌汁に日本酒が入ってました」
「何で?」
「『隠し味よ』って」
「隠れてないけどな」
そんな他愛もない会話をしながら昼食を進めていると。
不意にーーー
「あ」
早苗の顔がぱっと明るくなった。
「そういえば護くん!」
「ん?」
「日曜日の戦隊、すごかったんですよ!」
「ああ」
また始まった。
嫌なわけじゃない。
むしろ好きな話をしている早苗を見るのは嫌いじゃないんだ。
「今回はロボット回だったんです!」
「へえ」
「五体合体なんですよ!」
「五体か」
「はい!」
早苗の目がきらきら輝く。
「最初に赤いロボットが真ん中になって!」
「うん」
「青が右腕で黄色が左腕!」
「なるほど」
「それで緑が背中側に付いて!」
「ほう」
「最後にピンクが胸の部分になって!」
「完成か」
「完成です!」
ものすごく嬉しそうだ。
「しかもですね!」
「まだあるのか」
「剣が出てくるんです!」
「剣」
「大きい剣です!しかも胸から出てくるんです!」
「すごいロボットだな。巨大ロボには必要なんだな」
「必要です!」
断言された。
「それで敵をばーんって!」
早苗は箸を持ったまま身振り手振りで説明する。
周りの友人達も「あ、また東風谷さん始まった」みたいな顔をしている。
これもいつものことだ。
「護くん、聞いてます?」
「聞いてる聞いてる」
「本当ですか?」
「赤いのが真ん中」
「はい!」
「青と黄色が腕」
「はい!」
「緑が後ろ」
「はい!」
「ピンクが胸」
「完璧です!」
なんだか嬉しそうである。
「護くんも見ればいいのに」
「俺はそういうのあまり見ないからな」
「ですよね」
「悪い」
「いいんですよ?」
早苗はにこりと笑った。
「でも、こうして聞いてくれるだけで嬉しいです」
「そうか?」
「はい」
「なら良かった」
「私、昔からこういう話ばかりしてたので」
「好きなんだな」
「大好きです!」
即答だった。
「変ですか?」
「変じゃないよ」
「本当です?」
「本当だ。好きなものを楽しそうに話してるやつを見るのは嫌いじゃない」
「……」
早苗が少しだけ目を丸くした。
「護くんって優しいですよね」
「そんなことない」
「あります」
「ない」
「あります」
「ないって」
「あります」
妙なところで譲らない。
「今度、録画したの見ます?」
「いや、そこまでは」
「そうですか」
「でも話なら聞くよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「じゃあ次の日曜日の話もしますね!」
「毎週か」
「毎週です」
「長くなりそうだな」
「頑張って短くします」
「無理そうだな」
「……たぶん無理です」
二人で笑う。
窓の外では、雲の隙間から少しだけ陽射しが差し込んでいた。
怪談も、妖怪も、不思議な事件も起きない。
ただ昼休みに一緒に弁当を食べて家の話をして好きなものの話をして、そんなありふれた時間だ
けれど、きっとこういう時間は後になって振り返れば何より大切な思い出になるのだろう。
「そういえば護くん、今度の日曜日に守矢神社に来ませんか?」
「何かあるのか?」
「戦隊を見るだけですよ」
「それだけ?」
「それだけです」
「平和だな」
「平和ですよ?」
早苗は楽しそうに笑う。
「神奈子様も諏訪子様も、結構好きなんですよ」
「神様が戦隊見るのか」
「二人とも真剣です」
「なんかちょっと想像つかないな」
「神奈子様なんて、お酒飲みながら見てますし」
「日曜の朝からか」
「日曜日ですから」
「それでいいのか神様」
「いいんじゃないでしょうか」
東風谷早苗は、そう言っていつもの柔らかな笑顔を浮かべた。
昼休み終了のチャイムが鳴る。
「あ…」
「終わりか」
「ですね」
弁当箱を片付けながら、早苗は少しだけ名残惜しそうに笑った。
「また放課後、護くん」
「ああ。また後で早苗」
そうしていつもの午後が始まる。
六月の曇り空の下。
変わらない日常は、今日も静かに続いていくのだった。
本当にごはん食べて駄弁ってるだけでした