風の祝が奇跡を運んでくれることを   作:ミスブルー

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書本家

夜の十時を回っていた。

 

書本家の玄関を開けた瞬間

 

「遅い」

 

低い声が飛んできた。

居間を見ると父親が腕を組んで座っていてテレビは消され新聞も閉じられている。

 

「ただいま」

 

「最近帰りが遅いな」

 

「学校の帰りに色々あるんだ」

 

「色々か」

 

父親は不機嫌そうに鼻を鳴らした

 

「どうせまた祖父さんの蔵にも行っていたんだろう」

 

「それの何が悪い」

 

「何もかも祖父さんの道具ばかり持ち出して」

 

「祖父の物なんだからいいだろ」

 

「良くない」

 

その声に俺は思わず父親を見る

 

「祖父さんは祖父さんだ」

 

「お前のじゃない」

 

「……」

 

「ヒトガタも呪符も全部祖父さんの物だ」

 

「だったら何だ」

 

「自分の道具一つ持っていない祓い屋は無駄でしかない」

 

「っ…」

 

「他人の道具に頼るだけの才能のない半端者なら最初からやめることだ」

 

「なんだよそれ」

 

「事実を伝えたまでだ」

 

父親は冷たく言い放った

 

「いざという時に自分の術も持たない奴に何が守れる。何が祓い屋だ。我々は廃業したのだ。もう終わったのだ」

 

「……」

 

「もうやめるんだ。わかったな?」

 

「………」

 

居間の空気が重くなる。

母さんが困ったように間に入った。

 

「あなたも護も落ち着いて。護もそんな顔しないの」

 

「……ごめん」

 

「夜更かししないでね」

 

「うん」

 

返事だけして自室に戻った。

腹が立っていたし悔しかった

けれど否定もできなかった。

 

今使っている物は全部祖父が残した物だったからだ。

 

ヒトガタも呪符もどれも俺のではない祖父の術だ。

俺自身の物は何一つない。

眠れなかった。

やがて起き上がる。

 

「だったら作ればいい」

 

誰に聞かせるでもなく呟き蔵へ向かった

 

古い木の匂いと積み重ねられた書物にかつて祖父が使っていた机。

 

何度も見てきた景色だ。

 

「わかってる。俺はまだ全然だよ」

 

机に座り筆を持つ。

まず作ったのは身代わりの札だった。

祖父のヒトガタを参考にしながら何度も失敗する。

 

紙が燃えたり、術式が崩れる。

霊力が流れなくてなにも起きない。

 

それでも諦めず筆を走らせてようやく一枚だけ成功した。

 

「できた……」

 

簡易的な身代わり札だ。

一度だけ持ち主への呪いや攻撃を肩代わりする

 

祖父の物には遠く及ばないがそれでもこれは俺の作った術だ。

 

 

細かく裂いた紙片に残留思念を探らせる。

 

記憶を辿る紙吹雪。

 

誰かの想いの残り香を追うための術だ

 

「早苗ならこういうの好きそうだな」

 

思わず俺は笑うも父親の言葉はまだ頭から離れなかった。

 

蔵の中で腕を組みながら考える。

 

そして視線が止まった。

 

床に落ちていた一枚の紙だ。

何気なく折った。

 

子供の頃よく投げて遊んだ紙飛行機だ。

 

「……紙飛行機」

 

不意に思いついた。

俺は筆を取り紙飛行機の翼に呪符を書く。

そして恐る恐る投げると紙飛行機は真っ直ぐ飛んでいくと数メートル先で弾けた。

 

無数の紙吹雪となって散り失敗だと悟る。

 

二回目。

 

三回目

 

十回目…

 

紙飛行機は燃えて爆発した。

 

ようやく一つの形が完成する

 

飛んだ紙飛行機が空中で炸裂し

 

無数の紙片が周囲に舞った

 

紙一枚一枚に込められた霊力が淡く輝く

 

「できた……!」

 

祖父の術には存在しない誰も使ったことのない俺だけの術

 

妖怪に向かって投げると命中と同時に爆散し浄化する紙飛行機の呪符。

 

思わず笑みがこぼれた

 

「自分の術……か」

 

まだ始まったばかりで祖父には遠く及ばない。

父親にすら認められていない。

 

それでもいい

だから少しずつでいい

 

いつか誰かに書本護の術だと胸を張って言える日が来るように。

 

俺は筆を持ち新しい紙に書いていく。

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