風の祝が奇跡を運んでくれることを   作:ミスブルー

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願い結ぶ夜

 

綿あめを食べ終える頃には空は少しずつ茜色へ染まり始めていた。

昼間の暑さも少し和らぎ商店街には涼しい風が吹き抜ける。

頭上では七夕飾りが揺れ色とりどりの吹き流しが夕日に照らされていた。

 

「夕方になるとまた雰囲気が変わりますね」

 

早苗は足を止め空を見上げる。

 

「ああ 昼よりも綺麗だな」

 

屋台の明かりも一つまた一つと灯り始め祭りはこれからが本番という空気になっていた。

子ども達は走り回り家族連れや学生達も笑顔で通りを歩いている。

 

「護くん あちらも見てみませんか」

 

早苗が指差した先には子どもくじの屋台があった。

景品のおもちゃが所狭しと並び小さな子ども達が目を輝かせている。

 

「懐かしいな」

 

「私 小さい頃は何が当たるか楽しみで仕方ありませんでした」

 

「いい物は当たったのか」

 

早苗は少し考えてから笑った。

 

「外ればかりでした」

 

「そういうものだよな」

 

「でも一回だけ風鈴が当たったことがあるんです」

 

「風鈴か」

 

「その年の夏はずっと部屋へ飾っていました」

 

懐かしそうに話す早苗を見ていると今でもその風鈴の音を覚えているのだろうと思った。

屋台を後にすると今度は焼きもろこしの香ばしい匂いが漂ってくる。

 

「いい匂いですね」

 

「食べるか」

 

「今日は食べてばかりですね」

 

「祭りだからな」

 

二人で一本ずつ受け取り歩きながら食べる。

 

醤油の焦げた香りが口いっぱいに広がり思わず笑みがこぼれた。

 

「美味しいです」

 

「屋台で食べると余計にな。なんでだろうな」

 

「不思議ですね」

 

笑い合いながら歩いていると商店街の真ん中に大きな笹が飾られているのが見えた。

色とりどりの短冊が風に揺れている。

子ども達だけではなく大人も足を止めて願い事を書いていた。

 

「ここにも短冊があるんですね」

 

「神社だけじゃないんだな」

 

俺達も笹の前まで歩いていく。

風が吹くたびに何百枚もの短冊がさらさらと音を立てた。

早苗はその景色を静かに見つめている。

 

「皆さん それぞれ願い事を書かれているんですね」

 

「そうだな」

 

「神社とは場所は違いますけど願う気持ちは同じですね」

 

その言葉に俺は数日前の社務所を思い出した。

 

白い短冊を前に悩んでいた早苗。

 

まだ何も書かれていない俺の短冊。

 

「そういえば」

 

俺は鞄へ目を向けた。

 

「まだ短冊書いてなかったな」

 

「私もです」

 

早苗は小さく笑う。

 

「結局まだ何を書くか決まらなくて」

 

「俺も同じだよ」

 

二人で顔を見合わせて苦笑する。

 

「願い事って意外と難しいですね」

 

「子どもの頃はすぐ思い付いたんだけどな」

 

「大人になると願いが増えるからでしょうか」

 

その一言に少しだけ考え込む。

 

将来や家族に友人。

毎日が少しずつ積み重なるほど願いも簡単ではなくなっていくのかもしれない。

 

しばらく短冊を眺めていると早苗が静かに口を開いた。

 

「護くん」

 

「どうした」

 

「願いって誰かへ話せるものもありますけど」

 

少しだけ言葉を選ぶように間を置く。

 

「話せない願いもありますよね」

 

夕暮れの風が吹く。

短冊が一斉に揺れ優しい音を立てる。

 

「そうだな」

 

俺は静かに頷いた。

 

「だから短冊へ書くのかもしれません」

 

早苗はそう言って微笑んだ。

その笑顔はどこか寂しくも優しかった。

俺はその横顔を見ながら思う。

短冊に書く願い。

 

書ける願い。

 

そして心の中だけにしまっておく願い。

きっとどちらも大切なのだろう。

 

祭りはまだ終わらない。

 

屋台の灯りは少しずつ夜の色へ溶け込み笑い声は商店街中へ広がっていく。

七夕まであと少し。

願いを迎える日がゆっくりと近付いている。

 

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