風の祝が奇跡を運んでくれることを   作:ミスブルー

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ただなんか書きたかった話になります。


プールの授業にすれ違う

七月も半ばに入り朝から照りつける日差しは容赦がなかった。

 

校舎の窓から見える青空には雲がほとんどなく、蝉の鳴き声だけが絶え間なく響いている。

今日は絶好のプール日和だ。

 

そんなことを思いながら暑さにうんざりした様子で授業を受けていた。

 

「おいおい、俺たちは体育館で女子はプールかよー!」

 

誰かが大げさに叫ぶと周りから笑いが起きる。

 

「仕方ないだろ。そういう決まりなんだから。」

 

「あぁ〜……!俺たちは何のためにプール掃除を頑張ったんだ…!」

 

そんな会話が体育館に響いた。

 

俺も別の意味で今日はプールの方が良かったなと思っていた。

この暑さの中で体育館を走るのはなかなか骨が折れそうだ。

 

「まあまあ。次は俺たちがプールだから」

 

「女子がいないんだよ!女子が…!水着の女子が!次プールでも野郎だけだぞー!いいのか!お前は!」

 

「そんなことを俺に聞くなよー…」

 

そんな他愛もないやり取りを聞きながら体育の授業を行う。

準備運動を終えストレッチやバランス運動を済ませると先生が笛を鳴らす。

 

「よーし、次は体育館五周だ。無理するなよ」

 

返事とともに走り始める。

熱気のこもった体育館の空気は重く一周走るだけでも汗が額を伝った。

 

その時だった。

視界の端を小さな影が横切る。

着物姿の小人ほどしかない妖だった。

 

ちっちゃ……!

その妖は俺に気付いていない。

そんなことを思った次の瞬間、俺は反射的に進路を変えた。

踏んでしまう。

そう思って避けた拍子に足がもつれてそのまま床へ倒れ込む。

 

「おい!書本!」

 

「大丈夫か!」

 

クラスメート達が駆け寄ってきた。

 

「悪いな」

 

起こしてもらい立ち上がると一人が俺の膝を指差した。

 

「書本!お前!膝!膝!」

 

見ると擦りむいたところから血が滲んでいた。

 

「床で擦り剥いたな…!大丈夫か」

 

「あぁ大丈夫だ。ありがとう」

 

「保健室行って消毒と絆創膏してもらってこいよ。どうせまた走るんだから」

 

「ああ、そうするよ」

 

礼を言って体育館を後にした。

 

保健室へ向かうと運悪く養護教諭の姿はなかった。

棚から消毒液と絆創膏を借り自分で手当てを済ませる。

 

「これでよし」

 

傷を確かめながら廊下へ出る。

 

体育館へ戻ろうと外の連絡通路を歩き始めたその時だった。

 

「あ……」

 

小さな声が聞こえ俺も思わず足を止める。

 

「え……」

 

そこに立っていたのは水着姿の早苗だった。

 

プールの授業の途中だったのだろう。

少し慌てた様子でこちらを見つめた。

俺と早苗の声が重なった。

 

早苗の水着姿、初めてみた。

 

「早苗…ここで何してるんだ?」

 

「護くんこそ…こんなところでなにを?」

 

「あぁ俺は体育館に小さい妖怪がいてな…」

 

「妖怪…!?何かされたんですか?」

 

「何もされてないよ。むしろ俺が何かするところだったんだ。危うく踏みつけるところでな…踏まないように避けようとしたら転んだんだ」

 

保健室に行っていたんだと俺は自分の膝を指差した。

早苗はそれを見てホッとするようになるほど…と言う。

 

「大怪我ではなくて良かったですよ…」

 

「ありがとう。早苗は…」

 

俺は言いかけて早苗の身体をまじまじ見てしまう。

こうやって見ると普段から知ってはいたが早苗はかわいい。

そんな風に考える多感なお年頃な自分がちょっと恥ずかしくなった。

対する早苗も同じなようで俺が見ていることに気付いたのか身体を両手でさり気なく隠す仕草をした。

 

「私は…忘れ物をしまして」

 

「忘れ物か。…あぁゴーグル?」

 

早苗が手に持ってる物に俺はようやく気付いた。

 

「はい、泳ぐのに必要だと言われてプールバッグに入ってなかったので焦りました」

 

プールには更衣室がある。

そこで生徒は着替えるのだが早苗はゴーグルを教室に忘れたようだった。

 

「他の生徒に見られてなくて良かったです。護くんで良かったです」

 

そんなことを言うものだからなぜだか俺は少し嬉しくなった。

 

「俺も俺で良かったよ」

 

そんな訳の分からないことを俺は言うと早苗は小さく笑って、「はい」とだけ返事をする。

 

「では私戻りますね。体育がんばってください」

 

「ありがとう。早苗もプールがんばれよ」

 

「はい」

 

そう言いお互い授業へ戻ろうとした時、俺は言うべき言葉がふいにあった。

別に言わなくてもいいんだけど…。

でも言いたくなってしまった。

 

「早苗」

 

「はい?」

 

呼び止められるとは思わなかったのだろう。

 

「なんです?」

 

「水着姿似合ってる」

 

早苗の表情はカチコチに固まったのが俺には見えた。

 

数秒の沈黙後

 

「あ、ありがとうございます」

 

早苗からそう言葉が返ってきてぺこりと一礼して早苗は戻っていた。

 

俺も戻ろう体育の授業に。

 

体育館へもどると

「書本、大丈夫だったかー!」

 

そんな声が俺を迎えて熱風と共に響く。

 

体育館の外では、夏の日差しがプールの水面をきらきらと照らしていた。

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