風の祝が奇跡を運んでくれることを   作:ミスブルー

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聞いたことがある都市伝説回


こっくりさん
呼んではいけない


夏休みを目前に控えた放課後。

教室の窓から差し込む夕日が机を長く照らし部活動へ向かう生徒たちの声が廊下へ響いていた。

俺と早苗も帰ろうとしていた時に隣の教室から小さな笑い声が聞こえてきた。

 

「本当にやるの?」

 

「やろうよ、一回だけ…!」

 

「こっくりさん知らない?」

 

四人の女子生徒が机を寄せ合って一枚の紙を広げていた。

紙には五十音と鳥居、そして「はい」「いいえ」の文字が。

中央には十円玉が置かれている。

 

「おい」

 

俺が声を掛けると四人は一斉にこっちを向いた。

 

「それ本当にやるのか」

 

「え?書本くん?」

 

「危ないぞ」

 

続いて早苗も口を開く。

 

「遊び半分でやるものではないと思います」

 

でも四人は顔を見合わせて笑うだけだった。

 

「大丈夫大丈夫」

 

「一回だけだから」

 

「だって噂でしょ?」

 

「ほんとに怖くなったらすぐやめるって」

 

俺と早苗は顔を見合わせる。

普通の人には分からないだろう。

しかし俺たちには見えるものがある。

 

四人の女子生徒はこっくりさんを始める。

十円玉の周りには今も小さな狐や狸に犬の姿をした動物の霊たちが興味津々に覗き込んでは腕を伸ばし十円玉を動かしている。

 

「……悪い奴らではなさそうだな」

 

俺が小さく呟くと早苗が首を傾げる。

 

「動物達ですか?」

 

「遊びだと思って集まってるだけかもしれないな…」

 

早苗は少しだけ安心したように胸を撫で下ろした。

やがて女子生徒たちは声を揃える。

 

「こっくりさん、こっくりさん、お帰りください」

 

十円玉はゆっくりと鳥居へ戻っていき小さな動物霊たちも満足そうに教室から消えていった。

 

 

 

帰り道、早苗が不思議そうに尋ねる。

 

「ところでなんですけど護くん。

こっくりさんって何なんですか?」

 

俺は思わず立ち止まった。

 

「え?……知らないで見てたのか?」

 

「はい」

 

「知らないで遊び半分でやるものではない…とかなんとか言ってたのか」

 

「はい」

 

「そうかぁ〜…」

 

俺は呆れつつも笑ってしまっていた。

早苗らしくもある。

「それで護くん、こっくりさんというのは?」

 

「昔からある降霊術なんだ。四人遊び専用でこっくりさんが降りてきたら聞いた事をなんでも答えくれる、みたいなものだ。こっくりさんはほんとにいるのか?とかそういう質問は呪われるからダメだとか噂はいろいろあるけど…本来は遊び半分でやるものじゃないんだ」

 

「なるほど……」

 

早苗は真剣な顔で頷いた。

 

「やっぱり少し心配ですね」

 

俺も同じ気持ちだった。

ただあの時見えた動物霊たちに悪意とかは感じなかった。

だからそれ以上何も起こらずに終わったんだ。

 

 

翌日の放課後。

 

夕日が校舎を赤く染める頃、俺は昨日と同じ教室へ足を運んだ。

そういう予感めいたものがあった。

1回だけなんて信じられるかって話だ。

案の定、あの四人の女子生徒が机を囲んでいる。

 

「またやるのか…」

 

「あ、書本くん」

 

「今日は見学?」

 

「見るだけならいいよ」

 

「あぁそうさせてもらうよ」

俺は軽く頷き、教室の後ろへ立った。

 

 

「その代わり、一つだけ約束してほしい」

 

「約束?」

 

「最後まで指は離すなよ。途中で何があっても絶対だぞ」

 

四人は顔を見合わせた。

 

「分かった分かった」

 

「そんな真面目な顔しなくてもいいじゃんね」

 

「昨日も何もなかったじゃんね」

 

「じゃんねじゃんねうるさいぞ…やるなら始めてくれ」

 

十円玉へ四人の人差し指が添えられる。

 

「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」

 

教室の空気が静まり返る。

 

昨日と同じように小さな狐や狸や犬の動物霊が集まってきた。

 

「今日も来たのか」

 

俺は小さく息をつく。

しかし次の瞬間だった。

その中の一匹がゆっくりと首を傾けた…ような気がした。

その動きに妙な違和感を覚えた。

 

狐の身体がじわりと色を失っていく。

輪郭が溶けるように崩れていき細い手が伸び長い髪が垂れ下がる

 

狐ではなく人間だ。

顔は真っ白で瞳だけが異様に黒くてその奥には何も映っていない。

虚空のような真っ黒さだった

 

コイツは質の悪い悪霊だ。

 

悪霊は女子生徒を眺めニタニタと笑った。

その笑みは口だけが裂けたように広がり人間のものとは到底思えない。

 

「きゃっ!」

 

その時一人の女子生徒が小さく悲鳴を上げた。

 

十円玉が急に大きく動いた。

驚いた拍子にその生徒の指先が十円玉から離れる。

 

「しまっ――」

 

十円玉が机の縁を滑り落ちる。

 

カランと乾いた音が教室へ響いた。

その瞬間に教室の空気が一変する。

 

動物霊たちは一斉に逃げ出した。

悪霊だけが残りゆっくりと立ち上がる。

 

「……ツカマエタ」

 

低い声だった。

女子生徒たちには聞こえていない。

だが俺だけには聞こえた声だ。

悪霊は指を離した女子生徒へ腕を伸ばす。

 

「っ!」

 

袖の内側へ手を入れる。

多々良小傘から買った物、妖を祓うための針。

指先で軽く弾くと銀色の針が音もなく一直線に飛び、次の瞬間には悪霊の肩へ深く突き刺さった。

 

「アアアアアアッ!!」

 

誰にも聞こえない絶叫。

悪霊の身体が黒い煙となって揺らぐ。

 

女子生徒たちは突然教室中の窓ガラスが激しく震え始めたことに悲鳴を上げる。

 

「な、何!?」

 

「風!?」

 

「窓閉まってるよ!」

 

悪霊はゆっくりと初めて俺へ顔を向ける。

真っ黒な瞳が真っ直ぐこちらを射抜く。

 

「……ミテイル?ミエル?」

 

低くくて腹の底へ響く声だ。

悪霊は口元を歪める

 

「ヨクモジャマシタナ…」

 

教室中の空気が一気に冷え込む。

悪霊は窓をすり抜けるように校舎の外へ消えていった。

 

静寂だけが残り四人の女子生徒は呆然と立ち尽くし誰も言葉を発せない。

やがて一人が震える声で呟いた。

 

「……今日は帰ろっか」

 

「じゃ、じゃあね書本くん」

誰も反対しなかった。

荷物を抱えて四人は足早に教室を後にした。

俺は窓の外を見つめる。

 

あいつは終わっていない。

針一本では祓えない。

あれは人に取り憑くつもりで来たんだ。

 

そして今度は――俺を狙いにやってくるだろう。

その確信だけが胸の中に静かに残っていた。

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