風の祝が奇跡を運んでくれることを   作:ミスブルー

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こっくりさん 終

白い紙吹雪がゆっくりと境内へ降り積もる。

先ほどまで悪霊が立っていた場所にはもう何も残っていなかった。

黒い瘴気も冷たい気配も消え去り夜風だけが木々の葉を優しく揺らしている。

 

俺は張り詰めていた息をゆっくりと吐き出した。

 

「……終わったぁ」

 

そう呟くと膝から少し力が抜ける。

術を維持するだけでも思っていた以上に神経を使っていたらしい。

 

「護くん」

 

早苗が俺の隣まで歩いてきた。

 

「お怪我はありませんか」

 

「大丈夫だよ、ありがとう。早苗は?」

 

「私も大丈夫ですよ」

 

二人で顔を見合わせると自然と笑みがこぼれた。

その様子を縁側から眺めていた神奈子が大きく笑う。

 

「上出来じゃないか2人とも」

 

諏訪子も縁側から飛び降り陣の跡を覗き込んだ。

 

「ちゃんと祓い切ったね。えらいぞ」

 

俺は描いた陣を見下ろす。

 

風に削られた線はところどころ消え始め紙吹雪もただの白い紙へ戻っていた。

 

「祖父の術を思い出しながらやっただけだ」

 

そう答えると神奈子は首を横へ振る。

 

「いいやこれは違うぞ高校生」

 

「え?」

 

「思い出しただけならあんな術にはならないな」

 

神奈子は陣の中心を指差す。

 

「高校生、これは君が考えて早苗が風を貸した。だからあの陣は動いたんだ」

 

諏訪子も頷く。

 

「昔の術を真似したんじゃない。早苗と祓い屋、二人で新しく完成させた術だったんだよ」

 

その言葉に俺は少しだけ考え込む。

確かに祖父の陣とは少し違っていた。

紙吹雪があんな動きをした記憶はなかったな。

早苗の奇跡があったからこそあの術は最後まで形になったのだろう。

 

「護くん」

 

早苗が少し嬉しそうに笑う。

 

「私は一緒に戦えましたか?」

 

「あぁ」

俺は迷わず頷いた。

「一人だったら勝てなかったな。ありがとう早苗」

 

その一言を聞いた早苗は照れくさそうに笑うと小さく「どういたしまして。良かったです」と呟いた。

 

神奈子は腕を組みながら満足そうに二人を眺める。

 

「高校生」

 

「なんだ?」

 

「力というものはな強ければいい訳じゃない。

守るために使うからこそ意味がある。

このことはしっかり覚えておくといい」

 

「わかった」

 

短く返事をすると、神奈子は豪快に笑った。

 

「よし、話は終わりだ。腹が減ったな!」

 

「ねぇ早苗〜何か食べるものはない〜?」

 

「神奈子様…諏訪子様…」

 

早苗は少し呆れたように肩を落とす。

 

「さっきまで私達妖怪退治をしていたんですよ」

 

「終わったからお腹が空いたんだよ」

 

「理由になってません。しかもお二人は見てただけじゃないですか」

 

諏訪子がくすくすと笑う。

 

「神奈子は昔からこうだから」

 

「諏訪子様もです」

 

張り詰めていた空気が一気に和らぐ。

俺も思わず笑ってしまった。

さっきまで命のやり取りをしていたとは思えないほどいつもの守矢神社が戻ってきていた。

 

境内を吹き抜ける夜風はどこまでも穏やかだ。

 

俺は夜空を見上げる。

もうあの冷たい気配はどこにもない。

代わりに聞こえてくるのは虫の鳴き声と風鈴が小さく鳴る涼やかな音だけだった。

 

「これで本当に終わったな」

 

誰に言うでもなくそう呟くと早苗は静かに頷いた。

 

「はい。また皆さんが安心して参拝できる守矢神社です」

 

その言葉に俺は「そうだな」と笑った。

 

 

 

翌日の放課後。

教室にはいつもの賑やかな声が戻っていた。

窓から吹き込む夏風がカーテンを揺らし黒板には帰りのホームルームで書かれた文字がまだ残っている。

昨夜の出来事がまるで夢だったかのような穏やかな時間だった。

 

「あっ、書本くん」

 

昨日こっくりさんをしていた四人の女子生徒の一人が俺に声を掛けてきた

 

「昨日はありがと」

 

「ん?俺何かしたか」

 

「うーん…何かしたっていうか、ほら…あの後から何だか急に怖くなっちゃってさ」

 

「みんなで話し合ってもう二度とやらないって決めたんだよ」

 

隣の女子生徒も苦笑いを浮かべる。

 

「今思えば何であんなことやろうって思ったんだろ」

 

「流行ってるって聞いただけだったじゃんね」

 

「十円玉落とした辺りから記憶が曖昧じゃんね」

 

四人は顔を見合わせながら笑う。

その笑顔を見て俺は胸を撫で下ろした。

あの悪霊は誰一人傷付けることなく祓われた

それだけで十分だった。

 

「書本くん」

 

「うん」

 

「ありがとう!」

 

その一言だけ残して四人は手を振りながら教室を出て行った。

俺も鞄を肩へ掛け廊下へ出る。

 

昇降口へ向かって歩いていると聞き慣れた声が後ろから聞こえた。

 

「護くん」

 

振り返ると早苗が小走りでこちらへやって来る

 

「お待たせしました」

 

「図書委員か」

 

「はい、本の返却が少し多くて」

 

「夏休み近いからな」

 

「そうかもしれませんね」

 

二人で校門を出る。

夕方の坂道は昼間より少しだけ涼しく蝉の声もどこか穏やかに聞こえた。

 

しばらく歩いたところで早苗が静かに口を開く。

 

「護くん」

 

「ん」

 

「気になってたことがあるんです。

あの悪霊どうして動物霊の姿をしていたんでしょうか…」

 

俺は少しだけ空を見上げる

 

「ああいう奴は人の油断を誘う。最初から恐ろしい姿だったら誰も近付かないから」

 

早苗は真剣な表情で耳を傾けている。

 

「人に執着する妖ほど陰湿で力も強いんだ」

 

俺は昨日の教室を思い返す

 

「昨日の四人には何も見えていなかったから普通の動物霊が十円玉を動かして遊んでいるなんて分かるはずもないし見えたりなんてしない」

 

俺は言葉を続けた。

 

「でも俺には見えていた。最初は本当に動物霊にしか見えなくてな…それが途中から姿を変えた。つまり最初から俺まで油断させるつもりだったんだ」

 

早苗は驚いたように目を見開く。

 

「見える人まで騙そうとしていたんですね」

 

「ああ多分な。きっと俺達のように見える者も欺けるように徹底していたんだろう。今回は運が良かったんじゃない。準備できる時間もあったから勝てたんだ」

 

少しだけ沈黙が流れる。

やがて早苗は安心したように笑った。

 

「でも護くんがいて良かったです」

 

「私一人だったら見抜けなかったと思います。もし私だったら今ごろ…」

 

俺は首を横に振る。

 

「でもあそこにいたのは俺だった。

俺で良かった。

何より早苗がいなかったらこれは勝てなかったよ。

早苗の風すごいな。早苗がいなかったら陣は完成しなかった」

 

その言葉に早苗は少し照れたように笑う。

 

「そう言っていただけると嬉しいです」

 

二人は夕焼けに染まる坂道を並んで歩いていく。

見上げた夏空はどこまでも青く澄み切っていた。

 

怪異はこれからもきっと現れるだろう。

悲しい想いを抱えたものもいれば人を害そうとするものもいる。

その度に俺は向き合うのだろうか。

きっと向き合うのだろうな。

 

俺は見えるもの。

 

 

でも一人ではない。

隣には同じ景色を見て歩く風祝がいるのだから




ここまで読んでくれてありがとうございました。
都市伝説こっくりさん、どうでしたでしょうか?

本来こっくりさんは紙に書かれた文字盤と硬貨を使い、複数の参加者で質問の答えを導き出す日本の占い・降霊術の一種。
学校の怪談や都市伝説として広く知られていますが、科学的には参加者の無意識な筋肉の動き(不覚筋動)によって硬貨が動く現象と説明されています。
1970年代のオカルトブームで子どもたちの間で大流行しましたが「途中で指を離すと呪われる」「精神に異常をきたす」といった怖い噂も多く広まりました。
教育現場では禁止令が出されることもありました。
こうした禁止令の目をかいくぐるために、「エンジェルさん」や「キューピットさん」といった名前や手順を変えた亜種も数多く生まれたそうです。

今回この物語では文字通り呪われるという方向性で物語を進めるのとにしました。

護と早苗の奮闘で事なきを得るという具合がいい感じに解決できたと考えています。

妖怪退治と早苗は話していましたが東方projectよろしく妖怪退治を現代でやったらどうなるかと考えてこのような物語となりました。

幻想郷のように弾幕ばんばん出すわけにはいきませんしこの世界では美しさを競うわけではありません。
スペルカードもありません。
文字通り妖怪と命のやり取りです。

そんな形で早苗が活躍出来ているのは嬉しいことだと思っています。

ここまで読んでくれてありがとうございました。
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