風の祝が奇跡を運んでくれることを   作:ミスブルー

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夏の魔の夢 3

守矢神社に戻ってきた俺達。

 

「この本が…」

 

「いっそ破り捨てるというのはどうでしょうか」

 

「いやだめだろ…一応図書室の本だぞ…」

 

「そうでしたね…」

 

元凶が目の前にいる、というよりあるという状況からか早苗はちょっと力技で行こうとしていた。

この本が元凶なら早苗を本気でどうにかしにくるだろう。

本にいる妖自体も気付かれていると考えていい。

俺は本の中身をペラペラとめくり中身を確認する。

沖縄で戦争をしていた兵隊の食事事情とかが書かれていた。

極限状況による飢え、飢餓の恐怖。

俺は早苗を見た。

早苗も俺を見て少し首を傾げた。

俺が目覚めたのはあのよくわからない肉みたいなものを食わせられる瞬間だった。

米や芋が当時食べるしかなかったものだったとすると肉なんてどこで手に入るんだ…。

そう考えたら、いや考えたくはないが人肉を想像した。

 

「夢に出てきたあの肉みたいなの…あれがとても気になる」

 

「え…」

 

俺が言うと早苗が驚いた声を出した。

 

「あのあと早苗どうしたんだ…?」

 

早苗は首を左右に振った。

 

「すみません、それはちょっと…」

 

「そうか…」

 

言いたくないらしい。

質問を変えよう。

 

「同じ夢を見る?」

 

「そうです。同じです」

 

あれをあいつらに喰われる前にどうにかすれば何か変わるかもしれない。

 

「その為には俺が早苗の夢に入る方法…」

 

「私の夢に…?」

 

「あぁ、俺が早苗の視界を共有するんじゃななくて俺も一緒に行くんだ」

 

「一緒に…」

 

早苗の言葉に話を聞いていた諏訪子が言う。

 

「早苗、風祝の力で奇跡を起こして一緒に夢を見るといいよ」

 

「諏訪子様それはその…一緒に寝ろってことですよね?」

 

「あぁそうだね?そうだった。愛娘が男と寝るのか」

 

「諏訪子言い方、言い方…!」

 

諏訪子の言葉に神奈子が呆れている。

 

かくいう俺は黙っていた。

諏訪子はいつもの無邪気で、あるいは早苗を助ける為にと思って提案したのだろう。

でも実際そう、早苗と一緒に俺は寝るわけだ。

神奈子は早苗に言った。

 

「護、私は早苗を頼んだ、助けてやってくれとそう言ったな」

 

「言った。他の方法があるなら他の方法でもいいと俺は思う…が…」

 

俺を言葉も歯切れが悪い。

 

「でも他に方法あった?思いつく?護」

 

諏訪子が俺に言う。

 

「ない…」

 

俺は素直に答える。

 

「一緒に寝る…かぁ…。うーん」

 

神奈子が悩んでいる。

それに対し諏訪子もこれ以上言葉を挟まなかった。

 

「護くんとなら…いいですよ」

 

ポツリと早苗が言った。

 

「護くんとなら寝ます私」

 

「早苗…」

 

俺は思わず早苗の名前を呼んだ。

 

「あなたとなら…私いいですよ護くん」

 

「早苗………わかった」

 

何か含みのある言葉にも聞こえたが俺は早苗の夢に飛び込む決意を固めることにした。

 

そのやり取りを見ていた神奈子が手で顔を仰いだ。

 

「あつい…!あつい…!そしてなんか甘い…!わかったよ…!準備して寝な!」

 

「それでは準備をしましょう護くん。よろしくお願いします」

 

「あぁ、早苗。こちらこそ」

 

色々考えてお互い制服で一緒に寝るということにした。

退魔の針を夢に持ち込めるか謎だったがもしかしたらいけるかもしれないと思って俺は密かにポケットとかに忍ばせている。

これには妖力が掛かっているからな。

紙…と考えたが夢にあったから現地の物を使わせてもらおう。

途中から行き当たりばったりばったりだな…。

でもそれもまた奇跡だ。

 

奇跡は何度だって起きる。

俺はそう考える。

 

早苗がそばにいるんだから

 

「じゃあ準備できましたか?」

 

「あぁできたよ」

 

「何かあったらすぐに起こすからさ」

 

「こっちは任せてよね」

 

神奈子と諏訪子に「ありがとう」と礼を言う。

 

時刻は夕方だ。

俺は早苗に後ろから抱かれるようにして右手が俺の視界を覆う。

早苗の身体の体温が俺に伝わるのが分かる。

俺は目を閉じる。

 

「始めます…」

 

早苗の声が聞こえる。

俺は眠りに落ちていく。

こんな簡単に眠れてしまうのは初めてだった。

 

 

 

 

再び目を開けると薄暗い廊下に俺と早苗は立っていた。

 

「来てしまいました…」

 

早苗は俺の手を握ってくる。

不安なのだろう。

俺はその手を握り返す。

 

「今回は俺も一緒だ。それにしても早苗の奇跡はすごいな。夢にも一緒に来れてしまうんだから」

 

そう言うと早苗は少し照れた。

 

「とりあえずこのまま進んでも同じルートを辿ってしまうから一緒に一階の厨房を探そうか」

 

「はい」

 

手分けしよう、とは言わなかった。

ここで別れてしまうと早苗は階段を登ってしまう気がしたからだ。

俺は早苗の手を引いて厨房にたどり着く。

 

「意外と建物は」

 

「小さいですね…」

 

「そうだな。そもそも冷蔵庫なんかないんだったな」

 

「この時代だと冷蔵庫はあったとしてかなり高級なものかと」

 

「それもそうだよな…」

 

肉らしき何かは見つからなかった。

あるのは酒瓶と…皿と少しだけの芋。

でも紙と筆を見つけた。

 

「いいものがあるな」

 

「まさか拝借するんですか…?」

 

「ここでも陣とか術は使えるはずだからね」

 

俺の懐には退魔針がたしかにあったから。これはその証明だろう。

 

「なるほど」

 

「でも肉らしきものは見つからない…あの肉もしかしたら妖かもしれないな」

 

「あれがですか…考えたくはありませんけど有り得そうです…」

 

「早苗も読んでいたから分かると思うがこの時代は極限状況の精神と飢餓が酷かった。肉はきっとごちそうのはずだ」

 

俺はあの妖はその極限状況と飢餓への恐怖を力にして利用しているんじゃないかと考えた。

でもそれだけじゃ満足できなくなったからたまたま見つけた現人神の霊力を狙って早苗を狙っている。

 

「護くん?」

 

「どうした?」

 

「いえ…顔がちょっと怖かったので」

 

「ごめん、先手を取れたら良かったんだが中々難しいな」

 

「そうですね…」

 

2階に上がって肉を取りに行くタイミングを見計らうしかないか…?

そんな時だ。

 

「遅いなー!俺下に行ってあの子呼んでくるぜ!」

 

2階から声がした。

俺と早苗は顔を見合わせる。

隠れるか…?

そもそもあの声は俺達が下にいることに気付いてる…いや知っている感じだ。

 

だが

 

「あの子…?」

 

もしかして俺がいることに気付いていない?。

 

「早苗、悪いがこれで誤魔化せるか?」

 

俺は早苗に酒瓶を二本渡した。

反射的に早苗はそれを受け取った。

 

「えっ…私これでどうすればいいんですか…」

 

「酒瓶を持っていこうか考えていたんですって時間を稼いでほしい」

 

「護くんは?」

 

「ここで隠れて、早苗が2階に向かうタイミングを見て後を追う。それか……」

 

「それか…?」

 

俺は考えた。

 

「とりあえずなんとか誤魔化してほしい」

 

「わかりました…やってみますね」

 

 

数秒後、男は厨房にやってきた。

 

「遅いぞー!何してるんだ?」

 

「あ…えっと…お酒足りないと思って…考えてたんです」

 

棒読みすぎる。

俺は男の顔を密かに伺った。

全身は日焼けしていて泥だらけだ。

でも気になったのことがある。

男の瞳は真っ赤に染まっていた。

 

「ほら早く2階に行って楽しいことをしよう」

 

「っ…!は、はい…」

 

早苗に焦りの声が出て男と厨房に出ようとした時、俺は口笛を鳴らす。

それが合図となったように紙が生き物のように動き男の足を掛けて転倒させてそのまま吊り上げて口を塞ぐ。

 

「護くん…!」

 

「大丈夫か」

 

「はい…!ありがとうございます。すごいですね…いつの間にこんな術を…?」

 

「祖父が妖に話を聞くために拷問…してた時だったらしい」

 

俺は吊り上げられた男を見ると男は驚いた表情をしていた。

 

「どうしてここにもう一人いるんだ…?みたいな顔だな?」

 

男は赤く輝く瞳で俺を睨む。

 

「質問に答えろ。この後出す予定の肉があるはずだ。どこにある?お前が場所を知ってるはずだな?」

 

男は首を横に振った。

 

「言う気がないか…よし」

 

俺は早苗から酒瓶を受け取りそれを男の頭をスレスレに掠めた。

 

「言わないならこうしてやる。日本にはな、酒瓶で殴って吐かせる伝統文化があるんだよ」

 

「イカれた伝統文化ですね…!」

 

早苗が小声で俺に言った。

 

その時、男は自力で吊り上げられていた紙を破り床に落ちる。

 

「非国民だ…!非国民がいるぞ…!」

 

そんな叫びと共に男は2階に駆け上がっていく。

術が完璧じゃなかったから破られたか…!。

追うしかないか…?

 

そう考えた時だ

 

「追いましょう護くん」

 

早苗から提案してくれた。

 

「いいのか」

 

「はい、このままここにいても恐らく何も進まない気がしているんです」

 

2人は2階に上り、夢に出てきた部屋に着く。

音が何もなく静かだった。

夢ではもっと賑やかだったはずだ。

 

俺と早苗は2人で襖を開けると、血の匂いが一気に流れ込みその景色に唖然とした。

早苗は両手で口元を押さえた。

夢に出てきた男達の身体が中途半端にひしゃげており血が噴き出て絶命していた。

 

部屋の奥を見るとさっきの男が立ちすくんで項垂れていた。

手には刃物が握られていた。

 

「まだ終わっていない…勝たないといけないんだよ俺達は…」

 

目は真っ赤に妖しく輝いて虚ろな声だった。

 

「コイツが妖か…?」

 

「いえ…この人は人間です。護くんよく見てください。あの人の首の後ろ」

 

俺は早苗に言われ男の首の後ろ側を良く見る。

何か丸い何かがあった。

なんだあれは…?。

 

そう思うと同時に男は何も言わずに襲い掛かってきた。

 

「護くん来ます!」

 

「わかってる!」

 

刃物が早苗に迫ると身代わり紙人形が早苗の制服から飛び出し眩い光を放ちながらそのまま紙が破けると同時に男を後ろへ弾いた。

 

 

「確認しました…!護くん!ボール程の何かがあの男の人の首後ろに…!」

 

「了解…!」

 

ボール程って…そんな肉塊みたいな…なんて考えながら俺は男の攻撃を掻い潜る。

 

俺はふと考えていた。

あれが心臓でも肉塊でもそれが妖怪でも正直なんでもよかった。

ここにいる男達が本当の人間かも正直それもなんでもよかった。

戦争は終わってるんだから。

 

夢。

 

そして恐怖。

 

俺は今は早苗を助けることができればそれでよかった。

でもこの男には伝えておこうと思った。

 

「戦争は終わった」

 

「は?」

 

「終わったんだ。日本はまあ…負けたがいい国になったよ。それでもまだいろいろあるけど武力的な戦争はない。優しい国になったよ」

 

「嘘だな非国民め…」

 

男が刃物を強く握るのが分かった。

 

「本当だ。…それを今見せてやる」

 

「なに…?」

 

「早苗」

俺は早苗の名前を呼んだ。

 

「はい」

 

「この悪夢を終わらせるから」

 

「はい…!信じてますから」

 

早苗はこれ以上何も言わなかった。

 

男が再び襲い掛かってくる。

今度は俺に。

俺は退魔針を指で弾き刃物とぶつかる。

ぶつかった反動で刃物を持った腕は大きく上に上がった。

男は同時に天井を見たがもう遅い。

男が襲い掛かってくる瞬間に投げた紙飛行機達が天井付近をゆっくり旋回していた三枚の紙飛行機達が1枚は男の首後ろを通過した瞬間にパン…!と派手な音を立てて爆破し続くように特攻するように男の背後で爆破する。

 

 

男は悲鳴を上げながら襖入り口まで転がった。

 

「紙飛行機…戦争中は忌避される代物だったらしいな。でも今は何気ない時でもこの紙飛行機が誰もが最も簡単で最も親しまれている折り紙だ。終わったんだよ」

 

俺は見下ろして男に言った。

男はもう何も言わなかった。

 

俺は早苗を見た。

その視線が合図と分かったように早苗は襖の扉を全開にさせた。

そして早苗は御幣を持ち祈りを始める。

彼女の周囲に風が吹く。

 

その間に俺は男の首元に付いた肉塊を掴み引っこ抜く。

ギチギチと音を立てているのが分かった。

悪いが逃がすわけにはいかない。

 

風が吹き緑のオーブが見えた。

早苗は夢の中の穢れを祓って浄化しているのだ。

風が吹き室内の視界が明るくなる。

夢が覚める時だと感覚で分かった。

目が覚める前一瞬だけ俺の背中に早苗が頭を預けてきたのが分かった。

 

「ーーー。ーーー。」

早苗は目が覚める瞬間、俺にだけ聞こえるような声でそう言った。

 

それと同時に俺と早苗は大砲のように飛び起きた。

 

「もどった!」

「もどった…!」

 

同時にそんな事を叫ぶ。

そして本から大きな黒い靄が煙のようにうめき声を上げて苦しそうに出てきた。

 

俺は魔封時の壺をあらかじめ書いた紙の陣の上に乗せた。

壺を持つ俺の手に早苗も俺の手に沿えてきた。

 

 

「よりては波、黒く揺れるは影、よぶはあらず、来たれ波影に…!」

 

文言を言うと同時に壺から黒い腕が何本も出てきて黒い靄を掴みそのまま壺の中へ全て引きずり込みゴクンと飲み干すような音がした。

 

これで一段落…

「護くん…!蓋です!蓋!」

 

「あぁあ蓋…!そうだ!」

ではなかった。

 

慌てながらもしっかり蓋を閉じ札を貼る。

 

俺と早苗は顔を見合わせ畳の上に寝転んだ。

 

「終わった〜…」

 

「終わりましたね〜…」

 

人の家である事を思わず忘れて大の字で寝転ぶ。

早苗は俺の腕に頭を乗せて嬉しそうに笑った。

なんで腕に?と思ったがその表情を見ると俺も安心した。

 

 

「おかえり早苗、護」

 

「よくもどってきたよ早苗と護」

 

神奈子と諏訪子が言った。

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございます。護くんのおかげです。かっこよかったですよ」

 

俺は思わず顔を背ける。

早苗が俺の腕を枕にしているから動けないが間違いなく気恥ずかしい顔を俺はしているだろう。

神奈子と諏訪子はそんな俺と早苗を見て笑った。

 

 

 

少し休憩を挟んで俺達はお茶を飲む。

 

神奈子は例の本を読んでいた。

諏訪子も本をじっと見ていた。

 

「この本がねぇ…」

 

「しっかり上手に封じているからもうこれはただの本だね」

 

俺は夢の中で考えた考察を話す。

 

この本には飢餓について書かれていた。

肉塊は妖そのもので。

人間の極限状況と飢餓への恐怖を力にして利用しているんじゃないかと考えてそれを夢に変えて力を蓄えていた。

でもそんな恐怖だけじゃ満足できなくなった。

今年になって早苗が図書委員になって入ってきた。

霊力がとても高い早苗は格好の獲物だ。

本に潜んでいた妖はたまたま見つけた現人神の霊力を狙って早苗を取り込もうとした。

 

そこまで話終える。

神奈子と諏訪子は真剣に聞いてくれていた。

 

「とんでもない妖もいたもんだね…」

 

「私と神奈子じゃ対処できたかどうか」

 

「護、あらためて礼を言おう」

 

「私達の娘を助けてくれてありがとう護」

 

「どういたしまして。俺も早苗を助けれてよかったよ」

 

「護くん、本当にありがとうございました。本当に」 

 

「うん、どういたしまして早苗」

 

 

 

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