昼休憩の時間になるといつものように机を少し動かそうとしていた俺に早苗が申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「護くん、あの……実は今日、一条さんからお昼ご飯を一緒にどうかと声を掛けられまして」
「あぁ、いいじゃないか」
昨日俺達に空き家の相談を持ってきた一条。別のクラスだから普段から早苗と話すような相手ではないはずだが、昨日の一件で少し話しやすくなったのかもしれない。早苗は俺の返事を聞いても、まだ少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「すみません。いつも一緒なのに」
「いいよ、行ってくるといい。せっかく誘ってくれたんだろ?」
「……はい。それでは行ってきますね」
早苗はぺこりと頭を下げると弁当を持って教室を出ていった。
最近は昼休憩になれば自然と早苗と一緒に食べるようになっていたから、一人になった途端に机の向こう側が妙に広く感じる。
とはいえ早苗が他の誰かと仲良くするのはいいことだ。
俺としか話せないわけでもないし、そうなってほしいとも思っていない。
今日は一人で食べるか。
そう思って弁当を開けたところだった。
「護」
聞き覚えのある声がした。
「……?」
最初は気のせいかと思った。
しかしもう一度、今度は少し大きく俺の名前が呼ばれる。
「護〜」
窓側。
そちらを見る。
「……諏訪子……!」
開いている窓の向こう側に見慣れた帽子を被った小さな神様がいた。
学校で諏訪子を見るのは随分久しぶりな気がする。
俺は反射的に立ち上がりかけたものの慌てて周囲を見る。
昼休憩だから教室にはまだ何人か残っている。
もちろんそいつらには諏訪子の姿なんて見えていないだろうが俺が誰もいない窓に向かって話していれば完全に変な奴だ。
俺は弁当を持ったまま窓際へ移動するとできるだけ声を落とした。
「諏訪子……!」
「やっほー」
「やっほーじゃない。どうしたんだよ。というか早苗のそばには……」
早苗は一条と昼飯を食べに行っている。
てっきり諏訪子も神奈子も早苗の近くにいるものだと思っていた。
だが諏訪子は窓枠に手を置きながら、少し困ったように笑った。
「私や神奈子がいるとさ、早苗は私達に気を使ってお友達とご飯食べないで一人で食べようとするからさ」
「え?」
「私達だけ見えてる状態で誰かとご飯食べるのって早苗からすると難しいんだよ。私達の話を無視するのも嫌だろうし、かといって普通に返事したら周りから変に見られるでしょ?。だから今日は邪魔したくなかったんだ」
「……なるほど」
言われてみればそうだ。
俺なら神奈子や諏訪子がいても普通に話せる。
だが早苗が学校の友達と一緒にいる時はそうはいかない。
誰にも見えていない二柱と会話していれば早苗が一人で喋っているようにしか見えない。
だから二柱のほうから距離を置いた。
早苗が一条と普通に昼飯を食べられるように。
「それで今日は護に会いに来たんだよ」
「俺に?」
どうやらここにいるのは諏訪子だけらしい。
神奈子の姿はどこにもない。
「……そうか」
俺は窓のそばで弁当を食べながら諏訪子を見る。
諏訪子はしばらく校庭を眺めていたが不意にこちらへ顔を向けた。
「今日、学校終わったらお化け屋敷に行くんだよね?」
「ん?あぁ……え?」
箸が止まる。
「お化け屋敷……?」
「お化け屋敷でしょ」
「…………まぁー……そうかもな」
間違ってはいない。
一条から聞いた話だけなら十分お化け屋敷だ。
誰も住んでいないはずの空き家。
その二階の窓から人の顔らしきものが見える。
遊園地のお化け屋敷と違って安全性がまるで保証されていないが。
すると諏訪子の表情が少し変わった。
「ほんとはね、早苗が今日その場所に行くのは反対なんだ」
「反対……?」
「うん」
珍しい。
これまで妖や怪談絡みの事件が起きても神奈子や諏訪子が俺達を心配することはあっても最初から反対することはあまりなかった。
「これまでは自然的に…まるで誘われるように起きた妖がらみや怪談絡みだった。でも今回は人間が起こした話なんだ」
諏訪子が言う。
「人間?」
「そう。だから今回は祓い屋絡みの事柄になるんだ。そんな場所に早苗を連れていくのはなぁ……ってちょっと心配なんだ」
祓い屋。
その言葉を聞いて俺も箸を置いた。
「もしかして諏訪子、今日行く場所なにか知ってるのか?」
「知ってるよ」
あっさり答えられた。
それなら昨日教えてくれればよかったのにと思ったが続けて出てきた言葉で俺は何も言えなくなった。
「蠱毒って言葉知ってる?」
「……あぁ」
知識としてなら知っている。
「虫をたくさん同じ場所に入れて最後に生き残った虫を呪術に使うっていうあれか」
「そうだよ」
諏訪子は頷く。
「もちろん実際にはいろんな話があるけどね。でも考え方としてはそんな感じ。閉じた場所の中にたくさんのものを入れて、互いに食い合わせたり争わせたりして、最後に残った強いものを呪術に利用する」
「……それがあの家と何の関係があるんだ」
「家そのものを容れ物にしてたんだ」
「…………は?」
一瞬、意味が分からなかった。
「家を?」
「うん。あの家にいた住人、二十年くらい前は元々祓い屋の人だったんだけど、何を考えたのか家を容れ物にしてそれを始めてたんだ。まー上手くいってなかったし、ほっといてたんだけど……」
「……なんでそんなことを?というか」
俺は諏訪子を見る。
ほっといたのかそれを。
俺の顔から考えていることが伝わったのか諏訪子は目を逸らした。
「人間のやってることに神様が何でもかんでも口を出すわけにもいかないんだよ」
「まぁ……そういうものなのか」
「そういうものなの」
それ以上は聞かないことにした。
「でも何のためにそんなことをしたんだ?」
「祓い屋って妖と契約して、それで従えて式にして使わせる人間もいるんだって」
「式……」
「式神とか聞いたことあるでしょ?もちろん全部が同じものってわけじゃないけど、自分以外の存在を術の一部として使うっていう考え方は昔からあるからね」
それなら俺も書物で読んだことくらいはある。
だが書本家ではあまり聞かないやり方だ。
祖父は妖を使役する人物ではなかったと思う。
「まぁ、自分専用の人工妖みたいなのを作ろうとしたのかもね」
「人工妖……」
そんなものを作れるのか。
そもそも作れるかどうかではない。
作ろうとした人間がいたということだ。
「それが今回上手くいったってことか」
俺が聞くと諏訪子は少し呆れた顔をした。
「上手くいったなら笑いながら自動車にひかれないでしょ」
「それもそうか……」
あの家に住んでいた男は最後には様子がおかしくなり、笑いながら道路へ飛び出して車にひかれた。
異形と契約するという行為には何か代償がある。
あるいは自分で作ろうとした何かに逆に食われたのか。
どちらにしてもあの家には確実に何かがいる。
昨日、早苗と一緒に行くと決めた。
「……」
俺が黙っていると諏訪子がこちらを見る。
「ねぇ護」
「ん?」
「早苗が護と行っちゃうなら止められないけどさ」
諏訪子は笑っていた。
でもその笑顔は、いつもの俺達を茶化す時のものとは少し違って見えた。
「祓い屋同士の諍いみたいな状況に早苗を巻き込んでほしくない……っていうのが私の本音」
「諏訪子……」
「なに?」
「俺はまだ祓い屋じゃないぞ」
「…………え?」
「それは俺が祓い屋になってから聞くとするよ」
「ええぇ……?」
ものすごく微妙な顔をされた。
「屁理屈じゃんか」
「今回行くのは隣のクラスの人の頼み事だ。それをどうにかするだけだ。祓い屋同士の争いに行くわけじゃない」
「屁理屈だなぁ護は」
「そうかもな」
「ほんとに大丈夫?」
「あぁ」
俺は頷いた。
「だから早苗は大丈夫だよ」
その言葉を聞いた諏訪子はしばらく俺の顔を見ていた。
やがていつものように笑った。
「そっか。それならいいや」
「あぁ」
「頼んだよ、護」
「わかった」
「じゃーね」
諏訪子は窓枠へ足を掛ける。
「…………え?」
そのまま外へ飛び降りた。
「諏訪子!?」
俺は慌てて窓から下を見る。
だがもう姿はない。
そもそもここ二階なんだが…?
神様相手に今さらそんなことを気にする意味もないのかもしれない。
俺はしばらく窓の下を眺めたあと自分の席へ戻った。
そうして昼休憩が終わる頃には早苗も教室へ戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「おかえり」
早苗が自分の席に座る。
「どうだった?」
「はい、一条さんと仲良くできました」
「そっか、それならよかった」
嬉しそうだ。
一条がどういう話をしたのかまでは知らないが昨日までほとんど接点のなかった相手と昼飯を食べられたのなら、それだけでも十分だろう。
「あっ、それと護くんに伝言がありますよ」
「俺に?」
「はい。『放課後は部活だからあとはよろしく』とのことです」
「…………」
やっぱりか。
「やっぱりそうなるか」
「ふふ……」
「一条の奴、最初から来る気なかったな」
相談だけして俺達を空き家へ向かわせ自分は部活とは。
まぁ別にいい。
依頼人まで怪異のいる場所へ連れていく必要はない。
そして放課後。
俺と早苗は一条から教えてもらった住所へ向かった。
途中、俺は早苗に蠱毒について話した。
ただし諏訪子から聞いたとは言わなかった。
あの空き家には以前祓い屋が住んでいて家そのものを容れ物として何かを作ろうとしていたらしいこと。
複数の妖や霊のようなものを一ヶ所へ集め、最後に残ったものを利用しようとしていた可能性があること。
なぜ俺がそんなことを知っているのか早苗は不思議そうだったが、深くは聞いてこなかった。
なんとなく…本当になんとなくだが諏訪子は今日学校に来たことを早苗には内緒にしてほしそうに見えたからだ。
「蠱毒……ですか」
早苗は歩きながら少し考え込む。
「まるで呪いみたいですね」
「実際、似たようなものだろうな」
「それを家の中で……」
「らしい」
「嫌ですね……」
「嫌だな」
そんな話をしながら歩いているうちに目的地へ着いた。
「ここだ」
一条から教えられた住所。
俺と早苗は道の向こうからその家を見る。
「……普通の家ですね」
早苗が言った。
「あぁ」
なんてことない普通の家だ。
2階建てで小さな庭があり道路に面した門がある。
長い間誰も住んでいないせいか庭の雑草は伸び壁にも多少の汚れはある。それでも廃墟と呼ぶほど崩れているわけでもない。
ありふれすぎている家だ
知らなければ通り過ぎただろう。
ここで二十年前に祓い屋が何かをしていたなんて誰も思わないだろうな…。
「二階でしたっけ?」
「あぁ。一条が見たのは二階の窓だ」
二人で見上げるとカーテンの閉じられた窓がある。
何もないな。
「……」
「……」
数秒しても何も起きない。
俺は少しだけ息を吐いた。
その時だった。
カーテンの隙間から大きな顔が出た。
人ではなく人形の顔だ
人間の頭より遥かに大きい人形の顔。
白い顔に作り物の目。
それがガラスの向こうからこちらを見ている…?
俺と早苗の二人とも目が合った。
「「うわあああああああああ!!」」
考えるより先に身体が動いて逃げた。
あれだけ妖だ怪異だと色々見てきた俺達だったが普通の住宅の二階から突然巨大な人形の顔が出てきたら話は別だ。
「護くん!護くん!」
「走れ早苗!」
「走ってます!」
とにかく家から離れた。
しばらく走り続けようやく近くにあった小さな公園へ逃げ込む。
誰もいない。
滑り台と砂場、それからブランコが二つあるだけの小さな公園だ。
俺達は揃ってブランコへ座った。
「いたな」
息を整えながら言う。
「いましたね」
早苗も肩で息をしている。
「人形の顔に見えたんだが」
「私もですよ」
「やっぱり人形か」
「はい……ものすごく大きかったですけど」
二人揃って黙る。
風でブランコが小さく軋んだ。
怖かったな。
それは認める。
だが同時に確認できた。
一条の話は本当だった。
あの家には何かいる。
何かいるってか人形がいる。
「でも……」
早苗が呟いた。
「ああいうのは、なんとなくですが……多分、霊力に惹かれてついてくると思います」
「……ついてくる?」
「はい」
早苗は自分の胸元へ手を置く。
「妖怪なのか霊なのか、それとも別の何かなのかはまだ分かりません。でも私達を見ていました。それにあの感じなら……霊力や妖力の強いものに反応する気がします」
霊力や妖力に反応する人形。
早苗の「なんとなく」は当たりそうだ。
いや…たぶん当たる、そしてそうなると…。
「おそらく私のほうへやってくるかもしれません」
「……そうか」
早苗の霊力は高い。
俺とは比べものにならないくらいだ。
現人神の風祝。
妖から見ればどれほどのものなのか俺には分からないが少なくとも普通の人間とは違う。
妖のご馳走。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
あの人形の妖は早苗の霊力を求めてやってくる。
そしてそれを呼び寄せたのは他でもない俺なのではないか。
一条から相談を受けて早苗を連れてあの家まで行った。
言うなれば俺がそう仕向けたようなものだ。
「今回も神社で迎え撃ちましょう」
「……」
早苗は当たり前のように言った。
俺は返事をしなかった。
代わりに昼休憩に見た諏訪子の顔を思い出す。
――祓い屋同士の諍いみたいな状況に早苗を巻き込んでほしくない。
「早苗」
「はい?」
「大丈夫なのか?」
「なにがですか?」
「神社だよ」
俺は言う。
「神奈子や諏訪子もいるんだろう」
「そうですけど……」
早苗は不思議そうに首を傾げる。
「お二人は納得してくれますよ」
「……そうか」
早苗を祓い屋の世界に巻き込みたくない。
その言葉が頭を過ぎる。
「それならいいんだ。今回もすまないが守矢神社、頼めるかな?」
「はい。もちろんです」
早苗はそう答えた。
「…………」
早苗は俺を見ていた。
「……なんだ?」
「護くん」
「ん?」
「何か考えてません?」
「別に」
「考えてます」
即答された。
「いや、本当に何も」
「考えてます」
「…………」
早苗は俺の表情をよく見ていた。
隠しても無駄らしい。
俺が何も言わずにいると早苗は突然ブランコから立ち上がった。
そして俺が座っているブランコの後ろへ回った。
「早苗?」
早苗が俺のブランコへ乗った。
「……え?」
俺が座っている座板の後ろ。
そこへ両足を乗せ、チェーンを掴む。
二人乗りだ。
「ちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待て!」
「護くん!」
「早苗??!」
「大丈夫ですから!」
「何が――」
ぐんっ。
「うおーーうっ!?」
ブランコが動いた。
早苗が立ち漕ぎを始めたのだ。
俺は反射的に両側のチェーンを握る。
「早苗!!?」
「護くん!」
「なんだ!?」
「話してください!」
「分かったから!」
「嫌です!」
「なんでだよ!」
ブランコがどんどん大きく弧を描く。
「大丈夫ですから!護くん!」
「何が大丈夫なんだよ!」
「私を!」
「うっ……!」
「信じてください!」
前と後ろ。
そしてまた前と後ろ。
視界の中で地面と空が交互に見える。
「あなたが助けてくれると信じたように……!」
早苗の声が後ろから聞こえる。
「私も……!護くんに!護くんを……!」
さらに大きく揺れる。
「信じてほしいです……!助けたいんです……!」
その声が俺に届いた。
風が吹いて髪が揺れる。
制服がはためく。
きっとブランコの勢いのせいだろう。
でもその風が妙に優しく感じた。
「…………分かった!」
俺は叫んだ。
「話す!」
「本当ですか!?」
「話すから!もう少しゆっくり漕いでくれ!」
「無理です!」
なんでだよ!
全然ゆっくりにならなかった。
俺は全部話した。
「昼休みに諏訪子が来たんだ!」
「諏訪子様が!?」
「あぁ!」
「学校にですか!?」
「そうだよ!」
「どうして私に教えてくれなかったんですか!」
「諏訪子が内緒にしてほしそうだったからだよ!」
「そんなこと言ってました!?」
「言ってないよ!」
「じゃあ護くんの想像じゃないですか!」
「そうだよ!」
それでも話した。
諏訪子が言っていたこと。
あの家の住人が元祓い屋だったこと。
家そのものを容れ物にして蠱毒のようなことをしていたこと。
そして、今回のことは自然に起きた妖や怪談ではなく人間が意図的に起こしたものだということ。
だから…、
「諏訪子は!早苗を祓い屋同士の諍い事みたいなのに巻き込んでほしくないって!」
「そんな……!」
早苗の声が聞こえる。
「ことですか……!」
「そうだよ!」
「そうだろうと!思いましたよ……!」
「分かってたのか!?」
「護くんが変な顔してましたから!」
「変な顔ってなんだよ!」
「そういう顔ですよ!」
どんな顔だ。
「私は……!」
早苗がさらに強くチェーンを握った。
「私はですね!」
「おう!」
「自分がしてみたいから!ここに!いるんです……!」
「…………!」
「祓い屋の……!諍い事でも……!」
風が吹く。
「護くんが……!」
早苗の声がよく聞こえた。
「護くんと一緒なら!」
ブランコが高く上がる。
「全然……!いいですよ!」
「…………」
「だから勝手に!巻き込んでるとか!思わないでください!」
俺は前を向いたまま笑った。
「それは……!」
「はい!」
「嬉しいよ……!」
「はい……!」
「ありがとう……!」
本当に嬉しかった。
早苗が自分の意思で一緒にいてくれる。
俺が連れ回しているわけではない。
俺が守らなければならないだけでもない。
早苗も俺を助けたいと思っている。
それなら俺も信じよう。
「嬉しいけど……!」
「はい!」
「ブランコ漕ぎながら!する話だったかな…これ!…!」
「…………」
早苗が黙った。
しかしブランコは止まらない。
「早苗〜〜〜!?」
「す、すみません!止め方が!」
「止め方!?」
「勢いがつきすぎました!」
「少しずつ弱く!いや漕ぐな!」
「はい!」
結局俺達はそのあともしばらく二人乗りのブランコで揺られ続けた。
大事な話だったんだ。
少なくとも俺にとっては。
諏訪子が早苗を大切に思っていることも分かった。
早苗自身がどうしたいのかも聞けた。
俺が早苗をどう思っていたのかも少しだけ分かった気がする。
二人乗りのブランコで話すことになるとは思わなかったが不思議となぜか悪くはなかった。
やがて勢いが弱くなりようやく俺達はブランコを降りた。
「…………」
「…………」
地面が揺れている。
いや地面は揺れていない。
俺達が揺れている。
「早苗……」
「はい……」
「大丈夫か……」
「だ、大丈夫です……」
早苗が一歩歩く。
ふらっ。
「おっと」
俺が腕を掴む。
しかし俺もふらついた。
「護くんも大丈夫ですか……?」
「大丈夫……うぷ」
「護くん!?」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃないですよ!」
乗り物で酔ったような感覚だった。
ブランコでここまで酔うとは思わなかった。
早苗は申し訳なさそうに俺を見る。
「す、すみません……」
「いいよ」
「でも……」
「楽しかったしな」
「…………」
「うぷ」
「やっぱりすみません……!」
しばらく俺達は公園のベンチで休んだ。
風に当たりようやく目眩が治まってくる。
俺は改めてさっき逃げてきた方向を見る。
あの向こうに例の家がある。
二階の窓から俺達を見ていた巨大な人形。
あれが蠱毒の中で残ったものなのか。
元祓い屋が作ろうとしていたものなのか。
だが早苗の予想が正しければ、もう一度あの家へ行く必要はない。
早苗の霊力を狙って追いかけてくるだろう。
守矢神社へ。
「行こうか」
俺は立ち上がった。
早苗も立ち上がる。
「はい」
「今度は逃げなくていいように準備しよう」
「そうですね」
早苗は笑った。
「迎え撃ちましょう」
俺達は守矢神社へ向かった。
こちらへやって来るものを待つために。
元祓い屋が二十年前に残したもの。
家を容れ物として作ろうとした何か。
あの窓からこちらを見ていた人形が果たして何なのか。
今度こそ終わらせるために。