治療狂人のヒーローアカデミア   作:熊田ラナムカ27

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11 手術の後は次の手術の準備

 

 とある街にある小さなバー。

 

 その一室に、黒い渦が出現した。

 

 渦の奥から一人の男が転がる。

 

「あぁ、くっそっ……。完敗だ……。どうなってやがる……!?話と全然違うじゃないか……っ!!」

 

「死柄木 弔……落ち着いてください」

 

「こんな有様で落ち着ける訳ないだろ……!!手下共は瞬殺されて、脳無は手も足も出ない……!!俺も両腕両脚を撃たれた……!!その挙句、平和の象徴は未だ健在……!!何もかも、あのガキのせいだ!!次会ったら必ず殺す……ッ!!」

 

 そして死柄木は、そこで大いに荒れ狂った。

 

 当然だろう。宣言通り、死は訪れなかった。

 

 彼の目論見は何一つ果たされなかった。

 

 教師と生徒。一人の狂人に阻まれて。

 

 彼の喚き声が、バー全体に響く。

 

『弔、黒霧の言う通りだ。悔やんでも仕方ない。今回だって、決して無駄では無かったハズだ』

 

「じゃあ、先生っ!!彼奴は何なんだ!?あんなイカれたチーターが居るだなんて聞いてないぞ!?あの医者志望のガキ、ネジが外れてやがった……!!」

 

『医者志望?ヒーロー志望ではなく?』

 

「ヒーロー志望でもあると名乗っていました。治癒系の個性の持ち主で脳無を三度も倒し、両腕を折られ、浅くない傷を何度も負いながらも引きませんでした」

 

「一人、オールマイト並みの速さを持つ子供が居た。あの子供の邪魔さえなければ、医者志望のガキをさっさと殺せていた。彼奴の邪魔さえなければ、医者志望に時間を稼がれる事も、こんな目に遭う事は無かった!!クソが……っ!!ガキがっ……ガキ……!!」

 

『……へぇ。それはどちらも興味深い』

 

 画面の向こうで、男は顎に手を当てた。

 

 おそらく、オールマイトの後継者であろう生徒。

 

 そして、医者志望でもあるという生徒。

 

 その両者。特に後者に興味を持っていた。

 

(普通らしからぬ治癒の個性とは……使えるかもね)

 

 男の興味は今まだ、興味でしかない。

 

 しかし、その興味は確実に刻み込まれた。

 

 いずれ来る、災厄への前触れとして。

 

『精鋭を集めよう、死柄木 弔!!じっくりと時間をかけて!!我々は自由に動けない!!だから、君のようなシンボルが必要なんだ!!次こそ、君という恐怖を世に知らしめろ!!』

 

 こうして男は、仇敵の後継の存在を知った。

 

 一つの可能性に、目を付けた。

 

 ともあれ、彼等彼女等の邂逅は遠い先。

 

 今はまだ、影が蠢くのみであるが。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 オールマイトが到着した後。

 

 僕達を散々苦しめた脳無は早々に倒された。

 

 倒されるまで、5分も掛かってないと思う。

 

「今回ばかりは、彼女に助けられた」

 

 死柄木達が黒霧のワープで逃げ、遅れて駆けつけた先生達が残党を捕縛し、生徒達を保護している傍ら。

 

 オールマイトは、そう一人で呟いていた。 

 

 予想通り、活動限界ギリギリだったらしい。

 

 生徒達の無事を見届けて直ぐに帰った程だ。

 

 疲弊した脳無相手でも、危なかったらしい。

 

 一見すれば快勝でも、その内実は綱渡りそのもの。

 

 まともに戦闘をしていたらと思うと、ゾッとする。

 

 活動限界が、より短くなっていたに違いない。

 

「今回ばかりは事情が事情なだけに、小言も言えないね。あの子だったらほぼ間違いなく言うだろうけど」

 

「リカバリーガール……お説教は程々に」

 

「言っとくが、アンタも十分説教の対象だ。USJでの一件はともかく、今朝方の事件に関しては、他のヒーローに任せれば良かっただろう。ただでさえ衰弱してる身体を、必要以上に酷使してどうするんだい」

 

「うっ……それは……本当にすみません」

 

 僕はオールマイトに運ばれ、保健室に居た。

 

 オールマイトは、本来の姿に戻っている。

 

 他人事には聞こえなくて、思わず目を逸らした。

 

 きっと僕も、こんな感じで怒られるのだろう。

 

 癒月さんの忠告を破るのは、これで4度目。

 

 指の件を含めれば、もう5度目だ。

 

 仏の顔なんて、もうとっくに消えている。

 

「失礼します。オールマイト、久しぶり!」

 

「塚内君!!君もこっちに来てたのか!!」

 

「オ、オールマイト……!え……良いんですか!?その……姿が」

 

「あぁ!大丈夫さ!何故って!?彼は最も仲良しの警察。塚内直正君だからさ!」

 

「ハハッ。何だその紹介」

 

 僕がそんな事を考えていると、一人の警察官。

 

 オールマイトの友人、塚内さんが入って来た。

 

 口ぶりからして、かなり親し気らしい。

 

 今回の事件について、話を聞きに来たという。

 

「待った。それよりも前に、聞かなければならない事がある。緑谷少年と彼女を除く、生徒達の無事は確認したが、相澤……イレイザーヘッドと13号は!!癒月少女は、あれからどうなった!?」

 

 けれど、オールマイトは塚内さんの言葉を遮った。

 

 それについて、僕もずっと気にはなってた。

 

 大急ぎで運ばれ、状況を確認する暇も無かった。

 

 下手をしなくても、僕よりも重傷だったはず。

 

「心配せずとも、3人とも命に別状はない。眼窩底骨がちっと損傷して、精密検査が必要な相澤は怪しいが、13号と波音に関しては、朝一で退院出来る。何より波音に至っては、個性による自己治癒で外傷ゼロ。個性過剰使用(キャパオ-バー)で、単に体力を使い果たしてただけさね」

 

 そんな僕等に、リカバリーガールはそう語った。

 

 やはり3人共、無事とは程遠い。

 

 でも、確かに、命に別状は無い。

 

 その言葉で、ほんの少しだけ安心した。

 

 安堵の息が、自然と口から漏れる。

 

「君を含めた3人のヒーロー。そして彼女が身を挺していなければ、生徒等は無事じゃなかっただろう。最善とは言えないが、最良の結果だ」

 

「そうか……確かに、その通りだろう。だが、しかし、一つ違うぜ。塚内君。戦ったのは、身を挺したのは、私達や彼女だけじゃない。生徒等全員だ!!」

 

「こんなにも早く実戦を経験し、生き残り、大人の世界を、恐怖を知り。その極限の状況下で、今やれる最大限を行えた1年生など、いままであっただろうか!?敵も馬鹿な事をした!!1ーA(このクラス)は強いヒーローになる!!私はそう確信してるよ」

 

「ああ、そうだな。これからが楽しみだよ。無論、生徒等全員ね。僕等も負けてはいられないな」

 

 塚内さんはそう言って、帽子を被り直した。

 

 オールマイトは、親指を僕に向かって立ててみせる。

 

 その言葉で、疲れ切った体に力が湧いた気がした。

 

 どうにか自力で、身体を起こしてみせる。

 

 右腕と指の一本には、未だ包帯が巻かれたままだ。

 

 癒月さんに負けないくらい、もっと強くならないと。

 

「そう気を張るのは構いやしないが、生憎、検査の方が先だ。聴取の方もその後にしてくれ。アンタに至っては、念入りに診ておかないといけないしね」

 

「アハハ……お手数掛けます………」

 

「とはいえ、あの子もあっちじゃ似たようなもんか。今頃、念入りに診られてるだろうね。全身隈なく、徹底的に、容赦なく。そりゃたんまりと絞られてるはずさ」

 

「それ本当に大丈夫なんですか……?」

 

「問題無いだろう。あの子の自業自得だ」

 

 けれど、その空気も直ぐ微妙なものになった。

 

 リカバリーガールは、検査の準備を始める。

 

 検査は別にいいけど、発言が色々不穏だ。

 

 というか、癒月さんの状態が激しく気になる。

 

 塚内さんは何か察したように、苦笑いした。

 

 オールマイトに至っては、激しく遠い目をしている。

 

「心配せずとも、あの子の担当医は、何せ実の母親だ。強いては言えば、私の娘でもある。腕の方も悪くない。早々、悪い事にはならないだろう。ちっとばかし、捻くれ者で、おかしくはあるがね」

  

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 目を開けると、見知れた天井が見えた。

 

 無機質な白色で、消毒液の匂いが近くからする。

 

 考えるまでも無く、此処は病院だろう。

 

 激しい筋肉痛のような痛みが、全身を走った。

 

 ベットから起きようとするも、起き上がれない。

 

 どうやら、あのまま気絶したらしい。

 

「ふむ、なるほど。これは興味深い。複数の個性に適合できるよう、身体を物理的にも薬物的にも慣らし、調整してある。まぁそうしなければ、複数の個性を持つなど出来る訳がない。抗体を作らないまま、大量の毒物を摂取するようなものだもの。とはいえ、こっちは他人の内臓を無理矢理、移植されたという方が正確か。肉体の持ち主とは別のDNAが、複数検出されたのもそれが原因のはず。個性というものは、持ち主の生体情報と、考えていた以上に深く結びついてる。人間の肉体そのものを大きく変質させているのだから、当然と言えば当然か。上手く扱えば、人格のバックアップすらも可能かもしれない」

 

 私が首を動かすと、一人の女性が座っていた。

 

 女性は白衣を纏い、キーボードを叩いている。

 

 それも一人で何やらブツブツと呟いて。

 

 慣れてない人からすれば、完全にホラーな光景だ。

 

 実験体として捕えられたと錯覚するかもしれない。

 

 患者の不安感を煽る行動は、どうかと思う。

 

「ああ、ようやく起きたみたいね。相変わらずの頑丈さ。それはそうと、患者としてはやっぱり面白味がない。診る必要が無い程の回復ぶりだもの」

 

 しばらくすると、女性は私が起きた事に気がついた。

 

 丸椅子を回転させ、こちらへ向き直る。

 

 長い白色の髪が、静かに揺れた。 

 

 すると不意に、胸のワッペンが軽く反射して光った。

 

 そこには、癒月(みこと)。私の母の名前。

 

 同時に、担当医である人物の名前が書かれている。

 

「あれから一体、どれだけ経ちましたか?敵は、相澤先生は、13号は、どうなりました?怪我人はどれだけ?」

 

「落ち着いて。仮にも患者なのだから、静かにしなさい。此処は病院で病室よ。USJに来たという敵はとうに撤退。イレイザーと13号への処置も済んでいる。両名今は、別の病室で休んでいる状態よ。生徒等についても、骨折した緑谷という子を除いて、全員無事みたい」

 

「そう、ですか。なら、良かった。命に別状が無くて」

 

「それの何処が良いのよ。私と母の忠告を破るだなんて。この愚か者。私がこの世で一番嫌いな物が何か、知っておるでしょ?医者の忠告を聞かない患者よ。仮にも医者を志す者。よりにもよって娘が、その愚か者に成り下がるだなんて、全くイライラする」

 

 数週間ぶりに見る、母様は激しく不機嫌だった。

 

 逆の立場なら、私もそうなるから当然だろう。

 

 状況次第では、手を出している。

 

 というより、何時も出している。

 

「貴方には言ってやりたい小言が幾らでもあるけど、一先ず処置が先。多少痛いだろうけど、少し我慢して」

 

 母様そう言いつつ、私の腕を軽く掴んだ。

 

 消耗した筋肉に、軽く痛みが走る。

 

 脈を測られているだけにも関わらずだ。

 

 その直後、母様は私の目を無理矢理開ける。

 

 検査の為とはいえ、されるがままだ。

 

「心拍、眼球運動ともに正常。念の為に再診したはいいけど、案の定か。つまらない。こうも簡単に怪我を治されたら、医者の仕事がない。自己治癒に伴う炎症については、私の個性で治療する。貴重なベッドを何時までも占領されては堪らないもの」

 

 一通り検査が終わると、母様はそう言った。

 

 相も変わらず口は悪いが、流石の手際だ。

 

 そして母様は、私の胸に手を当て個性を発動させる。

 

医神の活性薬(アスクレピオス・アクティベーター)

 

 次の刹那、母様の両手からエネルギーが放出された。

 

 そのエネルギーは胸を伝い、徐々に全身へ行き渡る。

 

 少しずつはあるが、身体に力が戻るのを感じた。

 

 母様の個性は、細胞活性。

 

 体内で生成したエネルギーを手から放出し、それに触れた相手の細胞を活性化させるというものだ。

 

 私やお婆様の個性とは異なり、あくまで細胞を活性化させる事に特化している為、傷を急速に回復させる事は出来ないが、その代わり体力の消耗などの負担を最小限に抑え、対象の穏やかな自己治癒を促せる。

 

 例えるなら、私やお婆様の個性が、強力な代わりに副作用も強い薬である一方、母様の個性は、効き目が弱い代わりに副作用の少ない薬といったところだろう。

 

 何もかも、使いどころ次第である。

 

「これで治療は終わり。もう動けるわね?」

 

 しばらくすると、母様は治療の手を止めた。

 

 私は今度こそと、ゆっくり起き上がる。

 

 完全とは言えないが、痛みは収まっていた。

 

 手足の動作確認をするも、そちらも問題ない。

 

 明日一日の訓練は無理だろうが、その程度だ。

 

 これならば、朝一で退院出来る。

 

「すいません。助かりました。感謝します」

 

「礼には及ばないわ。医者としての仕事をしただけ。それに貴方は貴重な観察対象であり、あの脳無とかいう傀儡と交戦した参考人だもの。助けない理由はない」

 

 そう言いつつ、母様はパソコンを操作した。

 

 その言葉は淡々としていて、ほぼ無表情だ。

 

 感覚がズレているという事しか分からない。

 

 まぁ、そういうところも含め何時も通りであるが。

 

「実に興味深い検体よ。貴方も知っての通り、生物学上は間違いなく死んでいるけど、生体端末として生前以上に動かせる状態にある。正しく、改造人間といった有様。個性に合わせて身体を最適化させているという意味では、ある意味貴方によく似ている」

 

 しばらくすると、画面に一枚のカルテが表示された。

 

 それは拘束された脳無についてのものだった。

 

 私が気絶した後、警察に拘束されたらしい。

 

 カルテの内容には、奴がやはり遺体であること。

 

 私の体質との類似点などについて書かれている。

 

「とはいえ、それはあくまで偶然でしょう。私の特殊体質の経緯については、訓練を施した母様自身がよく分かっているはず。というか、私の本質が脳無と同じかどうかなど、激しくどうでもいい」

 

「まぁ、貴方の場合そうでしょうね。私としては興味深い話ではあるけど。話の本質はそこじゃない。これはあくまで、医学的知見の話。貴方が天然ものなら、養殖ものも居ると認識すれば良い。私が言いたいのは、これを作った連中が天才的にイカれているという話よ。養殖とはいえ、貴方が手に入れた力以上のものを持つ脳無を、奴等は簡単に使い捨てられる」

 

「相手が天才だろうとなかろうと、養殖だろうと関係ありません。病原体は例外なく根絶する。それが私のヒーローになる理由の一つです。そこに一切の例外はありませんし、その方針を変えるつもりもない」

 

「けど、敵はあのオールマイトに匹敵する戦力を容易に生み出せる。貴方の横槍が無ければ、平和の象徴も可能性の話であるけど失墜していた。そして貴方自身、結果として()()()()()()()()()()。こんなのと関わるだけ、時間の浪費としか思えない」

 

「例え時間の浪費でも、火の粉は払うのみです」

 

「私に言わせれば、その手間すらも無駄」

 

 パソコンの画面には、いつの間にか別のカルテ。

 

 私の身体の検査結果についてものも映っていた。

 

 一説には、身体への個性因子の更なる適合。

 

 別の一説には、それに伴う身体への負担。

 

 その他にも、細胞分裂における推定残存回数や、現在の体内年齢などについて、事細かに書かれている。

 

 要するに、母様の言いたい事はそういう事だろう。 

  

「貴方の身体は、確かに特殊。本来、増やす事が出来ない個性の許容量を、個性の変化に合わせて自力で増やすなど、特殊以外の何物でもない。けど、その体質も特殊というだけ。その超常的な自己治癒力も、副作用として、限界がある細胞分裂を加速させ、寿命を縮める以上、そう頻繁には発動出来ない。その馬鹿力もその手の個性持ちには、到底敵わない」

 

「命を救いたいなら、ヒーローなんかより、医者の道に専念した方がずっと合理的よ。自己欺瞞で命を投げ捨てる愚かな行為よりは遥かに。所詮、医者もヒーローも、目の前の命を救うので精一杯なんだから。少なくとも、私はそうしてる」

 

 実のところ、母様は私の夢に否定的だ。

 

 齢4歳の時も、こうやって諦めろと散々言われた。

 

 雄英に行くと決めた時も、酷く苦い顔をしていた。

 

 個性を合法的に使う為、資格こそ持っているものの、ヒーローそのものを嫌っている節さえある。

 

 実際、私が幼少期に頼み込んで行った訓練も、私の心を折る為、死なないギリギリのものを行ったぐらいだ。

 

 尤も、その訓練の結果、私が特殊体質を得て、前線で戦えるようになった事は、想定外だったようだが。

 

 そのせいか、お婆様とも家族としてはやや疎遠だ。

 

 こう言われるのは、初めてじゃない。

 

「ですが、私のやる事はどの道変わりません。他者より個性が劣ろうが、仮に個性を持っていなかろうが、やるべき事をやるまで。医者としてヒーローとして、病原体を根絶するまでです。命を自己犠牲などで浪費するつもりはありませんが、そうするべきなので」

 

 とはいえ、私も既に15歳の身だ。

 

 自分の行く道ぐらいは自分で決められる。

 

 ヒーローの活動が合理性とかけ離れた、愚かな行為である事ぐらい、それを志した時から分かってる。

 

 しかし、この世界は病んでしまっている。

 

 この世界は、命を粗末にし過ぎている。

 

 ヒーローが傷つく事を、当然と思うぐらい。

 

 誰かが犠牲になる事を、良しとしている。

 

 ならば、病巣に踏み込んででも治療するしかない。

 

「……全く、貴方はつくづく頑固な子ね。一体誰に似たのやら。わざわざ茨の道を自ら選ぶだなんて」

 

 そんな私に、母は溜息を零した。

 

 何処か拗ねたような印象すらも覚える。

 

 こうなるだろうと予め分かっていたらしい。

 

 訓練を幼少期に頼んだ時もそうだった。

 

「心配せずとも、この程度は茨の道に入りません。いずれ容易に乗り越えてみせます。何よりヒーロー校を中退した挙句、家出をして、医者になったお母様よりかは、遥かにマシです。というか、いい加減、お母様こそお婆様に寄り添うべきかと」

 

「生憎、そんな事を青二才の娘に言われる筋合いは無いわ。それに私は、ヒーローを見ると苛立つ性分だもの。自分から寄り添う理由は一切ない。母がヒーローであり続ける以上、医者としてなら兎も角、それ以上は関わらないって決めてるもの。あの人との関係はこれでいい」

 

「その思考こそ、非合理だと思いますが」

 

「医学的知見の共有程度はしてる」

 

 結局のところ、私と母様は似た者同士だ。

 

 形は違えど、医者の本能に従っているに過ぎない。

 

 命を脅かす存在、全てがどうしても許せない。

 

 ただ、それだけだ。

 

 母様の方が数倍、口が悪く、不器用であるが。

 

「ならば、せめて、やり方をもっと考えなさい。今の貴方じゃ、無茶な戦い方で即死するか、戦闘後に縮まった寿命で老死するかの二択。例えヒーローであっても、医者が途中で退場するなど論外だもの。死んだ貴方の身体を解剖するのは、面白そうではあるけど」

 

「ええ、分かっています。自らの責務を投げ出すつもりはありませんし、患者を残したままでは、とても死ねません。何より死ぬならベッドの上と決めているので」

 

「それは結構。医者として文句無しの死ね」

 

「命っ!!波音は無事かい!?大急ぎで秘湯から戻って来た!!あっ、良かった!!もう動け───」

 

「五月蠅い。静かにしなさい。此処は病院です」

 

「貴方は黙ってそこに座ってなさい。純粋に迷惑。あとついでに、バッグの中にある土産を早く寄越せ」

 

「えっ!?何この扱い!?僕の存在意義、温泉饅頭以下!?一応僕、夫で父親なのに!!というか、僕の出番、まさかこれで終わり!?」

 

 こうして夜は明け、私は無事に退院を果たした。

 

 それから一日の休校を挟み、何時もの登校日。

 

 身体に残っていた痛みは、完全に引いた。

 

 心身ともに健康であるというのは実に素晴らしい。

 

 意気揚々と、教室の扉を開ける。

 

「という訳で皆さん、おはようございます。もう間もなくHR(ホームルーム)が始まりますが、その前の手洗い、うがい、アルコール消毒を、どうか忘れずに」

 

「おっす、癒月!!連絡貰ったから、無事なのは分かってたけどよ!!心配したぜ!!無茶しやがって!!」

 

「そうだよ!!あんなのと正面から戦うし!!」

 

「大変ご迷惑をおかけしました」

 

 教室に入って直ぐ、嬉しいような軽く怒ったような様子で、話し掛けに来たのは切島君と芦戸さんだった。

 

 私がそう返すと、切島君はバシバシと強く私の背中を叩き、芦戸さんは横腹を軽く腕で何度か小突く。

 

 二人とはそれなりに長い付き合いではあるが、よくよく考えてみると、入院沙汰はこれが初めてだ。

 

 想像以上に、要らぬ心配を掛けたに違いない。

 

「よぉ、癒月。その様子だと完全復活らしいな」

 

「全身血塗れだったからマジで安心したぜ……」

 

「ケロケロ。元気になって、よかったわ」

 

 他の生徒の反応はというと、ほぼ全員が安堵。

 

 何処か気遣う様子の人が多い印象的だった。

 

 状況が状況だっただけに、気絶した相澤先生の保護を丸投げした、梅雨ちゃんはそれが特に顕著で、席に座る途中、けろけろと優しく微笑んでくれた。

 

 この包容力なら、看護師も向いてるかもしれない。

 

 峰田君は精神的に、向いてないだろうけど。

 

「……ケッ。生きてやがったかピンク髪」

 

「言いたい事があるなら、直接言ってはどうです?」

 

「ありゃデレてんだよ。そっとしておいてやれって」

 

「男のデレとか、需要全くねぇけどな。といっても、爆豪の場合は超絶レア過ぎて、逆にあるかもだけど」

 

「SRキャラぐらいの価値はあるんじゃね?」

 

「誰がSRキャラだ!?殺すぞ!!せめてURキャラにしとけや!!クソが!!俺を中途半端なレアリティに当てはめてんじゃねぇ!!」

 

「URでも弱いキャラは弱いですけど」

 

「んだとゴラァ!?てめぇ病院に送り返すぞ!!」

 

「アンタ、人をナチュラルに煽るよね……」

 

 それはそうと、爆豪君は何時も通りだった。

 

 何時ものヤンキーっぷりで、逆に安心した。

 

 含みのある言い方は気になるが、まぁいいだろう。

 

 わざわざ気にする理由も、時間も無い。

 

「それはそうと緑谷君。貴方には話があります」

 

「アッ、ハイ。ワカリマシタ」

 

「デク君が癒月さんに呼び出された……」

 

「とりあえず、告白ではないのは分かる」

 

「こんな胸キュンしない呼び出しあるんだ」

 

 今はこっちの愚か者の方が、遥かに優先だ。

 

 これを放置したら面倒が更に増える。

 

 彼はオールマイトと同じ、感染者だ。

 

 自己犠牲病の感染拡大など御免である。

 

 状況がどうこうなど、一切関係ない。

 

「皆ー!!朝のHRが始まる。席につけー!!」 

 

「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」

 

「全員、手も洗ったし」

 

 それからクラスの皆が手を洗い終えた頃。

 

 予鈴が鳴り、HRの時間になった。

 

 すると静かに、教室の扉が開く。

 

「皆、お早う」

 

「「「お早うございます」」」

 

「先生!!怪我の方は大丈夫ですか!?」

 

「この通り、腕以外はな。どうにかする」

 

「もしもの場合は、直ちに保健室へ搬送します」

 

「いらん心配だ。しなくていい」

 

 相澤先生は両腕以外、問題なさそうだった。

 

 頭に包帯こそ巻かれているが、容態を一通り診た限り、少なくとも大事には至ってない。

 

 後遺症が残るとしても、おそらく軽度の範囲だろう。

 

 セントラル病院の方々が上手く処置したに違いない。

 

 その手腕には深く感服する。

 

「俺の怪我の事はどうでも良い。何よりまだ、戦いは終わってねぇ」

 

「戦い?」「まさか……」

 

「また敵がー!!??」

 

「どうでも良くはありません」

 

 そんな折に、相澤先生は不穏な言葉を言った。

 

 その言葉に、教室全体が騒めく。

 

 時期を考えると、嫌な予感しかしない。

 

「雄英体育祭が迫ってる!!」

 

「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」」

 

 そして、相澤先生は目を見開いた。

 

 その直後に、教室全体が安堵と高揚感で沸く。

 

 なにせ、年に一度の大イベントの告知だ。

 

 それと同時に、年に一度のチャンスでもある。

 

 これの結果次第で、スカウトも有り得るのだから。

 

 雄英の生徒ならば、興奮しない理由はない。

 

「相澤先生。今年こそ体育祭の規模を縮小しましょう。さもなくば、開催を即刻取りやめるべきかと」

 

「うおっ!?急に圧強っ!!」

 

「癒月ちゃん、毎年それ言ってるよね」

 

「ある意味、季節を感じるわ」

 

「言いたい事は大体察するが、どちらも却下だ」

 

 尤も、医療関係者(わたし)にとっては、心底嫌である。

 

 




 
 
 オリキャラ プロフィール
 
 癒月 命(ゆづき みこと)
 
 ヒーロー名 アスクレピオス
 
 個性 細胞活性
 
 誕生日 11月1日
 
 身長 170cm
 
 血液型 A型
  
 好きなもの 甘いもの 家族
 
 性格 マッド

 →自分の好きなもの、興味あるものの為なら、容易く狂える。
 
 出身地 東京
 
 キャライメージ アスクレピオス(FGO)+クリームヒルト(FGO)
 
 セントラル病院の所属している外科医兼研究者。 
 
 波音の母にして、リカバリーガールの娘。
 
 研究内容は『個性が及ぼす身体及び精神への影響』。
 
 かつてはリカバリガールに憧れ、ヒーロー校に入ったものの、現場におけるヒーローの死亡率の高さや自己犠牲の精神、それを何とも思わない周囲とヒーロー達に嫌気が差し、1年の冬頃に中退。
 
 同じくヒーローである母と決別する意を込めて出奔した後、独学で個性免許を取得。
 
 その後、奨学金を借りて医大に行き、個性因子の研究を行いながら、外科医兼研究者になるに至った。
 
 個性の合法的使用の為、ヒーロー免許を取得しているものの、外科医と研究者の仕事に専念しているので、ヒーローとしての活動はほぼ皆無。
 
 ただし、病院で暴れる患者を取り押さえる為、個性を用いた身体強化法と、パンクラチオンをマスターしており、並のヒーローよりは遥かに強い。
 
 技量のみで言えば、波音を上回る。
 
 加えて、ヒーローらしいヒーロー。
 
 自己犠牲を良しとするヒーローを嫌っており、リカバリーガールの紹介で傷の処置に訪れたオールマイトには対しては、経緯を聞いた後、全力で中指を立てた。
 
 波音に対する心境は、かなり複雑。
 
 自分の行いで、彼女が平凡で無くなったこと。
 
 自分の娘が、興味深い観察対象であること。
 
 愚かにも、ヒーローを目指していること。
 
 かつて自分も抱いた、母への憧れも含めて。
 
 また、仕事の関係で、高頻度で家を空ける自分達の代わりに、リカバリーガールが時折、波音の面倒を見てくれている事については、素直に感謝している。
 
 ヒーローコスチュームは、まんま白衣。
 
 
 癒月 守(ゆづき まもる)
 
 個性 防壁
 
 血液型 B型
 
 誕生日 11月5日
 
 身長 175cm
 
 好きなもの ラーメン 読書
 
 性格 うっかり

 →ここぞという時うっかりで失敗する。
 
 出身地 埼玉
 
 キャラクターイメージ 斉木國春(斉木楠雄のΨ難)
 
 東京の某出版社に所属するライターで波音の父。
 
 命と比べ、今後の登場機会は多分少ない。
 
 登場するとしても、チョイ役か出オチ。
 
 年柄年中、面白いネタを求めて日本各地を飛び回っており、旅先でお祭り男染みた事になる事もしばしば。
 
 命との出会いも、とある雑誌の取材で病院訪れた時であり、初めは患者でない事で病院を追い出されつつも、繰り返し取材を続け、気付けば結婚まで漕ぎ付けた。
 
 命曰く、目を離せない人だからとのこと。
 
 守の個性、防壁は自身を中心に透明なバリアを展開するというものであり、強個性の部類ではあるのだが、本人がビビりかつ、うっかりなので、全く活かせない。
 
 何なら転んで、しょっちゅう怪我する。
 
 波音が特殊体質になった際は、命の説明に頭をハテナにしつつも、能天気に力持ちで、よく食べるようになった程度にしか思わず、半日程度でその変化に順応した。
 
 ある意味、癒月家の中で一番おかしい。
 
 
 これ以上、オリキャラは出しません。
 
 
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