とある街にある小さなバー。
その一室に、黒い渦が出現した。
渦の奥から一人の男が転がる。
「あぁ、くっそっ……。完敗だ……。どうなってやがる……!?話と全然違うじゃないか……っ!!」
「死柄木 弔……落ち着いてください」
「こんな有様で落ち着ける訳ないだろ……!!手下共は瞬殺されて、脳無は手も足も出ない……!!俺も両腕両脚を撃たれた……!!その挙句、平和の象徴は未だ健在……!!何もかも、あのガキのせいだ!!次会ったら必ず殺す……ッ!!」
そして死柄木は、そこで大いに荒れ狂った。
当然だろう。宣言通り、死は訪れなかった。
彼の目論見は何一つ果たされなかった。
教師と生徒。一人の狂人に阻まれて。
彼の喚き声が、バー全体に響く。
『弔、黒霧の言う通りだ。悔やんでも仕方ない。今回だって、決して無駄では無かったハズだ』
「じゃあ、先生っ!!彼奴は何なんだ!?あんなイカれたチーターが居るだなんて聞いてないぞ!?あの医者志望のガキ、ネジが外れてやがった……!!」
『医者志望?ヒーロー志望ではなく?』
「ヒーロー志望でもあると名乗っていました。治癒系の個性の持ち主で脳無を三度も倒し、両腕を折られ、浅くない傷を何度も負いながらも引きませんでした」
「一人、オールマイト並みの速さを持つ子供が居た。あの子供の邪魔さえなければ、医者志望のガキをさっさと殺せていた。彼奴の邪魔さえなければ、医者志望に時間を稼がれる事も、こんな目に遭う事は無かった!!クソが……っ!!ガキがっ……ガキ……!!」
『……へぇ。それはどちらも興味深い』
画面の向こうで、男は顎に手を当てた。
おそらく、オールマイトの後継者であろう生徒。
そして、医者志望でもあるという生徒。
その両者。特に後者に興味を持っていた。
(普通らしからぬ治癒の個性とは……使えるかもね)
男の興味は今まだ、興味でしかない。
しかし、その興味は確実に刻み込まれた。
いずれ来る、災厄への前触れとして。
『精鋭を集めよう、死柄木 弔!!じっくりと時間をかけて!!我々は自由に動けない!!だから、君のようなシンボルが必要なんだ!!次こそ、君という恐怖を世に知らしめろ!!』
こうして男は、仇敵の後継の存在を知った。
一つの可能性に、目を付けた。
ともあれ、彼等彼女等の邂逅は遠い先。
今はまだ、影が蠢くのみであるが。
オールマイトが到着した後。
僕達を散々苦しめた脳無は早々に倒された。
倒されるまで、5分も掛かってないと思う。
「今回ばかりは、彼女に助けられた」
死柄木達が黒霧のワープで逃げ、遅れて駆けつけた先生達が残党を捕縛し、生徒達を保護している傍ら。
オールマイトは、そう一人で呟いていた。
予想通り、活動限界ギリギリだったらしい。
生徒達の無事を見届けて直ぐに帰った程だ。
疲弊した脳無相手でも、危なかったらしい。
一見すれば快勝でも、その内実は綱渡りそのもの。
まともに戦闘をしていたらと思うと、ゾッとする。
活動限界が、より短くなっていたに違いない。
「今回ばかりは事情が事情なだけに、小言も言えないね。あの子だったらほぼ間違いなく言うだろうけど」
「リカバリーガール……お説教は程々に」
「言っとくが、アンタも十分説教の対象だ。USJでの一件はともかく、今朝方の事件に関しては、他のヒーローに任せれば良かっただろう。ただでさえ衰弱してる身体を、必要以上に酷使してどうするんだい」
「うっ……それは……本当にすみません」
僕はオールマイトに運ばれ、保健室に居た。
オールマイトは、本来の姿に戻っている。
他人事には聞こえなくて、思わず目を逸らした。
きっと僕も、こんな感じで怒られるのだろう。
癒月さんの忠告を破るのは、これで4度目。
指の件を含めれば、もう5度目だ。
仏の顔なんて、もうとっくに消えている。
「失礼します。オールマイト、久しぶり!」
「塚内君!!君もこっちに来てたのか!!」
「オ、オールマイト……!え……良いんですか!?その……姿が」
「あぁ!大丈夫さ!何故って!?彼は最も仲良しの警察。塚内直正君だからさ!」
「ハハッ。何だその紹介」
僕がそんな事を考えていると、一人の警察官。
オールマイトの友人、塚内さんが入って来た。
口ぶりからして、かなり親し気らしい。
今回の事件について、話を聞きに来たという。
「待った。それよりも前に、聞かなければならない事がある。緑谷少年と彼女を除く、生徒達の無事は確認したが、相澤……イレイザーヘッドと13号は!!癒月少女は、あれからどうなった!?」
けれど、オールマイトは塚内さんの言葉を遮った。
それについて、僕もずっと気にはなってた。
大急ぎで運ばれ、状況を確認する暇も無かった。
下手をしなくても、僕よりも重傷だったはず。
「心配せずとも、3人とも命に別状はないさ。眼窩底骨がちっと損傷して、精密検査が必要な相澤は怪しいが、13号と波音に関しては、朝一で退院出来る。何より波音に至っては、個性による自己治癒で外傷ゼロ。
そんな僕等に、リカバリーガールはそう語った。
やはり3人共、無事とは程遠い。
でも、確かに、命に別状は無い。
その言葉で、ほんの少しだけ安心した。
安堵の息が、自然と口から漏れる。
「君を含めた3人のヒーロー。そして彼女が身を挺していなければ、生徒等は無事じゃなかっただろう。最善とは言えないが、最良の結果だ」
「そうか……確かに、その通りだろう。だが、しかし、一つ違うぜ。塚内君。戦ったのは、身を挺したのは、私達や彼女だけじゃない。生徒等全員だ!!」
「こんなにも早く実戦を経験し、生き残り、大人の世界を、恐怖を知り。その極限の状況下で、今やれる最大限を行えた1年生など、いままであっただろうか!?敵も馬鹿な事をした!!
「ああ、そうだな。これからが楽しみだよ。無論、生徒等全員ね。僕等も負けてはいられないな」
塚内さんはそう言って、帽子を被り直した。
オールマイトは、親指を僕に向かって立ててみせる。
その言葉で、疲れ切った体に力が湧いた気がした。
どうにか自力で、身体を起こしてみせる。
右腕と指の一本には、未だ包帯が巻かれたままだ。
癒月さんに負けないくらい、もっと強くならないと。
「そう気を張るのは構いやしないが、生憎、検査の方が先だ。聴取の方もその後にしてくれ。アンタに至っては、念入りに診ておかないといけないしね」
「アハハ……お手数掛けます………」
「とはいえ、あの子もあっちじゃ似たようなもんか。今頃、念入りに診られてるだろうね。全身隈なく、徹底的に、容赦なく。そりゃたんまりと絞られてるはずさ」
「それ本当に大丈夫なんですか……?」
「問題無いだろう。あの子の自業自得だ」
けれど、その空気も直ぐ微妙なものになった。
リカバリーガールは、検査の準備を始める。
検査は別にいいけど、発言が色々不穏だ。
というか、癒月さんの状態が激しく気になる。
塚内さんは何か察したように、苦笑いした。
オールマイトに至っては、激しく遠い目をしている。
「心配せずとも、あの子の担当医は、何せ実の母親だ。強いては言えば、私の娘でもある。腕の方も悪くない。早々、悪い事にはならないだろう。ちっとばかし、捻くれ者で、おかしくはあるがね」
目を開けると、見知れた天井が見えた。
無機質な白色で、消毒液の匂いが近くからする。
考えるまでも無く、此処は病院だろう。
激しい筋肉痛のような痛みが、全身を走った。
ベットから起きようとするも、起き上がれない。
どうやら、あのまま気絶したらしい。
「ふむ、なるほど。これは興味深い。複数の個性に適合できるよう、身体を物理的にも薬物的にも慣らし、調整してある。まぁそうしなければ、複数の個性を持つなど出来る訳がない。抗体を作らないまま、大量の毒物を摂取するようなものだもの。とはいえ、こっちは他人の内臓を無理矢理、移植されたという方が正確か。肉体の持ち主とは別のDNAが、複数検出されたのもそれが原因のはず。個性というものは、持ち主の生体情報と、考えていた以上に深く結びついてる。人間の肉体そのものを大きく変質させているのだから、当然と言えば当然か。上手く扱えば、人格のバックアップすらも可能かもしれない」
私が首を動かすと、一人の女性が座っていた。
女性は白衣を纏い、キーボードを叩いている。
それも一人で何やらブツブツと呟いて。
慣れてない人からすれば、完全にホラーな光景だ。
実験体として捕えられたと錯覚するかもしれない。
患者の不安感を煽る行動は、どうかと思う。
「ああ、ようやく起きたみたいね。相変わらずの頑丈さ。それはそうと、患者としてはやっぱり面白味がない。診る必要が無い程の回復ぶりだもの」
しばらくすると、女性は私が起きた事に気がついた。
丸椅子を回転させ、こちらへ向き直る。
長い白色の髪が、静かに揺れた。
すると不意に、胸のワッペンが軽く反射して光った。
そこには、癒月
同時に、担当医である人物の名前が書かれている。
「あれから一体、どれだけ経ちましたか?敵は、相澤先生は、13号は、どうなしました?怪我人はどれだけ?」
「落ち着いて。仮にも患者なのだから、静かにしなさい。此処は病院で病室よ。USJに来たという敵はとうに撤退。イレイザーと13号への処置も済んでいる。両名今は、別の病室で休んでいる状態よ。生徒等についても、骨折した緑谷という子を除いて、全員無事みたい」
「そう、ですか。なら、良かった。命に別状が無くて」
「それの何処が良いのよ。私と母の忠告を破るだなんて。この愚か者。私がこの世で一番嫌いな物が何か、知っておるでしょ?医者の忠告を聞かない患者よ。仮にも医者を志す者。よりにもよって娘が、その愚か者に成り下がるだなんて、全くイライラする」
数週間ぶりに見る、母様は激しく不機嫌だった。
逆の立場なら、私もそうなるから当然だろう。
状況次第では、手を出している。
というより、何時も出している。
「貴方には言ってやりたい小言が幾らでもあるけど、一先ず処置が先。多少痛いだろうけど、少し我慢して」
母様そう言いつつ、私の腕を軽く掴んだ。
消耗した筋肉に、軽く痛みが走る。
脈を測られているだけにも関わらずだ。
その直後、母様は私の目を無理矢理開ける。
検査の為とはいえ、されるがままだ。
「心拍、眼球運動ともに正常。念の為に再診したはいいけど、案の定か。つまらない。こうも簡単に怪我を治されたら、医者の仕事がない。自己治癒に伴う炎症については、私の個性で治療する。貴重なベッドを何時までも占領されては堪らないもの」
一通り検査が終わると、母様はそう言った。
相も変わらず口は悪いが、流石の手際だ。
そして母様は、私の胸に手を当て個性を発動させる。
「
次の刹那、母様の両手からエネルギーが放出された。
そのエネルギーは胸を伝い、徐々に全身へ行き渡る。
少しずつはあるが、身体に力が戻るのを感じた。
母様の個性は、細胞活性。
体内で生成したエネルギーを手から放出し、それに触れた相手の細胞を活性化させるというものだ。
私やお婆様の個性とは異なり、あくまで細胞を活性化させる事に特化している為、傷を急速に回復させる事は出来ないが、その代わり体力の消耗などの負担を最小限に抑え、対象の穏やかな自己治癒を促せる。
例えるなら、私やお婆様の個性が、強力な代わりに副作用も強い薬である一方、母様の個性は、効き目が弱い代わりに副作用の少ない薬といったところだろう。
何もかも、使いどころ次第である。
「これで治療は終わり。もう動けるわね?」
しばらくすると、母様は治療の手を止めた。
私は今度こそと、ゆっくり起き上がる。
完全とは言えないが、痛みは収まっていた。
手足の動作確認をするも、そちらも問題ない。
明日一日の訓練は無理だろうが、その程度だ。
これならば、朝一で退院出来る。
「すいません。助かりました。感謝します」
「礼には及ばないわ。医者としての仕事をしただけ。それに貴方は貴重な観察対象であり、あの脳無とかいう傀儡と交戦した参考人だもの。助けない理由はない」
そう言いつつ、母様はパソコンを操作した。
その言葉は淡々としていて、ほぼ無表情だ。
感覚がズレているという事しか分からない。
まぁ、そういうところも含め何時も通りであるが。
「実に興味深い検体よ。貴方も知っての通り、生物学上は間違いなく死んでいるけど、生体端末として生前以上に動かせる状態にある。正しく、改造人間といった有様。個性に合わせて身体を最適化させているという意味では、ある意味貴方によく似ている」
しばらくすると、画面に一枚のカルテ表示された。
それは拘束された脳無についてのものだった。
私が気絶した後、警察に拘束されたらしい。
カルテの内容には、奴がやはり遺体であること。
私の体質との類似点などについて書かれている。
「とはいえ、それはあくまで偶然でしょう。私の特殊体質の経緯については、訓練を施した母様自身がよく分かっているはず。というか、私の本質が脳無と同じかどうかなど、激しくどうでもいい」
「まぁ、貴方の場合そうでしょうね。私としては興味深い話ではあるけど。話の本質はそこじゃない。これはあくまで、医学的知見の話。貴方が天然ものなら、養殖ものも居ると認識すれば良い。私が言いたいのは、これを作った連中が天才的にイカれているという話よ。養殖とはいえ、貴方が手に入れた力以上のものを持つ脳無を、奴等は簡単に使い捨てられる」
「相手が天才だろうとなかろうと、養殖だろうと関係ありません。病原体は例外なく根絶する。それが私のヒーローになる理由の一つです。そこに一切の例外はありませんし、その方針を変えるつもりもない」
「けど、敵はあのオールマイトに匹敵する戦力を容易に生み出せる。貴方の横槍が無ければ、平和の象徴も可能性の話であるけど失墜していた。そして貴方自身、結果として
「例え時間の浪費でも、火の粉は払うのみです」
「私に言わせれば、その手間すらも無駄」
パソコンの画面には、いつの間にか別のカルテ。
私の身体の検査結果についてものも映っていた。
一説には、身体への個性因子の更なる適合。
別の一説には、それに伴う身体への負担。
その他にも、細胞分裂における推定残存回数や、現在の体内年齢などについて、事細かに書かれている。
要するに、母様の言いたい事はそういう事だろう。
「貴方の身体は、確かに特殊。本来、増やす事が出来ない個性の許容量を、個性の変化に合わせて自力で増やすなど、特殊以外の何物でもない。けど、その体質も特殊というだけ。その超常的な自己治癒力も、副作用として、限界がある細胞分裂を加速させ、寿命を縮める以上、そう頻繁には発動出来ない。その馬鹿力もその手の個性持ちには、到底敵わない」
「命を救いたいなら、ヒーローなんかより、医者の道に専念した方がずっと合理的よ。自己欺瞞で命を投げ捨てる愚かな行為よりは遥かに。所詮、医者もヒーローも、目の前の命を救うので精一杯なんだから。少なくとも、私はそうしてる」
実のところ、母様は私の夢に否定的だ。
齢4歳の時も、こうやって諦めろと散々言われた。
雄英に行くと決めた時も、酷く苦い顔をしていた。
個性を合法的に使う為、資格こそ持っているものの、ヒーローそのものを嫌っている節さえある。
実際、私が幼少期に頼み込んで行った訓練も、私の心を折る為、死なないギリギリのものを行ったぐらいだ。
尤も、その訓練の結果、私が特殊体質を得て、前線で戦えるようになった事は、想定外だったようだが。
そのせいか、お婆様とも家族としてはやや疎遠だ。
こう言われるのは、初めてじゃない。
「ですが、私のやる事はどの道変わりません。他者より個性が劣ろうが、仮に個性を持っていなかろうが、やるべき事をやるまで。医者としてヒーローとして、病原体を根絶するまでです。命を自己犠牲などで浪費するつもりはありませんが、そうするべきなので」
とはいえ、私も既に15歳の身だ。
自分の行く道ぐらいは自分で決められる。
ヒーローの活動が合理性とかけ離れた、愚かな行為である事ぐらい、それを志した時から分かってる。
しかし、この世界は病んでしまっている。
この世界は、命を粗末にし過ぎている。
ヒーローが傷つく事を、当然と思うぐらい。
誰かが犠牲になる事を、良しとしている。
ならば、病巣に踏み込んででも治療するしかない。
「……全く、貴方はつくづく頑固な子ね。一体誰に似たのやら。わざわざ茨の道を自ら選ぶだなんて」
そんな私に、母は溜息を零した。
何処か拗ねたような印象すらも覚える。
こうなるだろうと予め分かっていたらしい。
訓練を幼少期に頼んだ時もそうだった。
「心配せずとも、この程度は茨の道に入りません。いずれ容易に乗り越えてみせます。何よりヒーロー校を中退した挙句、家出をして、医者になったお母様よりかは、遥かにマシです。というか、いい加減、お母様こそお婆様に寄り添うべきかと」
「生憎、そんな事を青二才の娘に言われる筋合いは無いわ。それに私は、ヒーローを見ると苛立つ性分だもの。自分から寄り添う理由は一切ない。母がヒーローであり続ける以上、医者としてなら兎も角、それ以上は関わらないって決めてるもの。あの人との関係はこれでいい」
「その思考こそ、非合理だと思いますが」
「医学的知見の共有程度はしてる」
結局のところ、私と母様は似た者同士だ。
形は違えど、医者の本能に従っているに過ぎない。
命を脅かす存在、全てがどうしても許せない。
ただ、それだけだ。
母様の方が数倍、口が悪く、不器用であるが。
「ならば、せめて、やり方をもっと考えなさい。今の貴方じゃ、無茶な戦い方で即死するか、戦闘後に縮まった寿命で老死するかの二択。例えヒーローであっても、医者が途中で退場するなど論外だもの。死んだ貴方の身体を解剖するのは、面白そうではあるけど」
「ええ、分かっています。自らの責務を投げ出すつもりはありませんし、患者を残したままでは、とても死ねません。何より死ぬならベッドの上と決めているので」
「それは結構。医者として文句無しの死ね」
「命っ!!波音は無事かい!?大急ぎで秘湯から戻って来た!!あっ、良かった!!もう動け───」
「五月蠅い。静かにしなさい。此処は病院です」
「貴方は黙ってそこに座ってなさい。純粋に迷惑。あとついでに、バッグの中にある土産を早く寄越せ」
「えっ!?何この扱い!?僕の存在意義、温泉饅頭以下!?一応僕、夫で父親なのに!!というか、僕の出番、まさかこれで終わり!?」
こうして夜は明け、私は無事に退院を果たした。
それから一日の休校を挟み、何時もの登校日。
身体に残っていた痛みは、完全に引いた。
心身ともに健康であるというのは実に素晴らしい。
意気揚々と、教室の扉を開ける。
「という訳で皆さん、おはようございます。もう間もなく
「おっす、癒月!!連絡貰ったから、無事なのは分かってたけどよ!!心配したぜ!!無茶しやがって!!」
「そうだよ!!あんなのと正面から戦うし!!」
「大変ご迷惑をおかけしました」
教室に入って直ぐ、嬉しいような軽く怒ったような様子で、話し掛けに来たのは切島君と芦戸さんだった。
私がそう返すと、切島君はバシバシと強く私の背中を叩き、芦戸さんは横腹を軽く腕で何度か小突く。
二人とはそれなりに長い付き合いではあるが、よくよく考えてみると、入院沙汰はこれが初めてだ。
想像以上に、要らぬ心配を掛けたに違いない。
「よぉ、癒月。その様子だと完全復活らしいな」
「全身血塗れだったからマジで安心したぜ……」
「ケロケロ。元気になって、よかったわ」
他の生徒の反応はというと、ほぼ全員が安堵。
何処か気遣う様子の人が多い印象的だった。
状況が状況だっただけに、気絶した相澤先生の保護を丸投げした、梅雨ちゃんはそれが特に顕著で、席に座る途中、けろけろと優しく微笑んでくれた。
この包容力なら、看護師も向いてるかもしれない。
峰田君は精神的に、向いてないだろうけど。
「……ケッ。生きてやがったかピンク髪」
「言いたい事があるなら、直接言ってはどうです?」
「ありゃデレてんだよ。そっとしておいてやれって」
「男のデレとか、需要全くねぇけどな。といっても、爆豪の場合は超絶レア過ぎて、逆にあるかもだけど」
「SRキャラぐらいの価値はあるんじゃね?」
「誰がSRキャラだ!?殺すぞ!!せめてURキャラにしとけや!!クソが!!俺を中途半端なレアリティに当てはめてんじゃねぇ!!」
「URでも弱いキャラは弱いですけど」
「んだとゴラァ!?てめぇ病院に送り返すぞ!!」
「アンタ、人をナチュラルに煽るよね……」
それはそうと、爆豪君は何時も通りだった。
何時ものヤンキーっぷりで、逆に安心した。
含みのある言い方は気になるが、まぁいいだろう。
わざわざ気にする理由も、時間も無い。
「それはそうと緑谷君。貴方には話があります」
「アッ、ハイ。ワカリマシタ」
「デク君が癒月さんに呼び出された……」
「とりあえず、告白ではないのは分かる」
「こんな胸キュンしない呼び出しあるんだ」
今はこっちの愚か者の方が、遥かに優先だ。
これを放置したら面倒が更に増える。
彼はオールマイトと同じ、感染者だ。
自己犠牲病の感染拡大など御免である。
状況がどうこうなど、一切関係ない。
「皆ー!!朝のHRが始まる。席につけー!!」
「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」
「全員、手も洗ったし」
それからクラスの皆が手を洗い終えた頃。
予鈴が鳴り、HRの時間になった。
すると静かに、教室の扉が開く。
「皆、お早う」
「「「お早うございます」」」
「先生!!怪我の方は大丈夫ですか!?」
「この通り、腕以外はな。どうにかする」
「もしもの場合は、直ちに保健室へ搬送します」
「いらん心配だ。しなくていい」
相澤先生は両腕以外、問題なさそうだった。
頭に包帯こそ巻かれているが、容態を一通り診た限り、少なくとも大事には至ってない。
後遺症が残るとしても、おそらく軽度の範囲だろう。
セントラル病院の方々が上手く処置したに違いない。
その手腕には深く感服する。
「俺の怪我の事はどうでも良い。何よりまだ、戦いは終わってねぇ」
「戦い?」「まさか……」
「また敵がー!!??」
「どうでも良くはありません」
そんな折に、相澤先生は不穏な言葉を言った。
その言葉に、教室全体が騒めく。
時期を考えると、嫌な予感しかしない。
「雄英体育祭が迫ってる!!」
「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」」
そして、相澤先生は目を見開いた。
その直後に、教室全体が安堵と高揚感で沸く。
なにせ、年に一度の大イベントの告知だ。
それと同時に、年に一度のチャンスでもある。
これの結果次第で、スカウトも有り得るのだから。
雄英の生徒ならば、興奮しない理由はない。
「相澤先生。今年こそ体育祭の規模を縮小しましょう。さもなくば、開催を即刻取りやめるべきかと」
「うおっ!?急に圧強っ!!」
「癒月ちゃん、毎年それ言ってるよね」
「ある意味、季節を感じるわ」
「言いたい事は大体察するが、どちらも却下」
尤も、
オリキャラ プロフィール
癒月 命(ゆづき みこと)
ヒーロー名 アスクレピオス
個性 細胞活性
誕生日 11月1日
身長 170cm
血液型 A型
好きなもの 甘いもの 家族
性格 マッド
→自分の好きなもの、興味あるものの為なら、容易く狂える。
出身地 東京
キャライメージ アスクレピオス(FGO)+クリームヒルト(FGO)
セントラル病院の所属している外科医兼研究者。
波音の母にして、リカバリーガールの娘。
研究内容は『個性が及ぼす身体及び精神への影響』。
かつてはリカバリガールに憧れ、ヒーロー校に入ったものの、現場におけるヒーローの死亡率の高さや自己犠牲の精神、それを何とも思わない周囲とヒーロー達に嫌気が差し、1年の冬頃に中退。
同じくヒーローである母と決別する意を込めて出奔した後、独学で個性免許を取得。
その後、奨学金を借りて医大に行き、個性因子の研究を行いながら、外科医兼研究者になるに至った。
個性の合法的使用の為、ヒーロー免許を取得しているものの、外科医と研究者の仕事に専念しているので、ヒーローとして活動はほぼ皆無。
ただし、病院で暴れる患者を取り押さえる為、個性を用いた身体強化法と、パンクラチオンをマスターしており、並のヒーローよりは遥かに強い。
技量のみで言えば、波音を上回る。
加えて、ヒーローらしいヒーロー。
自己犠牲を良しとするヒーローを嫌っており、リカバリーガールの紹介で傷の処置に訪れたオールマイトには対しては、経緯を聞いた後、全力で中指を立てた。
波音に対する心境は、かなり複雑。
自分の行いで、彼女が平凡で無くなったこと。
自分の娘が、興味深い観察対象であること。
愚かにも、ヒーローを目指していること。
かつて自分も抱いた、母への憧れも含めて。
また、仕事の関係で、高頻度で家を空ける自分達の代わりに、リカバリーガールが時折、波音の面倒を見てくれている事については、素直に感謝している。
ヒーローコスチュームは、まんま白衣。
癒月 守(ゆづき まもる)
個性 防壁
血液型 B型
誕生日 11月5日
身長 175cm
好きなもの ラーメン 読書
性格 うっかり
→ここぞという時うっかりで失敗する。
出身地 埼玉
キャラクターイメージ 斉木國春(斉木楠雄のΨ難)
東京の某出版社に所属するライターで波音の父。
命と比べ、今後の登場機会は多分少ない。
登場するとしても、チョイ役か出オチ。
年柄年中、面白いネタを求めて日本各地を飛び回っており、旅先でお祭り男染みた事になる事もしばしば。
命との出会いも、とある雑誌の取材で病院訪れた時であり、初めは患者でない事で病院を追い出されつつも、繰り返し取材を続け、気付けば結婚まで漕ぎ付けた。
命曰く、目を離せない人だからとのこと。
守の個性、防壁は自身を中心に透明なバリアを展開するというものであり、強個性の部類ではあるのだが、本人がビビりかつ、うっかりなので、全く活かせない。
何なら転んで、しょっちゅう怪我する。
波音が特殊体質になった際は、命の説明に頭をハテナにしつつも、能天気に力持ちで、よく食べるようになった程度にしか思わず、半日程度でその変化に順応した。
ある意味、癒月家の中で一番おかしい。
これ以上、オリキャラは出しません。