相澤先生から告知がされてから、早くも昼休み。
教室中の話題は当然の如く、体育祭一色だった。
誰も彼もが浮足立っていると言える。
「本当に嫌です。例年通りの開催だなんて。いっそ、校長に直訴するか悩みどころです。こうなれば、正式に抗議文を作成して、中止の嘆願を───」
「癒月の奴、さっきからすっげー顔してんな」
「燃えるどころか、超絶冷めてやがる」
「つーか、あのパソコン。どっから出した?」
そんな中、私は抗議文の作成に着手した。
こうでもしないと、気持ちの収まりがつかない。
なにせ、毎年抗議文を送っているのに、あの有様だ。
どうせ今年も、例年通りの結果になるだろう。
全くもって、納得がいかない。
「つってもよ。今年の体育祭は俺等も出るし、なんて言ったって年に一度のチャンスだぜ?活躍して目立りゃプロへのどでけぇ一歩も踏み出せるし」
「そうそう。中止だなんて勿体ないでしょ。なんか麗日も、テンション上がって、うららかじゃなかったし」
そんな事していると、私は食堂に連れ出された。
切島君と芦戸さんは慣れているので気にしてないだろが、これ以上は空気的にアレだと思ったのだろう。
場の空気を悪くするのは、確かに良くない。
「私とて、体育祭の意義ぐらいは分かっています。ヒーロー志望として、外せない好機である事も百も承知です。こないだの襲撃の件もありますし」
「相澤先生がHRで言ってた、危機管理体制がどうたらってやつか。ここでビビるなんて男じゃねぇよな」
「だったら、開催しない理由なくない?」
何処か不満気に、私はおにぎりを頬張った。
そうでなかったら、こうも複雑じゃない。
私は医者志望だが、ヒーロー志望でもある。
当然プロに、見込まれたい気持ちはある。
未熟だからこそ、相応の経験値も欲しい。
それに数日前の、USJの件もある。
ヒーローの力を示すのは、やぶさかではない。
「ですが、体育祭で負傷した生徒の治療をするのは、誰だとお思いで?いくら近隣の病院から応援を頼んでも、私のような治癒個性持ちの生徒が手伝っても、毎年毎年、1年も2年も3年も、揃って無茶するせいで、いくら手があっても足りません。というか、お婆様が過労死します。そもそも、本来スポーツの大会であったはずのオリンピックの代わりが、どうして個性使用可の闘技大会染みたものになるんですか?それ以前に、お婆様に毎度毎度、負担を掛け過ぎなんですよ。競技や演出に無駄な予算を掛けるクセに、医療予算を削るからそうな───」
「癒月が拒否る理由は……やっぱそれか」
「まぁ、言いたい事は分からんでもない」
「つーか、何時もながら愚痴多いな」
だが、しかし、医者志望としては認められない。
というか、絶対認めたくない。
患者を生み出す存在は、例外なく悪。
何十年掛かっても、根絶されるべきもの。
無論、今年は私も治療に協力するが、それはそれだ。
それが『今のオリンピック』だろうと知った事か。
私は決して、中止を諦めない。
あんな危険な大会、断固として認めるものか。
とりあえず、発案者は卒業までに治療する。
「ヒーロー科ってのは、ほんと余裕そうだな」
そんな折、背後から声が聞こえた気がした。
しかし、振り向いてみるも、そこには誰も居ない。
なにせ此処は食堂。人は溢れかえる程居る。
その中から一人を、見つけられるはずもなかった。
それから、早くも時間は過ぎていき。
残り授業も終わって、放課後の時刻。
「うぉぉぉ……何ごとだぁ!!!?」
私達の教室の入口で、何故か人が溢れかえっていた。
その総数は、ざっと百人か、それ以上。
A組を除く1年の生徒は、ほぼ全員居るらしい。
「出れねーじゃん!何しに来たんだよ!」
「敵情視察だろザコ」
案の定、爆豪君は喧嘩を売りに行った。
というか、さらっと峰田君を罵倒した。
扉の前の生徒達を、モブ呼ばわりしている。
周囲の視線の圧は、当然のように強くなった。
緑谷君は頭を抱え、軽く震えた。
幼馴染として、彼も中々に苦労している。
「癒月ストップ!!早まるな!!」
「止めないで下さい。大変密です」
「それ多分、爆豪より酷いから駄目!!」
「手洗い等を、促しに行くだけです」
一方の私は、切島君達に取り押さえられた。
両腕を全力で掴まれ、動けない。
感染症の温床が、目の前にあるにも関わらずだ。
全くもって、自分が不甲斐ない。
今直ぐにでも、全員の頭を治療したい。
「どんなもんかと見に来たが、随分と偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は、皆こんななのかい?」
「ああ!?」「それよりも手洗い、うがい───」
「多分、論点そこじゃねぇ」
「こういうの見ちゃうと、ちょっと幻滅するなぁ」
そんな中で、一人前に出てくる生徒が居た。
紫髪で、目にクマが多い人物だ。
十分な睡眠を取れているか、心配になる。
あとついでに、何処かで聞いた声な気がする。
「普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴、けっこういるんだ。知ってた?体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ……」
そんな事を考えていると、紫髪の生徒は続けた。
聞くだけ聞いているが、とても回りくどい。
もしこれが患者への説明なら、大問題だ。
症状等の申告は、簡潔に行わなければならない。
「敵情視察?少なくとも
まぁ要するに、言いたい事はそう言う事だろう。
おそらく、此処に居る大半の生徒がそうだ。
口にはしないが、喧嘩を売りに来ている。
皆、皆して、血の気が実に多い。
これだけ血気盛んなら、今採血すれば、新鮮で良質な血液を、大量に確保出来るかもしれない。
一人200mLの献血だとしても、相当な量だろう。
直ちに採血キットを、持って来るか悩む。
「隣のB組のモンだけどよぅ!!敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
そうこうしていると、またも人が前に出てきた。
やたら目力が強くて、銀髪の人物だ。
喧嘩を売るのが、最近のブームなのだろうか。
そして、どうにも既視感がある。
「………切島君の親戚?」
「いや、ちげぇよ!!赤の他人だよ!!」
「うっそ。私も絶対そうだと思った」
「では、パクリですか。なるほど」
「誰がパクリだ!!やっぱ調子乗ってんな!!」
「悪りぃ!そういう奴なんだ!慣れろ!」
なので私は、思わずそれを口にしてしまった。
しかし、彼は切島君の親戚ではないらしい。
性格とか諸々、似ていそうなのに。
芦戸さんも、本当かどうか疑っているレベルだ。
生き別れの兄弟と言われても、多分納得する。
なんというか、どちらも暑苦しそうだし。
「けっ。くだらねぇ。これ以上付き合ってられっか」
そんな空気の中で、爆豪君は足を進めた。
この人混みを突っ切って帰るつもりだ。
本職のヤンキーだけあって、物怖じしていない。
「待てコラどうしてくれんだ!!おめーのせいでヘイト集まってんじゃねえか!!もう半分は癒月のせいっちゃ、せいだけどよ!!」
「私は何もしていません」
「関係ねぇよ………」
「はぁ―――――!?」
そんな爆豪に、当然強い視線が集まった。
何故か私にも、その一部が向けられているが。
それでも彼は、構わず足を進め続ける。
「上に上がりゃ、関係ねぇ」
そう言い残すと、爆豪君は帰ってしまった。
その言葉に、A組も他の生徒達も静まり返る。
それだけ、その言葉は端的で強烈だった。
「く……!!シンプルで男らしいじゃねぇか……!!」
「上か……一理ある」
「騙されんな!無駄に敵増やしただけだぞ!」
爆豪君の言葉ながら、確かにその通りだ。
力無き言葉には、何も意味はない。
今の私が、抗議文を送っても無駄だろう。
何故なら私は、未だ何も成し得ていない。
そんな有様で嘆き、騒ぐなど愚の骨頂。
体育祭の中止など、どうかしていた。
私もまだまだという事だろう。
「ありがとうございます。大事な事に気付きました」
「えっと……アンタは?」
「癒月波音。A組のヒーロー志望兼医者志望です」
私は思わず、普通科の彼に手を差し出した。
彼の存在が無かったら、この結論に至らなかった。
最低限の、せめてもの礼儀だ。
「実のところ、私はあまり体育祭には乗り気ではなかったんです。中止の嘆願を出すつもりですらいました」
「……随分と、傲慢なんだな」
「はい、そうです。お恥ずかしながら。ですが、そのような考えは、もうありません。お陰でやる気が出ました。私の考えを示す方法は……初めから一つ」
どうやっても、言う事を聞かない愚か者。
人はこれまで、そういう者を実績を黙らせてきた。
上が変わらないなら、環境を変えればいい。
そうすれば、否が応でも変わらざるを得ない。
郷に入っては郷に従え、というやつだろう。
力を示せば、1位になれば、少しは話を聞くはず。
この危険行事を、根底から変えられるはず。
こうなれば意地でも優勝し、雄英内での発言権を持ち、体育祭そのものを根底から変革するまでだ。
物事の本質は、もっと単純で明確。
「この場の全員の頂点に立ち、(患者としての)立場を分からせた上で、治療を行えば良いだけですので」
「おい彼奴!?事態を収拾するどころか悪化させたぞ!!お礼じゃなくて、宣戦布告返しじゃねぇか!!」
「あの子の前で、爆豪が余計な事を言うから!!」
「すまん!!本当にすまん!!悪気はねぇんだ!!」
「私の発言に嘘偽りはありません」
「A組の奴等は全員、自意識過剰か!!」
「「「あの2人がおかしいだけ!!」」」
なので、私は彼にそう返した。
しかし、周囲はブーイングの嵐になった。
A組の皆も、何故か大慌ての大惨事である。
全くもって、理解が出来ない。
普通科の彼も、妙な顔で去ってしまった。
まだ握手も何も、していないのに。
本当に、残念な限りだ。
ともあれ、戦う際は倒すだけだが。
「という訳で、色々ありましたが訓練をします。まずは全力で掛かってきて下さい。時間は有限ですから早く」
「ちょっと待って。状況に追い付けてない」
その騒ぎがどうにか収まった頃。
私は緑谷君を引きずって、体育館に来た。
切島君達は教室に、置き去りにしてきた。
セメントス先生への使用許可は取ってある。
無論、服装は動きやすい体操服だ。
ちなみに私のコスチュームは、内側のプロテクター等が大きく破損したので、現在修理中である。
「どうしたもこうしたも、これは訓練であると同時に治療です。あまりに未熟で、精神に重大な疾患を抱えた、貴方への。呼び出す理由などそれ以外にありません。いくら進言しても効果が無いようなので」
「その節は……本当にすいません。いや、ほんと……。えーっと、つまり、個性の調整の仕方を教えてくれるって事?でも、いいの?僕なんかに、時間を使っちゃって。皆の前で、あんな事を言っちゃった後だし───」
「貴方が体育祭で怪我する方が大問題でしょう」
「それについてはご尤もです……」
緑谷君は何処か気まずそうに、縮こまった。
軽く腕を動かしつつ、私は思わず溜息を吐く。
やはり彼は、自分の身体を何とも思っていない。
正確には思っているのだろうが、決して躊躇わない。
重要な局面で、身体を犠牲にする事を。
実際、訓練の時も、USJの時もそうだった。
どうも彼は、自分に対する比重が軽い。
そうじゃなかったら、私を気遣う余裕なんてない。
「無論、私は優勝します。そうしなければ、すべき事も出来ないので。ですが、それ以前に、私は医者志望。目の前の患者を見捨てるなど、あってはならない。それが例え敵であっても、救うべき、治療すべき相手には、平等に手を伸ばす。それこそが
ならば、こちらも医療方針を変えるだけだ。
言って治らないなら、直接治すまで。
自己犠牲病患者相手では、焼け石に水かもしれない。
それでも何もしないより、遥かにマシだ。
対症療法に過ぎずとも、最大限の治療をする。
今後もヒーローを目指す以上、そこは曲げられない。
例え無駄でも、やらない理由は無い。
「……でも、僕も、簡単に負けるつもりはないから」
私が言葉を吐いて、少し間を置いた頃。
緑谷君は、何かを決心したようにそう言った。
顔つきが、ついさっきまでと明らかに違う。
ようやく治療に、やる気を出したらしい。
もしかすると、それだけではないかもしれないが。
彼もまた、戦闘の構えを取る。
「では、早速、治療を開始します」
私は拳を握り、緑谷君に突っ込んだ。
彼の腹部掛けて、拳を振るう。
しかし、それを、緑谷君は紙一重で往なした。
外れた拳が、音を立てて空を切る。
(突撃からの、腹部への一撃……ッ!!USJでの戦いは見てたから……そう来ると思った……ッ!!思ってた以上に、攻撃が重いけど……!!)
彼の強みは、高い洞察力と実行力だ。
頭の回転とその後の動きが異様に早い。
その上、思考の柔軟性もある。
僅かな弱点や隙も、決して見逃さない。
そんな怖さが、彼の持ち味だ。
これぐらいはやってのけて当然だろう。
攻撃を避けた勢いのまま、緑谷君は拳を放つ。
「ですが、その後の動きが甘い」
私はそれを右腕でガードし、彼の足を逆に掴んだ。
この場での最適解は、顔面への攻撃だった。
胴への攻撃は当たりやすいが、反撃のリスクがある。
打ち合える技量が無いなら、やるべきじゃない。
そしてそのまま、私は緑谷君を地面に叩きつけた。
彼の身体が数回程、ボールのように跳ねる。
けれど、見た目ほどは、ダメージが入ってない。
どうやら受け身を、咄嗟に取ったらしい。
(そう簡単には流石に行かないか……っ!!けど、動き自体は、何となく見えてる!!この距離とあの体勢だったら……次は跳躍してのかかと落とし……!!)
私は直ぐ追撃し、跳躍してかかと落としを放った。
大振りな一撃で、床全体にヒビが入る。
しかし、それをまたしても、彼は紙一重で躱した。
一度ならず二度までとは、偶然と思えない。
(読み自体はやはり、申し分ない)
そこで私は更に跳躍し、後退する彼に接近した。
一度攻撃を躱した彼は、そう簡単に距離を離せない。
それに加え、細かい連撃で反撃の機会を潰し。
徐々に徐々に、拳の間合いまで距離を詰める。
全力の拳さえ届けば、後はこっちものだ。
体力勝負もこちらに部がある、
躱されるなら、逃がさないまで。
(読まれる前提で……まさか、動いてた!?)
「行動が読まれてしまうなら、逆にそれを利用すればいい。裏の裏を読むのは戦いの基本。こればかりは実戦経験の差です。予測の正確さが、裏目に出ましたね」
緑谷君の顔色に、焦りの色が更に混じった。
そして私は、緑谷君の腕を遂に掴む。
この距離なら、攻撃を外す事は絶対無い。
どうやっても、回避は不可能だ。
(こうなったら……割れないイメージで───)
「残念ながら、私の攻撃の方が早い」
緑谷君はどうにか、個性を発動させようとした。
けれど、それよりも先に、私の拳が彼の胸に届く。
今度は受け身を取る暇も無かった。
衝撃に息を詰まらせ、彼はその場に膝をつく。
「大丈夫ですか?意識はありますね。呼吸の方も問題なし。手加減はしたはずですが、念の為、治療を行います。その間はどうか動かず」
「あ、ありがとう。でも、やっぱり、駄目だったよ。癒月さんの攻撃があと少し、遅かったら、多分折れてた。撃たなくても分かる。上手く行ったと思ったのに」
「まだ分かりませんか?それですよ。貴方が個性をコントロール出来ない理由は。直接戦って、改めてよく分かりました。症例としては、よく見るやつです」
「つまり、典型的なミス……それって───」
「治療中は、動かない」
「あっ……すいません………」
私は一先ず、緑谷君の治療を手早く行った。
例の如く、半透明なエネルギーが傷を包む。
腹部の腫れが、一分程度でほぼ無くなった。
これだけやっておけば、大丈夫だろう。
「貴方は個性を難しく考え過ぎなんです。上手く行く行かないの思考が、その証拠。個性を発現したばかりの子供のように。強個性だろうと弱個性だろうと、個性は所詮、身体機能に過ぎません。トレーニングならまだしも、戦闘中一々意識して、使う事自体が間違ってます」
「個性を発現したばかりの子供……確かに、その通りかも。僕の場合、最近になって、個性があるって分かったばかりだし、癒月さんや皆みたいに、呼吸するみたいに、当たり前に出来るって感覚が薄いんだと思う。事あるごとに、大きく呼吸していたら、疲れて当然だ。僕にとってはそれが当たり前過ぎて……逆に気付かなかった。そうなってくると、必要なのはフラットな考え。それとあとは、反復練習。とりあえず、目先で必要なのは瞬発と断続───」
私が軽くヒントを出すと、緑谷君は考え込んだ。
何やら一人で、ブツブツ呟いている。
今ので何となくの答えに辿り着いたらしい。
見た目はアレだが、頭の回転はやはり早い。
絵面だけだと、精神病患者にしか見えないが。
とはいえ、母様も割と似たようものか。
「それと、個性を使う上で一番重要なのはイメージです。明確なイメージがあるかどうかで、個性の精度は一にも百にも変わる。反復練習するのは当然として、まずはそれをはっきりさせた方が良い」
「あっ、そうだね。いつの間にか一人で話しちゃってた。ごめん、ごめん。一応今も、イメージ自体はあるんだけど、それを一度見直すのも大事だよね。根っこから使い方を変えていく訳だし」
そんな彼を軽く止めつつも、私は話を続けた。
あの長い独り言を、聞く趣味は毛頭ない。
事実、個性とイメージは切って離せない関係だ。
なにせ個性そのものが、何でもありの代物。
その力は時に物理法則さえも、容易く無視する。
極端な話、出来ると思えれば、大抵何でも出来る。
実際、それで無茶を通しているヒーローは多い。
あまりに理不尽で不可解だが、そういうものだ。
反復練習するにしても、まずはそこからである。
「それで今は、どのようなイメージを?」
「イメージは……その、前に信頼してる人に相談もしたんだけど、電子レンジの中で、卵が割れないようなイメージでやってて───」
「ゴミですね。そんなものを教えた何処ぞの無能も含めて。そんな
「いくら何でも酷くない!?」
だからこそ、私は思わず口に出してしまった。
そこまで理解しといて、それはないだろう。
彼のIQが一気に下がった錯覚さえ覚える。
何故そうなったか、とても理解出来ない。
そんな助言をした奴の信頼度などゼロだ。
「そもそも、電子レンジで卵を温めれば爆発して当然です。黄身や卵白が沸騰するか、過熱状態になるのですから。それに加え、貴方が想像したのは、大方、殻付きの卵でしょう?自分をより破裂しやすくして、どうするのです?人間爆弾にでもなる気ですか?実に愚かです」
「その人はユニークって……言ってくれたんだけど」
「そういう人間は大抵、感覚派です。説明が下手な上に、本人以外の再現性が全くない。寧ろ聞くだけ逆効果。ネットの情報の方が遥かに参考になる。教育者として三流。教えを乞う相手は、よく考えて選ぶべきかと」
(一応その人……No1.ヒーロー………)
体育館の入口の方で、誰かが吹き出した気がした。
一瞬、皮と骨ばかりの人物が見えた気がする。
栄養失調の人物など、雄英に居ただろうか?
相澤先生に確認を取った方が、いいかもしれない。
「一先ずは私のやり方を、真似して下さい。私と緑谷君の個性は性質は違えど、身体強化において似た部分もある。何も参考にせずやるよりはマシでしょう」
「分かったけど……こんな感じ?」
「型は大まか合ってます。もっと腰を落として」
そんな事を考えつつ、私は指導を続けた。
緑谷君も私を真似して、まず深く息を吐く。
腹の底から酸素を絞り出し、心身の軸を整える。
その構え方は、空手の息吹に近い。
「東洋の武術には、気という考えがあります。力の源である丹田。つまりは臍の下を中心に、気が全身を巡っているというものです。今やっているのはその基礎です」
「全身に力……個性にもちょっと似てる」
「ええ、そうです。さっきも言った通り、個性は身体機能。さしずめ、その力は、全身を巡る血液です。その血液が丹田という、第二の心臓を中心に、全身を巡っているのをイメージするんです。初めはゆっくり、負荷を掛けないように。徐々に、全身に染み渡るように」
「初めはゆっくり、スイッチを入れるみたいに……」
そこからしばらく、私達は互いに無言だった。
一足先に、私は個性を発動させる。
普段は此処まで丁寧ではないが、偶には良い。
ちなみにこのイメージを基に、血液を凄まじい速さで循環させた上で、細胞単位にまで力を染み渡らせたものが、今の私が出せる個性の全力発動だ。
寿命が削れる負荷が掛かって、当然である。
しばらくすると、緑谷君に変化が起こった。
ほんの一瞬、彼の身体が輝きを放った。
まるで稲妻が、全身を駆け巡ったかのように
そして彼は、一度息を大きく吸う。
「今、ほんのちょっとだけど、コントロール出来た!!そうか!!受け皿が小さいなら……全体に張り巡らせればいい……!!使うんじゃなくて、巡らせるんだ……!!何時も血液が、身体に力を運んでいるみたいに……!!全身、常時……
次の瞬間、緑谷君の体に赤い光が走った。
続けざまに、緑色のエネルギーが帯電し始める。
どちらも、ついさっきの輝きの色と同じ色だ。
どうやら個性のコントロールが出来たらしい。
「思ったよりも早かったですね。動けますか?」
「わかっ……らない……!加減出来ないかも……!」
「ならば、検診です。治療が問題なく終わったか、今この場で診察します。ご覚悟はよろしいですね?」
私は向き直って、構えを取った。
緑谷君も、応えるように構えを取る。
ついさっきまでとは、完全に別物だ。
これならば、加減も要らないだろう。
患者が全力で臨むのなら、医者も全力で応える。
それが、あるべき医者の姿だ。
「───よろしく、お願いします!!癒月さん!!」
「───では、早速、診察を開始します」
やはり私も、より高みを目指さなければならない。
「相澤君……私もっと頑張ろうと思う………」
「どうしたんです?突然そんな事を言い出して」
「なんかスッゲー、落ち込んどる」
その翌日の職員室にて。