治療狂人のヒーローアカデミア   作:熊田ラナムカ27

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体育祭編
12 医者のやる事は変わらない


 

 相澤先生から告知がされてから、早くも昼休み。

 

 教室中の話題は当然の如く、体育祭一色だった。

 

 誰も彼もが浮足立っていると言える。

 

「本当に嫌です。例年通りの開催だなんて。いっそ、校長に直訴するか悩みどころです。こうなれば、正式に抗議文を作成して、中止の嘆願を───」

 

「癒月の奴、さっきからすっげー顔してんな」

 

「燃えるどころか、超絶冷めてやがる」

 

「つーか、あのパソコン。どっから出した?」

 

 そんな中、私は抗議文の作成に着手した。

 

 こうでもしないと、気持ちの収まりがつかない。

 

 なにせ、毎年抗議文を送っているのに、あの有様だ。

 

 どうせ今年も、例年通りの結果になるだろう。

 

 全くもって、納得がいかない。

 

「つってもよ。今年の体育祭は俺等も出るし、なんて言ったって年に一度のチャンスだぜ?活躍して目立りゃプロへのどでけぇ一歩も踏み出せるし」

 

「そうそう。中止だなんて勿体ないでしょ。なんか麗日も、テンション上がって、うららかじゃなかったし」

 

 そんな事していると、私は食堂に連れ出された。

 

 切島君と芦戸さんは慣れているので気にしてないだろが、これ以上は空気的にアレだと思ったのだろう。

 

 場の空気を悪くするのは、確かに良くない。

 

「私とて、体育祭の意義ぐらいは分かっています。ヒーロー志望として、外せない好機である事も百も承知です。こないだの襲撃の件もありますし」

 

「相澤先生がHRで言ってた、危機管理体制がどうたらってやつか。ここでビビるなんて男じゃねぇよな」

 

「だったら、開催しない理由なくない?」

 

 何処か不満気に、私はおにぎりを頬張った。

 

 そうでなかったら、こうも複雑じゃない。

 

 私は医者志望だが、ヒーロー志望でもある。

 

 当然プロに、見込まれたい気持ちはある。

 

 未熟だからこそ、相応の経験値も欲しい。

 

 それに数日前の、USJの件もある。

 

 (てき)の勢いを削ぐのは、治療の上等手段だ。

 

 ヒーローの力を示すのは、やぶさかではない。

 

「ですが、体育祭で負傷した生徒の治療をするのは、誰だとお思いで?いくら近隣の病院から応援を頼んでも、私のような治癒個性持ちの生徒が手伝っても、毎年毎年、1年も2年も3年も、揃って無茶するせいで、いくら手があっても足りません。というか、お婆様が過労死します。そもそも、本来スポーツの大会であったはずのオリンピックの代わりが、どうして個性使用可の闘技大会染みたものになるんですか?それ以前に、お婆様に毎度毎度、負担を掛け過ぎなんですよ。競技や演出に無駄な予算を掛けるクセに、医療予算を削るからそうな───

 

「癒月が拒否る理由は……やっぱそれか」

 

「まぁ、言いたい事は分からんでもない」

 

「つーか、何時もながら愚痴多いな」

 

 だが、しかし、医者志望としては認められない。

 

 というか、絶対認めたくない。

 

 患者を生み出す存在は、例外なく悪。

 

 何十年掛かっても、根絶されるべきもの。

 

 無論、今年は私も治療に協力するが、それはそれだ。

 

 それが『今のオリンピック』だろうと知った事か。

 

 私は決して、中止を諦めない。

 

 あんな危険な大会、断固として認めるものか。

 

 とりあえず、発案者は卒業までに治療する。

 

「ヒーロー科ってのは、ほんと余裕そうだな」

 

 そんな折、背後から声が聞こえた気がした。

 

 しかし、振り向いてみるも、そこには誰も居ない。

 

 なにせ此処は食堂。人は溢れかえる程居る。

 

 その中から一人を、見つけられるはずもなかった。

 

 それから、早くも時間は過ぎていき。

 

 残り授業も終わって、放課後の時刻。

 

「うぉぉぉ……何ごとだぁ!!!?」

 

 私達の教室の入口で、何故か人が溢れかえっていた。

 

 その総数は、ざっと百人か、それ以上。

 

 A組を除く1年の生徒は、ほぼ全員居るらしい。

 

「出れねーじゃん!何しに来たんだよ!」

 

「敵情視察だろザコ」

 

 案の定、爆豪君は喧嘩を売りに行った。

 

 というか、さらっと峰田君を罵倒した。

 

 扉の前の生徒達を、モブ呼ばわりしている。

 

 周囲の視線の圧は、当然のように強くなった。

 

 緑谷君は頭を抱え、軽く震えた。

 

 幼馴染として、彼も中々に苦労している。

 

「癒月ストップ!!早まるな!!」

 

「止めないで下さい。大変密です」

 

「それ多分、爆豪より酷いから駄目!!」

 

「手洗い等を、促しに行くだけです」

 

 一方の私は、切島君達に取り押さえられた。

 

 両腕を全力で掴まれ、動けない。

 

 感染症の温床が、目の前にあるにも関わらずだ。

 

 全くもって、自分が不甲斐ない。

 

 今直ぐにでも、全員の頭を治療したい。

 

「どんなもんかと見に来たが、随分と偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は、皆こんななのかい?」

 

「ああ!?」「それよりも手洗い、うがい───」

 

「多分、論点そこじゃねぇ」

 

「こういうの見ちゃうと、ちょっと幻滅するなぁ」

 

 そんな中で、一人前に出てくる生徒が居た。

 

 紫髪で、目にクマが多い人物だ。

 

 十分な睡眠を取れているか、心配になる。

 

 あとついでに、何処かで聞いた声な気がする。

 

「普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴、けっこういるんだ。知ってた?体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ……」

 

 そんな事を考えていると、紫髪の生徒は続けた。

 

 聞くだけ聞いているが、とても回りくどい。

 

 もしこれが患者への説明なら、大問題だ。

 

 症状等の申告は、簡潔に行わなければならない。

 

「敵情視察?少なくとも普通科(おれ)は調子のってっと、足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」

 

 まぁ要するに、言いたい事はそう言う事だろう。

 

 おそらく、此処に居る大半の生徒がそうだ。

 

 口にはしないが、喧嘩を売りに来ている。

 

 皆、皆して、血の気が実に多い。

 

 これだけ血気盛んなら、今採血すれば、新鮮で良質な血液を、大量に確保出来るかもしれない。

 

 一人200mLの献血だとしても、相当な量だろう。

 

 直ちに採血キットを、持って来るか悩む。

 

「隣のB組のモンだけどよぅ!!敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」

 

 そうこうしていると、またも人が前に出てきた。

 

 やたら目力が強くて、銀髪の人物だ。

 

 喧嘩を売るのが、最近のブームなのだろうか。

 

 そして、どうにも既視感がある。

 

「………切島君の親戚?」

 

「いや、ちげぇよ!!赤の他人だよ!!」

 

「うっそ。私も絶対そうだと思った」

 

「では、パクリですか。なるほど」

 

「誰がパクリだ!!やっぱ調子乗ってんな!!」

 

「悪りぃ!そういう奴なんだ!慣れろ!」

 

 なので私は、思わずそれを口にしてしまった。

 

 しかし、彼は切島君の親戚ではないらしい。

 

 性格とか諸々、似ていそうなのに。

 

 芦戸さんも、本当かどうか疑っているレベルだ。

 

 生き別れの兄弟と言われても、多分納得する。

 

 なんというか、どちらも暑苦しそうだし。

 

「けっ。くだらねぇ。これ以上付き合ってられっか」

 

 そんな空気の中で、爆豪君は足を進めた。

 

 この人混みを突っ切って帰るつもりだ。

 

 本職のヤンキーだけあって、物怖じしていない。

 

「待てコラどうしてくれんだ!!おめーのせいでヘイト集まってんじゃねえか!!もう半分は癒月のせいっちゃ、せいだけどよ!!」

 

「私は何もしていません」

 

「関係ねぇよ………」

 

「はぁ―――――!?」

 

 そんな爆豪に、当然強い視線が集まった。

 

 何故か私にも、その一部が向けられているが。

 

 それでも彼は、構わず足を進め続ける。

 

「上に上がりゃ、関係ねぇ」

 

 そう言い残すと、爆豪君は帰ってしまった。

 

 その言葉に、A組も他の生徒達も静まり返る。

 

 それだけ、その言葉は端的で強烈だった。

 

「く……!!シンプルで男らしいじゃねぇか……!!」

 

「上か……一理ある」

 

「騙されんな!無駄に敵増やしただけだぞ!」

 

 爆豪君の言葉ながら、確かにその通りだ。

 

 力無き言葉には、何も意味はない。

 

 今の私が、抗議文を送っても無駄だろう。

 

 何故なら私は、未だ何も成し得ていない。

 

 そんな有様で嘆き、騒ぐなど愚の骨頂。

 

 体育祭の中止など、どうかしていた。

 

 私もまだまだという事だろう。

 

「ありがとうございます。大事な事に気付きました」

 

「えっと……アンタは?」

 

「癒月波音。A組のヒーロー志望兼医者志望です」

 

 私は思わず、普通科の彼に手を差し出した。

 

 彼の存在が無かったら、この結論に至らなかった。

 

 最低限の、せめてもの礼儀だ。

 

「実のところ、私はあまり体育祭には乗り気ではなかったんです。中止の嘆願を出すつもりですらいました」

 

「……随分と、傲慢なんだな」

 

「はい、そうです。お恥ずかしながら。ですが、そのような考えは、もうありません。お陰でやる気が出ました。私の考えを示す方法は……初めから一つ」

 

 どうやっても、言う事を聞かない愚か者。

 

 人はこれまで、そういう者を実績を黙らせてきた。

 

 上が変わらないなら、環境を変えればいい。

 

 そうすれば、否が応でも変わらざるを得ない。

 

 郷に入っては郷に従え、というやつだろう。

 

 力を示せば、1位になれば、少しは話を聞くはず。

 

 この危険行事を、根底から変えられるはず。

 

 こうなれば意地でも優勝し、雄英内での発言権を持ち、体育祭そのものを根底から変革するまでだ。

 

 物事の本質は、もっと単純で明確。

 

「この場の全員の頂点に立ち、(患者としての)立場を分からせた上で、治療を行えば良いだけですので」

 

「おい彼奴!?事態を収拾するどころか悪化させたぞ!!お礼じゃなくて、宣戦布告返しじゃねぇか!!」

 

「あの子の前で、爆豪が余計な事を言うから!!」 

 

「すまん!!本当にすまん!!悪気はねぇんだ!!」

 

「私の発言に嘘偽りはありません」

 

「A組の奴等は全員、自意識過剰か!!」

 

「「「あの2人がおかしいだけ!!」」」

  

 なので、私は彼にそう返した。

 

 しかし、周囲はブーイングの嵐になった。

 

 A組の皆も、何故か大慌ての大惨事である。

 

 全くもって、理解が出来ない。

 

 普通科の彼も、妙な顔で去ってしまった。

 

 まだ握手も何も、していないのに。

 

 本当に、残念な限りだ。

 

 ともあれ、戦う際は倒すだけだが。

 

「という訳で、色々ありましたが訓練をします。まずは全力で掛かってきて下さい。時間は有限ですから早く」

 

「ちょっと待って。状況に追い付けてない」

 

 その騒ぎがどうにか収まった頃。

 

 私は緑谷君を引きずって、体育館に来た。

 

 切島君達は教室に、置き去りにしてきた。

 

 セメントス先生への使用許可は取ってある。

 

 無論、服装は動きやすい体操服だ。

 

 ちなみに私のコスチュームは、内側のプロテクター等が大きく破損したので、現在修理中である。

 

「どうしたもこうしたも、これは訓練であると同時に治療です。あまりに未熟で、精神に重大な疾患を抱えた、貴方への。呼び出す理由などそれ以外にありません。いくら進言しても効果が無いようなので」

 

「その節は……本当にすいません。いや、ほんと……。えーっと、つまり、個性の調整の仕方を教えてくれるって事?でも、いいの?僕なんかに、時間を使っちゃって。皆の前で、あんな事を言っちゃった後だし───」

 

「貴方が体育祭で怪我する方が大問題でしょう」

 

「それについてはご尤もです……」

 

 緑谷君は何処か気まずそうに、縮こまった。

 

 軽く腕を動かしつつ、私は思わず溜息を吐く。

 

 やはり彼は、自分の身体を何とも思っていない。

 

 正確には思っているのだろうが、決して躊躇わない。

 

 重要な局面で、身体を犠牲にする事を。

 

 実際、訓練の時も、USJの時もそうだった。

 

 どうも彼は、自分に対する比重が軽い。

 

 そうじゃなかったら、私を気遣う余裕なんてない。

 

「無論、私は優勝します。そうしなければ、すべき事も出来ないので。ですが、それ以前に、私は医者志望。目の前の患者を見捨てるなど、あってはならない。それが例え敵であっても、救うべき、治療すべき相手には、平等に手を伸ばす。それこそが医療(わたし)の在り方です。わざわざ患者(あなた)が気にする必要などありません」

 

 ならば、こちらも医療方針を変えるだけだ。

 

 言って治らないなら、直接治すまで。

 

 自己犠牲病患者相手では、焼け石に水かもしれない。

 

 それでも何もしないより、遥かにマシだ。

 

 対症療法に過ぎずとも、最大限の治療をする。

 

 今後もヒーローを目指す以上、そこは曲げられない。

 

 例え無駄でも、やらない理由は無い。

 

「……でも、僕も、簡単に負けるつもりはないから」

 

 私が言葉を吐いて、少し間を置いた頃。

 

 緑谷君は、何かを決心したようにそう言った。

 

 顔つきが、ついさっきまでと明らかに違う。

 

 ようやく治療に、やる気を出したらしい。

 

 もしかすると、それだけではないかもしれないが。

 

 彼もまた、戦闘の構えを取る。

 

「では、早速、治療を開始します」

 

 私は拳を握り、緑谷君に突っ込んだ。

 

 彼の腹部掛けて、拳を振るう。

 

 しかし、それを、緑谷君は紙一重で往なした。

 

 外れた拳が、音を立てて空を切る。

 

(突撃からの、腹部への一撃……ッ!!USJでの戦いは見てたから……そう来ると思った……ッ!!思ってた以上に、攻撃が重いけど……!!)

 

 彼の強みは、高い洞察力と実行力だ。

 

 頭の回転とその後の動きが異様に早い。

 

 その上、思考の柔軟性もある。

 

 僅かな弱点や隙も、決して見逃さない。

 

 そんな怖さが、彼の持ち味だ。

 

 これぐらいはやってのけて当然だろう。

 

 攻撃を避けた勢いのまま、緑谷君は拳を放つ。

 

「ですが、その後の動きが甘い」

 

 私はそれを右腕でガードし、彼の足を逆に掴んだ。

 

 この場での最適解は、顔面への攻撃だった。

 

 胴への攻撃は当たりやすいが、反撃のリスクがある。

 

 打ち合える技量が無いなら、やるべきじゃない。

 

 そしてそのまま、私は緑谷君を地面に叩きつけた。

 

 彼の身体が数回程、ボールのように跳ねる。

 

 けれど、見た目ほどは、ダメージが入ってない。

 

 どうやら受け身を、咄嗟に取ったらしい。

 

(そう簡単には流石に行かないか……っ!!けど、動き自体は、何となく見えてる!!この距離とあの体勢だったら……次は跳躍してのかかと落とし……!!)

 

 私は直ぐ追撃し、跳躍してかかと落としを放った。

 

 大振りな一撃で、床全体にヒビが入る。

 

 しかし、それをまたしても、彼は紙一重で躱した。

 

 一度ならず二度までとは、偶然と思えない。

 

(読み自体はやはり、申し分ない)

 

 そこで私は更に跳躍し、後退する彼に接近した。

 

 一度攻撃を躱した彼は、そう簡単に距離を離せない。

 

 それに加え、細かい連撃で反撃の機会を潰し。

 

 徐々に徐々に、拳の間合いまで距離を詰める。

 

 全力の拳さえ届けば、後はこっちものだ。

 

 体力勝負もこちらに部がある、

 

 躱されるなら、逃がさないまで。

 

(読まれる前提で……まさか、動いてた!?)

 

「行動が読まれてしまうなら、逆にそれを利用すればいい。裏の裏を読むのは戦いの基本。こればかりは実戦経験の差です。予測の正確さが、裏目に出ましたね」

 

 緑谷君の顔色に、焦りの色が更に混じった。

 

 そして私は、緑谷君の腕を遂に掴む。

 

 この距離なら、攻撃を外す事は絶対無い。

 

 どうやっても、回避は不可能だ。

 

(こうなったら……割れないイメージで───)

 

「残念ながら、私の攻撃の方が早い」

 

 緑谷君はどうにか、個性を発動させようとした。

 

 けれど、それよりも先に、私の拳が彼の胸に届く。

 

 今度は受け身を取る暇も無かった。

 

 衝撃に息を詰まらせ、彼はその場に膝をつく。

 

「大丈夫ですか?意識はありますね。呼吸の方も問題なし。手加減はしたはずですが、念の為、治療を行います。その間はどうか動かず」

 

「あ、ありがとう。でも、やっぱり、駄目だったよ。癒月さんの攻撃があと少し、遅かったら、多分折れてた。撃たなくても分かる。上手く行ったと思ったのに」

 

「まだ分かりませんか?それですよ。貴方が個性をコントロール出来ない理由は。直接戦って、改めてよく分かりました。症例としては、よく見るやつです」

 

「つまり、典型的なミス……それって───」

 

「治療中は、動かない」

 

「あっ……すいません………」

 

 私は一先ず、緑谷君の治療を手早く行った。

 

 例の如く、半透明なエネルギーが傷を包む。

 

 腹部の腫れが、一分程度でほぼ無くなった。

 

 これだけやっておけば、大丈夫だろう。

 

「貴方は個性を難しく考え過ぎなんです。上手く行く行かないの思考が、その証拠。個性を発現したばかりの子供のように。強個性だろうと弱個性だろうと、個性は所詮、身体機能に過ぎません。トレーニングならまだしも、戦闘中一々意識して、使う事自体が間違ってます」

 

「個性を発現したばかりの子供……確かに、その通りかも。僕の場合、最近になって、個性があるって分かったばかりだし、癒月さんや皆みたいに、呼吸するみたいに、当たり前に出来るって感覚が薄いんだと思う。事あるごとに、大きく呼吸していたら、疲れて当然だ。僕にとってはそれが当たり前過ぎて……逆に気付かなかった。そうなってくると、必要なのはフラットな考え。それとあとは、反復練習。とりあえず、目先で必要なのは瞬発と断続───

 

 私が軽くヒントを出すと、緑谷君は考え込んだ。

 

 何やら一人で、ブツブツ呟いている。

 

 今ので何となくの答えに辿り着いたらしい。

 

 見た目はアレだが、頭の回転はやはり早い。

 

 絵面だけだと、精神病患者にしか見えないが。

 

 とはいえ、母様も割と似たようものか。

 

「それと、個性を使う上で一番重要なのはイメージです。明確なイメージがあるかどうかで、個性の精度は一にも百にも変わる。反復練習するのは当然として、まずはそれをはっきりさせた方が良い」

 

「あっ、そうだね。いつの間にか一人で話しちゃってた。ごめん、ごめん。一応今も、イメージ自体はあるんだけど、それを一度見直すのも大事だよね。根っこから使い方を変えていく訳だし」

 

 そんな彼を軽く止めつつも、私は話を続けた。

 

 あの長い独り言を、聞く趣味は毛頭ない。

 

 事実、個性とイメージは切って離せない関係だ。

 

 なにせ個性そのものが、何でもありの代物。

 

 その力は時に物理法則さえも、容易く無視する。

 

 極端な話、出来ると思えれば、大抵何でも出来る。

 

 実際、それで無茶を通しているヒーローは多い。

 

 あまりに理不尽で不可解だが、そういうものだ。

 

 反復練習するにしても、まずはそこからである。

 

「それで今は、どのようなイメージを?」

 

「イメージは……その、前に信頼してる人に相談もしたんだけど、電子レンジの中で、卵が割れないようなイメージでやってて───」

 

「ゴミですね。そんなものを教えた何処ぞの無能も含めて。そんな廃棄物(イメージ)は今直ぐにでも、彼方に捨てなさい」

 

「いくら何でも酷くない!?」

 

 だからこそ、私は思わず口に出してしまった。

 

 そこまで理解しといて、それはないだろう。

 

 彼のIQが一気に下がった錯覚さえ覚える。

 

 何故そうなったか、とても理解出来ない。

 

 そんな助言をした奴の信頼度などゼロだ。

 

「そもそも、電子レンジで卵を温めれば爆発して当然です。黄身や卵白が沸騰するか、過熱状態になるのですから。それに加え、貴方が想像したのは、大方、殻付きの卵でしょう?自分をより破裂しやすくして、どうするのです?人間爆弾にでもなる気ですか?実に愚かです」

 

「その人はユニークって……言ってくれたんだけど」

 

「そういう人間は大抵、感覚派です。説明が下手な上に、本人以外の再現性が全くない。寧ろ聞くだけ逆効果。ネットの情報の方が遥かに参考になる。教育者として三流。教えを乞う相手は、よく考えて選ぶべきかと」

 

(一応その人……No1.ヒーロー………)

 

 体育館の入口の方で、誰かが吹き出した気がした。

 

 一瞬、皮と骨ばかりの人物が見えた気がする。

 

 栄養失調の人物など、雄英に居ただろうか?

 

 相澤先生に確認を取った方が、いいかもしれない。

 

「一先ずは私のやり方を、真似して下さい。私と緑谷君の個性は性質は違えど、身体強化において似た部分もある。何も参考にせずやるよりはマシでしょう」

 

「分かったけど……こんな感じ?」

 

「型は大まか合ってます。もっと腰を落として」

 

 そんな事を考えつつ、私は指導を続けた。

 

 緑谷君も私を真似して、まず深く息を吐く。

 

 腹の底から酸素を絞り出し、心身の軸を整える。

 

 その構え方は、空手の息吹に近い。

 

「東洋の武術には、気という考えがあります。力の源である丹田。つまりは臍の下を中心に、気が全身を巡っているというものです。今やっているのはその基礎です」

 

「全身に力……個性にもちょっと似てる」

 

「ええ、そうです。さっきも言った通り、個性は身体機能。さしずめ、その力は、全身を巡る血液です。その血液が丹田という、第二の心臓を中心に、全身を巡っているのをイメージするんです。初めはゆっくり、負荷を掛けないように。徐々に、全身に染み渡るように」

 

「初めはゆっくり、スイッチを入れるみたいに……」

 

 そこからしばらく、私達は互いに無言だった。

 

 一足先に、私は個性を発動させる。

 

 普段は此処まで丁寧ではないが、偶には良い。

 

 ちなみにこのイメージを基に、血液を凄まじい速さで循環させた上で、細胞単位にまで力を染み渡らせたものが、今の私が出せる個性の全力発動だ。

 

 寿命が削れる負荷が掛かって、当然である。

 

 しばらくすると、緑谷君に変化が起こった。

 

 ほんの一瞬、彼の身体が輝きを放った。

 

 まるで稲妻が、全身を駆け巡ったかのように

 

 そして彼は、一度息を大きく吸う。

 

「今、ほんのちょっとだけど、コントロール出来た!!そうか!!受け皿が小さいなら……全体に張り巡らせればいい……!!使うんじゃなくて、巡らせるんだ……!!何時も血液が、身体に力を運んでいるみたいに……!!全身、常時……身体許容上限(5%)───ッ!!」

 

 次の瞬間、緑谷君の体に赤い光が走った。

 

 続けざまに、緑色のエネルギーが帯電し始める。

 

 どちらも、ついさっきの輝きの色と同じ色だ。

 

 どうやら個性のコントロールが出来たらしい。

 

「思ったよりも早かったですね。動けますか?」

 

「わかっ……らない……!加減出来ないかも……!」

 

「ならば、検診です。治療が問題なく終わったか、今この場で診察します。ご覚悟はよろしいですね?」

 

 私は向き直って、構えを取った。

 

 緑谷君も、応えるように構えを取る。

 

 ついさっきまでとは、完全に別物だ。

 

 これならば、加減も要らないだろう。

 

 患者が全力で臨むのなら、医者も全力で応える。

 

 それが、あるべき医者の姿だ。

 

「───よろしく、お願いします!!癒月さん!!」

 

「───では、早速、診察を開始します」

 

 やはり私も、より高みを目指さなければならない。

 

 




 
「相澤君……私もっと頑張ろうと思う………」

「どうしたんです?突然そんな事を言い出して」
 
「なんかスッゲー、落ち込んどる」
 
 その翌日の職員室にて。
 
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