治療狂人のヒーローアカデミア   作:熊田ラナムカ27

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13 医者の評価は厳格に

 

 癒月さんと訓練をしてから、早くも2週間。

 

 あっという間に時は過ぎ、雄英体育祭本番当日。

 

 学校全体の空気が、爆発寸前のように熱い。

 

「皆!準備はできてるか!?もうじき入場だ!!」

 

「コスチューム着たかったなー」

 

「公平を期すため着用不可なんだよ」

 

「本番前だからこそ、感染予防は忘れず」

 

「こんな時でも平常運転だなー」

 

 僕達A組は割り当てられた控え室で、全員ジャージに着替え、それぞれ本番に向けて準備をしていた。

 

 緊張している人も居れば、落ち着いてたり、張り切っていたり、アルコール消毒を促している人も居たりして、その様子は実に様々だ。

 

 ちなみに僕は、超絶緊張している。

 

 個性が制御出来ても、不安なものは不安だ。

 

「一先ず、それぐらい出来ていれば、そうそう大怪我は無いでしょう。無論、無理をしなければ、ですが。くれぐれも本番で許容量以上を出さないように」

 

 結局、癒月さんには訓練で一度も勝てなかった。

 

 あの後も何回か、訓練に付き合って貰ったのに。

 

 肝心なところで個性が解け、押し切られてしまった。

 

 それでも何度か、攻撃を入れる事は出来たけど。

 

(けど、その弱点も、この2週間でかなりマシになった。少なくとも、入学したての頃とは、大きく違うはずだ。やれる事だって増えてる。大丈夫なは───)

 

「───緑谷」

 

「……っ!?な、何……轟君?」

 

 緊張のあまり、僕が一人で考え事をしていると。

 

 不意に轟君が、僕に話し掛けてきた。

 

 突然の事で、思わず肩が軽く跳ねる。

 

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」

 

「へ!?うっ、うん……」

 

「それにお前、オールマイトに目ぇかけられてるよな」

 

「っ!!」

 

「別にそこ詮索するつもりはねぇが……お前には、勝つぞ」

 

 そして轟君は、僕にそうはっきりと言った。

 

 理由は分からないけど、ライバル視されたらしい。

 

 何時も冷静で落ち着いている彼だからこそ。

 

 その言葉には妙な凄みがある。

 

「おお!?クラス最強候補が宣戦布告!?」

 

「急にケンカ腰でどうした!?直前でやめろって……」

 

「仲良しごっこじゃねぇんだ。なんだっていいだろ」

 

「それと癒月。お前もだ。USJの一件じゃ、何かと後手に回ったが、優勝は俺が貰う」

 

「私は、私のやるべきをやるだけです」

 

 続けざまに、轟君は癒月さんにもそう言い放った。

 

 止めようとしていた切島君は、思わず頭を抑える。

 

 当の本人は、あくまで何時も通りだけど。

 

 それでも彼の本気具合は、否が応でも伝わってくる。

 

 多少距離は離れてるけど、視線の圧が重い。

 

 轟君もまた、全身全霊を持って勝ちに来てる。

 

 そう感じ取るには、時間は要らない。

 

「轟君が、何を思って僕に勝つって言ってんのか……は、わかんないけど……そりゃ、君の方が上だよ。実力なんて、大半の人に敵わないと思う。客観的に見ても」

 

「み、緑谷も、そーゆーネガティブなこと言わねぇ方が」

 

「でも……!!皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって……遅れを取るわけには、いかないんだ」

 

 だからこそ、拳を握り締めて、僕は顔を上げる。

 

 此処に来るまで、色んな人に助けられて来た。

 

 その人達の為にも、そう簡単には引けない。

 

「──僕も本気で、獲りに行く!!」

 

 必ず勝って、最高のヒーローになる為に。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

「男子の感性は……やはりよく分かりませんね」

 

 2人の会話を遠目で見て、私は思わずそう呟いた。

 

 わざわざ口にする必要があるのか、甚だ疑問だ。

 

 仮に挑発だとしても、かなり生温い。

 

 まして、集中している本番直前なら尚更だ。

 

 合理性としては、ほぼ皆無だろう。

 

 あとついでに、切島君まで謎に燃えてる。

 

 全くもって、理解出来ない。

 

「まぁ、自分に言い聞かせるって意味もあったんじゃない?何時も癒月ちゃんがやってるみたいに。こういうのって、口に出すと結構気合入るし」

 

「なるほど。自己暗示の類でしたか」

 

「そこまで小難しくないと思うけど」

 

 そんな私に芦戸さんは、溜息を吐いた。

 

 確かに、自己暗示は、立派な精神療法だ。

 

 メンタルの状態は、パフォーマンスに影響する。

 

 そう考えれば、敢えて喧嘩を売り、自身の気持ちを奮い立たせるのも、それなりに効果的だろう。

 

 やるべき事の明確化は、実際有効だ。

 

(まぁどちらにしろ、やる事は変わりません)

 

 そんな事はさておき、私は椅子から立ち上がった。

 

 周りが何と言おうと、やる事はどの道同じだ。

 

 何が何でも優勝して、この体育祭を変革する。

 

 勝ち負け云々など、正直どうでもいいが、結果を出さなければ、治療も始められないのだから仕方ない。

 

 ヒーローとして、医者として、やる事をやるだけ。

 

 まぁ要するに、何時も通りだ。

 

 そんな私を、芦戸さんはジッと見ている。

 

 それから、数分程の時間が経ち。

 

『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせテメーらアレだろコイツらだろ!?(ヴィラン)の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!ヒーロー科!!1年!!A組だろぉぉ!!?』

 

 プレゼント・マイクの実況が、会場中に響き渡った。

 

 私達は通路から、会場中央に移動する。

 

 数万はある観客席は、既に溢れんばかりだった。

 

 視線の重さは勿論だが、それ以上にやかましい。

 

 此処まで五月蠅いと、普通に耳に悪い。 

 

 飛沫感染リスクについても、激しく気になる。

 

 どうせ実況するなら、感染予防も言って欲しい。

 

「わあああ……人がすんごい………」

 

「大人数に見られる中で、最大のパフォーマンスを発揮できるか……!これもまた、ヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」

 

「めっちゃ持ち上げられてんな……なんか緊張すんな……!なァ爆豪」

 

「しねえよ、ただただアガるわ」

 

『B組に続いて普通科C・D・E組……!サポート科F・G・H組も来たぞー!そして経営科……』

 

 私達の入場後、他のクラスの人達も続々入って来た。

 

 というか、実況が急に雑になった。

 

 メディア意識もあるだろうが、流石に露骨過ぎる。

 

 仮にも教師なのだから、中立であるべきだろうに。

 

 他のクラスの目線が鋭いのも、無理はない。

 

「先日はどうも。今日は互いに頑張りましょう」

 

「アンタ、A組の……。……どうも」

 

(この空気で自分から話に行くのか……)

 

(良い意味でも悪い意味でも……空気読まないよな)

 

 当然、その中には普通科の彼の姿もあった。

 

 私が頭を下げると、戸惑いながら彼も頭を下げる。

 

 勝ち残れるかは不明だが、頑張って欲しいものだ。

 

 彼には一応、それなりの恩がある。

 

 尤も、大怪我をしない事が前提だが。

 

「選手宣誓!!

 

 そして、全クラスの入場が終わり。

 

 司会のミッドナイトが、鞭をしならせた。

 

 相変わらず、寒そうな全身極薄タイツ姿である。

 

 年中アレで、よく体調を崩さないものだ。

 

 今は暑いからまだ良いが、冬場は地獄だろう。

 

 いや、そもそも夏場でも全身タイツはどうかと思う。

 

 汗で蒸れるし、冷房の効いた場所では身体も冷える。

 

 夏風邪を引くリスクは、いくらでもあるのだ。

 

 プールや海に居る訳じゃあるまいし。

  

「18禁なのに高校にいていいものか」

 

「いい」

 

「一先ず、上着を羽織るべきかと」

 

「ミッドナイトに上着は無粋じゃね?」

 

「そこ!!静かにしなさい!!私にジャージを貸そうともしない!!これはファッション!!選手代表、1年A組!!癒月波音!!」

 

「無理なファッションもどうかと思いますが」

 

 そんなミッドナイトは、私を指名した。

 

 ジャージの着用については、全力で拒否している。

 

 せっかく、予備のジャージを出したというのに。

 

 健康よりも、アイデンティティなのだろうか?

 

 男心もそうだが、女心もよく分からない。

 

「選手宣誓は入試一位が恒例だが……あの子か」

 

「流石は雄英。女子も粒揃いだ」

 

「ちょっと怖い気もするが、結構可愛いな」

 

「ピンク髪の子……うっ、頭が………」

 

「しっかりしろ!!トラウマを掘り返すな!!」

 

 壇上に向かう途中、観客席から声が聞こえた。

 

 選手代表というのは流石に注目される。

 

 何やら苦しんでる声も、その中にはあったが。

 

 まぁ、言うべき事など、そう多くない。

 

「選手宣誓。私は此処に、手洗い、うがい、アルコール消毒、感染予防を死ぬ気で徹底させ、目の前の患者を殺してでも救い、力の限り職務を遂行する事を誓います。それに加え、テレビや画面の前。そして会場の皆さん。どうかくれぐれも、怪我なく健康に。あと優勝します」

 

「「「いや、なんか、超絶物騒!?つーか、真顔、怖っ!!というか、優勝ついで感覚かよ!?」」」

 

「絶対やると思った」

 

 なので、私のありきたりな常套句を言った。

 

 健康である事は、この上なく素晴らしい。

 

 それ以上に、優先するべき事は無い。

 

 しかし、何故か、会場にはブーイングの嵐だ。

 

 切島君に至っては、頭を抱えている。

 

 もしかすると、こないだ以上かもしれない。

 

 全くもって、理解不能だ。

 

 私は何一つ、おかしな事は言っていない。

 

 我ながら、良いスピーチだったのに。

 

「癒月ちゃんに常識を求めたら負けだよ」

 

「なんで彼奴は、人をナチュラルに煽るんだ」

 

「ある種、爆豪より質悪りぃよな」

 

「アイツと俺をそんなんで比べんな」

 

「調子乗んなよA組オラァ!!」

 

「2度も優勝宣言とか正気か!!」

 

「あとついでに、先生方皆様。今回の雄英体育祭の駄目な所について、後日書面で纏めて提出しますので、目を通しておいて下さい。くれぐれも忘れないように」

 

「先生方にまで喧嘩を売るんじゃない!!」

  

 とにかく、最低限の感染対策はした。

 

 皆の言う通り、私にとって優勝はあくまでついで。

 

 変革も無論重要だが、それはそれ。

 

 入試の時同様、重傷者ゼロがまず最優先だ。

 

 どれだけヘイトが来ようと、知った事じゃない。

 

 私はただ宣言通り、職務を遂行するのみ。

 

 況して次は、最初にして最大の難関。

 

「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう」

 

「雄英って何でも早速だね」

 

「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!!さて運命の第一種目!!今年は……コレ!!!障害物競走!!!」

 

「とりあえず、マイナス10点」

 

「駄目出しすんの早っ。マジでやんのな」

 

 第一回戦の種目は障害物競走。

 

 計11クラスによる総当たりレース。

 

 云わば、人数を絞り込む為のふるい。

 

 同時に体育祭における、負傷者トップの競技。

 

 内容がどうあれ、大半が此処で怪我する。

 

「ルールは簡単!外周を回って此処に戻れば勝よ!コースはこのスタジアムの外周約4km!我が校は自由さが売り文句!ウフフフ……コースさえ守れば()()()()()()構わないわ!さあさあ位置につきまくりなさい……!」

 

「マイナス20点」

 

「始まってもないのに30点マイナスかよ」

 

「癒月判定、超キビーな」

 

「このままだと零点になるんじゃね?」

 

「シャラップ!いいから早く付きなさい!」

 

「マイナス10点」

 

 しかも、今年はスタート時点で危険だ。

 

 人数に反して、スタートゲートが狭過ぎる。

 

 一人でも転倒したら、将棋倒しは必至だ。

 

 最初のふるいにしても、基準がなってない。

 

 安全管理委員会は、何をやっているのか。

 

 一先ず、出遅れた私は最後尾に立った。

 

 そして、ゲートのライトが点滅する。

 

『スタート!!』

 

 ミッドナイトの声が、会場全体に木霊した。

 

 ワッと一斉に、皆がゲートの奥に飛び込む。

 

 そして案の定、中では早々に渋滞が発生した。

 

 特に危ういのは、危機的状況に慣れていない普通科。

 

 加えて、サポート科や経営科の生徒達。

 

 無理に動こうとして、今にも倒れそうになってる。

 

 此処で怪我したら、元も子も無いのに。

 

「全員!!焦らず、騒がず、少しずつ進みなさい!!開けた所に出るまでは乱闘はご法度!!列を抜け出せる人は、さっさと行きなさい!!後続の邪魔です!!」

 

「なんだ彼奴!?ゲート天井の骨組みをドン○ーコングみたく伝ってやがる!?とんでもねぇ握力と腕力だ!!」

 

「つーか、なんで、A組が指示してんだよ!?」

 

「けど、転ぶよりマシ!!早く行って行って!!」

 

 一先ず、私は骨組みを伝って、ゲートを抜けた。

 

 下手に列に並ぶより、こっちの方が早い。

 

 そして何より、私も含めその方が安全だ。

 

 最後まで交通整理をしたいが、仕方ない。

 

 最低限の指示を出せただけ、良しとしよう。

 

 後の安全は、個人に任せるしかない。

 

 骨組みから飛び降り、私は地面を蹴る。

 

『さーて実況してくぜ!解説アーユーレディ!?イレイザーヘッド!!』

 

『無理矢理呼んだんだろう』

 

『開幕早々、怒涛のついで優勝宣言に!!駄目出しラッシュ!!なんか締まらねぇ感じで始まった障害物競走は、先頭集団が第一関門!!ロボ・インフェルノに突入!!後続も続々集結中だ!!』

  

『俺、絶対要らないだろ』

 

 そして解説の声が聞こえてきた頃。

 

 私はようやく、第一関門に到着した。

 

 眼前には、入試の時のロボが大量に居る。

 

 しかも、0P(ヴィラン)まで複数体健在だ。

 

 これを障害物と呼ぶとは、どうかしている。

 

 ゲート以上に、怪我のリスクが多い。

 

 というか既に、峰田君が犠牲になった。

 

 彼でなかったら、保健室送りになってる。

 

 その上、轟君が凍らせたであろう、0P(ヴィラン)が今まさに倒壊し、切島君とパクリの人が下敷きになる始末だ。

 

 何でもとは言うが、限度があるだろう。

 

「本当に、やる事が多い」

 

 私は思わず、眼前のロボを一体掴み上げた。

 

 言いたい事が多過ぎて、腹が立って来る。

 

 これだけでも、マイナス50点は固いだろう。

 

 そしてそのまま、(ヴィラン)の群れにロボを投げつけた。

 

 さながら、ボウリングの球を投げるように。

 

「殺菌!!滅菌!!除菌!!」

 

 これによりロボ数体は、場外へと吹き飛んだ。

 

 それに伴い、ロボの群れには一直線上に道が開く。

 

 無理矢理でも通ろうと思えば、先にも進めるだろう。

 

 しかし、病原体(ロボ)はまだ溢れるほど残っている。

 

 それに加え、0P(ヴィラン)も未だ健在。

 

 あんなものが暴れたら、大惨事は免れない。

 

「やはり病原体は、徹底殲滅ですね」

 

「ちょっと、癒月さん!?それ私の!!」

 

『おっと!?1-A、癒月!!どういう事だ!?レースそっちのけで(ヴィラン)の群れへ突っ込んだ!!その暴れっぷりはまるでバーサーカー!!ついでとばかりに、八百万の大砲まで奪った!!まさしくやりたい放題!!』

 

「申し訳ありません。緊急事態なので」

 

 よって、私は反転し、病原体(ロボ)の排除に乗り出した。

 

 入試の時同様、目の前の(ヴィラン)を片っ端から撃破。

 

 周囲を見渡しつつ、要救助者の救助を行う。

 

 順位など、後で取り返せばいい。

 

 次第にゆっくりと、0P(ヴィラン)も動き出した。

 

 どうやらこちらに突っ込んでくる気らしい。

 

 あの巨体は、相も変わらず脅威だ。

 

 しかし、今の私にはこれがある。

 

「喰らいなさい。八百万キャノン!!」

 

『なんつー事だ!?0P(ヴィラン)の頭部に投擲された大砲が直撃!!その後ろに居た0P(ヴィラン)ごと貫通して、風穴が開いた!!さらに倒れ込んだ巨体が他の(ヴィラン)を巻き込んでのドミノ倒し!!ロボ地帯が一気に壊滅状態だぁ!!無茶苦茶が過ぎんだろ!!』

 

『キャノン要素は何処だよ』

 

「使い方が全然違う………」

 

 私は八百万さんの大砲を、思い切り投げた。

 

 すると頭部に穴が開いた0P(ヴィラン)は沈黙し、背後の0P(ヴィラン)や足元のロボ達を巻き込んで、一気に倒れ伏す。

 

 その衝撃で、辺り一帯が砂煙に包まれた。

 

 流石は推薦1位の彼女が作った代物。

 

 耐久性は本物さながらと言って良い。

 

 これで、眼前の脅威は大方排除された。

 

 数名腰を抜かしているが、直ぐ立ち上がるだろう。

 

 ざっと見渡した限り、怪我人も居ない。

 

 切島君は言わずもがな、パクリの人も無傷だ。

 

 案の定、似たような個性だったらしい。

 

「お前、入試の時以上に滅茶苦茶だな」

 

「あっ、どうも。久しぶりです。治療は必要ですか?」

 

「いや、いいよ。ほら、一応私等、ライバル同士だし」

 

「何を言うのです?そんなものより治療が優先です」

 

「ほんと、相変わらず過ぎて逆に安心するよ」

 

 ロボの残骸を乗り越え、コースを走っていると。

 

 ふと横から、声を掛けられた。

 

 その方向を見て見ると、居たのは彼女。

 

 入試の時に会った、拳藤さんだった。

 

 どうやらB組に配属されたらしい。

 

「人助けもいいけど、一応これレースだぞ。人の事ばっか構っていいのかよ。真剣勝負でそういうのは基本お節介だろ。そりゃこっちも大分助けられたし、悪気は無いだろうけどさ。そういうのって失礼なんじゃね?」

 

 私の走りに、どうにか並走しつつ。

 

 拳藤さんは、真面目な顔でそう言った。

 

 まぁ確かに、その意見にも一理ある。

 

 実際、周りも他の人の事などお構いなし。

 

 勝つ為、目立つ為、優勝する為に、必死だ。

 

 それに対し、私にとって優勝はついで。

 

 あくまで改革を行う為の手段に過ぎない。

 

 勝つよりも、治療の方が遥かに優先だ。

 

 そういう意味では、かなりズレてる。

 

 これではブーイングされても仕方ない。

 

「ですが、私にとって、あの誓いを曲げたら、仮に勝っても意味が無い。一流の医者やヒーローなら、勝つ事も救う事も両立して当然。相手に失礼だと思われようが、関係ありません。勝手に勝ちますし、勝手に救います」

 

「押し付けも、そこまで行くと笑えるな」

 

「押し付けで結構。元より医療も、ヒーロー活動もそんなものです。そもそもこれで、優勝が決まる訳じゃありませんし。上位40位ぐらいに入れば問題無いでしょう。ならば、その範疇で勝手にやるだけです」

 

「まぁ要するに、お前も物間達と同じって訳か。いや、だいぶ、いや、かなり……180度ぐらい違うだろうけど。というか、彼奴と同列扱いは、流石に失礼だわ。なんか、ごめん。変な所で計算高いのな」

 

「これでも医者志望なので」

 

 だが、それが何だと言うのだ。

 

 最後に勝てば、何も問題ない。

 

 ブーイングなど、中学時代に散々聞いてる。

 

 そしてこれまで、それを黙らせてきた。

 

 勝ちは別に否定しないし、負けるのは私も嫌だ。

 

 だから、勝ちに行く皆は、何も間違ってない

 

 ただ、私の場合、それより優先する事がある。

 

 ただ眼前の怪我人を、可能な限り減らす。

 

 故に今回は、勝ち残りさえすればいい。

 

 所詮、それだけの話だ。

 

 誰に何を言われようと、悩む必要などない。

 

「それはそうと、マイナス10点。今ので第一種目の評価は零点です。次からは、ひたすら減点していきます」

 

「お前それ、まだ続けてたのか。そんでもって鬼か」

 

『オイオイ!!第一関門チョロイってよ!!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォール!!!!』

 

「分かりやすい分、先程よりマシですけど」

 

 そんな会話を交わしながら、走っていると。

 

 私と拳藤さんは、第二関門に辿り着いた。

 

 そこで待ち受けていたのは、崖と縄。

 

 要するに、サーカスの綱渡りだった。

 

 此処まで来ると、最早見た目重視だ。

 

 これを前に、多くの生徒が立ち尽くしてる。

  

 鍛えてない生徒が挑むには、自殺行為そのものだ。

 

 何時から雄英は、サーカス養成所になったのだ。

 

「これに関しては、救助しようがないので、私は先に行きます。皆さんもどうか、くれぐれもお気をつけて」

 

「うわっ……マジか。ワイヤーを素手で……」

 

「そんでもって……ターザンみたく」

 

「絶妙に楽しそうだな。誰も真似できんけど」

 

 そんな事を考えつつ、私は前に進んだ。

 

 ある種これは、危険が目に見えて分かりやすい分、第一関門と比べ、発生し得る怪我人は意外と少ない。

 

 寧ろ、無理だと判断した生徒達が、自主的にリタイアしてくれる分、これまでの関門と比べ遥かに安全。

 

 故に今回は、周囲を気にせずさっさと進めた。

 

 崖に設置されたワイヤーを都度都度引きちぎり、ワイヤーを掴んで、ターザンロープの要領で対岸に渡る。

 

 そのまま壁に張り付き、今度はロッククライミングの要領で崖上へ登り、ひたすらそれを繰り返す。

 

 ざっと3分程度で、第2関門を突破出来た。

 

 先に居た耳郎さんは、ギョッとしてたけど。

 

 まぁ言ってしまえば、多少の誤差だ。

 

 とにかく今は、目の前の道を走り抜ける。

 

『先頭が一足抜けて下はダンゴ状態!!上位何名が通過するかは公表してねえから安心せずに突き進め!!』

 

 そして私は、関門の間の道を駆け抜け。

 

 ようやく第3関門へと、辿り着いた。

 

 その眼前に広がっていたのは、だだっ広い荒野。

 

 そこではどうにも、火薬の匂いがした。

 

 すると突然、私の斜め方向が爆ぜる。

 

『そして早くも最終関門!!かくしてその実態は一面地雷原!!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と脚酷使しろ!!』

 

「ふざけないで下さい。マイナス100点」

 

『ちなみに地雷!!威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!!』

 

『人によるだろ。これの発案者誰だ』

 

「馬鹿なんですか?威力関係なく、地雷は危険物でしょう。やっぱり馬鹿ですね。追加でマイナス100点」

 

 その刹那、またも派手な爆発が起きた。

 

 誰かが地雷を踏み、大きく吹っ飛んだ。

 

 今ので更に、マイナス100点だ。 

 

 当たりどころ次第で、普通に死んでる。

 

 ロボと違い、一見しただけでは視認しづらい分、数十倍は悪質だし、最低でも百個は設置されている。

 

 これを考えた奴は、ただのアホだ。

 

 生徒を地雷原に送り込むな。

 

 丸一ヶ月、病院送りでも生温い。

 

「これに一人で対処していたお婆様は……大変偉大ですね。改めて尊敬します。毎年毎年……気苦労が絶えなかったでしょうに。何時も何時も……お疲れ様です」

 

 私は現実逃避も兼ね、ふと空を見上げた。

 

 お婆様が保健室で手を振っている気がした。

 

 頭では分かっていたが、これは想像以上。

 

 やはり、改革。徹底的な改革が必要だ。

 

 こんなものが来年も続く?

 

 そんな事が、許されて良い筈がない。

 

 医療従事者を、何だと思っているのだ。

 

 お婆様を、本当に過労死させる気か。

 

 教師陣は、これを認可したというのか。

 

 腹が立ち過ぎて、一周回って冷静だ。

 

 それはそうと体育祭後に最低でも、校長を治療。

 

 必要とあらば、教師全員を治療する必要があるが。

 

「ですが、まずは目の前の治療ですね」 

 

 そう言って、私は岩を掘り起こした。

 

 

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