俺は絶対勝たなきゃいけない。
どんな手を使ってでも必ず。
例えそれが褒められない手段でも。
ヒーロー科に入る為に。
「なぁ。良かったら俺と組まないか?」
そう言って、俺はA組のうちの一人。
名前は確か、尾白と言っただろうか?
まずは一人。そいつを
尾白はカクンと、半ば意識を失う。
此奴には悪いが、仕方ない。
(やっぱ、ヒーローらしくねぇよな)
そう言われるのは、もう慣れっこだ。
俺も他人が持っていたら、悪用を思い付く。
そういう世の中だ。どうしようもない。
でも、俺は
どうやったって、諦められなかった。
普通科に来てまで、夢にしがみついた。
だったら勝って、結果を残すしかない。
「おい、アンタ。ちょっといいか?」
俺は同じくA組の癒月に話し掛けた。
此奴の事は、良くも悪くも知ってる。
ヒーローらしいけど、全部滅茶苦茶。
傲慢なのか、謙虚なのか分からない。
理解しようとするだけ、多分無駄な奴。
今のところ、そんな認識だ。
まぁぶっちゃけ、関わりたくない。
(でも、それ以上に、暴走されると困るしな)
第1種目の障害物競争。
あれは本当にヒヤヒヤした。
俺の個性である洗脳は、問いかけに答えた相手をその気さえあれば、問答無用で操れる。
けれど、その洗脳は強い衝撃で簡単に解ける。
だというのに、此奴はレースそっちのけでロボを大量に破壊するわ、地雷を爆破するわで、洗脳を解き続け、俺は結局素の力のみで、第一種目を戦う羽目になった。
正直どれもこれも、生きた心地がしなかった。
意図せずやっていたのが、余計に質が悪い。
今度も同じ目に遭うのは御免だ。
(それに、此奴の第一種目の順位は4位。チームに入れるだけで、相応のPを稼げる。そうすれば、わざわざ1000万の取りに行く必要もない。俺の洗脳込みで、十分に勝ち上がれるPを稼げるはずだ。利用させて貰う)
故に、俺は癒月を返答を待った。
此奴にはまだ、個性がバレてない。
一度洗脳すれば、後はこっちのもの。
いくらでも、大人しくさせられる。
第一種目の大惨事も、まず有り得ない。
避けられる要素はないはずだ。
残る一人は、B組の奴を適当に───
「尾白君。大丈夫ですか?意識ありますか?」
「えっ、あの、ちょっと───」
「心拍正常。呼吸も問題なし。されど応答は無し。これはどういう事でしょう?白昼夢を見ているとでも?それとも疲労による失神?こうなれば保健室に───」
「ちょっと?おい、アンタ?」
しかし、癒月は問い掛けに答えなかった。
というより、俺の事など眼中にない。
洗脳された尾白の診察に集中し切っている。
聞く耳をまるで持っていない。
その挙げ句、尾白をお嬢様抱っこする始末だ。
本気で保健室まで連れて行くつもりらしい。
その動作で、掛けていた洗脳が解除される。
「……あれっ?俺は一体、何を……?」
「意識が戻ったようですね。ですが、決して動かないように。原因が分からない以上、しばらくは絶対安静です。このまま保健室まで運ばせて頂きます」
「えっ、保健室に──って、何これ?!癒月にお嬢様抱っこされてる!?どういう状況!?何があった!?じ、自分で立てるから、とりあえず下ろしてくれ!!」
「何を言ってるのです?貴方は先程まで気絶していたのですよ?原因が分かるまで、大人しく療養に専念しなさい。さもなくば、もう一度気絶させます。それに貴方程度、大した重量ではありませんし、医者が患者に寄り添うのは当然のこと。遠慮する必要などありません」
「そ、そうじゃなくて、胸当たってる!!」
「医療行為に恥じらいなど不要です」
癒月はそう言って、尚も尾白を抱え続けた。
対して尾白は、顔を赤らめ逃れようとする。
けれど、案の定、逃れる事は出来ない。
口で説得しようとしてもおそらく無駄だ。
そんな光景に、俺は思わず頭を抱えた。
途中まで上手く行ったのに、全て台無しだ。
(そんでもって、俺は何を見せられている?)
どうにか口に出さなかったが、思わずにいられない。
今は罪悪感よりも、困惑の感情の方が遥かに強い。
無論、嫌な顔をされる事は覚悟してた。
そういう個性で、そういう使い方をしたから。
けど、まさか、こんな事になるだなんて。
これっぽちも考えてなかった。
というか、考えられるはずがない。
……本当に、どうしてこうなった?
やっぱり、関わらなきゃ良かった。
「なるほど。尾白君の気絶の原因は貴方でしたか」
「途中から記憶が無いと思ったら通りで……」
「アンタには悪い事をしたと思ってるよ」
俺は仕方なく、個性の事を素直に話した。
あれで保健室に連れてかれたら流石に目覚めが悪い。
利用しようとしたとはいえ、不憫そのものだった。
尤も、状況が悪い事には変わりないが。
「しかし、洗脳とは面白い個性ですね。話し掛けるだけで、相手を無力化出来るとは実に羨ましい。暴れる患者に、わざわざ
「えっ……あれって麻酔代わりだったの?」
「そんな大層な個性じゃないさ。現に俺はあんた等みたいに、ヒーロー科には入れなかった。ついさっき見て、分かっただろうが、ヒーロー向けの個性じゃない」
「そんな事を言ったら、私は器用貧乏ですけど」
「アンタの場合、そのパワーがあれば十分だろ」
「それについては個性、一切関係ありませんが」
「……嘘だろ?まさか、素の腕力……?」
俺は何処か困惑しつつ、目線を逸らした。
全く責められないのが逆に不気味だ。
寧ろ、羨ましがるだなんてどうかしてる。
俺自身としては構わないが、こんな個性だ。
どんな犯罪だって、思うがままのそんな力。
羨ましがる理由なんて無いだろうに。
「一つ問診です、心操君。貴方に料理の経験は?」
「えっ、そりゃあ……人並み程度に」
「なら、包丁を使った経験は?」
「家庭科の授業とかでなら……一応」
「そうですか。それは実に結構」
そんな思考の渦に、俺が沈んでいると。
癒月はそんな質問を突然始めた
質問の内容としては、まぁ普通だろう。
けど、その一方で、意図が読み取れない。
こんな質問に何の意味が───
「では最後に、人を
しかし、彼奴が語った最後の質問。
それだけは酷く異質で、異様に冷たかった。
何を言っているのか、一瞬理解出来なかった。
脳が激しく理解を拒んでいる。
思わず背筋が震え、呼吸が小刻みに荒くなる。
この俺が、そんな事をやった……?
「ある訳ないだろ!!そんな経験!!」
咄嗟に大声を上げて、俺はその事実を否定した。
そんな経験全く無いし、やろうとも思わない。
どんな形であれ、そう思われるのが嫌だった。
それで柄にも無く、大声を出したからだろう。
後ろの尾白は、思わず目を丸くしていた。
自分が少し、恥ずかしい事をしたと遅れて気づく。
「失礼な質問でしたね。心より謝罪します」
「……いや、こっちも悪かった。大声を出して」
癒月はそう表情を変えず、軽く頭を下げた。
俺も何となく気まずくなって、軽く頭を下げる。
無言の沈黙が、今は心地良い。
「つまりはそういう事です。どれほど切れ味の良いメスも、使い手次第で凶器にもなれば、人を救う道具にもなる。そして、貴方はそれを理解している。ならば、結構ではありませんか。目指したいのならば、堂々と目指せばいいのです。その自由を侵す権利など誰にもない」
「……随分と、前向きな考えだな。励ましてるのか?羨ましいよ。けど、俺はそんな立派な奴じゃない。そりゃあ、個性を使って、犯罪をするつもりはないし、人を傷つけるつもりだってこれっぽちもない。でも、その程度だ。たかが知れてる。ついさっきだって……」
「尾白君の事を言っているのですか?それこそ、たかが知れてるでしょう。彼を使って、いかがわしい事をするつもりでも無かったでしょうし。貴方は貴方の力で、結果を出そうとしただけに過ぎない。無論、そこに責任は伴いますから、全ては尾白君次第でしょうけど」
「……正直な話。あまり良い気分ではなかったよ。仮に操られて勝ち上がろうものなら、迷わず棄権するぐらい。……でも、まぁ、それ以上の事を言うつもりはないかな。棄権の話にしたって、俺のプライドの問題だし。心操だって、本気で勝つ為に個性を使ったんだろ?なら、いいよ。俺の警戒不足だったってだけだ」
尾白はそう言って、何度か頷いてみせた。
自分を納得させようとしているらしい。
癒月はその様子を、無言で見ている。
どちらも俺を、訝しんでいない。
まるで訳が分からなかった。
言いたいこと自体は、何となく分かる。
きっと俺に、気を使っているのだろう。
でも、それで納得できるだなんて。
とてもじゃないが、信じられない。
どういう思考していれば、そうなるのだ。
俺は此奴等を、利用しようとしたのに。
何処まで行っても、こんな個性なのに。
「……どうやら貴方の症状は根深いようですね。緊急性は低いですが、治療の必要があります。そうですね。決めました。貴方、私とチームを組みなさい。患者である貴方に、拒否権はありません。調度良いので、尾白君も協力をお願いします。そうしないと人数足りませんし」
「……はぁ!?そんな勝手に……」
「乗り掛かった舟だから……俺はいいけど」
そんなこんなで、俺が混乱していると。
癒月は突然、そんな事を言い出した。
またも理解が追いつかず、変な声が出る。
尾白に至っては、既に諦めモードだ。
そうは言っても、最初に誘ったのは俺か。
「貴方は一度、理解する必要があります。誰もが自由を謳歌し、充実した人生を送る権利を持ち。貴方が何者で、どのような個性を持っていようと、それを理由に不自由でいていいはずがないと。その病を治す為、必ずや勝つ事を約束します。そして何より、それらを守り、時に取り戻させるのが、ヒーローと医者の仕事ですから」
癒月はそう何処までも傲慢に、揺るぎなく言った。
その言動もやろうとしている事も、全て無茶苦茶で。
何をする気か、何を考えているかも理解不能で。
けれど、その背中は大きく、熱く、温かく。
俺は何故だか、何かを期待していた。
まるで全てが、ひっくり返るみたいに。
「という訳で拳藤さん。これから始まる治療の為、ご協力をお願いします。現状、残る人材を考慮した結果、貴方が治療メンバーに最適だと判断しましたので」
「一応言っとくと……私、B組なんだけど」
「どうしてもって……聞き耳を持たなくて」
「クラスの事情など治療には関係ありません」
「……好き勝手暴走されるよりはマシか」
まぁ、でも、やっぱり不安ではあるが。
第2種目、騎馬戦。
その開始の火蓋が、遂に切って落とされた。
多くの騎馬が、一斉に走り出す。
「実質
「はっはっはっ!!緑谷君いっただくよー!!」
「その輝きは僕の物さ☆」
開始早々、狙われたのは緑谷君のチーム。
1000万を持っている以上は当然だ。
真っ先に向かったパクリの人のチームと、葉隠さんのチームに続き、他のチームも次々と向かって行く。
大混戦は免れないだろう。
「それはそうと、葉隠さんは何故裸に?アレで風邪を引いたら元も子もないでしょう。青山君や耳郎さん達も、どうして止めなかったのか……。テレビ放送もされているというのに……。今直ぐ、上着を貸しに行きたい」
「そんな暇は、まず絶対ないぞ。気持ちは分かるが」
「スーツの着用許可……結局、下りなかったんだ。本人はそれでもいいって言ってたから、それまでだけど」
「A組の奴等は、おかしい奴しかいないのか?」
「彼女の露出癖は、治療の必要がありますね」
「それ、お前が答えるのかよ」
その様子を、私達は遠目で見ていた。
無策で突っ込む程、こっちに余裕はない。
一方、緑谷君達は文字通り、飛んで逃げた。
おそらく、サポート科のアイテムによる跳躍だ。
防御の方も、常闇君の
見たところ、前後ともに隙が無い。
下手に突っ込めば、逆にハチマキを取られる。
訓練の時から思っていたが、かなりの汎用性だ。
私自身、一対一で勝てるかどうか分からない。
着地の方も、麗日さんの個性で隙が殆ど無かった。
正面突破は、まず不可能だろう。
「事前の打ち合わせ通り、緑谷君達は一旦スルーです。彼等にはあのまま、
周囲を見渡しつつ、私はそう言った。
緑谷君達は現在、峰田君達に狙われている。
この様子だと、爆豪君達も直ぐに来るだろう。
それに動きが遅い、轟君達の様子も気になる。
此処で下手に突っ込んでも体力の無駄遣いだ。
Pは欲しいが、戦える体力は残しておきたい。
ならば、横合いからの奇襲が最適解だろう。
相手が
「そうなってくると、A組もB組も見境なしか。ほぼ無理矢理入って貰った、拳藤さんには少し悪いけど」
「そいつに関しちゃ気にすんな。チームに入った時から、その覚悟は出来てる。それに此奴、事情はよく分からんが、また人にお節介焼いてんだろ?その手伝いってなら悪くない。前の
「………だったら、取りに行くか」
そんなこんなで、私達は遅れて動き出した。
まず手始めは、正面の障子君チーム。
あの巨体に峰田君と梅雨ちゃんを乗せてる。
その姿はさながら、装甲戦闘車両。
あれを放置するのは、後々面倒だ。
正面は厳しいので、背後から騎馬に接近。
そして私は、障子君の懐に飛び込み入り込む。
人一人、入れる隙間があって幸いだった。
「どうも。ハチマキを貰いに来ました」
「げぇ!?癒月!?
「すまん……中に入り込まれた!!」
「これって、ルール的にありなの?」
「かなり怪しいけど……ギリギリあり!」
「出来るだけ手早く頼むぞ!」
「閉じ込めるのも……無理か……っ!!」
中に入ると、峰田君が大声で悲鳴を上げた。
隣の梅雨ちゃんも、表情に出さず静かに驚いている。
まぁ実際、
そして私は、個性で手を巨大化させた拳藤さんに、入り込んだ隙間が閉じないよう、触手の出口を力技でこじ開けて貰いつつ、峰田君のハチマキを手早く掻っ攫う。
この時の抵抗らしい抵抗は、ほぼ皆無だった。
何せ此処は、障子君の触手の中。
下手に抵抗すると騎馬である障子君が崩れるか、逃げ場の無い密室で、共倒れになると悟ったのだろう。
本物の戦車相手でも使われた戦法だ。
固い敵には、内側から攻めるに限る。
「こらぁ!?ハチマキ泥棒!!」
「泥棒ではなく、医者志望兼ヒーロー志望です」
「くっそ!尾白が邪魔でもぎもぎも届かねぇ!」
「策士、策に溺れたわね」
「完全にやられたな」
「お前の尻尾、すげぇ紫のついてるぞ」
「上着巻き付けてなきゃ、ヤバかったかも」
「結局、上着は無くなる運命なのな」
こうして、私達はハチマキを奪って直ぐ離脱した。
後方のガードは、尾白君の尻尾があれば問題ない。
とはいえ、峰田君のもぎもぎ対策で、手持ちの上着を尾白君に貸した事により、葉隠さんに貸す予定だった上着の手持ちを、実質的に紛失してしまった訳であるが。
しかし、これは真剣勝負。
大変残念だが、多少の犠牲も仕方ない。
「まずは一つ。そして次です」
尾白君に貸していた上着を一旦捨てると。
私達は標的を切り替え、再度走り出した。
現在の経過時間は、ざっと3分程度。
制限時間までは、まだ余裕がある。
1000万も、未だ誰にも取られていない。
ならば、取れるハチマキを取るまで。
『やはり狙われる1位と、猛追を仕掛ける面々共に実力者揃い!そっちの戦いもすげぇがあっちも大概やべぇ!癒月チーム、騎馬という騎馬に奇襲を仕掛け、確実にハチマキを集めていく!7分目にして、怒涛の3騎馬目のハチマキを獲得だ!』
『合理的だが、最早ただの荒らしだな』
『横槍の概念なんぞバーサーカーにはねぇ!』
「誰がバーサーカーですか。失礼な」
「客観的に見りゃそりゃ事実だろ」
それから私達は、
新たに2本のハチマキを獲得した。
奪ったハチマキの持ち主は、どちらもB組。
片方が、取陰さんという人が騎手。
もう片方が、小大さんという人が騎手だった。
前者の方は、
後者の方は、こちらを警戒していた為か、ボンドのようなものを飛ばされ、動きを封じかけられたものの。
「おいっ!!接着剤頭!!」
「──っ?!」
心操君の咄嗟の洗脳で動きを逆に封じ、騎馬全体が動揺した隙を突き、どうにかハチマキを奪う事が出来た。
そして現在の私達の順位は暫定2位。
これだけ集めれば、一先ず負けはないだろう。
仮に1、2本取られても問題はない。
何より、制限時間半分を切ったせいだろうか?
私達を追う騎馬自体、かなり減ってる。
取り返すのは諦め、
合理的ではあるが、正直拍子抜けだ。
「爆豪君なら、必ず奪い返しに来るでしょうけどね」
「そりゃ、彼奴の性格ならな」
「けど、まぁ、他の人達は普通そうしないよね」
「手当たり次第、無差別に騎馬を襲うくせして、1000万には見向きもしないから行動が読めない。その上、ハチマキを仮に奪い返しても、残り時間的に割に合わないかもときたら、そりゃ無視するさ。俺でもそうする。あとはまぁ、純粋になるべく関わりたくないだろうし」
「だろうな」「だよね」
「職務を遂行しているだけなのですが」
ともあれ、そうこうしていると、状況が動いた。
私達の騎馬からやや離れた場所で、閃光が輝く。
そちらの方を見ると、騎馬の過半数が感電していた。
もしかしなくても、上鳴君の仕業だ。
より多くの騎馬が集まるのを待っていたらしい。
そして次の刹那、その周囲に冷気が走る。
『何だ何した!?群がる騎馬を轟一蹴!』
『上鳴の放電で、
『ナイス解説!!』
「第一種目の時から知ってたけどエゲツない……」
「これで実質、半分は脱落か」
「ヒーロー科の奴等はどいつもこいつも反則級かよ」
「それ、貴方が言います?」
この事態を引き起こしたのは当然、轟君。
感電させた騎馬の足を、例外なく凍結させ。
ついでとばかりに、ハチマキを奪いつつ。
緑谷君達と、相対するように現れた。
動ける騎馬は、今ので半分程に減った。
どうやら真正面から、やり合うつもりらしい。
『常闇の
『騎馬の完成度が飛び抜けてるだけはあるな』
それに対し、緑谷君達も応戦を始めた。
距離を取りつつ、時間稼ぎに徹するつもりだ。
常闇の
緑谷君の戦術眼も含め、時間稼ぎなら十分だろう。
一方、轟君は周囲を囲うように氷壁を展開。
緑谷君達を閉じ込めつつ、私達を外に追いやった。
これでは、横槍を入れるにも手間が要る。
何が何でも、1000万を取るつもりだ。
「こうなった以上、事前の打ち合わせ通りに、不意打ちするのは無理だ。仮に上手く行っても、轟んとこの前騎馬に、直ぐ追い付かれる。轟と上鳴の攻撃を躱しながら、逃げ切れる訳がない。1000万は諦めるべきだ」
私達はこれまで、緑谷君達を囮に使い。
此処までハチマキを奪って来た。
しかし、それはあくまで下準備。
此処までの動きは、1000万狙いであることを隠蔽しつつ、なるべく体力を温存し、疲弊した緑谷君達を最後の最後に、狙う為の布石だった。
幾つもの騎馬が戦場で入り混じり、混沌と化した盤面なら、咄嗟に何が起こったかも把握しにくい。
その隙を突けば、心操君の個性を用いた一撃離脱も、十分に成功の可能があると考えたからだ。
けれど、その大前提は盤ごと崩れた。
さっきの氷結で、騎馬の半数は戦闘不能。
こうも数が減れば、状況把握も容易い。
加えて、轟君のチームには飯田君が居る。
彼の足ならば、洗脳で一時的に動きを止めたとしても、直ぐに距離を詰められ、接近を許してしまう。
そうなれば、凍った騎馬の二の舞だ。
集めたハチマキも全て奪われるだろう。
「いいえ、まだです。可能性は残っています。不意打ちの効果は半減してしまいましたが、決してゼロではありません。ハチマキを
氷壁越しに、競り合う緑谷君達の姿が見えた。
開幕こそ押されていたが、上手く立ち回ってる。
どうにも轟君達は、攻めあぐねているらしい。
上鳴君の電撃も、
凍結の方も、味方が邪魔で出せないようだ。
このままだと、轟君達は絶対勝てない。
飯田君が仕掛ける可能性は、十分にある。
「けど、それはあくまで希望的観測だ。飯田がもし消耗してなかったら、全部水の泡だ。あわよくばとはそりゃ思ったが、リスクに見合ってない。それに持ち点だって勝つには十分過ぎるだろ。どうしてそこまで拘る?」
心操君の言う通り、これは合理的じゃない。
この作戦自体、初めからずっとそうだ。
勝つだけなら、横槍を入れるだけでいい。
もっと言うなら、全て洗脳でゴリ押せる。
此処まで派手に、動く必要なんて無かった。
どんなやり方でも、勝ちたいだけなら。
「そんなものは、貴方を治療する為に決まっています。貴方の病は、そうでもしなければ治らない。そして何より、貴方自身がそうしたいと望んでいるのですから。まず初めに言ったはずです。貴方はもっと、自分を自由にしていい。やりたいようにやれば良いと」
だからこそ、私はそれでもと断言した。
医者が病に屈する訳にはいかない。
困難な手術など、医療の世界では日常茶飯事だ。
この程度で弱音など吐いていられない。
そんな私に、心操君は少し黙りこくる。
「話すのは別に構わないが、ボサッとしてる余裕はないぞ。こっちに一騎馬、真っ直ぐ向かって来てる。運良く凍結は避けてたみたいだな」
一方、拳藤さんはそう言いつつ、軽く身構えた。
その言葉通り、騎馬がこちらに向かっている。
今現在残っている騎馬は、私達を除き5つ。
一つは、氷壁の向こうで戦う緑谷君達と轟君達。
一つは、凄い形相の爆豪君達とB組の金髪の人達。
そして最後に、妙に因縁のある人物のチーム。
「こうなったらしょうがねぇ!先にこっちからだ!」
「貴方は……パクリの人……っ!!」
「パクリじゃねぇよ!?その呼び名やめろ!!」
「彼奴の名前、鉄哲な」
「あっ、そうでしたか。今、初めて知りました」
「知らなかったのかよ!?そこは知っとけ!!」
ともあれ、鉄哲君達はこちらに突っ込んできた。
ついさっきまで、1000万狙いで動いていたはずなのだが、氷壁に阻まれた事で、標的を切り替えたらしい。
まぁ実際、氷壁の外で狙うなら私達だろう。
それだけの点数は、多分に抱えている。
私達は距離を取りつつ、並行して走り出した。
此処まで追い付かれた以上、逃げるのは不可能だ。
まして、奇襲など前提から成立しない。
「アンタ、無駄に暑苦しいな」
「暑苦しいがなんだ!それが俺───」
「馬鹿ッ!彼奴の応答に返事すんな!」
「やっぱ、トリガーは問答だったか」
「言っちゃ悪いが、凡戸の犠牲あってこそだな」
「正しく悪魔のささやき。浄化せねば」
「おっと、わりぃ!その手は食わん!」
「くっそ……バレてやがる」
ついでとばかりに、洗脳の方も効きそうにない。
ついさっきの戦いを、遠目で見られてたらしい。
そうなってくると、策より地力がものを言う。
隠し玉はあるが、今はまだその時じゃない。
実質、初の正面戦闘だが、仕方ないだろう。
こうなれば、お望み通り迎え撃つまで。
此処がまず初めの、踏ん張りどころだ。
「生憎ですが、治療の邪魔です」
私は敵のハチマキへ、腕を伸ばした。