治療狂人のヒーローアカデミア   作:熊田ラナムカ27

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15 心身ともに健康であってこそ

 

 俺は絶対勝たなきゃいけない。

 

 どんな手を使ってでも必ず。

 

 例えそれが褒められない手段でも。

 

 ヒーロー科に入る為に。

 

「なぁ。良かったら俺と組まないか?」

 

 そう言って、俺はA組のうちの一人。

 

 名前は確か、尾白と言っただろうか?

 

 まずは一人。そいつを()()した。

 

 尾白はカクンと、半ば意識を失う。

 

 此奴には悪いが、仕方ない。

 

(やっぱ、ヒーローらしくねぇよな)

 

 (ヴィラン)に向いている個性。

 

 そう言われるのは、もう慣れっこだ。

 

 俺も他人が持っていたら、悪用を思い付く。

 

 そういう世の中だ。どうしようもない。

 

 でも、俺は雄英(ここ)に来ちまった。

 

 どうやったって、諦められなかった。

 

 普通科に来てまで、夢にしがみついた。

 

 だったら勝って、結果を残すしかない。

 

「おい、アンタ。ちょっといいか?」

 

 俺は同じくA組の癒月に話し掛けた。 

 

 此奴の事は、良くも悪くも知ってる。

 

 ヒーローらしいけど、全部滅茶苦茶。

 

 傲慢なのか、謙虚なのか分からない。

 

 理解しようとするだけ、多分無駄な奴。

 

 今のところ、そんな認識だ。

 

 まぁぶっちゃけ、関わりたくない。

 

(でも、それ以上に、暴走されると困るしな)

 

 第1種目の障害物競争。

 

 あれは本当にヒヤヒヤした。

 

 俺の個性である洗脳は、問いかけに答えた相手をその気さえあれば、問答無用で操れる。

 

 けれど、その洗脳は強い衝撃で簡単に解ける。

 

 だというのに、此奴はレースそっちのけでロボを大量に破壊するわ、地雷を爆破するわで、洗脳を解き続け、俺は結局素の力のみで、第一種目を戦う羽目になった。

 

 正直どれもこれも、生きた心地がしなかった。

 

 意図せずやっていたのが、余計に質が悪い。

 

 今度も同じ目に遭うのは御免だ。

  

(それに、此奴の第一種目の順位は4位。チームに入れるだけで、相応のPを稼げる。そうすれば、わざわざ1000万の取りに行く必要もない。俺の洗脳込みで、十分に勝ち上がれるPを稼げるはずだ。利用させて貰う)

 

 故に、俺は癒月を返答を待った。

 

 此奴にはまだ、個性がバレてない。

 

 一度洗脳すれば、後はこっちのもの。

 

 いくらでも、大人しくさせられる。

 

 第一種目の大惨事も、まず有り得ない。

 

 避けられる要素はないはずだ。

 

 残る一人は、B組の奴を適当に───

 

「尾白君。大丈夫ですか?意識ありますか?」

 

「えっ、あの、ちょっと───」

 

「心拍正常。呼吸も問題なし。されど応答は無し。これはどういう事でしょう?白昼夢を見ているとでも?それとも疲労による失神?こうなれば保健室に───」

 

「ちょっと?おい、アンタ?」

 

 しかし、癒月は問い掛けに答えなかった。

 

 というより、俺の事など眼中にない。

 

 洗脳された尾白の診察に集中し切っている。

 

 聞く耳をまるで持っていない。

 

 その挙げ句、尾白をお嬢様抱っこする始末だ。

 

 本気で保健室まで連れて行くつもりらしい。

 

 その動作で、掛けていた洗脳が解除される。

 

「……あれっ?俺は一体、何を……?」

 

「意識が戻ったようですね。ですが、決して動かないように。原因が分からない以上、しばらくは絶対安静です。このまま保健室まで運ばせて頂きます」

 

「えっ、保健室に──って、何これ?!癒月にお嬢様抱っこされてる!?どういう状況!?何があった!?じ、自分で立てるから、とりあえず下ろしてくれ!!」

 

「何を言ってるのです?貴方は先程まで気絶していたのですよ?原因が分かるまで、大人しく療養に専念しなさい。さもなくば、もう一度気絶させます。それに貴方程度、大した重量ではありませんし、医者が患者に寄り添うのは当然のこと。遠慮する必要などありません」

 

「そ、そうじゃなくて、胸当たってる!!」

 

「医療行為に恥じらいなど不要です」

 

 癒月はそう言って、尚も尾白を抱え続けた。

 

 対して尾白は、顔を赤らめ逃れようとする。

 

 けれど、案の定、逃れる事は出来ない。

 

 口で説得しようとしてもおそらく無駄だ。

 

 そんな光景に、俺は思わず頭を抱えた。

 

 途中まで上手く行ったのに、全て台無しだ。

 

(そんでもって、俺は何を見せられている?)

 

 どうにか口に出さなかったが、思わずにいられない。

 

 今は罪悪感よりも、困惑の感情の方が遥かに強い。

 

 無論、嫌な顔をされる事は覚悟してた。

 

 そういう個性で、そういう使い方をしたから。

 

 けど、まさか、こんな事になるだなんて。

 

 これっぽちも考えてなかった。

 

 というか、考えられるはずがない。

 

 ……本当に、どうしてこうなった?

 

 やっぱり、関わらなきゃ良かった。

 

「なるほど。尾白君の気絶の原因は貴方でしたか」

 

「途中から記憶が無いと思ったら通りで……」

 

「アンタには悪い事をしたと思ってるよ」

 

 俺は仕方なく、個性の事を素直に話した。

 

 あれで保健室に連れてかれたら流石に目覚めが悪い。

 

 利用しようとしたとはいえ、不憫そのものだった。

 

 尤も、状況が悪い事には変わりないが。

 

「しかし、洗脳とは面白い個性ですね。話し掛けるだけで、相手を無力化出来るとは実に羨ましい。暴れる患者に、わざわざ(ますい)を使う必要もありませんし」

 

「えっ……あれって麻酔代わりだったの?」

 

「そんな大層な個性じゃないさ。現に俺はあんた等みたいに、ヒーロー科には入れなかった。ついさっき見て、分かっただろうが、ヒーロー向けの個性じゃない」

 

「そんな事を言ったら、私は器用貧乏ですけど」

 

「アンタの場合、そのパワーがあれば十分だろ」

 

「それについては個性、一切関係ありませんが」

 

「……嘘だろ?まさか、素の腕力……?」

 

 俺は何処か困惑しつつ、目線を逸らした。

 

 全く責められないのが逆に不気味だ。

 

 寧ろ、羨ましがるだなんてどうかしてる。

 

 俺自身としては構わないが、こんな個性だ。

 

 どんな犯罪だって、思うがままのそんな力。

 

 羨ましがる理由なんて無いだろうに。

 

「一つ問診です、心操君。貴方に料理の経験は?」

 

「えっ、そりゃあ……人並み程度に」

 

「なら、包丁を使った経験は?」

 

「家庭科の授業とかでなら……一応」

 

「そうですか。それは実に結構」

 

 そんな思考の渦に、俺が沈んでいると。

 

 癒月はそんな質問を突然始めた

 

 質問の内容としては、まぁ普通だろう。

 

 けど、その一方で、意図が読み取れない。

 

 こんな質問に何の意味が───

 

「では最後に、人を()()()()()()()()?」

 

 しかし、彼奴が語った最後の質問。

 

 それだけは酷く異質で、異様に冷たかった。

 

 何を言っているのか、一瞬理解出来なかった。

 

 脳が激しく理解を拒んでいる。

 

 思わず背筋が震え、呼吸が小刻みに荒くなる。

 

 この俺が、そんな事をやった……?

 

「ある訳ないだろ!!そんな経験!!」

 

 咄嗟に大声を上げて、俺はその事実を否定した。

 

 そんな経験全く無いし、やろうとも思わない。

 

 どんな形であれ、そう思われるのが嫌だった。

 

 それで柄にも無く、大声を出したからだろう。

 

 後ろの尾白は、思わず目を丸くしていた。

 

 自分が少し、恥ずかしい事をしたと遅れて気づく。

 

「失礼な質問でしたね。心より謝罪します」

 

「……いや、こっちも悪かった。大声を出して」

 

 癒月はそう表情を変えず、軽く頭を下げた。

 

 俺も何となく気まずくなって、軽く頭を下げる。

 

 無言の沈黙が、今は心地良い。

 

「つまりはそういう事です。どれほど切れ味の良いメスも、使い手次第で凶器にもなれば、人を救う道具にもなる。そして、貴方はそれを理解している。ならば、結構ではありませんか。目指したいのならば、堂々と目指せばいいのです。その自由を侵す権利など誰にもない」

 

「……随分と、前向きな考えだな。励ましてるのか?羨ましいよ。けど、俺はそんな立派な奴じゃない。そりゃあ、個性を使って、犯罪をするつもりはないし、人を傷つけるつもりだってこれっぽちもない。でも、その程度だ。たかが知れてる。ついさっきだって……」

 

「尾白君の事を言っているのですか?それこそ、たかが知れてるでしょう。彼を使って、いかがわしい事をするつもりでも無かったでしょうし。貴方は貴方の力で、結果を出そうとしただけに過ぎない。無論、そこに責任は伴いますから、全ては尾白君次第でしょうけど」

 

「……正直な話。あまり良い気分ではなかったよ。仮に操られて勝ち上がろうものなら、迷わず棄権するぐらい。……でも、まぁ、それ以上の事を言うつもりはないかな。棄権の話にしたって、俺のプライドの問題だし。心操だって、本気で勝つ為に個性を使ったんだろ?なら、いいよ。俺の警戒不足だったってだけだ」

 

 尾白はそう言って、何度か頷いてみせた。

 

 自分を納得させようとしているらしい。

 

 癒月はその様子を、無言で見ている。

 

 どちらも俺を、訝しんでいない。

 

 まるで訳が分からなかった。

 

 言いたいこと自体は、何となく分かる。

 

 きっと俺に、気を使っているのだろう。

 

 でも、それで納得できるだなんて。

 

 とてもじゃないが、信じられない。

 

 どういう思考していれば、そうなるのだ。

 

 俺は此奴等を、利用しようとしたのに。

 

 何処まで行っても、こんな個性なのに。

 

「……どうやら貴方の症状は根深いようですね。緊急性は低いですが、治療の必要があります。そうですね。決めました。貴方、私とチームを組みなさい。患者である貴方に、拒否権はありません。調度良いので、尾白君も協力をお願いします。そうしないと人数足りませんし」

 

「……はぁ!?そんな勝手に……」

 

「乗り掛かった舟だから……俺はいいけど」

 

 そんなこんなで、俺が混乱していると。

 

 癒月は突然、そんな事を言い出した。

 

 またも理解が追いつかず、変な声が出る。

 

 尾白に至っては、既に諦めモードだ。

 

 そうは言っても、最初に誘ったのは俺か。

 

「貴方は一度、理解する必要があります。誰もが自由を謳歌し、充実した人生を送る権利を持ち。貴方が何者で、どのような個性を持っていようと、それを理由に不自由でいていいはずがないと。その病を治す為、必ずや勝つ事を約束します。そして何より、それらを守り、時に取り戻させるのが、ヒーローと医者の仕事ですから」

 

 癒月はそう何処までも傲慢に、揺るぎなく言った。

 

 その言動もやろうとしている事も、全て無茶苦茶で。

 

 何をする気か、何を考えているかも理解不能で。

 

 けれど、その背中は大きく、熱く、温かく。

 

 俺は何故だか、何かを期待していた。

 

 まるで全てが、ひっくり返るみたいに。

 

「という訳で拳藤さん。これから始まる治療の為、ご協力をお願いします。現状、残る人材を考慮した結果、貴方が治療メンバーに最適だと判断しましたので」

 

「一応言っとくと……私、B組なんだけど」

 

「どうしてもって……聞き耳を持たなくて」

 

「クラスの事情など治療には関係ありません」

 

「……好き勝手暴走されるよりはマシか」

 

 まぁ、でも、やっぱり不安ではあるが。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 第2種目、騎馬戦。

 

 その開始の火蓋が、遂に切って落とされた。

 

 多くの騎馬が、一斉に走り出す。

  

「実質それ(1000万)の争奪戦だ!!!」

 

「はっはっはっ!!緑谷君いっただくよー!!」

 

「その輝きは僕の物さ☆」

 

 開始早々、狙われたのは緑谷君のチーム。

 

 1000万を持っている以上は当然だ。

 

 真っ先に向かったパクリの人のチームと、葉隠さんのチームに続き、他のチームも次々と向かって行く。

 

 大混戦は免れないだろう。

 

「それはそうと、葉隠さんは何故裸に?アレで風邪を引いたら元も子もないでしょう。青山君や耳郎さん達も、どうして止めなかったのか……。テレビ放送もされているというのに……。今直ぐ、上着を貸しに行きたい」

 

「そんな暇は、まず絶対ないぞ。気持ちは分かるが」

 

「スーツの着用許可……結局、下りなかったんだ。本人はそれでもいいって言ってたから、それまでだけど」

 

「A組の奴等は、おかしい奴しかいないのか?」

 

「彼女の露出癖は、治療の必要がありますね」

 

「それ、お前が答えるのかよ」

 

 その様子を、私達は遠目で見ていた。

 

 無策で突っ込む程、こっちに余裕はない。

 

 一方、緑谷君達は文字通り、飛んで逃げた。

 

 おそらく、サポート科のアイテムによる跳躍だ。

 

 防御の方も、常闇君の黒影(ダークシャドウ)が直ぐカーバーする。

 

 見たところ、前後ともに隙が無い。

 

 下手に突っ込めば、逆にハチマキを取られる。

 

 訓練の時から思っていたが、かなりの汎用性だ。

 

 私自身、一対一で勝てるかどうか分からない。

 

 着地の方も、麗日さんの個性で隙が殆ど無かった。

 

 正面突破は、まず不可能だろう。

 

「事前の打ち合わせ通り、緑谷君達は一旦スルーです。彼等にはあのまま、()になってもらいます。私達が狙うのは、緑谷君(1000万)狙いの他のチーム。適度にハチマキを奪いつつ、とにかく逃げ。消耗の方も最低限です」

 

 周囲を見渡しつつ、私はそう言った。

 

 緑谷君達は現在、峰田君達に狙われている。

 

 この様子だと、爆豪君達も直ぐに来るだろう。

 

 それに動きが遅い、轟君達の様子も気になる。

 

 此処で下手に突っ込んでも体力の無駄遣いだ。

 

 Pは欲しいが、戦える体力は残しておきたい。

 

 ならば、横合いからの奇襲が最適解だろう。

 

 相手が緑谷君(1000万)狙いなら逃げも攻めも容易い。

 

「そうなってくると、A組もB組も見境なしか。ほぼ無理矢理入って貰った、拳藤さんには少し悪いけど」

 

「そいつに関しちゃ気にすんな。チームに入った時から、その覚悟は出来てる。それに此奴、事情はよく分からんが、また人にお節介焼いてんだろ?その手伝いってなら悪くない。前の()()もあるしな。やるだけやるさ」

 

「………だったら、取りに行くか」

 

 そんなこんなで、私達は遅れて動き出した。

 

 まず手始めは、正面の障子君チーム。

 

 あの巨体に峰田君と梅雨ちゃんを乗せてる。

 

 その姿はさながら、装甲戦闘車両。

 

 あれを放置するのは、後々面倒だ。

 

 正面は厳しいので、背後から騎馬に接近。

 

 そして私は、障子君の懐に飛び込み入り込む。

 

 人一人、入れる隙間があって幸いだった。

 

「どうも。ハチマキを貰いに来ました」

 

「げぇ!?癒月!?緑谷(1000万)狙いじゃねぇのか!?」

 

「すまん……中に入り込まれた!!」

  

「これって、ルール的にありなの?」

 

「かなり怪しいけど……ギリギリあり!」

 

「出来るだけ手早く頼むぞ!」

 

「閉じ込めるのも……無理か……っ!!」

 

 中に入ると、峰田君が大声で悲鳴を上げた。

 

 隣の梅雨ちゃんも、表情に出さず静かに驚いている。

 

 まぁ実際、緑谷君(1000万)に全員の意識さえ向いていなければ、入り込むのも無理だったろうから仕方ない。

 

 そして私は、個性で手を巨大化させた拳藤さんに、入り込んだ隙間が閉じないよう、触手の出口を力技でこじ開けて貰いつつ、峰田君のハチマキを手早く掻っ攫う。

 

 この時の抵抗らしい抵抗は、ほぼ皆無だった。

 

 何せ此処は、障子君の触手の中。

 

 下手に抵抗すると騎馬である障子君が崩れるか、逃げ場の無い密室で、共倒れになると悟ったのだろう。

 

 本物の戦車相手でも使われた戦法だ。

 

 固い敵には、内側から攻めるに限る。

 

「こらぁ!?ハチマキ泥棒!!」

 

「泥棒ではなく、医者志望兼ヒーロー志望です」

 

「くっそ!尾白が邪魔でもぎもぎも届かねぇ!」

 

「策士、策に溺れたわね」

 

「完全にやられたな」

 

「お前の尻尾、すげぇ紫のついてるぞ」

 

「上着巻き付けてなきゃ、ヤバかったかも」

 

「結局、上着は無くなる運命なのな」

 

 こうして、私達はハチマキを奪って直ぐ離脱した。

 

 後方のガードは、尾白君の尻尾があれば問題ない。

 

 とはいえ、峰田君のもぎもぎ対策で、手持ちの上着を尾白君に貸した事により、葉隠さんに貸す予定だった上着の手持ちを、実質的に紛失してしまった訳であるが。

 

 しかし、これは真剣勝負。

 

 大変残念だが、多少の犠牲も仕方ない。

 

「まずは一つ。そして次です」

 

 尾白君に貸していた上着を一旦捨てると。

 

 私達は標的を切り替え、再度走り出した。

 

 現在の経過時間は、ざっと3分程度。

 

 制限時間までは、まだ余裕がある。

 

 1000万も、未だ誰にも取られていない。

 

 ならば、取れるハチマキを取るまで。

 

『やはり狙われる1位と、猛追を仕掛ける面々共に実力者揃い!そっちの戦いもすげぇがあっちも大概やべぇ!癒月チーム、騎馬という騎馬に奇襲を仕掛け、確実にハチマキを集めていく!7分目にして、怒涛の3騎馬目のハチマキを獲得だ!』

 

『合理的だが、最早ただの荒らしだな』

 

『横槍の概念なんぞバーサーカーにはねぇ!』

 

「誰がバーサーカーですか。失礼な」

 

「客観的に見りゃそりゃ事実だろ」

 

 それから私達は、緑谷君(1000万)狙いの騎馬を狙い。

 

 新たに2本のハチマキを獲得した。

 

 奪ったハチマキの持ち主は、どちらもB組。

 

 片方が、取陰さんという人が騎手。

 

 もう片方が、小大さんという人が騎手だった。

 

 前者の方は、緑谷君(1000万)のハチマキを狙い、意識があちらに向いていた所を、横合いからハチマキを奪い、飛んで来る手や石を、尾白君にガードしてもらって逃げ切り。

 

 後者の方は、こちらを警戒していた為か、ボンドのようなものを飛ばされ、動きを封じかけられたものの。

 

「おいっ!!接着剤頭!!」

 

「──っ?!」

 

 心操君の咄嗟の洗脳で動きを逆に封じ、騎馬全体が動揺した隙を突き、どうにかハチマキを奪う事が出来た。

 

 そして現在の私達の順位は暫定2位。

 

 これだけ集めれば、一先ず負けはないだろう。

 

 仮に1、2本取られても問題はない。

 

 何より、制限時間半分を切ったせいだろうか?

 

 私達を追う騎馬自体、かなり減ってる。

 

 取り返すのは諦め、緑谷君(1000万)狙いに戻ったらしい。

 

 合理的ではあるが、正直拍子抜けだ。

 

「爆豪君なら、必ず奪い返しに来るでしょうけどね」

 

「そりゃ、彼奴の性格ならな」

 

「けど、まぁ、他の人達は普通そうしないよね」

 

「手当たり次第、無差別に騎馬を襲うくせして、1000万には見向きもしないから行動が読めない。その上、ハチマキを仮に奪い返しても、残り時間的に割に合わないかもときたら、そりゃ無視するさ。俺でもそうする。あとはまぁ、純粋になるべく関わりたくないだろうし」

 

「だろうな」「だよね」

 

「職務を遂行しているだけなのですが」

 

 ともあれ、そうこうしていると、状況が動いた。

 

 私達の騎馬からやや離れた場所で、閃光が輝く。

 

 そちらの方を見ると、騎馬の過半数が感電していた。

 

 もしかしなくても、上鳴君の仕業だ。

 

 より多くの騎馬が集まるのを待っていたらしい。

 

 そして次の刹那、その周囲に冷気が走る。

 

『何だ何した!?群がる騎馬を轟一蹴!』

 

『上鳴の放電で、()()()動きを止めてから凍らせた……。流石というか……障害物競走で、結構な数に避けられたのを省みているな』

 

『ナイス解説!!』

 

「第一種目の時から知ってたけどエゲツない……」

 

「これで実質、半分は脱落か」

 

「ヒーロー科の奴等はどいつもこいつも反則級かよ」

 

「それ、貴方が言います?」

 

 この事態を引き起こしたのは当然、轟君。

 

 感電させた騎馬の足を、例外なく凍結させ。

 

 ついでとばかりに、ハチマキを奪いつつ。

 

 緑谷君達と、相対するように現れた。

 

 動ける騎馬は、今ので半分程に減った。

 

 どうやら真正面から、やり合うつもりらしい。

 

『常闇の黒影(ダークシャドウ)がお返しとばかりに攻撃!しかし、その攻撃は八百万に防がれる!攻守ともに隙がねぇ!』

 

『騎馬の完成度が飛び抜けてるだけはあるな』

 

 それに対し、緑谷君達も応戦を始めた。

 

 距離を取りつつ、時間稼ぎに徹するつもりだ。

 

 常闇の黒影(ダークシャドウ)にはそれだけのポテンシャルがある。

 

 緑谷君の戦術眼も含め、時間稼ぎなら十分だろう。

 

 一方、轟君は周囲を囲うように氷壁を展開。

 

 緑谷君達を閉じ込めつつ、私達を外に追いやった。

 

 これでは、横槍を入れるにも手間が要る。

 

 何が何でも、1000万を取るつもりだ。

 

「こうなった以上、事前の打ち合わせ通りに、不意打ちするのは無理だ。仮に上手く行っても、轟んとこの前騎馬に、直ぐ追い付かれる。轟と上鳴の攻撃を躱しながら、逃げ切れる訳がない。1000万は諦めるべきだ」

 

 私達はこれまで、緑谷君達を囮に使い。

 

 此処までハチマキを奪って来た。

 

 しかし、それはあくまで下準備。

 

 此処までの動きは、1000万狙いであることを隠蔽しつつ、なるべく体力を温存し、疲弊した緑谷君達を最後の最後に、狙う為の布石だった。

 

 幾つもの騎馬が戦場で入り混じり、混沌と化した盤面なら、咄嗟に何が起こったかも把握しにくい。

 

 その隙を突けば、心操君の個性を用いた一撃離脱も、十分に成功の可能があると考えたからだ。

 

 けれど、その大前提は盤ごと崩れた。

 

 さっきの氷結で、騎馬の半数は戦闘不能。

 

 こうも数が減れば、状況把握も容易い。

 

 加えて、轟君のチームには飯田君が居る。

 

 彼の足ならば、洗脳で一時的に動きを止めたとしても、直ぐに距離を詰められ、接近を許してしまう。

 

 そうなれば、凍った騎馬の二の舞だ。

 

 集めたハチマキも全て奪われるだろう。 

 

「いいえ、まだです。可能性は残っています。不意打ちの効果は半減してしまいましたが、決してゼロではありません。ハチマキを()()()()なら可能なはずです。何より緑谷君が、飯田君の切り札を引き出さない訳がない」

 

 氷壁越しに、競り合う緑谷君達の姿が見えた。

 

 開幕こそ押されていたが、上手く立ち回ってる。

 

 どうにも轟君達は、攻めあぐねているらしい。

 

 上鳴君の電撃も、黒影(ダークシャドウ)に全て防がれている。

 

 凍結の方も、味方が邪魔で出せないようだ。

 

 このままだと、轟君達は絶対勝てない。

 

 飯田君が仕掛ける可能性は、十分にある。

 

「けど、それはあくまで希望的観測だ。飯田がもし消耗してなかったら、全部水の泡だ。あわよくばとはそりゃ思ったが、リスクに見合ってない。それに持ち点だって勝つには十分過ぎるだろ。どうしてそこまで拘る?」

 

 心操君の言う通り、これは合理的じゃない。

 

 この作戦自体、初めからずっとそうだ。

 

 勝つだけなら、横槍を入れるだけでいい。

 

 もっと言うなら、全て洗脳でゴリ押せる。

 

 此処まで派手に、動く必要なんて無かった。

 

 どんなやり方でも、勝ちたいだけなら。

 

「そんなものは、貴方を治療する為に決まっています。貴方の病は、そうでもしなければ治らない。そして何より、貴方自身がそうしたいと望んでいるのですから。まず初めに言ったはずです。貴方はもっと、自分を自由にしていい。やりたいようにやれば良いと」

 

 だからこそ、私はそれでもと断言した。

 

 医者が病に屈する訳にはいかない。 

 

 困難な手術など、医療の世界では日常茶飯事だ。

 

 この程度で弱音など吐いていられない。

 

 そんな私に、心操君は少し黙りこくる。

 

「話すのは別に構わないが、ボサッとしてる余裕はないぞ。こっちに一騎馬、真っ直ぐ向かって来てる。運良く凍結は避けてたみたいだな」

 

 一方、拳藤さんはそう言いつつ、軽く身構えた。

 

 その言葉通り、騎馬がこちらに向かっている。

 

 今現在残っている騎馬は、私達を除き5つ。

 

 一つは、氷壁の向こうで戦う緑谷君達と轟君達。

 

 一つは、凄い形相の爆豪君達とB組の金髪の人達。

 

 そして最後に、妙に因縁のある人物のチーム。

 

「こうなったらしょうがねぇ!先にこっちからだ!」

 

「貴方は……パクリの人……っ!!」

 

「パクリじゃねぇよ!?その呼び名やめろ!!」

 

「彼奴の名前、鉄哲な」

 

「あっ、そうでしたか。今、初めて知りました」

 

「知らなかったのかよ!?そこは知っとけ!!」

 

 ともあれ、鉄哲君達はこちらに突っ込んできた。

 

 ついさっきまで、1000万狙いで動いていたはずなのだが、氷壁に阻まれた事で、標的を切り替えたらしい。

 

 まぁ実際、氷壁の外で狙うなら私達だろう。

 

 それだけの点数は、多分に抱えている。

 

 私達は距離を取りつつ、並行して走り出した。

 

 此処まで追い付かれた以上、逃げるのは不可能だ。

 

 まして、奇襲など前提から成立しない。

 

「アンタ、無駄に暑苦しいな」

 

「暑苦しいがなんだ!それが俺───」 

 

「馬鹿ッ!彼奴の応答に返事すんな!」

 

「やっぱ、トリガーは問答だったか」

 

「言っちゃ悪いが、凡戸の犠牲あってこそだな」

 

「正しく悪魔のささやき。浄化せねば」

 

「おっと、わりぃ!その手は食わん!」

 

「くっそ……バレてやがる」

 

 ついでとばかりに、洗脳の方も効きそうにない。

 

 ついさっきの戦いを、遠目で見られてたらしい。

 

 そうなってくると、策より地力がものを言う。

 

 隠し玉はあるが、今はまだその時じゃない。

 

 実質、初の正面戦闘だが、仕方ないだろう。

 

 こうなれば、お望み通り迎え撃つまで。

 

 此処がまず初めの、踏ん張りどころだ。

 

「生憎ですが、治療の邪魔です」

 

 私は敵のハチマキへ、腕を伸ばした。

 

 

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ヒーローになるための学校らしいが▼気付いたら着せ替えばかりしている気もする▼まあいい▼服は楽しいからな▼今日も誰かが着替える▼多分爆豪だと思う▼AIに描いてもらった主人公ビジュ▼【挿絵表示】▼


総合評価:1404/評価:7.97/連載:37話/更新日時:2026年08月16日(日) 13:53 小説情報

個性、海賊。ヒーロー向きじゃないって?これ以上ない英雄の個性だろ!(作者:紡縁永遠)(原作:僕のヒーローアカデミア)

事の始まりは中国、軽慶市。『発光する赤児が産まれた』というニュースだった。▼ 以降各地で「超常」は発見され、いつしか「超常」は「日常」に、「架空(ゆめ)」は「現実」となった。世界総人口の約八割が何らかの「特異体質」である現在、個性を悪用する敵(ヴィラン)により混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が、脚光を浴びていた。そう、「ヒーロー」と呼ば…


総合評価:814/評価:5.67/連載:8話/更新日時:2026年08月30日(日) 00:00 小説情報

僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ(作者:スパイダーキャット)(原作:僕のヒーローアカデミア)

個性「蜘蛛」──▼安良久根(あらくね)イトは、ヒーローではなくサポート科を志望する内気な少女だった。▼しかしある事件をきっかけに、彼女は走り出す。▼「救えるヒーロー」を目指して。▼ヒロアカ世界にどうしてもスパイダーマン的な個性の子を出したくなった結果生まれました。▼※アンチ・ヘイトは念のためです。▼


総合評価:2241/評価:8.6/連載:35話/更新日時:2026年04月15日(水) 18:00 小説情報

闇なる鴉はかく語りき(作者:とんこつラーメン)(原作:僕のヒーローアカデミア)

あの日、俺が『彼女』と出会ったのは偶然だったのかもしれない。▼けど、出会ったこと自体は決して間違いではなかったと今でも思っている。▼彼女がいなかったら、色んなことが変わっていたかもしれないから。▼これは、そんな闇の中で生きて、闇の中で育ってきた『彼女』と、アングラな俺が出会ったことで始まる物語だ。▼


総合評価:968/評価:8.17/連載:30話/更新日時:2026年09月03日(木) 20:37 小説情報

地獄の氷叢さん家(作者:M.T.)(原作:僕のヒーローアカデミア)

地獄の轟くん家以上に地獄の氷叢分家の女の子がヒーローを目指すお話。▼燈矢くんや外典くんを見て、氷叢の血が濃くなりすぎた末路が気になって執筆した作品です。▼※注意▼・女主です。▼・お話の都合上、青山くんが出てきません。すまんな。▼・他作品のクロスオーバーをやり出す可能性があります。▼・オリ主の必殺技や一部設定のみ、以下のキャラの要素があります。▼ ・クザン(O…


総合評価:2013/評価:7.89/連載:62話/更新日時:2026年09月02日(水) 15:34 小説情報


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