治療狂人のヒーローアカデミア   作:熊田ラナムカ27

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16 医者は患者に応えるもの

 

 鉄哲のとこの騎馬とやり合い始めてから、数分。

 

 俺達は互いに駆け回り、隙を見つけ手を伸ばし。

 

 個性をぶつけ合い、何度もハチマキを奪おうとした。

 

 けど、こっちが手を伸ばせば向こうも防ぐ。

 

 向こうが仕掛けてくれば、今度は俺達が凌ぐ。

 

 その決着は、未だついていない。

 

「手の内はやっぱ、全部バレてるって訳か拳藤!!こっちも似たようなもんだけどな!!裏切ったなんて言うつもりねぇけど、奪ったB組(うち)のハチマキは取り返させて貰うぞ!!そんでもって、俺等が勝つ!!」

 

「そりゃ、同じB組なんだから手の内くらい分かってるよ!でも、それはこっちも同じ!悪いけど、負けるつもりだって、こっちもない!勝つのは私等だ!」

 

 俺の個性が知られていた一方、相手は全員B組。

 

 幸いな事に、その個性は拳藤が把握していた。

 

 そうでなかったら、今頃取られている。

 

 とはいえ、分かっていても、取れないのだが。

 

「尾の守り手が想像以上に固い。流石はかの狂戦士に率いられているという訳ですね。ですが、私の裁きから逃れる手段はありません」

 

「尾の守り手って……俺のこと?それは随分な評価だね。尤もこっちは、評価なんてしてる暇ないけど!」

 

 髪である蔓を伸ばし、ハチマキを奪おうとする塩崎。

 

 その攻撃を、尾白はほぼ一人で防ぎ続けていた。

 

 守りを一手に任せている以上、負担は計り知れない。

 

 けれど、あらゆる方向から伸び、時に死角を突いてくる蔓を防ぐには、尾白の守りに頼るしかなかった。

 

 その顔には、既に疲労の色が滲んでいる。

 

「鉄哲っ!防御だ!フェイントに釣られるなよ!」

 

「あっぶね!なんつー、馬鹿力してやがんだ!俺が騎手じゃなきゃ、とっくに崩れてるぞ!泡瀬、サンキュ!個性関係無しでアレとか、つくづくとんでもねぇな!」

 

「分かってはいましたが、切島君同様、怯んではくれませんか。騎馬戦である以上、無理矢理には崩せませんし。その手の個性は守りに入ると、本当に厄介ですね」

 

 一方、癒月はハチマキを奪う為、攻撃に専念。

  

 これまで同様、時折フェイントを織り交ぜながら、その怪力で相手を怯ませ、騎手の守りが一瞬崩れた隙を突いて、ハチマキを奪おうとする。

 

 けれど、今回の相手はよりによって鉄哲。

 

 その個性故に、癒月の攻撃を受けても一向に怯まず、本人の胆力も相まって守りが崩れる気配もない。

 

 それに加え、泡瀬のサポートもあってか、フェイントにも簡単には引っ掛からず、癒月がどれだけ仕掛けようと、その攻撃を正面から弾き返してくる。

 

 騎馬戦という性質上、あまり力技に頼れないのもあってか、相性がかなり悪く、無表情ではあるが目に見えて攻めあぐねてる様子だ。

 

 鉄哲に何度も攻撃を弾かれた手は、その苦戦を物語るように薄く血が滲み、既にボロボロになってる。

 

 かと言って、もっと深く踏み込み、その守りを強引に崩そうにも、そう簡単にはいかない。

 

「不味い!近寄り過ぎ!全員、一旦下がって!骨抜に引き摺り込まれる!」

  

「あと一歩だったのに惜しいな。もう少しで詰みだったのに。まぁ一度、引き離せただけでも十分か」

 

 俺達が下がった直後、居た場所の地面が沈んだ。

 

 骨抜の個性で、地面を柔らかくされたせいだ。

 

 そこ等一帯は、まるで泥沼のようになってる。

 

 あと少し遅かったら、身動きも取れなくなってた。

 

 この数分間、ずっとこの繰り返しだ。

 

 どうにかハチマキこそ奪われていないが、攻めても攻め切れず、踏み込み過ぎれば骨抜に狙われ、そうなれば下がるしかなく、体力ばかりが削られていく消耗戦。

 

 前半、温存してた分もこれでパーだ。

 

 全員の顔に、疲労の色が滲んでいる。

 

 取れてない向こうも、似た心境かもしれないが。

 

『残り時間ももう間もなく3分!!轟チームの苛烈な攻撃に、意外にも粘る緑谷チーム!!鉄哲チームと癒月チームは互いに距離を取って睨み合う!!現在、ゼロ点の爆豪チームは脱出に必死!!対してハチマキを奪った物間チームは、無理をせず余裕の構え!!全体的に決め手に欠き、戦況は膠着状態まっしぐらだァ!!』

 

『今動ける騎馬の総合力に、差は殆どない。どのチームも試合の決めるだけの切り札を、それぞれ抱えている。それを何時、どう切るかで、戦況は大きく変わるだろうな。この膠着状態も、どの道長くはもたん』

 

 とはいえ、厳しいのはこちら側だ。

 

 互いに消耗こそしているが、地力がそもそも違う。

 

 このまま長期戦になったら、絶対勝てない。

 

「心操君、大丈夫ですか?まだ動けますか?」

 

「……ああ、どうにか。まだ行ける」

 

「無理はするなよ。それで倒れちゃ元も子もない」

 

「大分な無茶をずっとしてるしね」

 

「……こんな所でも、差が出るなんてな」

 

 その原因は、紛れもない俺だ。

 

 他の奴等と比べ、圧倒的に体力が足りない。

 

 鍛えてたつもりだったが全然だ。

 

 この中で俺だけが、明らかに息を切らしてる。

 

 攻めと守りの繰り返しで、かなり削られた。

 

 その事実が悔しくて、思わず下唇を噛む。

 

 思い上がりもいいところだと、自分に言いたい。

 

「ですが、無理はして貰いますよ。無論、健康維持に問題の無い範囲でですが。鉄哲君達を今直ぐにでも倒し、緑谷君達の1000万を取る必要がありますから」

 

「お前まだ、それ諦めてなかったのかよ……」

 

 そんな俺に、癒月はやはり迷わず言った。

 

 さっきまでボロボロだった手はもう治っている。

 

 本人の治癒の個性で治したのだろう。

 

 けれど、治癒による疲れは一切見えない。

 

 戦闘中の治癒は疲労が大きいと言っていたのに。

 

 あまりの理不尽さに、思わず笑いが零れた。

 

 個性抜きにしても、此奴は俺より強い。

 

「なぁ、癒月。一つ聞いていいか?お前はどうしてヒーローになりたい?金の為か?有名になりたいからか?お前の場合、どっちも違うだろうけど。どうしてだ?」

 

 騎馬戦の真っ最中にも関わらず。

 

 俺は気づけば、そんな事を聞いていた。

 

 他の2人は、少し目を丸くしている。

 

 当然だろう。俺自身、理由なんて分からない。

 

 それなのに何故か、そうしたくなった。

 

 多分、たったそれだけの理由だ。

 

「私がヒーローになりたい理由は、病に苦しむ人全てを救う為です。この世界は、命を粗末にし過ぎている。救いを必要とする患者が多過ぎます。それをどうにかするには、根本治療以外の方法はありませんので」

 

「ああ、そうかよ。そりゃ大層な理由だな。俺の理由なんかとは比べるまでもない。……ただ、そいつに憧れちまったなんていう、ありふれた理由よりかはずっと」

 

 よく考えれば、俺はずっと合理的じゃない。

 

 なんで俺は、此奴等を洗脳しなかった?

 

 そのタイミングは、幾らでもあったのに。

 

 馬鹿正直に、堂々と勝ちに行った?

 

 勝ちだけなら、利用すればいいだけだった。

 

 なのに俺は、無意識のうちに拘ってた。

 

 同じ夢を持つ、此奴等と勝ちたいと思ってた。

 

 まるで合理的じゃない。

 

 いくら考えても、理由はやっぱり分からない。

 

「それの何処が大層な理由じゃないんだよ。私だって似たようなもんだし。というより、雄英(ここ)の奴等は大抵そうだ。お前って結構、熱い奴だったんだな」

 

「……別に、俺はそんなんじゃない」

 

「でも、まぁ、いいんじゃないの?ありふれた理由で。癒月さんの言葉借りるようだけど、やりたいようにやれば良いと思うし。そういう理由で目指すんだったら、心操はきっと良いヒーローになれるよ」

 

「……うっせぇ。また洗脳するぞ」

 

 やりたいようにやれば良い。

 

 そんな気持ちを、ずっと抑え込んできた。

 

 こんな敵(ヴィラン)向けの個性だからって。

 

 ヒーロー向いてないって、勝手に決めつけて。

 

 でも、そんなの必要なんてなかった。

 

 誰がどう言おうと、関係なかった。

 

 だって俺は。それでも、ヒーローになりたい。

 

「どうやら病は、ほぼ完治したようですね。大変、何よりです。その上で尋ねますが、どうしますか?貴方はどうしたいですか?それを是非、聞かせて下さい」

 

 俺を治してみせた、此奴みたいに。

 

『残り時間3分!!膠着する一角に動きがあった!!癒月チーム、守りを捨て鉄哲チームへ正面から突撃!!攻め切れねぇ状況に、とうとうヤケになったか!?』

 

『ちげぇだろ。どう見ても』

 

「正面突破とは男らしいじゃねぇか!!だったら、こっちも迎え撃つまでだ!!骨抜、一気に沈めろ!!」

 

「言われるまでもない」

 

 骨抜は地面に手を付く動作を取った。

 

 迫る俺達をまとめて沈めるつもりだ。

 

 アレを一度でも喰らったら終わり。

 

 ここまで膠着していたのもアレが原因だ。

 

 だったら、発動させなければいい。

 

「拳藤ッ!!今だ!!」

 

「よっし!!任せて!!」

 

「ッ!?マジか!!」

 

 拳藤は手を巨大化させ、それを大きく振るった。

 

 それに伴い、強烈な突風が発生する。

 

 騎馬への直接攻撃は駄目だが、これならセーフだ。

 

 骨抜は騎馬が崩れないよう、個性の発動を止める。

 

 その隙に俺達は、懐へ一気に飛び込む。

 

「この距離なら沈められないよな!!」

 

「まさか、お前が攻撃に参加するとは」

 

「くっそ!!これじゃあ身動きが取れねぇ!!」

 

 そして癒月は鉄哲の腕を掴み、動きを封じた。

 

 これでこっちも動けないが、近距離戦なら分がある。

 

 此処まで近づけば、味方ごと沈めてしまう可能性がある以上、骨抜も個性を迂闊に発動する事は出来ない。

 

 攻めと守りの繰り返しは、もう終わりだ。

 

『ちょっと待て!?おかしくね!?なんで騎馬の拳藤まで攻撃に参加してんだ!?相手の騎馬に普通に攻撃してるし!!上には癒月が乗ったままだし!!土台足りなきゃ余裕で崩れるだろ!?まさか普通科の個性か!?』

 

『ンな訳あるか。よく見ろ』

 

 勿論これは、最初から賭けだ。

 

 長期戦が出来ない以上、仕方ない。

 

 だからこそ、守りは全部捨てた。

 

 その全てを、攻撃に集中させる為に。

 

『何じゃありゃ!?力技にも程があるだろ!!後ろの騎馬だけで騎手を支えてやがる!!』

 

『癒月の人並み外れた体幹あってこそだな。他の騎馬で真似しようとしたら直ぐに崩れる。それでも後ろの2人には相当な負担が掛かってるはずだ。機動力も格段に落ちるだろうしな。此処で決め切る気らしい』

 

「思ってた以上に、キツイな……ッ!!」

 

「悪い!!直ぐ支えに戻る!!」

 

「重いとは、言いたくないけど……ッ!!」

 

 俺と尾白は、ありったけの力を腕に込め続けた。

 

 もう既に腕は震え、息も軽く上がっている。

 

 肩や脚も、少しずつ悲鳴を上げ始めていた。

 

 自分で提案しといてアレだが、無茶が過ぎる。

 

「しかし、言ったはずです。裁きからは逃れられない」

 

 そんな状況で当然のように、塩崎は蔓を伸ばした。

 

 骨抜を出し抜いても、相手にはこれがある。

 

 この距離なら、尾白もガードに入れない。

 

 距離を離せない今、癒月は格好の的だ。

 

 流石の癒月も、死角からの攻撃は反応出来ない。

 

「手を放して、一瞬しゃがめ」

 

 だからこそ、先に手は打っておいた。

 

 癒月は鉄哲から手を放し、素早く身を屈める。

 

 それによって、塩崎の蔓は紙一重で空を切った。

 

 本人が無理なら、他が反応すればいい。

 

「まさか、癒月を操ったのか!?」

 

 突撃する前、癒月には洗脳を掛けておいた。

 

 こんな使い方をする事になるとは思ってなかった。

 

 自分から洗脳に掛かる奴なんて、初めてだ。

 

 本当に彼奴は、つくづくイカれてる。

 

「全員、右方向から離脱。跳びます」

 

 俺が洗脳を解除した直後。

 

 癒月は端的にそう言った。

 

 そして言葉通り、彼奴は跳ぶ。

 

「なっ……しまったッ……!!」

  

『癒月、爆豪よろしくジャンプで宙に跳んだ!!すれ違いざまにハチマキを奪取!!しかし、着地はどうする気だ──おっと!?落ちる先に尾白の尻尾があった!!』

 

「引き寄せられないけど、これぐらい!!」

 

 そして癒月は、離脱する俺達とそのまま合流。

 

 伸ばされた尻尾を足場に、再度大きく跳ねた。

 

 まるで、サーカスの曲芸師のように。

 

 その跳躍の先にいるのは、駆けてくる拳藤。

 

 手を巨大化させ、受け止める準備を済ませている。

 

「拳藤さん。着地お願いします」

 

「分かってるって!ナイスキャッチ!」

 

「洗脳解けたばっかで、よくやるよ」

 

「患者の頼みに付き合うのも仕事です」

 

 これで鉄哲チームの持ち点はゼロ点。

 

 奪ったハチマキの数は4本になった。

 

 残り時間も、もう少しで1分。

 

 後は逃げれば、勝ちは固いだろう。

 

 それでも、騎馬が足を止める事は無い。

 

 目指すは、緑谷達が居る氷壁の先。

 

「このまま一気に1000万を奪いに行きます」

 

「結局全部、お前の思惑通りか」

 

「嫌なら止めますが。今なら必要なさそうですし」

 

「此処まで来たら、最後まで付き合う」

 

 そして癒月は、氷壁の一角を粉砕した。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 この騎馬戦が始まってから数分。

 

 心操君に必要な治療は、既に終わった。

 

 正直なところ、1000万はもう必要ない。

 

 けれど、治療も勝利も完璧に成し遂げる。

 

 患者に応えてこその一流。

 

 ならば、取る以外の選択肢は無い。

  

『癒月チーム、残り1分で氷壁内に侵入!!狙うは轟が持つ1000万!!完全勝利に向け突撃!!荒らしはバーサーカーの本領ってな!!最後の最後の大乱戦だ!!』

 

「レシプロを使い切ったタイミングで……!!」

 

「デク君!!どうする!?」

 

「このまま行くしかない!!」

 

「やらせるかよ……!!」

 

 1000万は現在、轟君が持っていた。

 

 緑谷君からつい先程、奪ったらしい。

 

 どうやら飯田君が、切り札を切ったようだ。

 

 緑谷君は構えを取り、轟君は氷を放とうとする。

 

 しかし、こっちにも切り札はある。

 

「おい、轟。そいつは貰うぞ」

 

「誰が───」

 

「轟君?!」「轟さん!?」

 

「そういう事なので」

 

 心操君は開幕早々、轟君を洗脳した。

 

 彼の洗脳は、初見ではまず防げない。

 

 だからこそ、此処まで交戦を避けた。

 

 これで凍結される心配はない。

 

 このまま1000万まで、一気に近づける。

 

「上鳴さん!!放電を!!」

 

「ウェェェイッ!!」

 

 しかし、その後の対応は思ったより早かった。

 

 轟君の代わりに、八百万さんが指示を出す。

 

 自分達が感電しない用意もバッチリだ。

 

 上鳴君は、行動不能覚悟で放電を放った。

 

 余程、私達を近づけたくないらしい。

 

 これには堪らず、常闇君は防御を選んだ。

 

 緑谷君も、攻めを中断するしかない。

 

 それでも、私達は突撃を選択する。

 

 切り札は1枚とは限らない。

 

「治療天使の聖域(ナイチンゲール・サンクチュアリ)」

 

 私の個性、ヒーリングオーラーは体内で生成したエネルギーを手から放出し、対象の治癒力を活性化すると同時に、私が病原体と判断したウイルス等を弾き飛ばす。

 

 前者の性質は母様とお婆様の個性。

 

 後者は父様の個性から遺伝している。

 

 つまり、父様の個性である防壁。

 

 その力の一端を、私が使えない筈がない。

 

 そう考え、これまで訓練を重ねてきた。

 

 脳無と戦ってからは、より一層。

 

 寿命を削らずともいいように。

 

 その結果が、これだ。

 

『なんだ!?何が起きた!?癒月のチームの周囲に突如としてバリアみてぇなものが出現!!上鳴の電撃を弾き飛ばして攻撃を防いだ!!ありゃ癒月の仕業か?!此処まで来ると何でもありだな!!理不尽の権化め!!』

 

「そんなものまで隠してたなんて……!」

 

「どれか分からないので、全部貰います」

 

 放出したエネルギーで、障壁を作りつつ。

 

 私は轟君の首元と頭からハチマキを全て取った。

 

 相手が動けないからこそ出来る、力技だ。

 

 そのまま横を通り過ぎ、私達は離脱を図る。

 

 これ以上、此処に長居する理由は無い。

 

「一体何が……それよりも常闇君!!」

 

「黒影(ダークシャドウ)!!」『アイヨ!!』

 

 案の定、緑谷君は仕掛けてきた。

 

 洗脳に掛かってない分、行動が早い。

 

 尤も、轟君も洗脳が解けている頃合だ。

 

 指示を受けた黒影(ダークシャドウ)が、私達を攻撃する。

 

 治療天使の聖域(ナイチンゲール・サンクチュアリ)は、エネルギーで障壁を作る技だ。

 

 しかし、その障壁は壁というより保護膜に近い。

 

 イメージするのであれば、薬品用のゴム手袋だ。

 

 父様の個性が多少遺伝してるとはいえ、私の個性の本質はあくまで治癒と、ウイルス等の殺菌や消毒。

 

 その為、ガスや電気、炎といった直接的な質量を持たない攻撃には強い反面、純粋な物理攻撃に対する耐久力はかなり低く、障壁の硬さは厚い木の板程度しかない。

 

 此処まで使わなかったのも、それが理由だ。

 

「話に聞いてたけど、見た目に反してほんと脆いな」

 

「バリアのあちこちにヒビが……!!」

 

「そりゃ最後まで出し渋る訳だよ!」

 

「常闇君の攻撃に、2発耐えただけ御の字です」

 

 現に、障壁はほぼ崩れかかっていた。

 

 訓練の時の黒影(ダークシャドウ)なら、とっくに破っている。

 

 理由は不明だが、幸運にも弱体化してたらしい。

 

 その直後、背後から冷気が走る。

 

「こっちも負ける訳にはいかねぇんだ……!!」

 

 轟君の氷撃が、障壁に直撃した。

 

 凍結こそ免れるも、障壁は完全に崩れ去る。

 

 このまま抗戦すれば、負けは必須だ。

 

 こちらには、あの氷撃を防ぐ手段は無い。

 

 障壁を再度展開しようにも、溜めが要る。

 

 交戦していればの、話ではあるが。

 

「すまん……やはり動けん……!!」 

 

「もう限か……ウェェェ………」

 

「これでは届かない……!」

 

「くっそ……此処まで来て……!!」

 

 轟君のチームの総合力は、断トツだ。

 

 矛の上鳴君に、矛にも盾にもなれる轟君。

 

 サポート特化の八百万さんに、足の飯田君。

 

 けれど、致命的に継戦能力が無い。

 

 序盤、様子を見ていたのもそれが理由だろう。

 

 足の飯田君が潰れたのが、決定打だ。

 

 切り札は後出しするに限る。 

 

『終盤の消耗が此処で響いた!!轟チーム、残り時間30秒で沈黙!!癒月チームは反対側の氷壁を破壊し、逃げの一手!!だがしかし、追手はまだ残っている!!緑谷チーム、執念の追撃だァ!!バリアはもう無い!!』

 

 対して、緑谷君のチームはバランスが取れてる。

 

 飛び抜けては無いが、どんな状況でも対応可能。

 

 というより、黒影(ダークシャドウ)の汎用性が高過ぎる。

 

 ある程度距離が離れていても、お構いなしだ。

 

 黒影(ダークシャドウ)の黒い腕が、背後から迫る。

 

 一人で全部賄えるなど、どうかしている。

 

「ならば、こっちは全員で対抗です」

 

『おっと、癒月チーム!!此処で例の力技だ!!機動力を捨て前騎馬の拳藤も守りに参戦!!癒月に尾白、拳藤の3人掛かり!!流石の常闇も押し切れない!!』

 

『残り僅かなら、確かに有効だ』

 

「守るだけなら、遣り様はある!!」

 

「こうもお膳立てされちゃあね!!」

 

「ハチマキに触れる事も出来ないか……!!」

 

 これにより黒影(ダークシャドウ)の攻撃を、どうにか防御。

 

 そのまま防御を続けつつ、私達は逃げを継続した。

 

 機動力は落ちたが、逃げない理由は無い。

 

 距離こそ離れてるが、緑谷君達は確実に迫っている。

 

 それに続くように、鉄哲君のチーム。

 

 凄い形相の轟君も、ゆっくりだが同様だ。

 

 とてもじゃないが、油断など出来ない。

 

「クソがァ!!ピンク髪ィ!!」

 

 そして案の定、爆豪は単独で跳んで来た。

 

 切島君や芦戸さん、瀬呂君を置き去りにして。

 

 やはり、自力飛行出来るのは便利だ。

 

 怒声とともに、その腕が首元に迫る。

 

 今の私は黒影(ダークシャドウ)への対処で手一杯。

 

 拳藤さんも尾白君も、爆豪君まで阻む余裕は無い。

 

 そっちに意識を割けば、常闇君に取られる。

 

 とはいえ、油断はしてないが、心配はしてない。

 

「うっせぇんだよ。爆破野郎」

 

「んだてめぇ!!殺すぞ───」

 

 心操君の個性は、爆豪君達に知(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 

 当然、その声に返事をすればどうなるかも。

 

 次の瞬間、爆豪君の動きが止まった。

 

 爆破による推進が切れ、勢いが失われる。

 

 その首元には、残りのハチマキが巻かれていた。

 

 私はそれを迷わず全て取る。

 

 偶然にも、これで全て揃った。

 

「爆豪、大丈夫か!?」

 

「やべぇ、ハチマキ!!」

 

「嘘っ!!そんな!?」

 

「ちっ……まだだァ!!もう一度だァ!!」

 

「せめて……1枚だけでも……ッ!!」

 

 爆豪君は、瀬呂君に引き寄せられた後。

 

 再び、爆破で跳躍。

 

 緑谷君もまた、騎馬を足場に跳ぶ。

 

 轟君は届かないと分かりつつ、氷結を放った。

 

 他の騎馬も、我武者羅にこちらへ向かう。

 

 けれど、もう、どれも届く事は無い。

 

「皆さん、治療お疲れさまでした」

 

『TIME UP!!そこまで!!』

 

 プレゼント・マイクの声が会場中に響いた。

 

 一瞬の静寂の後、大歓声が巻き起こる。

 

 首元には計12枚のハチマキ。

 

 私達の、医療の、完全勝利だ。

 

 

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