治療狂人のヒーローアカデミア   作:熊田ラナムカ27

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17 笑顔とは健康の証明

 

 騎馬戦が終わっても尚、大歓声は続いた。

 

 その歓声に、実況の声すらかき消されている。

 

 首元の汗を腕で拭い、私は騎馬から降りた。

 

 慣れない個性の使用法は、流石に疲れる。

 

「ほんとに勝っちゃったよ。それも、ぶっちぎりで」

 

「正直、振り回されてただけな気もするけど」

 

 拳藤さんと尾白君は、それぞれそう呟いた。

 

 未だ勝利の実感が湧いていないようだ。

 

 私からすれば、勝つのは当然だったのだが。

 

 どうやら、2人にとってはそうではないらしい。

 

 最後に関しては、純粋にラッキーだったが。

 

「心操君、改めて治療お疲れ様でした。それと、つい先程はありがとうございます。お陰で助かりました」

 

「……礼は良いよ。勝つ為にやれる事をやっただけだ。尤も今回ので、手の内は全部バレちまったけどな」

 

「そういう割には、良い顔をしていますが」

 

 心操君は膝に手を突き、息を吐いていた。

 

 体力的には、限界ギリギリだったらしい。

 

 隠しておきたい個性の多用にしたってそうだ。

 

 よく最後まで、頑張ってくれたと思う。

 

「……ぶっちゃけた話。次を考えるなら、俺はお前と、やっぱり組むべきじゃなかった。俺にとっちゃ、今年含めてもあと2回しか無い、数少ないチャンスだからな。それで決勝まで行けたんだから、文句は言えないけど」

 

「ええ。無論、承知の上です。後悔はしてませんが」

 

「後悔してねぇのかよ。……でも、俺が元々考えたやり方じゃ、きっとこんな景色は見れなかった。こっちこそありがとな」

 

 何度も言うように所詮、医療はお節介だ。

 

 ヒーロー活動にしたって、それは同じ。

 

 その行いが、時に間違いとなる時もある。

 

 それでも、その歩みを止めてはいけない。

 

「かっこよかったぞ心操!すっげーな!」

 

「正直、ビビったよ!俺ら普通科の星だな!」

 

「しかも、1位って!!快挙じゃん!!快挙!!」

 

「あれって、心操のとこの普通科の人達?」

 

「めっちゃはしゃいでる。そりゃそっか」

 

 そこに笑顔があるなら、それ以上の理由は要らない。

 

「急にどうしたんだよ?手なんか差し出して」

 

「実は私、病院から患者が退院する時に、医者と患者が共に手を握り合う光景に憧れてまして。尤も、貴方は入院もしてませんし、医者として、私が連れ添った期間も大した事はありませんが……差し支えなければと」

 

「癒月、そんな顔も……出来たんだ」

 

「何時もとの……ギャップが凄い」

 

「要するに、握手って事か?……それぐらいなら」

 

「では、今後とも健康でありますように」

 

 私は最後に心操君と、握手を交わした。

 

 拳藤さんや尾白君とも同様に。

 

 これが私にとって、密やかな報酬だ。

 

 体育祭は終わってないが、また頑張れる。

 

 医者志望として、ヒーロー志望として歩めそうだ。

 

 もし敵になった時は、容赦はしないが。

 

『すっごく青臭い青春してて、このまま見ていたいけど……一旦、そこまで!!騎馬戦の結果についての協議が今終わったわ!!全員、集合して頂戴!!』

 

「啖呵切ったのに、結局いいとこ無しだったわ。芦戸の頑張りのお陰で、だいぶ早くB組の拘束からは脱出出来たけどよ。取ったハチマキも結局取られちまったし」

 

「めちゃくちゃレアな、癒月ちゃんの満面の笑みも取られちゃったし……なんか複雑。というか、あの子の個性!!流石に強過ぎない!?アレで普通科!?」

 

「それ以前に、爆豪君が無防備に突っ込むのが悪いですけどね。敵の個性も分かってないのに、一人で突撃するだなんて、下策中の下策です。正しく鴨ネギでした」

 

「……てめぇ、それ以上言ったら、殺すぞ」

 

「怒り過ぎて逆に静かになってる……怖っ」 

 

 そんなこんなで、私達が話し込んでいると。

 

 中央のミッドナイト先生から、号令が掛かった。

 

 私は芦戸さん達と合流しつつ、中央に向かう。

 

 例年通りなら、私達だけ勝ち上がるのは無しだろう。

 

 少し惜しい気もするが、大会が成り立たない。

 

 後ろの爆豪君は、絶対納得しないだろうけど。

 

 あと、ミッドナイト先生のカメラは私物だろうか?

 

「協議の結果、決勝戦に4人だけ出場っていうのは流石にアレだから、癒月チームにハチマキを奪われる直前まで、ハチマキを保持していたチームの順に、3チームを決勝に繰り上げますっ!!よって、爆豪チーム、轟チーム、緑谷チームは決勝進出!!この決定に納得出来ない人も居るかもしれないけど、その雪辱は決勝で晴らして頂戴!!災害に襲われたとでも思って!!」

 

「誰が災害ですか。正当な結果です」

 

「先生、そこはバーサーカーだろ」

 

「そうね。失礼したわ」

 

「そこは訂正しなくて結構です」

 

 そして案の定、私達以外の3チーム。

 

 計12名も、決勝戦へ駒を進める事になった。

 

 組み合わせについては、昼食後らしい。

 

 例年通りなら、1対1でのトーナメント。

 

 とことんシンプルな力の比べ合いだ。

 

 ようやく、此処まで辿り着いた。

 

 このまま一気に優勝して、体育祭を改革する。

 

『1時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!オイ、イレイザーヘッド飯行こうぜ……!』

 

『寝る』『ヒュー!』

 

「癒月。緑谷もいいか?」

 

「轟君?どうかしたの?」

 

「怪我をしましたか?直ちに検査を」

 

「そうじゃねぇ。……少し、話がある」

 

 そう決意を新たに、私が食堂に向かおうとすると。

 

 何故か険しい顔の轟君に、呼び止められた。

 

 同じく呼び出された、緑谷君も困惑している。

 

 試合前にわざわざ呼び出す理由など、無い筈だが。

 

 怪我でないなら、やはり病気だろうか?

 

「それでどうしましたか?症状について教えて下さい」

 

「うん、違うと思うよ。多分」

 

「ならば、身内の病ですか?無論、守秘義務は厳守しますので、安心してお話し下さい」

 

「それはちょっと……失礼じゃないかな?」

 

「……ある意味、合ってるかもしれねぇ」

 

「合ってるの!?」

 

「なるほど。よく話してくれましたね」

 

 そして私達は、人目の無い廊下に移動した。

 

 そこで幾つか言葉を交わしていくと、轟君は呼び出した事情について、少しずつ話し始めてくれた。

 

 身内の病を他人に話すのは、中々に覚悟が要る。

 

 話し辛そうにしているのも納得だ。

 

「緑谷には気圧された。自分(てめぇ)の制約を破っちまう程に」

 

(……そういえば使ってなかった……左側)

 

「癒月には負けた。目の前の事にばっか必死になって、周りが見えなくなって、完膚なきまでに嵌められた。お前だけじゃなく、普通科の奴も警戒するべきだった」

 

「そうなるよう、動いていましたし」

 

「つまり……どういう………」

 

「……緑谷には、オールマイトと何かしらの繋がりがある。癒月はリカバリーガールの孫で、脳無と対等にやり合うだけの実力を持ってる。だったら、俺は……尚更勝たなきゃいけねぇ。この右の力だけで」

 

 そこで一度、轟君は言葉を切る。

 

「俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ?万年No.2のヒーローだ」

 

 そして轟君は、自分の過去を語り出した。

 

 彼が頑なに、左の力を使わない理由を。

 

 決して消える事の無い、火傷の理由を。

 

 彼の出生に、大きく関わる狂気を。

 

 まぁ、とりあえず、エンデヴァーは病気だ。

 

 検査をしないと確信は出来ないが、十中八九そうだ。

 

 拘束した後、迅速な治療の必要がある。

 

 いっそ今日中にでも、治療してしまいたい。

 

 自覚症状もあるのに、気付かないフリだなんて。

 

 仮にもNo.2が、なんという有様だ。

 

 そんなだから、オールマイトに勝てないというのに。

 

「ざっと話したが、俺がお前等につっかかんのは見返す為だ。クソ親父の個性なんざなくたって。……いや……使わず『一番になる』ことで奴を完全否定する」

 

「そうですか。事情については、よく理解しました。問診へのご協力、ありがとうございます」 

 

「…………」

 

 話は終わり、廊下には重い空気が流れた。

 

 さながら、病院の待合室のように。

 

 緑谷君は、事情の重さに黙り込んだ。

 

 轟君は何も言わず、少し遠くを見る。

 

 仕方ない事だが、全く度し難い。

 

「ですが、その上で私は貴方に、言わなければいけません。身近に病人がいれば、その病がうつる事もある。人である以上、誰もが病に侵され得る」

 

「……何を言ってやがる?どういう意味だ?」

 

 私は轟君と、まだあまり親しくない。

 

 まして、その過去の内実も知り得ない。

 

 けれど、今の問診で確信した。

 

 それを見逃す程、私は甘くない。

 

 医者の本能が、そうはっきり告げている。

 

「轟焦凍。貴方は病気です。貴方は治療を受ける必要があります。その為には敗北が必須です。よって、私に倒されなさい。これは決定事項です」

 

 私の言葉に轟君は、大きく目を見開いた。

 

 緑谷君も同様に、軽く表情を強張らせる。

 

 けれど、何かを察した様子だ。

 

 確信はせずとも、何となく分かったらしい。

 

 病状は案外、本人以外には分かるものだ。

 

 ついさっきとは、また別の空気が流れる。

 

「病気……?俺がか……?何を言ってやがる……?」

 

「分からなくて結構。患者に自覚症状が無いのは、よくある事です。ですが、問題ありません。責任をもって治療しますから」

 

「……まるで意味が分からねぇ」

 

 轟君は少し間を置き、困惑したように眉を寄せた。

 

 自覚症状はやはり無いようだ。

 

 思っていた以上に、症状は深刻らしい。

 

 これではとても、特効薬(ヒーロー)にはなり得ない。

 

 笑えない人間が、自らも病に侵されている人間が。

 

 どうやって、目の前の人を救うのか?

 

 そんな事は、とても出来やしない。

 

「今の貴方に何を言っても無駄でしょう。僅かな言葉で、貴方の根幹を揺るがせる程、自惚れていません。況して、貴方の想いを否定出来る訳がない。故に、私は正面から、貴方を叩きのめします。騎馬戦以上に。完膚なきまでに。ヒーロー志望として、医者志望として、貴方の病を徹底的に殺し尽くします。それが私の在り方ですから。負ける気は欠片も無いという事です」

 

 私にとって、体育祭の目標は改革。

 

 けれど、最優先事項は患者の治療。

 

 ならば、治療するしかない。

 

 患者がどう思おうと、何一つ例外はない。

 

 そこに病が、存在するのだから。

 

 彼をこのまま放置など出来ない。

 

「轟君。僕は……ずうっと助けられてきた。さっきの騎馬戦だってそうだ。……誰かに救けられてここに居る」

 

 そして緑谷君は、轟君にそう言った。

 

 その思いは強く、そして熱い。

 

 轟君の言葉にも、引けを取っていない。

 

「オールマイト……彼のようになりたい。その為には、一番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら、些細な動機かもしれない。癒月さんの治療に懸ける思いにも、届かないかもしれない。でも、僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人達に応える為にも……!」

 

 私は緑谷君の過去を、何一つとして知らない。

 

 彼が何故、自己犠牲病を患ったのかも。

 

 自らを傷つけて尚、立ち上がるのかも。

 

 それでも、その夢に懸ける情熱は分かる。

 

 私と同じ、救ってくれた人に憧れる気持ちも。

 

 だからこそ、彼は此処に居るのだろう。

 

「だから、さっき受けた宣戦布告。改めて僕からも……僕も、君に勝つ!!」

  

 廊下に流れる空気が、また変わった。

 

 さながら、闘技場の控室のように。

 

 互いの意地とプライド、そして信念。

 

 その全てがぶつかり合い、火花を散らす。

 

 やがて、辺りを静寂が満たした。

 

 嵐の前の静けさのように。

 

「……あんまりにも、突拍子もない事を互いに言ったせいで、少し話がややこしくなっちまったが。つまり、俺はお前等を倒す。お前等は俺を倒す。それでいいか?」

 

「ええ、一向に。分かりやすくて結構です」

 

「……うん。僕も、それでいい」

 

「……そうか。時間を取らせたな」

 

 そして私達は、無言でその場を後にした。

 

 それ以上の会話は要らないとばかりに。

 

 互いにやるべき事はハッキリした。

 

 負けられない理由が全員にある。

 

 何一つとして、間違った理由は無い。

 

 ならば後は、全力でぶつかるのみ。

 

 非常にシンプルで、単純な治療だ。

 

 何時もこうなら、ありがたいのだが。

 

「おっ、居た居た!こんな所に居たのか!」

 

「早くこっちに来いって!」

 

 それからしばらく経ち、昼食を取り終え。

 

 昼休憩も、ようやく終わりを迎えた。

 

 私達は再度、スタジアム中央に集まる。

 

『最終種目発表の前に予選落ちの皆に朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場のアメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん?アリャ?』

 

『なーにやってんだ……?』

 

「見ての通り、チアガールです」

  

『どーしたA組!!?』

 

 なお、A組女子は全員チアコス姿。

 

 ほぼ全員、真顔だが問題ではない。

 

 葉隠さんは、表情が本当に見えないが。

 

「峰田さん上鳴さん!!騙しましたわね!?」

 

「アホだろアイツ等……癒月も止めに入らないし」

 

「それどころか、最後は私達に勧めてたしね」

 

 私はあの後、峰田君と上鳴君に呼び出された。

 

 そして何故か、チアコスを着るようにと言われた。

 

 女子全員で、応援合戦をするという名目で。

 

 その言葉が嘘だとは、何となく感づいていた。

 

 どうせ、良からぬ理由なのだろうとも。

 

「ですが、心の健康の為ですし」

 

「そうとも!!チアとは心のオアシス!!」

 

「俺等男子のやる気倍増!!健康増進!!」

 

「そう言われては、仕方ありません」

 

「癒月ちゃんが結構、チョロいの忘れてた……」

 

「医療ワードに弱過ぎ……」

 

「芦戸さんや皆さんも似合ってますよ」

 

「「「そういう問題じゃない」」」

 

 峰田君と上鳴君は、満足気にハイタッチした。

 

 このような治療法があるとは、初めて知った。

 

 精神治療としては、案外悪くないのかもしれない。

 

 実況席の相澤先生は、頭を抱えているが。

 

 裸体を晒す訳でもないのだから、別にいいだろう。

 

 これならば、風邪を引く心配も無いだろうし。

 

「何時か騙されて、とんでもない服とか着そうね」

 

「ある意味、全裸よりもヤバそうなやつ……」

 

「その時は責任を持って、今度こそ止めるから」

 

「よろしくお願いします。本当に」

 

「とりあえず、彼奴等は後でしばこ」

 

「「「異議なし」」」

 

 私以外のA組女子は、揃って内緒話を始めた。

 

 いざ本番になって、恥ずかしくなったのだろうか?

 

 理由は不明だが、はしゃぐ2人を睨んでいる。

 

 芦戸さんに至っては、私の肩に手を置いているし。

 

 一体、何が問題なのだろうか?

 

『さァさァ、皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目、進出4チーム、総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!』

 

「トーナメントか……!毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ……!」

 

「去年トーナメントだっけ?」

 

「スポーツチャンバラをしてましたね」

 

「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ」

 

「それじゃあ、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!んじゃ、1位チームから順に引いて頂戴!」

 

 そして説明が行われた後、くじ引きが行われた。

 

 私が最初に引き、続々と組み合わせが決まっていく。

 

 そんなこんなで、芦戸さんの番となり。

 

「あっ。私の初戦、癒月ちゃんだ」

 

「マジか。同中対決じゃん」

 

「くっそ。芦戸に先越された」

 

「1対1で戦うのは久しぶりですね」

 

 こうして、私の初戦の相手も決まった。

 

 最終的な組み合わせは、以下の通り。

 

【Aグループ】

  

1 緑谷 

2 心操 

 

3 轟

4 瀬呂

 

5 飯田

6 発目

 

7 癒月

8 芦戸

 

【Bグループ】

 

1 常闇

2 八百万

 

3 上鳴

4 拳藤

 

5 尾白

6 切島

 

7 麗日

8 爆豪

 

 件の轟君と当たるのは、やや遠い3回戦。

 

 緑谷君の初戦の相手は、心操君らしい。

 

 個人的には、どちらを応援するか迷う。

 

 飯田君と発目さんは、まともな勝負になるか怪しい。

 

 瀬呂君に関しては、幸運を祈っておく。

 

『よーし、それじゃあトーナメントは一先ず置いといて!イッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!盛り上がってけェ!!』

 

 といっても、レクの参加はあくまで任意。

 

 トーナメント出場者の半数は、参加しなかった。

 

 これでは、チアコスを着た意義が分からない。

 

 まぁ、それはそれとして、楽しいからいいが。

 

「フレーッ!フレーッ!A組!」

 

「皆さん。頑張って下さい」

 

「そんなんじゃ固い固い!もっとグワーッって!」

 

「なるほど。こうですね」

 

「対戦相手同士なのに、和気藹々ね」

 

「殺伐としてるよりかは良いかと」

 

「ってか、芦戸、教えるの上手っ」

 

 そして、レクリエーションの時間も終わり。

 

 とうとうトーナメント戦が始まった。

 

 初戦は、緑谷君と心操君の試合。

 

 試合開始を前に、会場中が熱を帯びる。

 

『色々やってきましたが結局これだぜガチンコ勝負!!一回戦!!成績の割になんだその顔!!ヒーロー科、緑谷出久!!対(バーサス)!!騎馬戦、完全勝利の影の立役者!!普通科、心操人使!!』

  

 プレゼント・マイクの紹介に合わせ。

 

 2人はリングの中央で相対した。

 

 ルールは簡単。勝利条件は相手の場外。

 

 もしくは行動不能、あるいは降参。

 

 例年通りの、シンプルイズベストだ。

 

 この競技での怪我の程度は毎年、組み合わせと個人により大きく変わるので、評価には減点も加点もしない。

 

「つっても、返事しなきゃ緑谷の勝ちだろ」

 

「いくら個性が強くても、初見殺しだもんな」

 

「逆に初見だと、防ぐの絶対無理だけど」

 

 とはいえ、正直なところ、心操君はかなり厳しい。

 

 彼の個性は、ほぼ全員に見られている。

 

 解除法は分かってないだろうが、焼け石に水だ。

 

 その威力を見た、緑谷君が警戒してない筈がない。

 

『そんじゃ、早速一回戦始めよか!!レディィィ……』

 

「緑谷……だったっけ」

 

「…………」

 

「癒月から話は聞いてるよ」

 

「…………」

 

「しょっちゅう怪我して、彼奴を困らせてるって」

 

「…………ッ」

 

 案の定、緑谷君は揺さぶりに応じなかった。

 

 視線こそ泳いでいるが、口は堅く閉ざしている。

 

 このまま試合開始まで、やり過ごす気らしい。

 

 策としては、無難なところだろう。

 

 というか、自覚があるなら直して欲しい。

 

「ところでよ。癒月がお前の事を探してたぞ。検査がどうとか呟きながら無表情で。お前、何やったんだよ?」

 

「えっ!?嘘ッ!!今日はまだ、怪我をしてな───」

 

『START!!って、容赦ねぇ!!心操、言葉のキラーボールで口撃!!緑谷、開始早々、完全停止!?全国放送でアホ面をかました!!決まればやっぱ強ぇ!!』

 

「アホか。下らねぇ」

 

『何やってんだ。あの馬鹿』

 

 しかし、心操君はその策を易々と超えた。

 

 内容が内容だけに、爆豪君は呆れてるが。

 

 実況席の相澤先生も、溜息を吐いてる。

 

 吹っ切れたお陰か、思い切りが良い。

 

 使った話題はやはり、何とも言えないが。

 

「癒月さん容赦を!!体育祭が終わるまでは!!」

 

「デク君にどうか猶予を!!」

 

「貴方達は私を何だと思っているんです?」

 

 そんでもって、飯田君と麗日さんは懇願し出した。

 

 心操君の言葉が、本気だと思い込んだらしい。

 

 爆豪君以外の、周りの目も大体そうだ。

 

 全くもって、失礼な話である。

 

 まるで理由もなく、暴力を振るう暴君扱いだ。

 

 そんな事は、今まで一度もしてないというのに。

 

 あくまで私は、治療をしているだけだ。

 

 勘違いしないで欲しい。

 

「振り向いてそのまま、場外まで歩いていけ」

 

『ああーー!!緑谷!!ジュージュン!!心操の個性に手も足も出ない!!これはもう決まっちまったか!?またしても下剋上なるか!!?』

 

「悪いな。こんな下らないやり方で。けど、これは本気の勝負だ。手段は選んでられない。勝たなきゃいけない理由が、こっちにもあるんだ。お前には負けて貰う」

 

「…………」

 

 心操君の命令で、緑谷君は歩き出した。

 

 ああなったら、心操君の独壇場だ。

 

 一度喰らっているからこそ言い切れる。

 

 アレを自力で解除するのは不可能だ。

 

 残念ではあるが、仕方ない。

 

 轟君の治療は、私一人でやるとしよう。

 

 此処は心操君の勝利を祝福───

 

「っ……!!ハァ……!!ハァ……!!」

 

「……馬鹿な。解除要因は無かったはず」

 

 私が心操君の勝利を確信した瞬間。

 

 突如として、突風がリング上で発生した。

 

 それを生み出したのは、緑谷君。

 

『緑谷!!間一髪で踏み止まったぁ!!?場外まであと一歩!!紙一重での敗北回避!!道徳倫理は捨て置けとは言ったが、無茶しやがるぜ!!』

 

「お前も癒月と同じ、理屈が通じないタイプか!?体の自由は利かないはずだってのに!!お前等はとことん理不尽だな!!羨ましいよ!!」

 

「…………」

 

 指先で個性を暴発させ、衝撃で洗脳を解いたようだ。

 

 以前の無茶な個性の使用で、指はほぼ折れている。

 

 怪我はしてないと、言った側からこれだ。

 

 けれど、最大の問題点はそこではない。

 

(何者かが、緑谷君に干渉した……?)

 

 心操君の個性は、身体そのものに作用する。

 

 故に、本来、意志などではどうにもならない。

 

 騎馬戦の際、実際試してみたが駄目だった。

 

 アレは意識を介さない反射すら封じる。

 

 医学的見地から見ても、有り得ない事なのだ。

 

 況して、緑谷君は私のように特異体質でもない。

 

 そうなると、何かしらの干渉以外は考えにくい。

 

 尤も、考察の域を出る事は無いが。

 

「こんな個性だからって、俺はずっと言い訳をしてた。敵(ヴィラン)向けだなんだって言われて、仕方ないって何時からか決めつけてた。でも、今日決めたんだよ!!」

 

「………!!」

 

「個性云々なんて関係ない!!望んだ場所に、俺は必ず行く!!憧れたもんに、成りたい自分に、成ってやるって!!何時か彼奴に追い付いてみせるって!!」

 

「…………ッッ!!!」

 

 とはいえ、そんな事は2人には関係ない。

 

 心操君は叫び、再び洗脳を仕掛けた。

 

 けれど、2度目が通る事は無い。

 

 緑谷君は叫ぶのを堪え、フルカウルを起動。

 

 突っ込むや否や、抵抗する心操君を掴み上げ。

 

 そのまま場外へと、彼を投げ飛ばした。

 

 心操君の身体が、勢いよく転がる。

 

 文句無しの勝負ありだ。

 

「……お疲れ様です。心操君」

 

『心操君、場外!!緑谷君、2回戦進出!!』

 

 こうして2人の試合は決着。

 

 最終的に勝ち進んだのは、緑谷君だった。

 

 不可解な点はあったが、勝ちは勝ち。

 

 勝負なんてものは、所詮そんなものだ。

 

 それに負けから、始まるものもある。

 

 心操君ならば、敗北を貪欲に糧にするだろう。

 

 彼に向けられた声援が、それを証明している。

 

「それはそうと。緑谷君は後で説教です」

 

「や、やっぱり……。心操君……どうにかならない?」

 

「仮に洗脳しても、遅かれ早かれだろ」

 

「デスヨネー………」

 

 続いては2戦目。瀬呂君VS轟君。

 

 この一戦について、言う事は特にない。

 

 試合とすら言えない、酷いものだった。

 

 瀬呂君には、深く同情する。

 

「そんなのアリ……?エグ過ぎ………」

 

「ミッドナイト先生まで凍ってる……」

 

「どんまーい……瀬呂………」

 

 開始早々、瀬呂君が速攻を仕掛けるも。

 

 轟君はそれを、全力の氷結という力技で押しのけ。

 

 リングの半分ごと瀬呂君を凍結させ、無理矢理勝利。

 

 個性ありきで、作戦もへったくれもない。

 

 何もかもが雑で、感情に身を委ねた試合だった。

 

 それ以上に、酷い顔だった。

 

(彼の病は……想定以上に深刻ですね)

 

 次の試合は、飯田君VS発目さん。

 

 4戦目が私の試合なので、スマホ越しに控室で試合を見ていたのだが、こっちもこっちでかなり酷かった。

 

 改善案として、制限時間についても書こうと思う。

 

『さぁ皆さん!!ご注目下さい!!姿勢制御用ジャイロ機構の素晴らしさを!!これさえあれば、多少姿勢を崩しても問題なし!!例え回避が間に合わなくても、何のその!!あっという間に体勢を立て直せます!!』

 

『何処まで僕を弄ぶ気だ!?君は!!』

 

『ヤベぇな。やる事がねぇ』

 

『しばらく寝る』

 

(待ち時間……長いですね)

 

 あまりに暇だったので、私は控室を出た。

 

 生憎だが、商品解説には興味ない。

 

 使う予定も無い、サポートアイテムなら尚更だ。

 

 新型の医療機器の話なら別だが。

 

 喉が渇いたので、自販機へ向かう。

 

 すると、芦戸さんと鉢合わせた。

 

「あっ、癒月ちゃん。もしかして、そっちも?」

 

「はい。あまりに暇だったので」

 

「だよねー。待つの飽きた」

 

 案の定、芦戸さんも同じ理由だった。

 

 私達は揃って、飲み物を購入する。

 

 緊張感が無いかもしれないが、仕方ない。

 

 何せこっちは、まだ待ち時間だ。

 

 商品解説は未だ続いている。

 

「1対1でやるのって、何時以来だっけ?切島が訓練に参加するようになってからはずっと、2人掛かりだったし。下手したら1年ぐらい前?」

 

「まぁ大体、それぐらいですね」

 

「そう考えると早いよね」

 

 私が2人に訓練を付け始めたのは、1年前。

 

 2人が雄英に行く事を決めてからだった。

 

 切島君は、少し迷ってたようだったが。

 

 手始めに、ボコボコにした記憶がある。

 

「これでも感謝してんだよ?私も切島もさ。こうやって雄英に来れた訳だし。私の場合、勉強面の方もだけど」

 

「私抜きでも、2人なら受かってたと思いますが」

 

「でたよ。その、謎の信頼」

 

「信頼というより、事実です」

 

 私は買ったお茶を一口飲んだ。 

 

 なんて事は無い、本当の事だ。

 

 お世辞などしても何にもならない。

 

 ヒーローとしての資質は既にある。

 

 2人に足りないのは、それに見合う実力だけだ。

 

 とはいえ、私もまだ精進の身であるが。

 

「……そういうとこが、ズルいんだよな」

 

 そして、3試合目がようやく終わった。

 

 発目さんは結局、自分からリングを出た。

 

 目的は十二分に果たしたらしい。

 

 利用された飯田君は叫んでいた。

 

 真面目過ぎるのも、考えものである。

 

 私達はそれぞれ、リングへ向かう。

 

『Aグループ最終戦!!どういう因果か、同中対決!!熾烈極まる、キャットファイトの開幕だァ!!』

 

『泣く子も黙る治療の鬼にしてバーサーカー!!体育祭始まって以来の珍事と快挙の中心人物!!レポートの文句は少なめにしてくれ!!ヒーロー科、癒月波音!!』

 

『対(バーサス)!!酸使いのエキサイトガール!!バーサーカーに待てが言える数少ない人間!!あとチアのダンス、抜群に上手かったぜ!!ヒーロー科、芦戸三奈!!』

 

「いい加減にしないと、クレーム入れます」

 

「待てって、犬じゃないんだから」

 

 ツッコミを入れつつ、私達は相対した。

 

 そろそろ本気で殴り込みに行くか迷う。

 

 レポートの文句がまた一つ増えた。

 

 それはさておき、構えを取る。

 

「そういや、言い忘れてたけど、私にとって癒月ちゃんに勝つのが、この体育祭の目標だったんだ。一度だって勝てた事無かったし。ぶっちゃけ優勝は二の次」

 

 その一方で、芦戸さんは伸びをした。

 

 腕や足を伸ばし、身体をほぐしている。

 

 見方によっては、緊張感が全然無い。

 

 何時も通りの、彼女と言ったところだろう。

 

「だから、これは初戦だけど決勝戦」

 

『STARTッ!!』

 

「何もかも出し切って勝つから」

 

 けれど、それは芦戸さんの本気の構え。

 

 開始早々、彼女は私の眼前に迫った。

 

 即座に腕をクロスさせてガードするも、鋭い衝撃が腕越しに伝わり、私は大きくその場から吹き飛ばされる。

 

 相変わらず、良い蹴りをしている。

 

『は、速ぇ!?なんちゅう蹴りだ!!バーサーカーに、早速一発入れた!!ストッパー役は伊達じゃねぇ!!』

 

『酸による加速。短距離なら、普段の飯田より上だ。それに今の蹴り……ムエタイやカポエイラの動きを取り込んでる。相当やり込んでるな』

 

 これならば、加減の必要は無い。

 

「ならば、全力でお相手します」

 

 こうして、4試合目の幕が開けた。

 




 
 癒月との特訓効果により、切島と芦戸には原作開始時と比べ、かなりの強化が入っています。
 
 作中の裏側で、物間チームが原作よりも早い段階で、爆豪チームにハチマキを全て奪われ、その結果、緑谷チームが繰り上げ進出になったのもその影響です。
 
 忘れてた訳ではありません(冷や汗)。
 
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