騎馬戦が終わっても尚、大歓声は続いた。
その歓声に、実況の声すらかき消されている。
首元の汗を腕で拭い、私は騎馬から降りた。
慣れない個性の使用法は、流石に疲れる。
「ほんとに勝っちゃったよ。それも、ぶっちぎりで」
「正直、振り回されてただけな気もするけど」
拳藤さんと尾白君は、それぞれそう呟いた。
未だ勝利の実感が湧いていないようだ。
私からすれば、勝つのは当然だったのだが。
どうやら、2人にとってはそうではないらしい。
最後に関しては、純粋にラッキーだったが。
「心操君、改めて治療お疲れ様でした。それと、つい先程はありがとうございます。お陰で助かりました」
「……礼は良いよ。勝つ為にやれる事をやっただけだ。尤も今回ので、手の内は全部バレちまったけどな」
「そういう割には、良い顔をしていますが」
心操君は膝に手を突き、息を吐いていた。
体力的には、限界ギリギリだったらしい。
隠しておきたい個性の多用にしたってそうだ。
よく最後まで、頑張ってくれたと思う。
「……ぶっちゃけた話。次を考えるなら、俺はお前と、やっぱり組むべきじゃなかった。俺にとっちゃ、今年含めてもあと2回しか無い、数少ないチャンスだからな。それで決勝まで行けたんだから、文句は言えないけど」
「ええ。無論、承知の上です。後悔はしてませんが」
「後悔してねぇのかよ。……でも、俺が元々考えたやり方じゃ、きっとこんな景色は見れなかった。こっちこそありがとな」
何度も言うように所詮、医療はお節介だ。
ヒーロー活動にしたって、それは同じ。
その行いが、時に間違いとなる時もある。
それでも、その歩みを止めてはいけない。
「かっこよかったぞ心操!すっげーな!」
「正直、ビビったよ!俺ら普通科の星だな!」
「しかも、1位って!!快挙じゃん!!快挙!!」
「あれって、心操のとこの普通科の人達?」
「めっちゃはしゃいでる。そりゃそっか」
そこに笑顔があるなら、それ以上の理由は要らない。
「急にどうしたんだよ?手なんか差し出して」
「実は私、病院から患者が退院する時に、医者と患者が共に手を握り合う光景に憧れてまして。尤も、貴方は入院もしてませんし、医者として、私が連れ添った期間も大した事はありませんが……差し支えなければと」
「癒月、そんな顔も……出来たんだ」
「何時もとの……ギャップが凄い」
「要するに、握手って事か?……それぐらいなら」
「では、今後とも健康でありますように」
私は最後に心操君と、握手を交わした。
拳藤さんや尾白君とも同様に。
これが私にとって、密やかな報酬だ。
体育祭は終わってないが、また頑張れる。
医者志望として、ヒーロー志望として歩めそうだ。
もし敵になった時は、容赦はしないが。
『すっごく青臭い青春してて、このまま見ていたいけど……一旦、そこまで!!騎馬戦の結果についての協議が今終わったわ!!全員、集合して頂戴!!』
「啖呵切ったのに、結局いいとこ無しだったわ。芦戸の頑張りのお陰で、だいぶ早くB組の拘束からは脱出出来たけどよ。取ったハチマキも結局取られちまったし」
「めちゃくちゃレアな、癒月ちゃんの満面の笑みも取られちゃったし……なんか複雑。というか、あの子の個性!!流石に強過ぎない!?アレで普通科!?」
「それ以前に、爆豪君が無防備に突っ込むのが悪いですけどね。敵の個性も分かってないのに、一人で突撃するだなんて、下策中の下策です。正しく鴨ネギでした」
「……てめぇ、それ以上言ったら、殺すぞ」
「怒り過ぎて逆に静かになってる……怖っ」
そんなこんなで、私達が話し込んでいると。
中央のミッドナイト先生から、号令が掛かった。
私は芦戸さん達と合流しつつ、中央に向かう。
例年通りなら、私達だけ勝ち上がるのは無しだろう。
少し惜しい気もするが、大会が成り立たない。
後ろの爆豪君は、絶対納得しないだろうけど。
あと、ミッドナイト先生のカメラは私物だろうか?
「協議の結果、決勝戦に4人だけ出場っていうのは流石にアレだから、癒月チームにハチマキを奪われる直前まで、ハチマキを保持していたチームの順に、3チームを決勝に繰り上げますっ!!よって、爆豪チーム、轟チーム、緑谷チームは決勝進出!!この決定に納得出来ない人も居るかもしれないけど、その雪辱は決勝で晴らして頂戴!!災害に襲われたとでも思って!!」
「誰が災害ですか。正当な結果です」
「先生、そこはバーサーカーだろ」
「そうね。失礼したわ」
「そこは訂正しなくて結構です」
そして案の定、私達以外の3チーム。
計12名も、決勝戦へ駒を進める事になった。
組み合わせについては、昼食後らしい。
例年通りなら、1対1でのトーナメント。
とことんシンプルな力の比べ合いだ。
ようやく、此処まで辿り着いた。
このまま一気に優勝して、体育祭を改革する。
『1時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!オイ、イレイザーヘッド飯行こうぜ……!』
『寝る』『ヒュー!』
「癒月。緑谷もいいか?」
「轟君?どうかしたの?」
「怪我をしましたか?直ちに検査を」
「そうじゃねぇ。……少し、話がある」
そう決意を新たに、私が食堂に向かおうとすると。
何故か険しい顔の轟君に、呼び止められた。
同じく呼び出された、緑谷君も困惑している。
試合前にわざわざ呼び出す理由など、無い筈だが。
怪我でないなら、やはり病気だろうか?
「それでどうしましたか?症状について教えて下さい」
「うん、違うと思うよ。多分」
「ならば、身内の病ですか?無論、守秘義務は厳守しますので、安心してお話し下さい」
「それはちょっと……失礼じゃないかな?」
「……ある意味、合ってるかもしれねぇ」
「合ってるの!?」
「なるほど。よく話してくれましたね」
そして私達は、人目の無い廊下に移動した。
そこで幾つか言葉を交わしていくと、轟君は呼び出した事情について、少しずつ話し始めてくれた。
身内の病を他人に話すのは、中々に覚悟が要る。
話し辛そうにしているのも納得だ。
「緑谷には気圧された。
(……そういえば使ってなかった……左側)
「癒月には負けた。目の前の事にばっか必死になって、周りが見えなくなって、完膚なきまでに嵌められた。お前だけじゃなく、普通科の奴も警戒するべきだった」
「そうなるよう、動いていましたし」
「つまり……どういう………」
「……緑谷には、オールマイトと何かしらの繋がりがある。癒月はリカバリーガールの孫で、脳無と対等にやり合うだけの実力を持ってる。だったら、俺は……尚更勝たなきゃいけねぇ。この右の力だけで」
そこで一度、轟君は言葉を切る。
「俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ?万年No.2のヒーローだ」
そして轟君は、自分の過去を語り出した。
彼が頑なに、左の力を使わない理由を。
決して消える事の無い、火傷の理由を。
彼の出生に、大きく関わる狂気を。
まぁ、とりあえず、エンデヴァーは病気だ。
検査をしないと確信は出来ないが、十中八九そうだ。
拘束した後、迅速な治療の必要がある。
いっそ今日中にでも、治療してしまいたい。
自覚症状もあるのに、気付かないフリだなんて。
仮にもNo.2が、なんという有様だ。
そんなだから、オールマイトに勝てないというのに。
「ざっと話したが、俺がお前等につっかかんのは見返す為だ。クソ親父の個性なんざなくたって。……いや……使わず『一番になる』ことで奴を完全否定する」
「そうですか。事情については、よく理解しました。問診へのご協力、ありがとうございます」
「…………」
話は終わり、廊下には重い空気が流れた。
さながら、病院の待合室のように。
緑谷君は、事情の重さに黙り込んだ。
轟君は何も言わず、少し遠くを見る。
仕方ない事だが、全く度し難い。
「ですが、その上で私は貴方に、言わなければいけません。身近に病人がいれば、その病がうつる事もある。人である以上、誰もが病に侵され得る」
「……何を言ってやがる?どういう意味だ?」
私は轟君と、まだあまり親しくない。
まして、その過去の内実も知り得ない。
けれど、今の問診で確信した。
それを見逃す程、私は甘くない。
医者の本能が、そうはっきり告げている。
「轟焦凍。貴方は病気です。貴方は治療を受ける必要があります。その為には敗北が必須です。よって、私に倒されなさい。これは決定事項です」
私の言葉に轟君は、大きく目を見開いた。
緑谷君も同様に、軽く表情を強張らせる。
けれど、何かを察した様子だ。
確信はせずとも、何となく分かったらしい。
病状は案外、本人以外には分かるものだ。
ついさっきとは、また別の空気が流れる。
「病気……?俺がか……?何を言ってやがる……?」
「分からなくて結構。患者に自覚症状が無いのは、よくある事です。ですが、問題ありません。責任をもって治療しますから」
「……まるで意味が分からねぇ」
轟君は少し間を置き、困惑したように眉を寄せた。
自覚症状はやはり無いようだ。
思っていた以上に、症状は深刻らしい。
これではとても、
笑えない人間が、自らも病に侵されている人間が。
どうやって、目の前の人を救うのか?
そんな事は、とても出来やしない。
「今の貴方に何を言っても無駄でしょう。僅かな言葉で、貴方の根幹を揺るがせる程、自惚れていません。況して、貴方の想いを否定出来る訳がない。故に、私は正面から、貴方を叩きのめします。騎馬戦以上に。完膚なきまでに。ヒーロー志望として、医者志望として、貴方の病を徹底的に殺し尽くします。それが私の在り方ですから。負ける気は欠片も無いという事です」
私にとって、体育祭の目標は改革。
けれど、最優先事項は患者の治療。
ならば、治療するしかない。
患者がどう思おうと、何一つ例外はない。
そこに病が、存在するのだから。
彼をこのまま放置など出来ない。
「轟君。僕は……ずうっと助けられてきた。さっきの騎馬戦だってそうだ。……誰かに救けられてここに居る」
そして緑谷君は、轟君にそう言った。
その思いは強く、そして熱い。
轟君の言葉にも、引けを取っていない。
「オールマイト……彼のようになりたい。その為には、一番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら、些細な動機かもしれない。癒月さんの治療に懸ける思いにも、届かないかもしれない。でも、僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人達に応える為にも……!」
私は緑谷君の過去を、何一つとして知らない。
彼が何故、自己犠牲病を患ったのかも。
自らを傷つけて尚、立ち上がるのかも。
それでも、その夢に懸ける情熱は分かる。
私と同じ、救ってくれた人に憧れる気持ちも。
だからこそ、彼は此処に居るのだろう。
「だから、さっき受けた宣戦布告。改めて僕からも……僕も、君に勝つ!!」
廊下に流れる空気が、また変わった。
さながら、闘技場の控室のように。
互いの意地とプライド、そして信念。
その全てがぶつかり合い、火花を散らす。
やがて、辺りを静寂が満たした。
嵐の前の静けさのように。
「……あんまりにも、突拍子もない事を互いに言ったせいで、少し話がややこしくなっちまったが。つまり、俺はお前等を倒す。お前等は俺を倒す。それでいいか?」
「ええ、一向に。分かりやすくて結構です」
「……うん。僕も、それでいい」
「……そうか。時間を取らせたな」
そして私達は、無言でその場を後にした。
それ以上の会話は要らないとばかりに。
互いにやるべき事はハッキリした。
負けられない理由が全員にある。
何一つとして、間違った理由は無い。
ならば後は、全力でぶつかるのみ。
非常にシンプルで、単純な治療だ。
何時もこうなら、ありがたいのだが。
「おっ、居た居た!こんな所に居たのか!」
「早くこっちに来いって!」
それからしばらく経ち、昼食を取り終え。
昼休憩も、ようやく終わりを迎えた。
私達は再度、スタジアム中央に集まる。
『最終種目発表の前に予選落ちの皆に朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場のアメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん?アリャ?』
『なーにやってんだ……?』
「見ての通り、チアガールです」
『どーしたA組!!?』
なお、A組女子は全員チアコス姿。
ほぼ全員、真顔だが問題ではない。
葉隠さんは、表情が本当に見えないが。
「峰田さん上鳴さん!!騙しましたわね!?」
「アホだろアイツ等……癒月も止めに入らないし」
「それどころか、最後は私達に勧めてたしね」
私はあの後、峰田君と上鳴君に呼び出された。
そして何故か、チアコスを着るようにと言われた。
女子全員で、応援合戦をするという名目で。
その言葉が嘘だとは、何となく感づいていた。
どうせ、良からぬ理由なのだろうとも。
「ですが、心の健康の為ですし」
「そうとも!!チアとは心のオアシス!!」
「俺等男子のやる気倍増!!健康増進!!」
「そう言われては、仕方ありません」
「癒月ちゃんが結構、チョロいの忘れてた……」
「医療ワードに弱過ぎ……」
「芦戸さんや皆さんも似合ってますよ」
「「「そういう問題じゃない」」」
峰田君と上鳴君は、満足気にハイタッチした。
このような治療法があるとは、初めて知った。
精神治療としては、案外悪くないのかもしれない。
実況席の相澤先生は、頭を抱えているが。
裸体を晒す訳でもないのだから、別にいいだろう。
これならば、風邪を引く心配も無いだろうし。
「何時か騙されて、とんでもない服とか着そうね」
「ある意味、全裸よりもヤバそうなやつ……」
「その時は責任を持って、今度こそ止めるから」
「よろしくお願いします。本当に」
「とりあえず、彼奴等は後でしばこ」
「「「異議なし」」」
私以外のA組女子は、揃って内緒話を始めた。
いざ本番になって、恥ずかしくなったのだろうか?
理由は不明だが、はしゃぐ2人を睨んでいる。
芦戸さんに至っては、私の肩に手を置いているし。
一体、何が問題なのだろうか?
『さァさァ、皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目、進出4チーム、総勢16名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!』
「トーナメントか……!毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ……!」
「去年トーナメントだっけ?」
「スポーツチャンバラをしてましたね」
「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ」
「それじゃあ、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!んじゃ、1位チームから順に引いて頂戴!」
そして説明が行われた後、くじ引きが行われた。
私が最初に引き、続々と組み合わせが決まっていく。
そんなこんなで、芦戸さんの番となり。
「あっ。私の初戦、癒月ちゃんだ」
「マジか。同中対決じゃん」
「くっそ。芦戸に先越された」
「1対1で戦うのは久しぶりですね」
こうして、私の初戦の相手も決まった。
最終的な組み合わせは、以下の通り。
【Aグループ】
1 緑谷
2 心操
3 轟
4 瀬呂
5 飯田
6 発目
7 癒月
8 芦戸
【Bグループ】
1 常闇
2 八百万
3 上鳴
4 拳藤
5 尾白
6 切島
7 麗日
8 爆豪
件の轟君と当たるのは、やや遠い3回戦。
緑谷君の初戦の相手は、心操君らしい。
個人的には、どちらを応援するか迷う。
飯田君と発目さんは、まともな勝負になるか怪しい。
瀬呂君に関しては、幸運を祈っておく。
『よーし、それじゃあトーナメントは一先ず置いといて!イッツ束の間!楽しく遊ぶぞレクリエーション!盛り上がってけェ!!』
といっても、レクの参加はあくまで任意。
トーナメント出場者の半数は、参加しなかった。
これでは、チアコスを着た意義が分からない。
まぁ、それはそれとして、楽しいからいいが。
「フレーッ!フレーッ!A組!」
「皆さん。頑張って下さい」
「そんなんじゃ固い固い!もっとグワーッって!」
「なるほど。こうですね」
「対戦相手同士なのに、和気藹々ね」
「殺伐としてるよりかは良いかと」
「ってか、芦戸、教えるの上手っ」
そして、レクリエーションの時間も終わり。
とうとうトーナメント戦が始まった。
初戦は、緑谷君と心操君の試合。
試合開始を前に、会場中が熱を帯びる。
『色々やってきましたが結局これだぜガチンコ勝負!!一回戦!!成績の割になんだその顔!!ヒーロー科、緑谷出久!!
プレゼント・マイクの紹介に合わせ。
2人はリングの中央で相対した。
ルールは簡単。勝利条件は相手の場外。
もしくは行動不能、あるいは降参。
例年通りの、シンプルイズベストだ。
この競技での怪我の程度は毎年、組み合わせと個人により大きく変わるので、評価には減点も加点もしない。
「つっても、返事しなきゃ緑谷の勝ちだろ」
「いくら個性が強くても、初見殺しだもんな」
「逆に初見だと、防ぐの絶対無理だけど」
とはいえ、正直なところ、心操君はかなり厳しい。
彼の個性は、ほぼ全員に見られている。
解除法は分かってないだろうが、焼け石に水だ。
その威力を見た、緑谷君が警戒してない筈がない。
『そんじゃ、早速一回戦始めよか!!レディィィ……』
「緑谷……だったっけ」
「…………」
「癒月から話は聞いてるよ」
「…………」
「しょっちゅう怪我して、彼奴を困らせてるって」
「…………ッ」
案の定、緑谷君は揺さぶりに応じなかった。
視線こそ泳いでいるが、口は堅く閉ざしている。
このまま試合開始まで、やり過ごす気らしい。
策としては、無難なところだろう。
というか、自覚があるなら直して欲しい。
「ところでよ。癒月がお前の事を探してたぞ。検査がどうとか呟きながら無表情で。お前、何やったんだよ?」
「えっ!?嘘ッ!!今日はまだ、怪我をしてな───」
『START!!って、容赦ねぇ!!心操、言葉のキラーボールで口撃!!緑谷、開始早々、完全停止!?全国放送でアホ面をかました!!決まればやっぱ強ぇ!!』
「アホか。下らねぇ」
『何やってんだ。あの馬鹿』
しかし、心操君はその策を易々と超えた。
内容が内容だけに、爆豪君は呆れてるが。
実況席の相澤先生も、溜息を吐いてる。
吹っ切れたお陰か、思い切りが良い。
使った話題はやはり、何とも言えないが。
「癒月さん容赦を!!体育祭が終わるまでは!!」
「デク君にどうか猶予を!!」
「貴方達は私を何だと思っているんです?」
そんでもって、飯田君と麗日さんは懇願し出した。
心操君の言葉が、本気だと思い込んだらしい。
爆豪君以外の、周りの目も大体そうだ。
全くもって、失礼な話である。
まるで理由もなく、暴力を振るう暴君扱いだ。
そんな事は、今まで一度もしてないというのに。
あくまで私は、治療をしているだけだ。
勘違いしないで欲しい。
「振り向いてそのまま、場外まで歩いていけ」
『ああーー!!緑谷!!ジュージュン!!心操の個性に手も足も出ない!!これはもう決まっちまったか!?またしても下剋上なるか!!?』
「悪いな。こんな下らないやり方で。けど、これは本気の勝負だ。手段は選んでられない。勝たなきゃいけない理由が、こっちにもあるんだ。お前には負けて貰う」
「…………」
心操君の命令で、緑谷君は歩き出した。
ああなったら、心操君の独壇場だ。
一度喰らっているからこそ言い切れる。
アレを自力で解除するのは不可能だ。
残念ではあるが、仕方ない。
轟君の治療は、私一人でやるとしよう。
此処は心操君の勝利を祝福───
「っ……!!ハァ……!!ハァ……!!」
「……馬鹿な。解除要因は無かったはず」
私が心操君の勝利を確信した瞬間。
突如として、突風がリング上で発生した。
それを生み出したのは、緑谷君。
『緑谷!!間一髪で踏み止まったぁ!!?場外まであと一歩!!紙一重での敗北回避!!道徳倫理は捨て置けとは言ったが、無茶しやがるぜ!!』
「お前も癒月と同じ、理屈が通じないタイプか!?体の自由は利かないはずだってのに!!お前等はとことん理不尽だな!!羨ましいよ!!」
「…………」
指先で個性を暴発させ、衝撃で洗脳を解いたようだ。
以前の無茶な個性の使用で、指はほぼ折れている。
怪我はしてないと、言った側からこれだ。
けれど、最大の問題点はそこではない。
(何者かが、緑谷君に干渉した……?)
心操君の個性は、身体そのものに作用する。
故に、本来、意志などではどうにもならない。
騎馬戦の際、実際試してみたが駄目だった。
アレは意識を介さない反射すら封じる。
医学的見地から見ても、有り得ない事なのだ。
況して、緑谷君は私のように特異体質でもない。
そうなると、何かしらの干渉以外は考えにくい。
尤も、考察の域を出る事は無いが。
「こんな個性だからって、俺はずっと言い訳をしてた。
「………!!」
「個性云々なんて関係ない!!望んだ場所に、俺は必ず行く!!憧れたもんに、成りたい自分に、成ってやるって!!何時か彼奴に追い付いてみせるって!!」
「…………ッッ!!!」
とはいえ、そんな事は2人には関係ない。
心操君は叫び、再び洗脳を仕掛けた。
けれど、2度目が通る事は無い。
緑谷君は叫ぶのを堪え、フルカウルを起動。
突っ込むや否や、抵抗する心操君を掴み上げ。
そのまま場外へと、彼を投げ飛ばした。
心操君の身体が、勢いよく転がる。
文句無しの勝負ありだ。
「……お疲れ様です。心操君」
『心操君、場外!!緑谷君、2回戦進出!!』
こうして2人の試合は決着。
最終的に勝ち進んだのは、緑谷君だった。
不可解な点はあったが、勝ちは勝ち。
勝負なんてものは、所詮そんなものだ。
それに負けから、始まるものもある。
心操君ならば、敗北を貪欲に糧にするだろう。
彼に向けられた声援が、それを証明している。
「それはそうと。緑谷君は後で説教です」
「や、やっぱり……。心操君……どうにかならない?」
「仮に洗脳しても、遅かれ早かれだろ」
「デスヨネー………」
続いては2戦目。瀬呂君VS轟君。
この一戦について、言う事は特にない。
試合とすら言えない、酷いものだった。
瀬呂君には、深く同情する。
「そんなのアリ……?エグ過ぎ………」
「ミッドナイト先生まで凍ってる……」
「どんまーい……瀬呂………」
開始早々、瀬呂君が速攻を仕掛けるも。
轟君はそれを、全力の氷結という力技で押しのけ。
リングの半分ごと瀬呂君を凍結させ、無理矢理勝利。
個性ありきで、作戦もへったくれもない。
何もかもが雑で、感情に身を委ねた試合だった。
それ以上に、酷い顔だった。
(彼の病は……想定以上に深刻ですね)
次の試合は、飯田君VS発目さん。
4戦目が私の試合なので、スマホ越しに控室で試合を見ていたのだが、こっちもこっちでかなり酷かった。
改善案として、制限時間についても書こうと思う。
『さぁ皆さん!!ご注目下さい!!姿勢制御用ジャイロ機構の素晴らしさを!!これさえあれば、多少姿勢を崩しても問題なし!!例え回避が間に合わなくても、何のその!!あっという間に体勢を立て直せます!!』
『何処まで僕を弄ぶ気だ!?君は!!』
『ヤベぇな。やる事がねぇ』
『しばらく寝る』
(待ち時間……長いですね)
あまりに暇だったので、私は控室を出た。
生憎だが、商品解説には興味ない。
使う予定も無い、サポートアイテムなら尚更だ。
新型の医療機器の話なら別だが。
喉が渇いたので、自販機へ向かう。
すると、芦戸さんと鉢合わせた。
「あっ、癒月ちゃん。もしかして、そっちも?」
「はい。あまりに暇だったので」
「だよねー。待つの飽きた」
案の定、芦戸さんも同じ理由だった。
私達は揃って、飲み物を購入する。
緊張感が無いかもしれないが、仕方ない。
何せこっちは、まだ待ち時間だ。
商品解説は未だ続いている。
「1対1でやるのって、何時以来だっけ?切島が訓練に参加するようになってからはずっと、2人掛かりだったし。下手したら1年ぐらい前?」
「まぁ大体、それぐらいですね」
「そう考えると早いよね」
私が2人に訓練を付け始めたのは、1年前。
2人が雄英に行く事を決めてからだった。
切島君は、少し迷ってたようだったが。
手始めに、ボコボコにした記憶がある。
「これでも感謝してんだよ?私も切島もさ。こうやって雄英に来れた訳だし。私の場合、勉強面の方もだけど」
「私抜きでも、2人なら受かってたと思いますが」
「でたよ。その、謎の信頼」
「信頼というより、事実です」
私は買ったお茶を一口飲んだ。
なんて事は無い、本当の事だ。
お世辞などしても何にもならない。
ヒーローとしての資質は既にある。
2人に足りないのは、それに見合う実力だけだ。
とはいえ、私もまだ精進の身であるが。
「……そういうとこが、ズルいんだよな」
そして、3試合目がようやく終わった。
発目さんは結局、自分からリングを出た。
目的は十二分に果たしたらしい。
利用された飯田君は叫んでいた。
真面目過ぎるのも、考えものである。
私達はそれぞれ、リングへ向かう。
『Aグループ最終戦!!どういう因果か、同中対決!!熾烈極まる、キャットファイトの開幕だァ!!』
『泣く子も黙る治療の鬼にしてバーサーカー!!体育祭始まって以来の珍事と快挙の中心人物!!レポートの文句は少なめにしてくれ!!ヒーロー科、癒月波音!!』
『
「いい加減にしないと、クレーム入れます」
「待てって、犬じゃないんだから」
ツッコミを入れつつ、私達は相対した。
そろそろ本気で殴り込みに行くか迷う。
レポートの文句がまた一つ増えた。
それはさておき、構えを取る。
「そういや、言い忘れてたけど、私にとって癒月ちゃんに勝つのが、この体育祭の目標だったんだ。一度だって勝てた事無かったし。ぶっちゃけ優勝は二の次」
その一方で、芦戸さんは伸びをした。
腕や足を伸ばし、身体をほぐしている。
見方によっては、緊張感が全然無い。
何時も通りの、彼女と言ったところだろう。
「だから、これは初戦だけど決勝戦」
『STARTッ!!』
「何もかも出し切って勝つから」
けれど、それは芦戸さんの本気の構え。
開始早々、彼女は私の眼前に迫った。
即座に腕をクロスさせてガードするも、鋭い衝撃が腕越しに伝わり、私は大きくその場から吹き飛ばされる。
相変わらず、良い蹴りをしている。
『は、速ぇ!?なんちゅう蹴りだ!!バーサーカーに、早速一発入れた!!ストッパー役は伊達じゃねぇ!!』
『酸による加速。短距離なら、普段の飯田より上だ。それに今の蹴り……ムエタイやカポエイラの動きを取り込んでる。相当やり込んでるな』
これならば、加減の必要は無い。
「ならば、全力でお相手します」
こうして、4試合目の幕が開けた。
癒月との特訓効果により、切島と芦戸には原作開始時と比べ、かなりの強化が入っています。
作中の裏側で、物間チームが原作よりも早い段階で、爆豪チームにハチマキを全て奪われ、その結果、緑谷チームが繰り上げ進出になったのもその影響です。
忘れてた訳ではありません(冷や汗)。