治療狂人のヒーローアカデミア   作:熊田ラナムカ27

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3 滅菌は迅速に

 

「実技総合成績、出ました」

 

 雄英高校実技試験も終わり、とある一室。

 

 クラス分けの為、雄英教師陣は集まっていた。

 

 中央モニターに、受験者達の成績が映し出される。

 

救助(レスキュー)P0で、まさか2位とはなぁ!!」

 

「1Pロボと2Pロボは標的を捕捉し、近寄って来る。その特性上、序盤にペースを乱され、後半動きが鈍くなる受験生が殆ど。けど、彼は派手な個性でペースを崩さず、迎撃を続けた。タフネスの賜物だな」

 

「対照的にこの子は(ヴィラン)0Pで8位。アレに立ち向かったのは過去も居たけど……ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないわね」

 

「だが、その代償に自身の衝撃で……甚大な負傷。まるで発現したての幼児のようだ。妙な奴だよ。あそこ以外は典型的な不合格者だったというのに」

 

「細けぇことはいいんだよ!俺は彼奴気に入った!」

 

「YEAHって!言っちゃってたしなー」

 

 それを前に、教師陣は思い思い語り合った。

 

 今年の入試結果は例年度以上の豊作。

 

 ヒーローの原石が、これでもかと揃っていた。

 

 重要な会議ではあるが、高揚も無理はない。

 

 とはいえ、私は何時も通り、茶を啜るのみだが。

 

「それはそうと、衛生第一みたいな1位の子。こうして見返すと凄いな。2位と8位の2人に比べ、派手さは無いが動きに無駄が殆ど無い」

 

「ロボ撃破ヨリ、他ノ受験生ノ保護二徹シテイタカラカ、2位ノ彼二(ヴィラン)Pデ劣ッテイルモノノ、救助(レスキュー)Pガソレ以上二高イ。学生トハトテモ思エン」

 

「それに加え、彼女の会場で負傷した受験生が、他の会場と比べ半分以下だった点も評価出来ます。治癒の個性による治療も勿論ですが、他の受験生と協力しての0Pロボの対処が迅速で、行動の全てが最善手だった。アレをやってのけるプロも最近では少ない」

 

「1位になるべくしてなったって感じだな」

 

 そんな折、話の話題は波音に移った。

 

 (ヴィラン)P59点。救助(レスキュー)P82点。合計141点。

 

 雄英の歴史上稀に見る100点超えで、堂々の1位だ

 

 少し前まで小さかったのに、本当に大きくなった。

 

 粗削りではあるが、治療の腕も上がっている。

 

 私に内緒で、さぞ練習したのだろう。

 

 あの子は自分にも他人にも厳しい努力家だ。

 

 そういうところは昔から変わらない。

 

「君の孫は本当に凄いね。雄英に入る前に、自分の中のヒーロー像がしっかり出来てる。文句無しだ。試験が終わった3日後に届いた、実技試験の問題点と改善点がまとめられたレポート。そっちの出来も次の試験の参考になる程度には、素晴らしかったし」

 

「あー、あの、辛辣な内容のやつ。受験生なのに度胸あるなって思ってましたけど、その子が書いたやつだったんですか。というか、さらっと言いましたけど、リカバリーガールの孫!?何それ!!超初耳!!」

 

 私が郷愁に浸っていると視線が集まった。

 

 驚き半分、野次馬根性半分といったところだ。

 

 隠すつもりはなかったが、言うのを忘れていた。

  

 けどまぁ、余計な下駄のない、あくまで厳正な審査を、あの子は一番に望んでいた。

 

 結果としては、丁度良かったのかもしれない。

 

 何より重要なのは、あの子自身であるし。

 

「細かい事はいいじゃないか。確かにあの子は私の孫だが、あくまで立場は受験生と職員。審査する側とされる側。私情を挟まず、私達は厳正な結果を出すだけさ。その結果、校長のお墨付きを得ているがね」

 

「何だよ婆ちゃん!そう言いつつベタ褒めじゃねぇか!もしかしなくても、孫にデレデレだな!?」

 

「こうして見ると、面影が何となくある気がするわね。特に目元の辺りが。性格は似てなさそうだけど」

 

「ズケズケ誰に対しても言いそうだしなー」

 

「おい、お前等。はしゃぐのはそれぐらいで、いい加減本題に移れ。クラス分けの為に集まったんだろ。よくもまぁ、孫だなんだでここまで騒げるもんだ」 

 

「そうは言うけど孫だぜ!?孫!!リカバリーガールの孫!!希少な治癒の個性持ちで、筆記も実技もトップ!!注目すんなって方が無理って話だぜ!!」

 

「そんなこと知るか。合理性に欠ける」

 

 そんなこんなクラス分けは進み会議は終わった。

 

 1年からイレイザーのクラスに、割り振られる事になるとは、あの子もそれなりに難儀しそうだ。

 

 まぁこの程度の壁、気に掛けるまでもないが。

 

「さて、此処からが本番だ。アンタは夢に向かって、精々踏ん張んな。それがどれだけ険しかろうが、道なき道でも。私は此処から何時でも見守ってるからね」

 

 一人、保健室で私はそう呟いた。

 

 あの子が雄英に来るまで、あと一月程度。

 

 その頑張りが、今から楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 試験から数日経った、ある日のこと。

 

 私の家のポストに、雄英からの封書が届いた。

 

 ほぼ間違いなく、試験の結果についてだ。

 

「とはいえ、結果は見ずとも分かりますが」

 

 封筒には、用紙と円盤状の機械が入っていた。

 

 用紙を机の隅に置き、機械の操作方法を探っていると、いきなり映像が目の前に再生される。

 

 筋骨隆々の大男が目の前に映し出された。

 

 その男には、見覚えしかない。

 

『私が、投映され───』

 

「うるさい。それと圧が無駄に強い」

 

 それはそうと、私は機械をチョップした。

 

 鈍い音とともに、音量が小さくなる。

 

 流石はナンバーワンヒーロー、オールマイト。

 

 映像越しとはいえ、無駄に強い圧と声量。

 

 久しぶりに帰ってきた父様に迷惑だ。

 

 仕事で疲れている人間の事も考えてほしい。

 

 いきなり再生される仕様もどうかしている。

 

「えーっと……なるほど。オールマイトが来年度から教職に。だから、この映像を任されたという訳ですか。納得行きます。筆記の方は全て問題なし。実技の方は、事前に公開されていた(ヴィラン)Pが59点。それに加え、教師陣が採点する、ヒーロー的行動の救助(レスキュー)Pが82点。合計141点で首席合格。悪くない結果です。更に首席特典で、学費が半分免除。これは助かります」

 

『───癒月、少女!!おめ、で、とう!!』

 

 私は映像そっちのけで用紙を見た。

 

 映像は途切れ途切れでまともに見れない。

 

 先ほどのチョップで壊れたのだろう。

 

 いきなりの再生といい、どうにも不良品だ。

 

 念の為に言っておくと、私は別にオールマイトが出たからチョップした訳ではないし、嫌いでもない。

 

 ヒーロー志望として、ちゃんと尊敬してる。

 

 リカバリーガールこと、おばあ様の次に。

 

 ただ最近、オーバーワークのせいか体調を崩しやすくなり、定期的におばあ様の診察を受けなければいけない状態になっているにも関わらず、依然としてヒーロー活動をするのはどうかと思っているだけだ。

 

 以前、おばあ様の忘れ物を届けに行った際、診察中のオールマイトに偶然会い、事情を薄っすらと聞いただけだが、あまり良くない状態な事は察せられる。

 

 なら、さっさと休養しろと言ってやりたいところだが、立場が立場なので、そう簡単にいかないらしい。

 

 何より問題なのは、オールマイトの精神。

 

 あれは確かに高潔だが、一種の病気だ。

 

 自己犠牲の権化、とも言って良い。

 

 少なくとも私は、彼を見習えない。

 

「そういう訳で、全員合格おめでとうございます。最初から分かってましたが、ようやく安心しました」

 

「癒月ちゃん、分かってたけど反応軽ッ!!合格の喜びとか感慨とか少しはないの!?何時も通り過ぎ!!でも、大っぴらに信頼してくれてありがと!!」

 

「にしても、主席合格しちまうとは流石だな!俺も結構良いとこまで行ったんだが、ギリギリ3ポイント差で爆豪ってやつに負けちまった。あと4点取れてれば俺と癒月の2人で、結田府中学校、幻のワンツーフィニッシュだって、夢じゃなかったのに」

 

 後日、芦戸さんと切島君に、結果を念の為聞いてみたところ、案の定2人も受かっていた。

 

 実技は兎も角、筆記が少し怪しかったので心配してたのだが、その心配も無用だったらしい。

 

 あと、私達の雄英合格が快挙という事で、校長先生に我が校の誇りと褒めてもらったのだが、何故か私だけ雄英では問題を起こすなと、何重に釘を刺された。

 

 これについては、全く理解出来ない。

 

 私はこれまで病源体に侵される患者達を治療してきただけであり、暴力と呼べる行為は一切していない。

 

 寧ろ学校全体に衛生革命を行い、生徒達に手洗い、うがい、アルコール消毒の重要性を説き、徹底させ、衛生環境と生徒達の健康に貢献した。

 

 咎められるどころか、感謝されるべきだ。

 

 なお、私の反応に校長は深く溜息をついて、遠い目をし、芦戸さんと切島くんは校長の肩を叩いていた。

 

 何なら少しばかり同情していた。

 

 遠い目も、同情もする、理由も無いのに不思議だ。

 

 とはいえ、興味が無いので正直構わない。

 

「まぁ、いいじゃないですか。既に終わった事ですし。入試試験に受かっただけ。あくまでヒーローのスタートラインに立っただけなんですから。では、乾杯の音頭はそれぐらいに、まず私から一曲目行きます」

 

「言ってる事は間違ってないし正しいけど……切り替え早っ。つーか、相変わらず歌のチョイスが渋い」

 

「初手に十八番とは飛ばすね。そんな好きなの?」

 

「お婆様が偶に見る歌番組で流れてるので」

 

 何はともあれ、私達は打ち上げを楽しんだ。

 

 私は十八番の演歌を熱唱し、切島君はロボアニメの曲を勢いよく歌い、芦戸さんはノリノリで踊った。

 

 とにかく、楽しかったのは確かだ。

 

 中学校での生活は残り僅か。

 

 それさえ終われば、遂に雄英での生活。

 

 私が特効薬(ヒーロー)万能薬(いしゃ)になるまでの第一歩だ。

 

 これまで長い間、ずっと我慢していた。

 

 なれるものなら直ぐにでも、なりたかった。

 

 でも、手順を踏まない治療は、ただの毒。

 

 患者を苦しめ、死に致しめるだけ。

 

 だから、ずっと、これまで待ち続けた。

 

 ならば、その道をただ進み続けるのみ。

 

『どこ!?どこ!?パパ!!ママ!!』

 

『痛ってぇ……痛てぇよぉ……助けて………』

 

『死にたくない……死にたくない………』

 

『お嬢ちゃん……大丈夫、だったかい?』

 

 それがあの地獄を見た、私の役目なのだから。

 

「では、父様。私はそろそろ。休日を満喫するのは構いませんが、外出する時は鍵を閉めて、冷蔵庫を開けっ放しにせず、コンロ周りに燃えやすい物は置かず、朝ごはんを食べ終わったらゴミをまとめて───」

 

「わかってる。わかってるよ。なんで、お前達そういう態度取るのかな?一応僕、いい歳の大人よ?小学生の息子に対する、お母さんの対応じゃないんだから」

 

「父様のうっかり具合が、治療不可能なほど酷いのですから、仕方ありません。こういう対応を取らざるを得ないのは自明の理です。そろそろ自らの病を自覚するなり、諦めるなりして下さい」

 

「そこはせめて、治すって言いなさいよ。諦めるって、そりゃないよ。父さん泣いちゃうよ?……あっ、そうだ。母さん、手が離せない状況になったみたいで……帰るのがまた、もう少し先に───」

 

「構いません。あの人がそういう人なのは分かっています。そうするべきです。何時も通り、適当に返事を返しておいて下さい。では、父様。行ってきます」

 

「心配ないだろうが、怪我には気をつけるんだぞ」

 

 そうして、時間は過ぎ去り入学式当日。

 

 桜舞う通学路を進み、校門をくぐる。

 

 今日から晴れて高校生だ。

 

 私の配属されたクラスは1年A組。

 

 聞いた話だと芦戸さんと切島君も同じだ。

 

 なお、当人達は寝坊を理由に現在遅刻中である。

 

(あの2人は自分達が着くまで教室に入るなと言ってましたが、関係ありません。クラスの方とコミュニケーションを取るのは、学校生活の基本中の基本。早くやるに越したことはない。衛生観念を多少を侵していても、まずは広い心で受け止めて───)

 

 私はそう考えつつ扉を開けた。

 

 けど、入って直ぐ、思わず絶句した。

 

 目の前の光景が理解出来ない。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に、申し訳ないとは思わないか!?」 

 

「思わねーよ!てめー、どこ中だよ!?端役が!」

 

 まず目に入ったのは真面目そうな眼鏡。

 

 かなりの堅物で面倒そうだが、まぁ良い。

 

 問題は入試の時にも見かけたヤンキー擬き。

 

 眼鏡が注意してる通り、机に足をかけている。

 

「あんっ?てめぇ、何見てやがる?文句でもあんのか?そういやお前、入試の時も見たな。よくもあん時はスタートダッシュを邪魔しやがって。ブッ殺すぞ」 

 

 多くの人間が歩く廊下を歩いた足で。

 

 仕方ない事ではあるが、不潔な靴で。

 

 しかも、眼鏡の注意を聞こうともしない。

 

「君ひどいな!本当にヒーロー志望か!?彼女とどんな経緯があったかは知らないが、クラスメイトに言う言葉ではない!君のせいで震えてるじゃないか!」

 

「知らねぇよ!俺と此奴の問題だ!外野はすっこんでろ!おい、どうした?何黙ってやがる?ビビって口も聞けねぇのか?少しは言い返してみろよピンク髪!」

 

 これだからヤンキーの類は嫌いなのだ。

 

 衛生観念が致命的なまでに欠如している。

 

 その上こちらの言葉をまともに聞こうとしない。

 

 動物を相手にする方が百倍マシだ。

 

 一度は広い心で受け止めたからもういい。

 

「……手洗い。うがい。アルコール消毒」

  

「あん?なんつった?聞こえやし───」

 

「殺菌!!滅菌!!抗菌!!」

 

 私はヤンキー擬きの腕を掴み背負い投げした。

 

 教室全体に投げの衝撃が響く。

 

 ギョッした目がこちらに注がれるのが分かった。

 

 私の第一印象は最悪に違いない。

 

 だが、今は、目の前の病原体の治療が先だ。

 

 二度とこんな事はさせやしない。

 

「いきなり投げ飛ばすとは何考えてやがる!?そのつもりなら上等だ!!上下関係ってもんを叩き───」

 

「うるさい。黙れ。大人しく治療を受けろ」

 

 私は馬乗りになって治療を開始した。

 

 

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