昨日のテストから早くも翌日。
雄英での本格的な授業が始まった。
とはいえ、いくら雄英でも高校は高校。
一般的な授業も当然のように行われる。
「じゃ次の英文のうち間違っているのは?」
(普通だ)(普通だ)(くそつまんね)
(関係詞の場所が違うから……4番!)
「先生、唾を飛ばさないで下さい。正解は4」
「ばっちりだが一言多いぜ!!シヴィー!!」
そんな必修科目の授業を午前はみっちり受け、お昼休みにはランチラッシュの食堂で昼食。
文化祭以来だが、やはり美味い。
ちなみに私が頼んだのは、おにぎり定食大盛り。
各種具材のおにぎり8つと味噌汁、沢庵。
午後分の栄養補給もこれで完璧だ。
「癒月、アンタ、食べ過ぎじゃない?」
「問題ありません。全て消化します」
「癒月ちゃん、体質的に太らないしね」
「何その女子的に羨ましすぎる体質」
「白米に落ち着くよね!!最終的に!!」
そして少し時間が経ち、午後のヒーロー基礎学。
最も単位数が多く、ヒーローの素地を作る授業。
全員が待ち侘びていたであろう、訓練の時間だ。
「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」
「オールマイトだ……!!すげぇや本当に先生やってるんだな……!!」
「
その記念すべき第1回目の講師は、オールマイト。
No1ヒーローの登場とあって、教室中が湧いた。
コスチュームの違いについては、正直全く分からないし、分かる気もしないが、気持ちは分かる。
「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!」」
そんなオールマイトはプレートを掲げた。
そこに書かれていたのは『BATTLE』の文字。
訓練は訓練でも本格的ものをするらしい。
教室脇のロッカーがせせり出てくる。
「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた、
私は1から20のうち20番の箱を取った
その中には赤い軍服のような
概ね提出した要望通りのデザインだ。
手早く更衣室に移動して着替えを済ませる。
「それが癒月ちゃんのコスチューム?シンプルだけどカッコいいし可愛い!真っ赤っかだ!」
「ありがとうございます。芦戸さんもコスチューム、似合ってますよ。迷彩柄でブーツ仲間ですし」
「でしょでしょ!でも、ちょっと露出多いかも」
芦戸さんはそう言って自身のコスチュームを見た。
まぁ確かに、高校生向けのデザインではない。
芦戸さんの持つ酸の個性の都合上、露出がどうしても多くなるのは分かるが、些か攻め過ぎている。
怪我しやすい点もマイナスだ。
対して、私のコスチュームは非常にシンプル。
赤い軍服風のアウターに、黒のミニスカート、白いロングブーツ。同じく白い薄手の手袋と足のタイツ。
治療を直ぐに行えるようなデザインだ。
個性の都合上、変に奇をてらう必要もない。
「私としてはもっと、露出が多い方が良かったのですが。個性の都合上、服を破らずに済みますし」
「いや、駄目でしょ。既に返品可のレベルだよ」
「背中なんかもろ丸出しや」
一方、八百万さんはもっとアレだ。
麗日さんも大概だけど比にならない。
胸の謎ベルトは、一体何のだろう?
隣に居る耳郎さんの目がやや怖い。
「葉隠さんに至ってはコスチューム……なのですか?こちら目線だと、手袋と靴しか見えないのですが」
「あっ、これ?手袋と靴以外は裸だよ」
「ちょっ、待っ、は、は、裸!??!」
「上に上が居たわね。悪い意味で」
蛙吹さんの言葉に、葉隠さんは首を傾げた。
あくまで雰囲気で、実際には見えないのだが。
私は思わず額に手を当て、頭を抱えた。
これに関しては論外だし、完全に手抜きだ。
肌を守る為の服を、何だと思っている?
こんな格好では容易に怪我をする。
葉隠さんの持つ透明人間の個性の都合上、そうなった場合発見が困難だし、治療するにしても大変だ。
人類が文字通り紡いできた知恵を投げ出すな。
医者志望として文句を丸1日は言いたい。
これを考えたデザイナーはクビでいい。
「一先ず今日の授業はこれを羽織って下さい。無いより遥かにマシです。訓練時以外は手放さないように」
「いいの?ありがと!実はちょっと寒かったんだ!」
「そりゃそうでしょ。裸なんだから」
「峰田ちゃんには絶対秘密ね」
「サポート会社にクレーム入れないと」
私は溜息をつきつつ、別で入ってた上着を貸した。
こんな事で風邪を引いたら元も子もない。
ヒーローになる以前の問題だ。
よくこれを葉隠さんも受け入れたものだ。
後日、コスチュームに関するクレームで、葉隠さんを担当したデザイナーの上司は大激怒し、直接雄英にサポート会社の社長が謝罪に訪れる騒ぎになった。
尤も、本人があまりその事を気にしておらず、新しいコスチュームさえあれば良いとの事だったので、問題はそれ以上大きくならず、特殊繊維を使ったコスチュームを新造するという事で、話は丸く落ち着いた。
なお、担当デザイナーの態度に私がキレ、治療を施す一歩手前に至ったのだが、それはまた別のお話だ。
常識というものを学び直して欲しい。
「始めようか有精卵共!!!」
そんなこんなで全員が訓練場に集まった。
男子のどのコスチュームも個性的だ。
それぞれのらしさが大いに出ている。
「さて!!今回は屋内での対人戦闘を行う!!
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知る為の実践さ!」
オールマイトはそう言って説明を続けた。
ヒーロー社会を支えてるだけあり説得力がある。
訓練の状況設定は、核を持った
ヒーロー側の勝利条件は、時間内の核の確保。
もしくは、
もしくは、ヒーロー全員の確保だ。
設定とはいえ、いきなり核兵器とはぶっ飛んでる。
本人がそれっぽいのもあってアメリカンチックだ。
「コンビ及び対戦相手はくじだ!」
「そこは適当なのですか!?」
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることも多いし、そういうことじゃないかな……?」
「なるほど、先を見据えた計らい!失礼しました!」
「いいよ!!早くやろ!!」
そして勝敗を分ける肝心のチーム分け。
オールマイトによる運命のくじ引きが行われた。
結果は、以下の通りだ。
Aチーム、緑谷・麗日。Bチーム、轟・障子。
Cチーム、尾白・葉隠。Dチーム、爆豪・飯田
Eチーム、峰田・八百万。Fチーム、常闇・蛙吹
Gチーム、青山・芦戸。Hチーム、癒月・耳郎
Iチーム、口田・切島。Jチーム、瀬呂・上鳴。
残念な事に、切島君と芦戸さんとはまた別だ。
決して、耳郎さんが悪い訳ではないけど。
「では、よろしくお願いします」
「一般入試1位の実力、頼りにしてるよ」
私達は軽く挨拶を済まし、控室に移動した。
試合をするチームの様子を観戦する為だ。
まず初めの試合は、Aチーム VS Dチーム。
緑谷のチームと爆豪君のチームの戦い。
そこそこ因縁がありそうな組み合わせだ。
もう既に爆豪君は苛ついている。
「って、いきなり奇襲!?」
開始1分も経たずに戦闘が勃発。
爆豪君が速攻で奇襲を仕掛けた。
何という索敵力と抗戦意欲だ。
間一髪で緑谷君はそれを躱す。
「爆豪ズッケェ!!奇襲なんて男らしくねぇ!!」
「奇襲も戦略!彼等は今実戦の最中なんだぜ!」
「緑谷君、よく避けたな!」
爆豪君は果敢に追撃を行おうとした。
しかし、緑谷君も負けてはいない。
動きを読んで爆豪君を投げ飛ばした。
その隙にペアの麗日が横を抜けた。
核確保に移るつもりなのだろう。
2人の戦闘はそのまま続行される。
「麗日のことあっさり先に行かせたな」
「寧ろ緑谷にしか狙いを付けてない」
「彼奴等同じ中学だっけ?因縁持ちか?」
「なんかすっげー、イラついてるぞ」
その様子に何人かは首を傾げた。
爆豪君の動きは最初の奇襲以外全て短絡的。
獲物に飛び掛かるしか能のない獣のようだ。
いくら残った飯田君が核を護衛し、15分という時間制限をヒーロー側に課していると言っても、その圧倒的有利はヒーロー側の動き次第で容易く崩れる。
普通であればここらで一度下がるだろう。
それなのに彼は、止まろとしない。
爆破の個性を振り回し、執拗に攻撃を続ける。
素振りからして、飯田君との連携も取っていない。
完全に
合理性よりも感情を優先している。
「まるで修羅そのもの。その上、殺気立ってる」
「このままだと……危ないんじゃ」
「流石に彼奴も、そこら辺は分かってるだろ」
「でも、なんか、様子がおかしいような……」
爆豪君の腕のアイテムが緑谷君に向いた。
まるで巨大な砲を構えるような姿勢だ。
数秒後に起こる最悪の事態が脳裏を過ぎる。
もしそうなら、訓練どころではない。
「爆豪少年、ストップだ!!殺す気か!!」
その嫌な予感は、残念な事に的中した。
爆豪君にオールマイトの声は届かない。
自らのアイテムのピンを、静かに引き抜く。
次の瞬間、部屋に居た全員を衝撃と音が襲った。
ビルの一部が大破したに違いない。
爆豪君がアイテムで爆破させたのだ。
画面の向こうに居る彼を私は睨む。
「おい!授業だぞ!コレ!」
「……ッ!!緑谷少年!!」
切島君の言葉が全てを物語っていた。
彼のやった事は授業の範疇で済まない。
もし直撃すれば、緑谷君は重症を負っていた。
彼が擦り傷で済んだのは、ただのラッキーだ。
狙ってやったどうこうなど関係ない。
ヒーロー志望が取るべき行動ではない。
「訓練を直ちに止めて下さい。彼がやった事は
「そうだ、先生!止めた方がいいって!爆豪あいつ、相当クレイジーだぜ!?緑谷のこと殺しちまうよ!」
「ムム……いや、しかし………」
オールマイトは何故か迷った。
アレは誰の目から見ても止めるべきだ。
なのに、オールマイトは、しばらく悩み続けた。
その姿に、妙な違和感を感じる。
「爆豪少年!次それ撃ったら……強制終了で君らの負けとする!屋内戦において大規模な攻撃は守るべき牙城の損壊を招く。ヒーローとしては勿論ヴィランとしても、愚策だ!それは!大幅減点だからな!」
「………っ、オールマイト」
私は拳を握りオールマイトを睨んだ。
正気の沙汰とはとても思えない。
ヒーローとしても、教師としても。
そのまま訓練という名の戦闘は続いた。
状況は圧倒的に爆豪君の有利。
つい先程までは、場が狭い建物内という事で、緑谷君は持ち前の読みで爆豪君を翻弄する事が出来た。
だが、さっきの爆発で場は開けた。
最早、彼の動きを縛るものは無い。
完全に、爆豪君の独壇場だ。
リンチといっても過言ではない。
「何の考えもなく訓練を継続させているというなら、今この場で、私は先生である貴方を殴り倒します」
「ちょっ、ちょっと、癒月ちゃん!」
「……癒月少女、それは───」
「彼に目を掛けているのだが、何だか知りませんが、それが彼を無茶させる理由にはなりません。貴方が私情で
私は芦戸さんの制止を無視して詰め寄った。
もう片方の言葉はわざと小声にして。
オールマイトはあからさまに目を逸らす。
私に返す言葉が無いらしい。
やはり……そういう事だった。
「な、なあ……爆豪の方が余裕なくね?」
画面の向こうで緑谷君は叫んだ。
その声はこちらに届く事は無い。
しかし、爆豪君とオールマイトは別だ。
爆豪君は緑谷君の雄叫びに叫び返す。
オールマイトは緑谷君を見つめる。
これではもう手遅れだ。何もかも。
もう全て、どうしようもない。
「これだから……自己犠牲主義者は」
再度、衝撃と音が部屋の全員を襲った。
今度は緑谷君の一撃によるものだ。
轟音と共に衝撃波で建物が崩壊する。
衝撃の行き先は建物上部。核のある部屋だ。
部屋の床が壊れ、瓦礫が一気に持ち上がる。
麗日さんはそれを狙っていた。
彼女は持ち上げた柱を振り、瓦礫を吹き飛ばす。
瓦礫の雨が一斉に飯田君を襲った。
守るべき核を気にする余裕などない。
その隙に麗日さんは核に触れ、確保した。
一応、ヒーロー側は、勝利条件を達成した。
これで勝ちとは、お世辞にも言えないが。
「ヒーローチーム!!WIIN!!!」
「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら」
「勝負に負けて、試合に勝ったといったところか」
「訓練だけど」
緑谷君は個性による自傷で気絶した。
今日の授業の復帰は、アレでは無理だ。
麗日さんは個性の反動で吐いてる。
飯田君に擦られてる事だけが、せめてもの幸いだ。
爆豪君は、ただその場に立ち尽くしていた。
完全な敗北感というものを味わってる。
いくら説教しても、今の彼では無駄だろう。
人の話をまともに聞く余裕などない。
これだからヤンキーは嫌なのだ。
「それでオールマイト。何か釈明はあります?」
「こ、今回は……本当にすいませ───」
「お黙りなさい。三流教師。だから、私は、止めろと言いしたよね?その結果がこれですか?お婆様に頼めばどうにかなると、思っているなら、今直ぐ教師を辞めて下さい。というか、辞めろ。今回の講評はこちらで進めますので、しばらくあちらで正座してなさい」
「はい……すいませんでした………」
(((No1ヒーローに膝をつかせやがった)))
私は終わって早々、オールマイトに正座させた。
殴るのを止められたので、代わりの処置だ。
周囲の止めろという声も無理矢理黙らせた。
いくら何でもコネ就職にも程があるだろう。
相澤先生の爪の垢でも煎じて飲め。
「今回のベストは飯田君でしょう。それ以外は赤点かそれ以下です。訓練だからと実践を舐め過ぎです」
「なな!!?」
私はそうはっきりと断言した。
その言葉に、飯田君は一番驚いている。
麗日さんは分かっていたような顔だ。
爆豪君は、相変わらずそれどころではない。
「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」
「蛙吹さん。良い意見です。理由が分かる人は?」
「ハイ、癒月さん。お答えしても?」
私が周囲を見渡すと、八百万さんが手を上げた。
この様子だと理由を全て、分かっているらしい。
「爆豪さんの行動は戦闘を見た限り、私怨丸出しの独断。そして先程、オールマイト先生が仰っていた通り屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様です」
「八百万少女……君って奴は───」
「お黙りなさい。正座継続。次、お願いします」
私はオールマイトを視線で黙らせた。
オールマイトは顔を青くし、正座し直す。
一瞬、何とも言えない空気が部屋に流れた。
これも全て、論外組とオールマイトが悪い。
「麗日さんの問題は中盤の気の緩み。そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを『核』として扱っていたなら、あんな危険な行為出来ませんわ」
「もし爆発すれば街一帯が一瞬で火の海。被害については語るまでもありません。せめて攻撃方向を飯田君に絞るべきでした。……ですが、相手に触れられぬと直ぐ判断し、瓦礫を攻撃手段として用いた点は評価出来ます。気を抜かず、状況判断は継続するように」
「は、はい。わ、分かりました」
(まぁアレ、デク君の作戦やけど)
麗日さんはおどおどと頷いた。
これに周囲は軽く驚いた。
ただ叱られるだけと思っていたらしい。
流石の私でもそんな事はしない。
評価出来る点については正当に評価する。
最初の3人が論外過ぎただけだ。
あれを基準にされても困る。
「最後に飯田さんは相手への対策をこなして且つ、『核』の争奪をきちんと想定する事が出来たと評価します。最後の対応の遅れも『核』の危険性を考える事が出来たからこそなので、マイナス評価には然程なりません。ヒーローチームの勝ちは『訓練』だという甘えから生じた、反則のようなものなので尚更です」
「強いて問題を上げるとすれば、戦闘慣れしてないからこその遅れ。動きの固さですが……これは慣れでどうにでもなります。ですが、油断は大敵。この結果に決して甘えず、今後も訓練を欠かさないように」
「はい!分かりました!精進します!」
(どうしよう……本当に全部言われちゃった!!)
飯田君は律儀に私達へ頭を下げた。
そこまでしなくていいのに、堅物な人である。
彼に
眼鏡だから、という事なのだろうか?
「皆さん、最後にこれだけは言っておきますが、ヒーローにとって最も重要な仕事は人命の保護。目の前の命を救う事です。私情に囚われず役目を果たし、
「おお……全部上手いことまとめた」
「流石は一般入試1位。超怖ぇけど」
「とりあえず、怒らせないようにしよ」
(このままだと……先生の立場が奪われる!!)
私はそう言うと軽く頭を下げ後ろに下がった。
これで多少の溜飲は収まった。
言いたい事はある程度言えた。
本当に多少で、まだまだ言い足りないが。
「癒月少女、お疲れ!此処からは私が引き継ごう!問題は起こさないように……ほんとマジで」
(((若干トラウマになっとる)))
「次の対戦相手は……此奴等だ!!」
そして移り変わって第2試合目。
引かれたボールはBとC。
轟君のチームと尾白君のチームの試合。
この試合は……ドンマイとしか言えない。
「み、見てるだけで……寒い!」
「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、敵も弱体化!文句の付けようがない!満点だ!」
「最強じゃねェか!!」
轟君が持つ個性、半冷半熱。
熱は不明だが、冷気は正に一撃必殺。
障子君との組み合わせで凶悪さが倍増してる。
流石の私も、初見での対応は絶対無理だ。
初見でなかったとしても対策は限られる。
「上着貸して貰ったのに……良いとこなかった」
「初見では仕方ありません。次頑張りましょう」
「尾白、なんつーか……どんまい」
「言わないで……虚しくなるから」
私は軽く葉隠さんを慰めた。
尾白君も瀬呂君に同様に慰められてる。
何とも不憫で可哀想なペアだ。
こればかりは心の底から同情する。
私達に当たらなくて、本当に良かった。
「さてさて、次の対戦相手は……此奴等だ!!」
そして更に移り変わり、第3試合目。
引かれたボールは一気に飛んでHとJ。
私のチームと上鳴君のチームの試合だ。
それぞれ訓練用の建物へ移動する。
「じゃあ早速、作戦立てていくけど……正直、不利だよね。こっち側は。
耳郎さんは軽く頭を捻って唸った。
相手の個性はどちらも遠距離系の個性。
近づかなければらない私にとっての天敵だ。
純粋に正面突破では間に合わない。
「そういえばまだ、互いの個性を正確に把握してませんでしたね。教えてもらっても構いませんか?私の個性は『ヒーリングオーラー』。手からエネルギーを放出し、対象の体力を消費する事で、傷を癒す事が出来ます。ちなみにこのエネルギーは性質上、私が病原体と判断したウイルス等をはじき飛ばすので、アルコール無しでも消毒が可能です。さぁ、どうぞ」
「何その絶妙な個性豆知識。便利っちゃ便利だけど。じゃあ、あのフィジカルは個性関係無しか。……それはそれで、おっかな。私の個性は『イヤホンジャック』。耳のプラグを壁に差して音を探ったり、自分の心音を相手に流せる。足のアイテム使えば一応、遠距離にも流せるよ。あの2人相手じゃ……使っても拘束されるだけだろうけど」
私は頷きつつ、エネルギーを放出した。
これで耳郎さんの手は消毒された。
それにしても調音機無しで、患者の心音を図る事が出来るとは、中々に便利で実に羨ましい個性だ。
患者への診察を即座に行う事が出来る。
医者になった際、スカウト出来ないだろうか?
「しかし、正面戦闘は無理でも、音で探知する事が出来るというなら話は変わります。情報は戦いにおいて最も重要な要素。『核』の位置は探れますか?」
「2人の足音の位置で、何となくは。前回の試合で障子も同じような事やってたし、多分出来ると思う」
「では、それと並行して上鳴君と瀬呂君のおおよその配置を把握しつつ、建物内部のマッピングをお願いします。準備時間が残り僅かなので、なるべく急ぎで」
「わかったけど、人使い荒いなぁ」
耳郎さんはプラグを差して音を探った。
私は横で紙とペンを用意し地図を広げる。
何とも地味な絵面だが、効果的だ。
それによって『核』の位置と2人の配置。
危険だが最短で『核』に辿り着けるルート。
遠回りだが安全に行けるルートが分かった。
耳郎さんは大きく息を吐き、深呼吸する。
これでもう、虱潰しに行く必要は無い。
「あー、疲れた……。まだ始まってないのに……」
『開始まで残り30秒!いよいよ時間だ!』
オールマイトの声がインカムからした。
私は地図を耳郎さんに渡し立ち上がる。
あとは全て、突き進むだけだ。
「私は最短ルートで『核』に向かいつつ、2人を誘導します。耳郎さんは裏口から遠回りルートで潜入し、バックアップをお願いします。私より先に『核』に辿り着いた、もしくは私が『核』に辿り着けなかった場合、迅速に確保を行ってください」
「マジで最短行くの?多分トラップだらけだよ?」
そんな私に耳郎さんは不安げに言った。
何せ私の役割は、言ってしまうなら囮。
最も警戒されてるであろう場所に自ら飛び込み、敵の蜘蛛の巣にわざと掛かり、注意を引く役目だ。
私には爆豪君や轟君のような派手な個性は無い。
一撃で建物を破壊する事は出来ない。
一瞬で敵を無力化する事も出来ない。
ならば、泥臭く、地道に行くだけだ。
そこに敵の罠があるなら、食い破るのみ。
「心配せずとも、治療を行うのみです」
『屋内対人戦闘訓練、スタート!!』
私は建物中央階段に向かって駆け出した。
戦闘描写は尺が足りませんでした。
とても申し訳ない。
癒月のコスチュームのイメージは皆さんのご察しの通り、再臨1のナイチンゲールの霊衣そのままです。
ペーパーボックスピストルはありません。
うちの癒月は撃つより、殴る方が早いので……。