治療狂人のヒーローアカデミア   作:熊田ラナムカ27

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 読者の皆様、お待たせしました。
 
 完結の余韻に浸ってたら遅くなりました。
 
 ちなみに先の構想は、まだありません。
 
 この作品……本当に、大丈夫か?
 


8 病の発症は突然

 

 すったもんだの警報騒ぎから一夜明けた。

 

 何事も無く、午前の授業が終わった。

 

 流石に懲りたのか、マスゴミの姿はない。

 

 また来るようなら、治療するまでだ。

 

 そんなこんなで、次はヒーロー基礎学。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることとなった」

 

「ハーイ! 何するんですか?」

 

「災難水害なんでもござれ、救助(レスキュー)訓練だ」

 

 相澤先生は、そう軽く私達に説明した。

 

 けれど、その言い方には違和感がある。

 

 本来のカリキュラムだと、担当教員は2人。

 

 十中八九、正門を破壊した犯人を警戒しての事だ。

 

 私ですら警戒しているのだから当然だろう。

 

 尤もそれを、他の生徒は知らないのだけど。

 

「レスキュー……今回も大変そうだな」

 

「ねー!キツそう!」

 

「水難なら私の独壇場ケロケロ」

 

「バカ、おめー。これこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」

 

「腕が鳴る?骨折ですか?直ちに治療します」

 

「お前のそれは冗談か分からんから止めろ」

 

 私達の反応に、相澤先生は溜息をついた。

 

 特に私の事を、何処か神妙な目で見ている。

 

 今はまだ、何も言うなといったところだ。

 

 余計な混乱を避ける意味では妥当だろう。

 

 それはそれとして、切島君の腕を私は確認する。

 

 骨にも筋肉にも、異常は見られない。

 

「今回コスチュームの着用は、各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。それと訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。以上、準備開始」

 

 そして私達は、それぞれ準備を始めた。

 

 コスチュームに着替え、バスに乗り込む。

 

 途中、皆を先導をしようとした飯田君が、想定していたバスの内装の違いに、落ち込むという一幕があったものの、本当に些細な事なので語るまでもない。

 

 正直、乗れれば何だって良い。

 

 トリアージタグの見分けじゃあるまいし。

 

 バスは訓練場に向かって走り出す。

 

「私、思ったことなんでも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。──あなたの“個性”、オールマイトに似てる」

 

「ッ!!!」

 

 そんな中、梅雨ちゃんの何気ない一言に、緑谷君は飛び上がらんばかりに動揺した。

 

 痙攣を疑うレベルの物凄い震えだ。

 

 この人は本当に、リアクションが大きい。

 

 まぁ確かに、言われてみるとそうだが。

 

「とはいえ、オールマイトの個性が不明なので、何とも言えませんけどね。緑谷君の個性の使い方は未熟そのものですし。あとついでに、あの人しょっちゅう事件やなんやで、お婆様の検診をサボりがちですし」

 

「それでいいのか、ナンバーワン」

 

「絶妙に聞きたくなかった裏話」

 

「そそそ、そうだよ!僕なんて、まだまだだし!」

 

「デク君、なんか安心してへん?」

 

 けど、流石に似ているだけだろう。

 

 仮に同じ家系でも、全く同じ個性は有り得ない。

 

 個性は混じり合い、世代を重ね進化する。

 

 そう語った学者も居たくらいだ。

 

 私の知る限り、医学的前例が無い。

 

 そっくり個性なんて腐るほど居る。

 

「しかし、増強型のシンプルな個性はいいな!派手で出来ることが多い!俺の硬化は対人じゃ強えけど、いかんせん地味なんだよなー」

 

「僕はすごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ」

 

「プロなー!!しかしやっぱ、プロも人気商売みてぇなとこあるぜ!?」

 

「僕のネビルレーザーは派手さも強さも折り紙つき☆」

 

「でも、お腹壊しちゃうのはヨクナイね!」

 

 何時しか話は、別の話題に移った。

 

 切島君が何時もながら、要所要所で繋ぐ。

 

 緑谷君も、それに乗っかった。

 

 よっぽど話題を逸らしたかったらしい。

 

 青山君はモロ急所を、芦戸さんに突かれた。

 

 戦闘中に腹痛は、色々大変だろう。

 

 もし漏れたら、迷わず隔離する。

 

「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな」

 

「ケッ」

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

 

「んだとコラ、出すわ!!」

 

「ホラ」「実証が早いですね」

 

 爆豪君は更に吼えようとして、寸前で抑えた。

 

 完全にヤンキーだが、学習能力はある。

 

 しかし、あれでは人気は出ないだろう。

 

 ヤンキー漫画の主人公辺りが関の山だ。

 

 患者の精神衛生上、色々とよろしくない。

 

 看護師としての採用は絶望的だ。

 

「この付き合いの浅さで既に、クソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」

 

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

「どんな個性であれ、人気は本人次第という事でしょう。結局、内面が一番大切です。強い個性だろうと、弱い個性だろうと、治療を施せば全員同じですし」

 

「それ出来るの癒月ちゃんだけでしょ」

 

「あっ、でも、オールマイトの実例が」

 

「人気って……なんなんだろうな」

 

 瀬呂君はそう言って、考え込んだ。

 

 芦戸さんと切島君は、遠い目をする。

 

 緑谷君に至っては、酷く複雑そうだ。

 

 考えるだけ無駄というやつだろう。

 

 所詮、人気なんて第三者の評価。

 

 そんなものあっても、治療の役に立たない。

 

 少なくとも、私にとってはどうでもいい。

 

 現に、相澤先生がそんな感じだし。

 

「すっげー!!USJかよ!!?」

 

 バスから降りて直ぐ、私達は訓練場に入った。

 

 そこで目にしたのは、巨大なウォータースライダーとプールに、炎や土砂に包まれた町並み、倒壊したビルの群れ。その他諸々、エトセトラ、エトセトラ。

 

 一つ一つが、アトラクション並みのデカさだ。

 

 きっと維持費も、それぐらいはする。

 

 それだけあるなら、医療設備に当てて欲しい。

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc.あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も……ウソの災害や事故ルーム(USJ)!!」

 

(((本当にUSJだった!!)))

 

「その呼称、許可取ってます?」

 

 などと思っていると、奥に居た人物が出てきた。

 

 その人物の正体は『13号』。

 

『ブラックホール』という、強力な個性の持ち主だ。

 

 話は聞いていたが、特徴的な宇宙服である。

 

「スペースヒーロー、13号だ!!災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!!」

 

「わー!!私、好きなの13号!!」

 

 ちなみに、13号の性別は女性。

 

 正確には、紳士ではなく淑女だ。

 

 お婆様経由で、中身の事は知っている。

 

 初診の際、着脱で苦労したとか何とか。

 

「ところでオールマイトは?どうしたんですか?」

 

「そういや居ないな。待ち合わせのはずだが」

 

 はしゃぐ麗日さんをよそに、私は辺りを見渡した。

 

 どうしたことか、オールマイトの姿が無い。

 

 相澤先生もその事に気付き、13号に尋ねる。

 

「あー、その、オールマイトは通勤途中でヴィランに遭遇してしまって。事件は解決したんですけど、()調()()()()()()()()()んです。リカバリーガールの検査を受けた後、念の為、現在は仮眠室で休んでいます」

 

 そして返って来た答えは、これだった。

 

 13号先生は言葉を選びつつ、囁くように言った。

 

 まぁ要するに、私用による遅刻だ。

 

 他の生徒に聞かれたら、面倒そのものだろう。

 

 元から怪しい教師力が、更に失くなる。

 

 私と相澤先生は、揃って溜息をついた。

 

 人の仕事を取った挙句、何をやっているのだ。

 

「……なるほど。不合理的の極みだなオイ」

 

「ヒーローとしては兎も角、教師としては論外です」

 

「まぁ……はい。……返す言葉がありません」

 

「気持ちは分かるが、あまり大きな声で言うなよ」

 

「言えませんよ。こんな小学生レベルの醜態」

 

 他の皆が、不思議そうにこっちを見た。

 

 私達の会話の内容が気になったのだろう。

 

 私のように、聞きに来た訳でもないし。

 

 声を潜めていたから、聞こえていないはずだ。

 

 その内容が遅刻などと、笑い話にもならないが。

 

「えー、オールマイトは遅れるそうですが、授業を始める前に、お小言を1つ、2つ、3つ、4つ………」

 

(((増える……)))

 

(話を誤魔化すのやけに上手いな/ですね)

 

 そんな空気を隠しつつ、13号は授業を始めた。

 

 違和感なく始まったお陰で、色々有耶無耶になる。

 

 裏事情を知る側としては、素直に尊敬する。

 

 咄嗟にあの切り返しは、中々出来ない。

 

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んで、チリにしてしまいます」

 

「知っています!その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

「ええ……。しかし、簡単に人を殺せる個性です。皆さんの中にも、そういった個性がいるでしょう」

 

 緑谷君の返答に、麗日さんは何度も頷く。

 

 けれど、それとは裏腹、13号は静かに答えた。

 

 その言葉に、騒めいてた空気も静かになる。

 

(医療そのものが、正しくそうですしね)

 

 まぁ実際、個性に限らず、何にでも言える事だ。

 

 例えば医療用メス。あれなら頸動脈を切れる。

 

 あるいはカテーテル。誤接続で血管を塞げる。

 

 さもなくば薬。服用量によっては毒になる。

 

 どんなものも、使い方によっては凶器になり得る。

 

 超常的な力を持つ、個性ならば尚更だ。

 

 事実、私の個性ですら、人を殺す事は可能。

 

 健常者の治癒力を、強制的に活性化させるなどで。

 

 医者志望として、絶対にやらないが。

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる、いきすぎた個性を、個々が持っていることを忘れないで下さい」

 

 そう静かに、13号は話を続けた。

 

 その言葉は深く、とても重みがある。

 

 彼女自身、そういった力を持つが故だろう。

 

 そしてそれは此処に居る、誰にも言える。

 

 力を誰かの為に使うのは、簡単で難しい。

 

 況して、命を救う為ならば一層に。

 

「相澤先生の体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り。オールマイトの対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では……心機一転!人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう」

 

「君達の力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな」

 

 だからこそ、その言葉は深く響いた。

 

 これは医者にとっても、ヒーローにとっても基本。

 

 そして何より、最も重要な事だ。

 

 気付けば私は彼女に、拍手を送っていた。

 

 自分の在り方を、再認識した気がする。

 

 他の皆も歓声と拍手を送る。

 

「以上!ご清聴ありがとうございました」

 

「ステキー!」

 

「ブラボー!!ブラーボー!!」

 

 そして13号は軽く一礼した。

 

 授業の掴みとしては申し分ないだろう。

 

 そうした歓声と拍手が鳴り終わる頃を見計らって、一歩下がって様子を見ていた相澤先生が進み出る。

 

「んじゃあまずは……」

 

 けれど、授業が始まる事は無かった。

 

 相澤先生は指示を出す前に背後を見る。

 

 後方にある広場の噴水近く。

 

 そこで突如、異変は発生した。

 

 ズズと、黒い渦が宙に出現する。

 

「全員ひとかたまりになって動くな!!……13号!!生徒を守れ!!」

 

 相澤先生は即座にそう叫んだ。

 

 黒い渦の中から、手がこちらを覗く。

 

 その直後、何人もの人影が現れた。

 

 年齢や外見などは、まるで統一性がない。

 

 共通しているのは、こちらへの殺意。

 

 訓練では感じえない、冷たい感覚のみ。

 

「動くな!!あれは(ヴィラン)だ!!!」

 

 次第に手が、人の形を成した。

 

 全身に手を付けた男のようだった。

 

 その傍らには、影そのものような男も居る。

 

 おそらく、あれが連中の首魁。

 

 手の男の赤い目が、鋭く揺らめく。

 

「13号に……イレイザーヘッドですか。先日()()()教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが……」

 

「やはり、先日のはクソどもの仕業だったか」

 

 穏便に済ませるのは、まず不可能らしい。

 

「どこだよ……せっかくこんなに、大衆引きつれてきたのにさ……。オールマイト…平和の象徴が…いないなんて……」

 

 どう考えてみても、連中は病原体。

 

「子供を殺せば来るのか───」

 

「緊急治療をこれより開始します」

 

「グフッ!??!」「死柄木弔!!!!?」

 

 よって私は木をへし折り、投擲した。

 

 私の投げた丸太が、唸りを上げて飛ぶ。

 

 広場で集結していた(ヴィラン)数人を勢いよく巻き込み、丸太はそのまま噴水近くに突き刺さった。

 

 手の男は余波で吹っ飛び、霧の男が何やら叫ぶ。

 

 直撃はしなかったのが残念だが、仕方ない。

 

 此処からだと、流石に距離があり過ぎる。

 

「あー、うん。癒月ならやると思った」

 

「目が既にガンギマリ状態だもん」

 

「病原体に掛ける慈悲などありません」

 

「ケッ。多少は良い気味だぜ」

 

 切島君と芦戸さんは、慣れたような目をした。

 

 他の皆は、凄い目で私を見ている。

 

 本職であるはずの13号でさえもだ。

 

 (ヴィラン)の名乗りなど、無視してなんぼだろうに。

 

 唯一、爆豪君は機嫌良く軽く笑った。

 

 彼は根っこがヤンキーだから、当然だろう。

 

 このまま攻めに行きそうまである。

  

「癒月のアレは一旦置いておくとして、(ヴィラン)ンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

 

「先生、侵入者用センサーは!!」

 

「もちろんありますが……!!」

 

 気を取り直して、上鳴君は悲鳴を上げた。

 

 八百万さんの問いに、13号は言葉を詰まらせる。

 

 一連の流れを無かった事にするつもりだ。

 

 気にしたら終わりとでも思ったらしい。

 

 別に構わないが、失礼な人達である。

 

「現れたのはここだけか、学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうことが出来る個性がいるってことだな。校舎と離れた隔離空間。そこにクラスが入る時間割。……バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

 

 轟君は、そう冷静に事態を分析した。 

 

 事実、スマホで救援を呼ぼうとするも圏外。

 

 ジャミング、あるいは電気系個性の干渉だろう。

 

 これでは口を封じられたも同然だ。

 

 救援を呼べないままでは、ジリ貧になる。

 

「13号、避難開始!!通信可能な場所まで離脱しろ!!上鳴、お前も個性で連絡を試せ!!」

 

「っス!」

 

「先生は1人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すっていっても!!イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。敵も立ち直りつつあるし、正面戦闘は………」

 

「緑谷君。私達が居ても足手纏いです」

 

 私は広場の様子を俯瞰しつつ、そう言った。

 

 手の男は、忌々しげに私を見てる。

 

 これでは再度投擲しても無駄だろう。

 

 統率の有無は兎も角、敵の数が数だ。

 

 下手に動けば、数的不利で押し込まれる。

 

 何より、直ぐ傍の脳みそ男の存在が気になる。

 

 アレは他の敵と異なり、微動だにしていない。

 

 恐れそのものをまるで切除したかのようだ。

 

 さもなくば、避けるまでも無いと思ったか。

 

 どちらにせよ、危険である事に変わりない。

 

「私達はあくまでヒーロー志望。プロには経験値も何かも劣る。不要な処置は、病状を悪化させるだけ。迅速に避難し、救援を呼ぶ事が最善です」

 

「そういう事だ。一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、こっちは任せたぞ」 

 

 そう言い残し、イレイザーヘッドは飛び降りた。

 

 まず手始めに、自らの個性で敵を個性を抹消。

 

 捕縛布で敵を拘束し、相手の力を利用し、眼前の相手を次々になぎ倒し、広場周辺を制圧していく。

 

 この手際の良さは流石としか言えない。

 

(医者志望として……あまり気乗りはしませんが)

 

 病源体達から目を逸らし、私は走った。

 

 彼一人に任せるのはリスクが高い。

 

 対症療法ではいずれ限界が来る

 

 だからこそ、先の投擲で仕留めたかった。

 

 しかし、病原の根源は未だ健在。

 

 緊急治療による施術は失敗した。

 

 イレイザーヘッド一人に任せるしかない。

 

 何の為に居るのだと、自問自答をしたい気分だ。

 

(けれど、迷っている暇なんてない)

 

 13号の先導で、私達は扉に向かった。

 

 病原体を放置するのは癪だが、仕方ない。

 

 敵の目的が分からない以上、尚更の事だ。

 

 不用意な行動は、全員を危険に晒す。

 

 此処に居る全員の無事を、まずは優先───

 

「残念ですが、そうはさせ───」

 

「五月蠅い。邪魔です。お退きなさい」

 

 その直後に、またも黒い渦が出現した。

 

 私達の行く手を阻むように、形を成していく。

 

 この声はついさっきの、霧の男だ。

 

 どうやらワープ系の個性だったらしい。

 

 私は即座に、霧の男へ拳を振るった。

 

 しかし、拳を宙を舞うのみ。

 

 続けざまに左足で蹴り上げるも、結果は同じ。

 

 漂う黒い霧が僅かに、揺らめくだけだ。

 

 当たったという感覚が、まるで無い。

 

「つい先程の投擲といい、礼儀を知りませんね」

 

「病原体相手に、礼儀は不要でしょう」

 

「なんだ此奴!?癒月の攻撃が当たらねぇ!?」

  

「だったら、これならどうだぁ!!」

 

 切島君と爆豪も、影の男に攻撃を仕掛けた。

 

 私も足元を砕き、すかさず礫を投げる。

 

 しかし、それも一向に当たらない。

 

 2人の攻撃は黒い霧を揺らめかせるのみで、本体には遠く届かず、私の放った礫は直撃する前に渦に飲まれ、ワープゲート越しに側面から跳ね返された。

 

 どうにか跳躍して躱すも、礫が腕を掠める。

 

 赤い血が、私の腕を薄っすら染める。

 

 下手な攻撃は、寧ろ逆効果という訳だ。

 

 倒せない事は無いだろうが、実に面倒だ。

 

 服を着ている以上、本体はあるはずだが。

 

「危ない、危ない……流石は雄英。生徒といえど、優秀な金の卵が揃っているようで」

 

「くっそ!!これでも駄目か!!」

 

「だが、今ので、無敵って訳じゃねぇってのはよく分かった。このまま一気に潰すまでだ」

 

 爆豪君は攻撃を続行し、尚も仕掛けた。

 

 相手のカラクリが、大体分かったらしい。

 

 切島君もそれに続くように、仕掛けた。

 

 奴を此処で叩くのは、確かに正しい。

 

 おそらく奴は、敵にとって唯一の逃げ道。

 

 そして手の男と同様、敵勢力の首魁の一人。

 

 逃げ道と頭を失った敵を、制圧するのは容易だ。

 

 2人の実力を考えても、決して無謀な策ではない。

 

 事態を最速で収拾するには、最善手と言える。

 

「駄目だ!!どきなさい!!3人とも!!」

 

 けれど、相手の方が一枚上手だった。

 

 2人の攻撃が届く前に、黒い霧が周囲に広がる。

   

 どうやっても避けられないと、瞬間的に悟った。

 

「改めまして。我々は敵連合(ヴィランれんごう)。僭越ながら……この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは……平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして

 

 霧の男の言葉に、皆の思考が一瞬凍り付いた。

 

 不明だった、敵の目的はオールマイトの抹殺。

 

 つまり敵は、相応の手段を保有している。

 

 どんなものかは分からないが、相当なものだろう。

 

 そうなってくると、全員の人命が危険だ。

 

「私の役目は散らして、嬲り殺す」 

 

 無力にも、私は黒い霧に飲まれた。

 

 いくら抵抗しても抜け出せなかった。

 

 自分の無力さが、つくづく憎い。

 

 霧に飲まれた後、私の身体は転移した。

 

 宙に開いた穴から、前触れもなく放り出される。

 

 受け身を取って、どうにか地面へ着地した。

 

「癒月、怪我の方は大丈夫か?」

 

「ええ、問題ありません。貴方の方は?」

 

「こっちも同じだ。どうってことはねぇ」

 

 どうやら此処は、マップにあった土砂ゾーン。

 

 私同様、轟君も此処に飛ばされていた。

 

 その周囲を囲うように、(ヴィラン)達が集結している。

 

「ようやく来やがったか。ぶっ殺してやる」

 

「揃って美男美女か。嬲り甲斐がある」

 

「たかだかガキがこの人数に勝てるかよ」

 

「プロさえ居なけりゃこっちのもんだ」

 

 誰も彼も、鋭い殺意を私達に向けていた。

 

 ドブ以下のゲスであろう事に間違いない。

 

 その数、有に50は越えているだろう。

 

 霧の男の言葉は、どうやら本気らしい。

 

 仮にも学生相手に大人気ない。

 

 まぁそんな事、今はどうでもいい。

 

「私は中央の広場に向かいます。轟君は此処で敵の足止めをお願いします。貴方の個性なら可能なはずです。敵が本当に、オールマイトを倒せる策を持っているのなら、今最も危険なのはイレイザーヘッド。見殺しには出来ません。勝手ながら助太刀します」

  

「そいつは少しばかり、早計じゃねぇのか?お前ついさっき、救援を呼ぶ事が最善だって言ってただろ。下手に首を突っ込んでも、足手纏いになるだけだ。此奴等から情報を聞き出してからでも遅くはねぇ」

 

 私達は敵を無視して、軽く話し合った。

 

 こんな三下、構っているだけ時間の無駄だ。

 

 轟君もそれを理解していた。

 

 脳みそ男も、どうやら居ないようだし。

 

「確かにそうかもしれません。しかし、此処は既に戦場です。1秒の遅れで何十人が死にます。この程度の敵相手に、皆がやられるとは思いませんが、病原を切除しない限り病は治りません。早く切除しなければ」

 

「なんだ彼奴等?俺達なんぞ眼中にないってか?」

 

「それぐらい、俺だって理解してる。だからこそ、冷静になれって言ってんだ。お前一人が行ったところで、たかが知れてる。木乃伊取りが木乃伊になったら、元も子もないだろ。慎重に動くべきだ」

 

「少し前まで中坊だった奴等が、舐めやがって」

 

「私は常に冷静です。その上での判断です。イレイザーヘッドは勿論、13号の方も気になりますしね。彼女は前線に立つヒーローではありませんし、霧の男と個性相性が致命的に悪い。死なせる訳にはいきません」

 

「分かっちゃいたが、頑固な奴だな。こっちの話なんて聞く耳持たずか。俺としちゃ無謀としか思えねぇけどな。つーか、彼女?……13号、女性だったのか」

 

「もう我慢ならねぇ!!ふざけんな!!」

 

「ただで死ねると思うなよガキィ!!」

 

 私と轟君は互いに、溜息を吐いた。

 

 この分だと、納得は得られそうになさにない。

 

 まぁどの道、やるべきをやるだけだが。

 

 そうこうするうちに、眼前に敵が迫っていた。

 

 片方は剛腕を振り上げ、片方は刃を飛ばす。

 

 それぞれ私と轟君を狙っていた。

 

 それに続くように、残りの敵も迫っている。

 

 何やら、怒り心頭の様子らしい。

 

 挑発した覚えなど、欠片も無いが。

 

「ご心配なさらず。治療をするだけですので」

 

「ああ、そうかよ。なら、勝手にしろ。死ぬなよ」

 

「患者より先に死ぬ医者は居ません」

 

 私は迫る剛腕の敵に向かって、拳を放った。

 

 轟君は迫る刃ごと、敵を凍結する。

 

 邪魔な虫をまるで払うように。

 

 これによって両者、戦闘不能になった。

 

 一瞬の出来事に、敵の大群が足を止める。

 

 所詮は数だけのチンピラ。

 

 肝というものが、まるで据わってない。

 

 場の混乱を利用し、私は走り出した。

  

 目指すは中央の広場。

 

 最優先で切除すべき病原体の居る場所だ。

 

 邪魔な敵は、ついさっき同様に殴り飛ばす。

 

 その背後で、凍りつく敵の悲鳴が木霊した。

 

 この様子なら、全く問題ないだろう。

 

 流石は推薦入学者といったところだ。

 

「命を弄ぶ貴方達を、私は許さない」

 

 そう言って走る速度を、私は上げた。 

 

 




 一方その頃、土砂ゾーンにて。
 
「うわぁ……流石に同情しちゃう」
 
↑原作同様、近くに飛ばされてた葉隠。
 
 会話に混ざろうとするも、混ざれなかった。
 
 眼前には凍る敵と、殴られ宙を舞う敵達。
 
 原作よりも、絵面が酷くなってる。
 
 ちなみに2人は、素で気づいてない。
 
 巻き込まれなくて良かったね。
 
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