都市伝説とは。
現代社会において口承で広がる噂話のことである。
心霊、未確認生物、宇宙人、超常現象、未解決事件、陰謀論……。
殆どは伝わる過程で尾ひれがついた根拠のない噂話。
根っこを辿ると人畜無害な世間話に辿り着く。
本当にそうだろうか……?
= = =
4月。
春の陽気な風に黒髪を揺らして金色の三白眼を細めながら、赤いブレザーに身を包んだ1人の少年が豪奢な校門の前に立っていた。
身長は平均的だが線が細く色白で、彫が深い顔立ちは整っており、どこか中性的な印象を受ける。
この少年の名は
高度育成高等学校、通称『高育』は東京湾の埋め立て地に建てられた学校で、その敷地は60万平米以上に及ぶ。
なぜ国立とはいえここまで大規模なのかというと、それは高育の特殊な性質に起因する。
高育は厳格な全寮制を敷いており、所属している生徒は卒業まで敷地外に出ることはおろか外部への連絡も禁止されている。
そのため敷地内には校舎や体育館だけでなく、コンビニやスーパー、ショッピングモールや各種娯楽施設があり、もはや小さな町とも言える規模になっている。
そして高育が宣伝文句として謡いあげている方針もまた、規格外だ。
それは『希望する進学・就職先にほぼ100%応える』というもの。
しかしこれらの情報は高育の公式サイトなどを見れば誰でも知ることができる、いわば公式に公開されている情報だ。
高育ほど有名であればSNSでも情報のやり取りは頻繁に行われているが、特性上根拠のない情報も多く、その真偽を判断することは不可能だ。
都市伝説は噂から成り立つもの――その考えからすれば、高度育成高等学校は現代に生まれた全く新しい都市伝説といえるだろう。
都市伝説をこよなく愛する廻屋渉にしてみれば、自身で噂の実態の調査ができるとあれば口元に笑みが浮かぶというものだ。
「(それもどこまで本当のことなのやら)」
しかし、その笑みは好意的なものばかりではなく、皮肉気とすら言えた。
高育は現在の内閣総理大臣である鬼島総理が推し進めた政策の1つであり、スキャンダルとは縁遠い清廉さから鬼島総理への国民の信頼度は高く、それに追従するように高度育成高等学校の世論評価も高い。
しかし、それが逆に渉の高育に対する印象を損なう要因になっていた。
過去の経験から、渉は国や警察など公的な機関をあまり信用していないからだ。
とはいえ、立ち往生しているわけにもいかない。
渉はスクールバッグを肩にかけなおすと、校門を通り校舎に足を進めた。
エントランスは渉と同じ新入生でにぎわっており、大きな白い模造紙が貼りだされている。
内容は新入生のクラス分けで、廻屋渉の名前はBクラスの欄にあった。
「ねえ、君はどのクラスだった?」
すぐ隣からの声に目線を少し下げて見れば、背中まで届く桃色の長髪と青い瞳が目に入る。
自分に向けた質問であると認識した渉は階段に向かおうとしていた足を止めて少女に向き直った。
「Bクラスです」
「あ、同じだ! 私も1年Bクラスだよ! ねえ、教室まで一緒に行ってもいい?」
向き直って見ると、そのストロベリーブロンドの少女はとてつもない美少女だった。
整った顔立ちの中でひときわ目立つ綺麗な青い瞳は純粋な喜びの光を湛えており、少女の豊かな感受性が見て取れる。
真新しい赤いブレザーの胸部を押し上げる大人顔負けのプロポーションを誇り、この少女はすぐに注目の的になるだろう、と想像するのは難しくなかった。
「構いませんよ。職員室に用事があるので、途中までになりますが」
「ありゃ、そうなの? それじゃあ、そんなに長くは一緒にいられないね」
クラス分けの模造紙の近くに簡単な校舎図があったのは渉も認識していたが、この少女もすでに把握していたようだ。
頭の回転も早さにも感心しながら、渉と少女は連れ立ってエントランスを離れた。
「それにしても綺麗な校舎だね」
「ええ。さすが国立、といったところですか」
「うんうん! それにさ――」
これから自分たちが過ごすことになる学び舎についてやり取りに花を咲かせながら、渉は改めて彼女を観察した。
自身が記憶している中でも随一の美貌に豊かな感情表現、それに短いやり取りからとはいえ人懐っこさや頭脳の優秀さも見て取れる。
遠からず、クラスの中心的存在になるだろうと確信めいた判断をするのに時間はかからなかった。
ほどなくして職員室がある階層に到達し、渉と少女は足を止めた。
「では、私はこれで」
「うん、そうだね……あ、そうだ、名前まだ聞いてなかったね。私は一之瀬。
「廻屋渉です。よろしく、一之瀬さん。また教室で会いましょう」
「にゃはは、またね廻屋くん」
にこやかに手を振って少女・一之瀬と別れると、渉は職員室へ向かうのだった。
= = =
一之瀬と別れた渉は程なくして目的地である職員室に到着した。
目的の物がスクールバッグの中に入っているのを確認すると、意を決して扉を4度叩く。
「失礼します。新入生の廻屋です」
ノックと挨拶をしてドアを開けば、入学式の準備のためか慌ただしい雰囲気の職員室が視界に飛び込む。
「ああ、少し待て……星之宮、廻屋が来たぞ」
「了解、サエちゃん。いやあ、初日からバタバタしちゃってごめんね、廻屋くん」
最初に渉に気付いたスーツ姿の茶髪の女性が室内に声をかけると、淡い茶髪をセミロングにした女性が出てきた。
20代と思しき若さは共通しているがサエちゃんと呼ばれた女性は気が強そうで、星之宮と呼ばれた女性は柔和な雰囲気と対照的である。
「じゃあ、こっちの指導室に行こうか。ついてきて」
星之宮に連れられて雑多な職員室から生徒指導室に移動すると、渉はスクールバッグからクリアファイルと四つ折りのA4用紙を取り出した。
「お、準備がいいね。でもまずは自己紹介から。私は
「廻屋渉です、星之宮先生」
「うん、よろしく。じゃあやっちゃおうか――――新入生挨拶の原稿確認と練習」
これが、廻屋渉が初日から早々に職員室を訪れた理由。
入学試験において首席相当の優秀な成績を修めたとして、入学式にて新入生代表挨拶を要請されていたのだ。
特に断る理由もなかったため、要請を受諾して原稿を作成。
そして今日、入学式の打ち合わせに来たというわけだ。
……誰にも話していないし、そのつもりもないことだが。
特別目立ちたがりというわけではない渉が挨拶役を引き受けたのは、『
学力 A+
知性 A+
判断力 B+
身体能力 C
協調性 B
◯面接官からのコメント
入学首席に相応しい学力を持ち、面接においても緊張は見受けられず、入学生の中で比類なき実力を持っていることに疑いはない。体力は平均を下回るが運動神経は良く、総じてAクラス配属が妥当と思われる。
しかし、別途資料から読み取れる彼自身の背景の不透明さからBクラス配属とする。
◯担任からのコメント
たまに趣味が暴走して周りを巻き込むこともあるけど、クラスの中心的存在として皆を支える存在と言えるでしょう。
以下ネタバレ注意
都市伝説解体センターにおける廻屋渉の正体である如月歩は女性ですが、本作では男性となっています。
了解のほどをよろしくお願いします。