よう実×都市伝説解体センター   作:Shu@cosmos

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前話の退学ペナルティについて勘違いがあったため、一部修正しました。


11話 告白

「え、廻屋くんお兄さんいるの?」

「はい、そうです。数年前に亡くなった兄の母校であるというのも、この高育に進学先を選んだ理由です」

「ちょ、ちょちょちょちょっと待った! ごめん一之瀬さん、ちょっと廻屋くん借りるね!」

「は、はぁ……え、亡くなったって」

 

 困惑する一之瀬を他所に星之宮は慌てて渉の手を掴むと職員室の隅へ引っ張り、声を潜めた。

 

「先輩の事言って良いの? 知られたら不味いんじゃないの?」

「全て言うつもりはありませんよ。それよりいいのですか?」

「なにがよ」

「目立ってますし、怪しまれてますが」

 

 星之宮がハッとして周囲を見回すと、室内の教師が訝しむような視線を送っていた。

 彼らを代表してか、1年生を統括且つ1年Aクラス担任の真嶋先生が席を立ち、2人に近づいてくる。

 

「星之宮、何をしている?」

「な、なんでもないわよ。真嶋くんには関係ないでしょ」

「ならいいが。言うまでもないことだが、生徒への過度な干渉は禁止されている。睨まれたくなければ怪しまれるような行動は避けることだ」

「いや、生徒と教師としてじゃなくて、もっとプライベートな案件で」

「プライベート? お前まさか生徒に手を……」

「だから違うんだってば!」

 

 星之宮の日頃の信頼ゆえか、堅物と評判の真嶋と星之宮で口論が発生してしまう。

 真嶋に詰められる彼女をよそに、渉は肩を竦めながら抜け出して一之瀬の元に戻ってきた。

 

「まったく、星之宮先生には困ったものです」

「まあ、同意しないこともないけど。ともかく、廻屋くんが妙に星之宮先生と距離が近い理由は分かったよ」

 

 星之宮知恵という女性は無類の酒好きを公言しているのだが、困ったことに2日酔いのまま朝の教室に現れることがあった。

 その際、渉が保健室まで付き添っており、あまり嫌そうな様子を見せなかったことから年上好き疑惑を掛けられたこともあるのだが、まあそれはともかく。

 

「まったく、酷い目に遭ったわ……。もう、廻屋くんのせいよ」

「日頃の行いのせいでは?」

「ああ言えばこう言うんだから。ちょっと込み入った話になるから、応接室に行きましょうか」

 

 流石に他の教員の目と耳がある職員室で話す内容ではない、と3人は来賓用の応接室に場所を変えた。

 

「で、なんだっけ……そうそう、先輩のことをどこまで話すかだけど、廻屋くんに任せるわ」

「と言っても、話せることはそう多くおりません。あらかじめこの学校の事を聞いていたわけでもありませんし、星之宮先生が兄の後輩だったことは先生から聞いて初めて知った事です」

「図書室で勉強見てもらったりとか、よくお世話になったんだよ」

「両親のいない私にとっては、兄であると同時に親でもありました」

 

 さらに衝撃な事をさらりと言われ、一之瀬は言葉を失う。

 実際は更に複雑で陰鬱な事情があるのだが、そこまで詳しく説明するつもりはなかった。

 

「……そっか。でも、なんで話してくれたの?」

 

 数秒の後に立ち直った一之瀬は真剣な表情で渉に向き直った。

 

「貴女は、私のことを知りたいと言ってくれましたから」

「……うん。あの水泳の授業の時に、そう言ったね」

「私には野望があります。執着していると言ってもいい」

 

 野望――身の丈を超えるほどの大きな望みを、なんとしても叶えたい、と渉は告白する。

 強い野心はおおよそ普段の穏やかな廻屋渉とはかけ離れたものであり、一之瀬は面食らい、星之宮は何かに納得したかのように目を閉じた。

 

「それを他人に共有するつもりはありません。これは私だけの力で叶えなければ意味がないからです」

「それは、きっとAクラスで卒業できれば叶えられるものじゃないんだよね」

「そうですね。しかし、もし貴女が私の理解者足り得るのなら」

 

 一之瀬帆波。

 善良な精神を持ち、明るく社交的で、困っている人や弱い立場の者の苦境に心を痛め、自分より他人を優先する損な性分をしている少女。

 

 もしも、彼女が過酷なAクラス争奪戦で退学者が続出してもなお最後まで善性を保ち、その精神を貫くことができるのなら。

 そんな彼女が『自分を理解できるのは自分自身だけだ』という渉の悲観を覆したのなら。

 

 

――――それは渉の人生において、とても大きな意味を持つことになるだろう。

 

 

「貴女が私を知りたいと思ってくれたように、私も貴女に興味があります」

「あー……なんか、告白みたいだね」

「ある意味そうかもしれませんね」

「ッ」

 

 照れ隠しの冗談交じりに真剣な表情で返され、一之瀬は硬直した。

 

「私は一之瀬さんほど善良な人間を見たことがありません。誰しも善良さを美徳としながら心の中で不平不満をこぼし、他人を貶めているものです。しかしこの半月ほど、貴女を見て考えて……こう結論付ける他ありませんでした」

 

 

――貴女は悪意とは縁遠い人間なのだと。きっと兄は、私にそんな人間になって欲しかったのだと。

 

 

 唯一の家族が自身に望んでいた理想。

 その体現者たる一之瀬帆波を単なる他人――渉が憎悪する者たちと同列に扱うことはできなかった。

 

「きっとこの先、他人を陥れることを良しとする光景が目の前に広がるかもしれません。誰かを切り捨てなければならない時が来るかもしれない。しかし、願わくば、一之瀬帆波さん。貴女のその善良さを、どうか最後まで貫いてください。そしてその果てで得たもの、見えた光景を、私に教えて欲しい。貴女から見た私がどんな人物なのか、聞かせて欲しい。強制も、強要もしませんが――それが私の願いです」

 

 他者に対する願いは、呪いに転じる可能性を含んでいる。

 『善良でいて欲しい』という祈りは『善良でいなくてはならない』という強迫観念に化けるかもしれないし、何かのきっかけで反転する可能性も否定できない。

 しかし、人間という存在に絶望すらしていた廻屋渉が出会った一之瀬帆波という少女が周囲に示し続けた善意と優しさには、彼女が悪意や絶望の外側にいる人間だと思わせるだけのものがあった。

 

 彼女の過去に何かがあって、その結果過剰に善人であろうとしている可能性はある。

 しかし、彼女が周囲に示している善意は真実であり、彼女の優しさによって助けられたクラスメイトが彼女を慕っているのも否定されるべき事柄ではない。

 大体、元々の性格的なアラインメントが善でなければ、彼女が見せた自然な善き振る舞いはできないだろう。

 渉はそこに違和感を抱くことはなかった。

 

 渉の真剣な表情と言葉に一之瀬はどこかきまりが悪そうだったが、それでも決意を込めた表情で頷いた。

 

「ありがとう、色々話してくれて。廻屋くんに良い人だって言ってもらえて、すごく嬉しい。でも、私は…………っ、私は、君が言うほど良い人じゃないかもしれないよ?」

「その時は、私に見る目がなかっただけのことです」

「潔いなぁ。……うん、分かった。私はそんなに大した人間じゃないけど、善人でいようとし続けるよ。だから、廻屋くんは見ていて欲しい。私が、善人を投げ出さないように」

「十分です」

 

 誓いと共に固く交わされる握手を、星之宮知恵は静かに見守っていた。

 限られた席を巡って我先にと争い、時に蹴落とし合う過酷なクラス対抗戦は善意だけで乗り切れるものではない、と彼女は身を以て知っている。

 時に犠牲を払って得られるものがあるなら、切り捨ててでも貪欲になるべきだとも思っている。

 

 しかし、現実を知らない青い誓いを、鼻で笑う気にはなれなかった。

 確かに、穏やかさと善意はこの高度育成高等学校に似つかわしくない。

 だからこそ、かつての自身は少年の兄から受け取った温かなそれらに、知らず知らずのうちに救われていた。

 寒い冬の日に、ふと差し込んだ日だまりの如く――対抗戦がより過酷になった3年生のあの時、Dクラスでの卒業が決定的になってしまったあの時、彼に居て欲しかった、と身勝手な思いを時折抱いてしまうほどに。

 

 

――きっと、如月渉は、如月努の復讐を計画しているのだろう。

 

 

 確信に近い思いを胸にしまい込み、恩人の弟がこの学校で出す結論を見届けよう、と星之宮は決意した。

 死と憎悪に苦しみ、今も迷っている彼が手にする答えがどんなものであれ、自分はそれを受け入れよう、と。

 

「一之瀬さん。彼のこと、ちゃんと見てあげてね」

「……はい」

 

 どこか元気のない一之瀬の様子を不思議に思いながら、先に出て行った渉を追うように応接室から出ていく彼女を星之宮は見送るのだった。

 

 

 

「……だめだなあ、私。言わなきゃ、って思ってたのに、嫌われたらって思ったら……言えなかった」

 

 

   =   =   =

 

 

 廻屋渉と一之瀬帆波の間で交わされた誓いをよそに、時間は流れていく。

 退学救済に必要な情報をチャットで共有し、部活動に打ち込む傍ら勉強会の講師を務める渉の姿に、クラスメイト達が抱いていた不審や疑念は氷解していった。

 元々大した疑念ではなかったというのもあるが、勉強会の音頭をとる一之瀬からの信頼が厚かったからというのが大きいだろう。

 

 そして1週間がたち、中間試験2週間前の金曜日。

 放課後のHRでクラスに何度目かも分からぬ衝撃が奔った――中間試験の範囲変更である。

 

「星之宮先生、先週『全員が赤点を回避する方法はあると確信している』とおっしゃいましたが、それは今も変わっていませんか?」

「うん、そうだね。変わっていないよ」

「なるほど、分かりました。ありがとうございます」

 

 慌てて勉強会のスケジュールやカリキュラムを脳内で組みなおしている一之瀬の耳に、隣の渉から発された質問と返答が届く。

 またもや廻屋渉が何かに気付いたことを悟るのに十分だった。

 

 一之瀬はそれを問おうとしたが、渉の事だからきっと自分で気づかせる方に誘導するだろうだろう、と思い直した。

 これまでや、勉強会でも渉のスタンスを見ていたからこその理解だったが、思考の深度や精度までは容易く真似できるものではなく、すぐには対策は打ち出せない。

 ともかく星之宮の口ぶりを思い起こそう、と頭脳を回転させていたのだが……。

 

「あの、一之瀬さん、ちょっといい?」

「なあ廻屋、ちょっと相談があるんだけど」

 

 クラスメイトの網倉(あみくら)麻子(まこ)から一之瀬へ、同時に渡辺(わたなべ)紀仁(のりひと)から渉へ声が掛けられ、一之瀬は思考を中断させた。

 一之瀬は不機嫌などおくびも出さずに網倉に応対したのだが、その内容に驚いてしまう。

 

「この1週間、Cクラスの人に嫌がらせを受けているって子が何人かいて……」

「網倉もか? こっちも同じだ、廻屋。Cクラスの連中に軽い妨害行為を受けたって人が何人かいるんだ」

 

 網倉と渡辺の相談内容は同じで、隣の1年Cクラスの人間から複数のクラスメイトが嫌がらせを受けているというものだった。

 CクラスからBクラスへの組織的な攻撃であることは明らかで、試験の範囲変更の件からこちらの対策にシフトせざるを得ないか、と悩む一之瀬に助け舟が出された。

 

「分担しましょうか、一之瀬さん。貴女は中間試験の対策を進めてください。Cクラス対策は私の方で何とかします」

「うーん、そうしたいところだけど、どうするつもり? 先生に言ってみる?」

「言ったところで解決するかは怪しいですね。生徒同士の諍いに教員が介入するかは、証拠がなければ難しいでしょう」

 

 普通なら教師をはじめ大人に相談することは生徒にとって手早く確実な解決方法なのだが、学校が教師から生徒への肩入れを禁じているためそれは難しいだろう。

 もしも相談したとして、証拠がなければ水掛け論になるのは想像に難くない。

 大人を頼れないと聞き表情を曇らせる網倉と渡辺に、渉は穏やかに笑った。

 

「まずは情報収集です。いつ、誰から、何処で、どのような妨害行為を受けたか。網倉さん、渡辺さん、妨害行為を受けた本人たちを呼んでください」

 

 タブレットPCを取り出しつつ、渉はクラスメイト達への聞き取り調査を開始した。

 

 妨害行為は多岐にわたり、例えば廊下で進路を塞がれて足を引っかけられた、カフェや学食で並んでいたら集団で割り込まれた、出合頭に罵倒された、カラオケルームで集まって遊んでいたら無断で侵入された、入り口を人間の壁で固められて出られなかった――などなど。

 直接的な暴力や窃盗といった証拠が残るような行為や、虐めやカツアゲといった明確に禁止が明言されている行為を除いたあらゆる妨害を網羅するような行為の数々に周囲が眉間に皺を作る一方、渉はCクラスのリーダーの狙いをおぼろげに看破しつつあった。

 

「監視カメラの映像は? あれなら証拠として使えるだろう」

「確かに使えるでしょう。しかし、これだけ広範囲に妨害行為を働いているとなると発覚や罰則は覚悟の上でしょうね。むしろ、それが目的かもしれません」

 

 いつの間に来たのか、神崎隆二の疑問に答えつつ、渉はタブレットPCの画面を見せた。

 表示されていたのは無料ソフトで校舎の構造を再現した3Dモデルで、妨害行為を受けた場所が一目でわかるようになっている。

 レイヤーを変えれば監視カメラの記録範囲も分かる代物で、多くはカメラの範囲外で妨害が行われているが、いくつかは範囲内にあった。

 

「バレる前提だと? そんなことしてCクラスに何の得がある。ペナルティでクラスポイントを減らされるのが関の山だろう」

「それが目的でしょう。ペナルティを受け、どの行為がどれだけ減点になったかを分析し、この学校のシステムを把握して――次への布石にする。Cクラスのリーダーはダーティな手段に躊躇いがないどころか、相当な切れ者のようです」

「……それが真実だとして、Cクラスはなぜそんなリーダーに従っている? ペナルティを受ければ自分たちが受け取るプライベートポイントも減るというのに」

「精神的・物理的に問わない妨害行為を実行させるなら、優れた統率能力よりも強引な支配が必要になりますね。入学してから1ヶ月という短期間でそれを為したなら、暴力による恐怖支配と考えるのが妥当でしょう」

 

 自クラスの生徒を駒にして、ペナルティを強制的に受容させて集団で妨害を行わせているリーダーが、Cクラスに居る。

 今は嫌がらせと呼べる範疇に収まっているが、その対象が自分たちBクラスとなれば、クラスメイトの苦い表情も当然だった。

 

「それで、どうするんだ廻屋」

「そうですね……」

 

 神崎の問いに渉は教室を見回した。

 勉強会のある日ということもあり、部活動に参加している者を除いた大半のクラスメイトがまだいることを確認した彼は前に出て教壇に立つ。

 

「一之瀬さん。勉強会の前にすみませんが、少し時間をくれますか?」

「何か考えがあるんだね、分かった。みんな、廻屋くんの話を聞いてくれる?」

 

 幾度となく立った教壇で、これからもそうするのだろう、とどこか感慨深く思いながら渉は口火を切った。

 

「Cクラスから皆さんが受けた数々の妨害行為は、Cクラスのリーダーによる学校が課すペナルティの検証実験と見ていいでしょう。今後のAクラス争奪戦において白と黒の境界線のギリギリを測るためのものです。一時のペナルティという泥を呑んでのクレバーな一手ですが……わざわざ相手に合わせてやる義理はありません」

 

 渉が伝授した対策はそう複雑なものではない。

 

 まずはなるべく複数人で行動すること。

 単独で妨害行為に遭遇した時、複数人で囲まれてしまえばパニックを起こして愚かな行動をしてしまう可能性がある。

 それは間違いなく悪意を持って仕掛けてきた相手の思うつぼである、と。

 

 次に、ボイスレコーダーの携帯を習慣化して、妨害行為に遭遇したら録音を躊躇わないこと。

 揉め事は起きないのが一番いいが、もし起きてしまった場合は客観的な証拠が重要な役割を果たすからだ。

 

「この学校の事ですから、生徒間の諍いに教師が介入するのは余程酷い犯罪行為が起こった時だけでしょう。自身や身内からの証言は証拠としては弱く、第3者から見ても確実な証拠は皆さんの身を守る盾になります。自分自身を守れるのは究極的には自分だけであると心得てください。これは卒業後も変わりません。皆さんには、自分で自分の身を守れる人間になって欲しいのです」

 

 

   =   =   =

 

 

 渉の言葉のうち、どこまで彼の真意なのか、一之瀬帆波には見当がつかない。

 いつも通り穏やかな態度と表情で対策を伝授して未来への憂いを示した彼だが、クラスメイトが受けた理不尽への義憤などは微塵も感じなかったからだ。

 

 淡々と状況を読み、Cクラスの狙いを推測して的確な対策を打ち立てて見せる。

 なるほど、確かに優秀な軍師ならば自分の胸の内を他人に悟らせることはしないだろう。

 多くのクラスメイトがそう見ているように、一之瀬も廻屋渉を『都市伝説を語って暴走するのが玉に瑕の、ほぼ完全無欠な人間』だと思っていた。

 

『廻屋くんは、優しいね』

 

 一之瀬は半月前、過去の経験を由来とする強い自罰意識から吐くつもりのなかった弱音を思い出した。

 明確に自分より実力が上だと分かっている彼が『一之瀬のせいではない』と断言してくれたことは、掛けて欲しい言葉を掛けてくれたことは一之瀬に少なくない安心感をもたらした。

 

 しかし、盲目的に色眼鏡をかけて本当の姿を見逃すのは、良き理解者には程遠い。

 廻屋渉がどういう人物なのかを知りたいと思って見続けてきた彼女は、

 

『廻屋くんはただ優しいだけの人ではないのかもしれない』

 

 と、渉に一歩踏み込むだけの準備をした。

 その行為は、自分が理想とする完璧さを壊すことになるかもしれない、と覚悟しながら。

 

 

   =   =   =

 

 

「失礼しますよ」

「おーう……って、なっ!? お、おい!?」

 

 暖簾でもくぐるかのように気軽に扉を開けて入出した他クラスの生徒を石崎(いしざき)大地(だいち)は一瞬見逃しかけたものの、それがBクラスの有名人である廻屋渉だと気づくと慌ててその肩を掴んだ。

 

「お前、何してるんだ!? ここはCクラスだぞ!」

「他のクラスの教室に無断で入ってはいけないという校則はなかったはずですが」

「は、はあ!?」

 

 黒髪のツーブロックはともかくとして、大柄で強面という不良スタイルの石崎は自分が威圧的な容姿をしていることを自覚していた。

 外見に違わぬ喧嘩っ早さで肩を掴んで大声を出した彼は渉の線の細さもあって内心見縊っていのだが、全く気圧されずに穏やかな声で掴んだ手を外され逆に面食らってしまう。

 

「ああ、君でいいですか――このクラスのリーダーは誰ですか?」

 

 妖しく光る金色の目で見つめられながらよく通る声で問われ、石崎は思わずその(・・)方向に目を逸らしてしまう。

 渉が周囲の様子をさりげなく伺うとその方向を見た生徒は石崎だけではなく、複数の生徒が遠慮がちに視線を動かしていた。

 彼らのうち何人かは頬にガーゼを貼っていたり痣があったりと酷い有様だったが、鋭い舌打ちの音にその全てが身を震え上がらせた。

 

「なるほど、君がリーダーですか」

「……ああ、そうだ。俺は龍園(りゅうえん)(かける)。Cクラスの王だ」

 

 王を自称する傲岸不遜のその男は龍園翔。

 濃い紫色の長髪から除く眼光は不機嫌さを差し引いても鋭く、皮肉気に笑う口元とは裏腹に渉の涼しい顔を冷たく射抜いていた。

 

「初めまして、龍園さん。廻屋渉です、今日はBクラスの代表として来ました」

「知ってるよ、有名人。一之瀬の腰巾着に甘んじている優男が、たった1人で乗り込んでくるとはな……何の用だ?」

 

 自身を見下す明らかな挑発にも、渉は穏やかな微笑のまま動じない。

 身動き一つできずに固唾を飲んでCクラスの生徒が見守る中、今年度最初のクラス間抗争が始まろうとしていた。

 

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