よう実×都市伝説解体センター   作:Shu@cosmos

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14話 交渉

 堀北会長から受け取った過去問は勉強会の講師役の神崎と浜口に共有され、各々が改変して実践問題として使われることになった。

 2年分の過去問が全く同一のものであるということから1学期の中間試験は伝統的に毎年同じ問題が出されるという推測が当然立ち、そのまま使えばいいという意見も出たが、期末試験以降も同じ手が通用するとは限らないという観点、なによりそのまま使ったのでは勉強の意義が損なわれるという理由から、勉強会の継続が決定されるのだった。

 

 そして生徒会室での一件から週が明け、図書室にて一之瀬帆波は廻屋渉を伴って過去問を開いて勉強会で使う実践問題の作成と調整に努めていた。

 中学3年時、高度育成高等学校を推薦された時に猛勉強した彼女の成績はクラスでも渉に次いで2番手にあったが、専ら問題を解く側であったため、問題を作るという行為に新鮮さを感じていたが、同時に難しさも感じていたため渉にサポートを頼んでいたというわけだ。

 

「――よし、こんなもんかな」

「問題ないとは思いますが、確認しましょう」

「うん、お願い。んー、疲れたー」

 

 ノートに最後の1教科の問題を書き終え、一之瀬が椅子の背もたれに寄りかかって大きく伸びをする。

 必然的にその豊かな胸部が強調されることになり、試験前ということで勉強している男子生徒が目撃してしまい慌てて目を逸らした。

 幸か不幸か、一之瀬本人と出来たばかりの実践問題に目を通している渉は気づいていなかったが。

 

「……Great(素晴らしい)。上出来です、一之瀬さん」

「ううん、手伝ってくれた廻屋くんのおかげだよ。ありがとう」

「いえいえ。それでこの後はどうしますか? 今日はもう上がりますか?」

「んー、どうしようかな」

 

 試験まで2週間を切っているとはいえ、勉強会用の実践問題を作り終えたばかりの今また勉強するのは流石の一之瀬とはいえ遠慮したい。

 折角だから友人になったばかりの椎名から勧められた本でも読もうか、と腰を上げたのだが……。

 

「分かった、帰納法はフランシス・ベーコンだ!」

「満点確実だな!」

 

 静謐な図書室にそぐわない大きな笑い声を伴って聞こえた内容に一之瀬は思わず目を向けた。

 何も不快に思ったからではない。

 

「……大航海時代は試験範囲じゃない、よね?」

「そうですね」

 

 世界史の範囲外の内容を聞いて渉に確認する一之瀬。

 失礼ながら、しゃべっている生徒たちは試験範囲外を勉強する余裕があるほど優秀には見えない。

 どういうことかと思案していると、図書室で勉強していた他の利用者と揉め始めたではないか。

 

「行きますか?」

「うん、他の人の迷惑になるからね」

 

 喧嘩を仲裁しようと渉と一之瀬が近づくと、先に騒いでいたのはDクラスの生徒たち*1、彼らに絡んでいるのはCクラスの生徒である山脇*2だと判明した。

 

「はいはい、君たちそこまでだよ」

「他の利用者の迷惑になります」

 

 2人は騒動に割って入り、Cクラスの山脇の方を一之瀬、Dクラスの生徒たちの方を渉が止める。

 短い赤髪の大柄な男子生徒を宥めつつ、渉はその場にいた綾小路と目が合ったが、初対面の時と同じく何の感情も見通すことは叶わなかった。

 

「チッ。悪かったよ、一之瀬」

 

 相変わらずだ、と妙な感慨と少しの興味を抱くも、仲裁が終わって山脇がこの場を去る。

 その際に言い残した『テスト範囲外』という言葉は、Dクラスの生徒たちに少なくない動揺をもたらしていた。

 

「……ねえ、テスト範囲外って本当なの?」

「先週の金曜日に通達されたはずですが。担任の先生から何も聞いていないのですか?」

「ええ、そうね。茶柱先生に確認しないと」

 

 名前も知らない淡い茶髪の女生徒に対して渉が肯定すれば、黒髪ロングの女生徒が急ぎ勉強道具を纏めはじめる。

 その様子を横目に渉の脇腹が突かれため見れば、一之瀬が心配そうな表情をしていた。

 

「廻屋くん、あのさ――」

 

 一之瀬の提案をいくつかの条件付きで賛成すると、2人は図書室を出ていったDクラスの面々を追いかけた。

 

「ねえ、君たち!」

「……何かしら、見てのとおり急いでいるのだけど」

 

 『くだらない用だったら分かっとるんだろうな、ワレェ』という副音声が聞こえてきそうなほどに剣呑な黒髪の女生徒の剣幕に怯まず、一之瀬は話を続ける。

 

「ああごめんね。君たちDクラスの生徒だよね? 中間試験の対策について提案があるんだ」

「提案?」

「うん。テスト範囲を知らされてないなら、聞いておいて損はないと思うな」

 

 胡乱気な視線にも、一之瀬の自信のある力強い笑みは崩れない。

 それに折れたのか、それとも興味を惹かれたのか、その女生徒はクラスメイトの方を向くと指示を出した。

 

「櫛田さん、彼らを連れて茶柱先生にテスト範囲について確認してくれる? 綾小路くんは私とこの2人の話を聞くわよ」

「分かったよ、堀北さん」

「……仕方ないな」

 

 櫛田と呼ばれた茶髪の女生徒が朗らかに頷き、堀北と呼ばれた黒髪の女生徒と綾小路を残して足早に去っていく。

 感情の読みにくい平坦な声で返事をした綾小路を伴い、堀北が一之瀬と渉に向き直った。

 

「それで、何の用かしら。中間試験の対策という話だけど」

「うん。それなんだけど、流石に廊下で話すのはちょっと……。廻屋くん、良い場所ないかな?」

「屋上はどうですか? 入り口も監視カメラも1つずつで、盗み聞きされる危険はないでしょう」

「じゃあそこで。どうかな?」

 

 盗み聞きを危惧するような試験対策という響きに不穏なものを感じないでもないが、テスト範囲の変更が真実ならそれを担任から聞かされていないDクラスの面々は危機に立たされていることになる。

 特に、今堀北が面倒を見ている須藤、山内、池は先日の小テストでワースト3を記録しており、無策では本番の中間試験でも赤点を取って退学を通達されるのは目に見えていた。

 一刻も早く正しいテスト範囲を知り、対策を立てたい堀北にしてみれば1秒たりとも無駄にはできないのが本音であったが、一之瀬の自信に溢れた表情は聞いて損はないと思わせるだけのものがあった。

 

 そのため、堀北鈴音は綾小路清隆を伴って屋上へと向かうのだった。

 

 

   =   =   =

 

 

「それで、対策というのは何かしら?」

「話す前にいいですか? 一応契約の類となる可能性があるので、一部始終を録音させてもらいます。後で揉めたときに証拠になりますから」

「構わないわ、さっさとしてちょうだい」

 

 ポケットから取り出したボイスレコーダーを堀北と綾小路に見せ、渉はスイッチを押した。

 

「よし、ではどうぞ一之瀬さん」

「うん。なんかワクワクするね、こういうの……ゴホン。1年Bクラスの一之瀬帆波から、中間試験の対策として提案します。同席するのは同クラスの廻屋渉と」

「……Dクラスの堀北鈴音よ」

「同じく綾小路清隆」

 

 堀北の名前を聞き、渉は改めて彼女の容貌を眺めた。

 長い黒髪は艶やかに手入れされており、意思の固そうな黒い瞳は力強い光を放っている。

 総じて研ぎ澄まされた剣のような印象の、一之瀬帆波とは違うタイプの美少女だった。

 

 睨むような視線には自他問わない厳しさを感じさせ、容姿や性格の類似点、さらに同じ名字から『生徒会長との血縁』という可能性に思い至るのに時間はいらなかった。

 

「自己紹介も済んだし、本題に入るね。中間試験の対策は先輩からもらった過去問だよ。今回の試験としては、明確な対策としてこれ以上の物はないと思っているんだ」

「……確かに、過去問が試験の対策として使えるのは認めるわ。正しいテスト範囲の把握にも役立つでしょう。でも明確な対策というのはどういう意味?」

 

 堀北の疑問はもっともだ、と渉は端末を出し、会長から提供されたPDFを表示する。

 

「ここに3年の先輩から譲ってもらった1年1学期の中間テスト、それも一昨年と一昨々年2年分の過去問があります。驚くべきことに、一字一句同じ問題が出されているのです」

「――なんですって?」

 

 渉からの情報に呆気にとられた堀北だが、すぐに立ち直って端末と渉を睨みつける。

 ただでは受け取らないプライドの高さが垣間見えた。

 

「3年前と2年前がそうだったとしても、今年も同じ問題が出されるとは限らないわ。それにそもそも、その過去問が本当に正しい確証もない。明確な対策としては疑わざるを得ないわね」

「正しい判断です。――綾小路さんはどう思いましたか? 大して驚いていないようですが」

 

 堀北も表情豊かな方ではない印象だが、綾小路の方は彼女を超えるポーカーフェイスぶりだった。

 心理学にも精通している渉は程度の差こそあれ、対面すれば表情や仕草からその人の内面を見抜ける自信があったのだが、以前の邂逅を経てなお僅かなものすら見通せない。

 そんなことは渉にとって初めての事であり、綾小路清隆という存在への興味は増すばかりだった。

 

「いや、表情に出にくいだけで驚いている。しかし、堀北の言うことも最もだとも思う。その過去問が正しいという証拠があるのか?」

 

 表情に出にくいというのは本当のことだが、まるっきり正しいというわけでもない、と渉は直感した。

 確かに綾小路の表情は動いておらず、声のトーンも一定で、一見して何を考えているのか分かりにくい。

 周囲に対して心理的な壁を作っている者の典型的な特徴であり、そうした者の背景は大抵デリケートなものが多い。

 例えば自身の感情を認識できていない、強い抑圧的な環境にいた、対人経験の失敗による傷からの自己防衛反応、その他発達的な特性や心理的な疾患などが上げられる。

 

 他人が好奇心で踏み込んでいい事ではない、と追及を打ち切り――しかし頭の片隅には入れつつ――端末の画面を切り替えた。

 

「ここにあるのが過去問を入手した時のプライベートポイントの送信記録です。学校側からも確認できるこの履歴が残っている以上、間違った過去問を送ったと発覚した際の責任は件の先輩に向きます。詐欺でポイントを騙し取った際の重いペナルティ――この1万というポイントは、そのリスクに釣り合うと思いますか?」

 

 その画面を見た堀北は目を大きく見開き、肩を震わせて息をのんだ。

 先の綾小路に比べれば分かりやすく狼狽えている原因は、なにも自身の反論を論破されたからではない。

 

 

『送信:10,000pt

宛先:堀北学(○○○-△△△△-××××)』

 

 

「――あなた、これは」

「どうしましたか、堀北さん」

「っ、いえ。……この過去問は、生徒会長から受け取ったのね」

「はい。先月少し話すことがあったので、その縁を頼りました。同じ名字ですが、彼とはご兄妹で?」

「……あなたには、関係ないわ」

 

 目を閉じて拒絶しようと、内心の動揺が収まるわけではない。

 追いつきたい、見てもらいたい――そんな崇拝の域にまで達している憧憬と尊敬を向けている兄から失望され、打ちのめされたことは堀北鈴音の記憶に新しい。

 その兄の連絡先を得ている、つまり少なからず彼に認められた相手が目の前にいることは、そんな彼女の平静を崩すのに十分すぎた。

 

 予期せず訪れた沈黙を仕切りなおすように、一之瀬が改めて口火を切る。

 

「それで、どうかな? この過去問が試験の対策として十分使えるのは分かったと思うんだけど」

「……ええ、そうね。学力テストの対策としては正直釈然としないけど、今のDクラスには有効だと認めざるを得ないわ。貴方達の提案というのは、ポイントで過去問を買い取らないか、という取引ね」

「個人的には、別に無償でも良かったんだけどね」

「……なんですって?」

 

 驚き、警戒、そして僅かな憤怒――数舜して一之瀬の言葉を理解した堀北の表情から、渉はそれらの感情を読み取った。

 見れば綾小路も眉を上げており、微かな驚愕を浮かべている。

 

「侮られたものね。私たちDクラスとは対等な取引を結ぶ価値すらないと言いたいのかしら」

「それは違うよ! 確かにクラスの序列はあるけど、同じ生徒として対等だと思っているよ。私はただ、自分のクラスはもちろん、他のクラスの人も退学して欲しくないだけだよ」

「それが本当なら呆れた甘さね。私たちに提案してきたのも同じ理由なのかしら?」

「うん、そうだよ」

 

 即答した一之瀬は自信に満ちており、対する堀北の表情はなんとも形容しがたいものだった。

 只より高い物はないという疑念と警戒、底なしの善意に対する呆れ、そして困っているなら敵に対しても手を差し伸べる愚かな気高さへの僅かな憧憬。

 胸中を渦巻く複雑な感情に蓋をして、堀北は溜息を吐いた。

 

「単純に信じることはできないわ。無償の善意や完璧な善人が存在すると信じるほど、私は無垢ではないから。過去問を提供するというなら、ちゃんとポイントを払う。ポイントの送信履歴は有事の際の証拠にもなるのよね?」

「その通りです。こちらとしても、ポイントを払って過去問を手に入れている以上、無償で提供するつもりはありませんでした」

「さっきのは私個人の意見だから。Dクラスはポイントに困ってるんじゃないかって思っての提案だったんだけど、廻屋くんに修正されちゃって」

 

 送信履歴の証拠による担保は思いつかなかった、と苦笑する一之瀬に、堀北は眉間を揉んだ。

 

「分からないわね。そもそもの話、クラスポイントに差があるとはいえ、DクラスとBクラスは敵同士。なぜこの取引を持ち掛けてきたのかしら。発起人である一之瀬さんはまだしも、廻屋くんは止めるべきでしょう。この提案、Bクラスに益はないのだから」

「そうでもありません。Dクラスには堀北さんのような人がいましたからね」

「……どういう意味?」

 

 理解できないという表情の堀北に渉は説明を続ける。

 

「堀北さんはAクラスを諦めていないようですね」

「当たり前よ。私がDクラス――不良品だなんて認められるわけがない」

「貴女は上の足を引っ張る相対的な優位よりも自分が上に行く絶対的な優位を求める、プライドの高い高潔な人間です。そうでなくては勉強会など主導しないでしょう。そういう人であれば、0ポイントを盾にした死兵戦術はとらないと踏みました。――失うものがない存在ほど、怖いものはありませんから」

 

 例えクラスポイントが0になろうがそれ以上は下がらず、見えない負債を負うことはない。

 何をしても結果には響かないとなれば、自棄を起こす者が出ないとも限らない。

 

 クラスポイントが発表されたとき、Dクラスは史上最低の0だと貼りだされた。

 そして退学はクラスポイントのペナルティが伴うと聞いた時、渉はDクラスが実力が低い数名を捨て駒にすることで上位クラスの生徒を道連れにするかもしれない、と危惧した。

 大局を見据えて、少数を犠牲にすることで活路を得る――そんな例は歴史上、いくつもある。

 

「馬鹿な話ね。そんなことをしても自分たちの実力が認められるわけではないわ」

「堀北、お前須藤たちを見捨てようとしてなかったか?」

「ええ、そうね。でも切り捨てるだけで捨て駒にするつもりはなかった。それに、彼らが今後クラスの利になる可能性があるうちは残すことに同意したけど、逆に残すことで不利になると判断したなら切り捨てることに躊躇いはないわ」

「……怖いやつだな」

「何か言ったかしら、綾小路くん?」

 

 ジロリと睨む堀北に、綾小路が素知らぬ顔で視線を逸らす。

 そんな光景に、一之瀬がクスリと笑った。

 

「仲が良いね、2人とも」

「何処を見たらそう見えるのか、聞きたいのだけれど」

「勘弁してくれ、こっちはこき使われているだけだ」

「あら、貴方と仲良しなんてこちらこそ願い下げよ」

 

 一見すると嚙み合っていない凸凹コンビだが、打てば響くやり取りに意外と相性は悪くないのかもしれない、と渉は思った。

 綾小路は依然として不気味な部分があるが、他者を通して見えるものもあるだろう、と今後も観察を続けることを密かに結論付けるのだった。

 

 

   =   =   =

 

 

 情報料を加算して12,000ポイントをその場で渉の端末に送り*3、渉と連絡先を交換した堀北が過去問のPDFを端末で受け取ることで取引はお開きとなった。

 交渉を終えた綾小路清隆は寮の自室に帰り着き、今日起こったことを振り返っていた。

 

 再結成した勉強会は問題なく進んでいたが、Cクラスの山脇からテスト範囲が違っていると挑発交じりに指摘された。

 正しいテスト範囲はその場にいた櫛田が茶柱先生に確認してクラスのグループチャットで通知したことで知ることができた。

 

 重要なのはその直前、山脇との喧嘩を仲裁したBクラスの一之瀬と廻屋から過去問を提供する取引を持ち掛けられたことだ。

 取引を受諾したことでDクラスは過去問という強力な試験対策を入手した。

 過去問は別グループの勉強会を主導している平田にも共有されることで、赤点回避は現実的になったと言っていいだろう。

 

 小テストの難問の存在や中間試験についての茶柱先生の説明から、過去問の存在については予測していた。

 テスト範囲の変更は予測を確信に変え、近いうちに先輩から交渉して手に入れるつもりだったが、今日の取引によりその手間は省けた。

 堀北と折半で6,000ポイント――本来の予定よりも安く済んだことを考えれば、良い事尽くめだと言えるだろう。

 

 

 ――しかし、綾小路清隆はそうは考えていなかった。

 

 

 Bクラスの面々が過去問を持っていたことは、別に不思議でも何でもない。

 自分と同じ発想ができるなら、過去問の存在に辿り着くことは難しい事ではないからだ。

 

 問題はそう、それを手にした廻屋渉と再び邂逅したことだ。

 5月1日に職員室前で初めて会った時に鳥肌が立った理由――2度目の邂逅を経て、綾小路はその答えを導き出していた。

 

「……最高傑作か」

 

 ホワイトルーム。

 何もかもが真っ白な施設で綾小路は生まれたときから徹底した教育を受け、そこで最高傑作と呼ばれる成績を残した。

 常人の一生を遥かに超える学習量や過酷な訓練による極めて高い身体能力。

 脱落していった者の絶望を見れば、ホワイトルームが問題のない施設だとは口が裂けても言えない。

 しかし通常の人生を送っていれば到達しえない領域に自分が辿り着いていることを考えれば、ホワイトルームに対して否定するだけでいることはできない。

 綾小路は、高育を卒業すればホワイトルームに戻ることを受け入れてさえいた。

 

 ホワイトルームの目的は『教育によって天才を作り上げる事』。

 ならば――生まれながらの天才と、ホワイトルームによって作り上げられた最高傑作であるオレが競うことは意義のあることなのではないか?

 

「廻屋渉……。お前はきっと、生まれながらの天才なんだろうな」

 

 普通の学校生活を知ることを願い、綾小路はこの高度育成高等学校に入学した。

 きっとこの高育は普通とは程遠いところにあるのだろうが、それならそれで適応するまで。

 

 そして出会った――生まれながらの天才と。

 廻屋渉がそうであることは、鏡でいつも見ている虚無に似た闇を孕んだ彼の瞳と目が合った時に理解していた。

 

 綾小路清隆は生来から好奇心旺盛な性格だ。

 知りたいと思ったこと、学びたいと思ったことに手を伸ばし、吸収せずにはいられない。

 

「お前なら、オレを葬れるか……?」

 

 前回関係がないと思ったことは撤回しよう。

 綾小路は自身の半生を作り上げた意義へと、手を伸ばそうとしていた。

*1
傍に5月初めに職員室前で会った綾小路清隆がいたため

*2
先日Cクラスを訪れた渉が顔を確認している

*3
綾小路と堀北が折半した




1巻はこれで終了です……14話もかけてるってマジ?
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