618の話によると、ここはキヴォトスという学園都市らしい。キヴォトスでは様々な学園が存在し、学園とそこに所属する生徒が自治区という形で治安維持や管理を行っているらしい。
…学園を企業に読み換えればなじみがあるかもしれない。巨大企業が惑星もしくはその一部を管理し、企業の武装勢力、ベイラムであればレッドガン、アーキバスであればヴェスパー、ファーロンであれば武装船団が占領地区内の治安維持を行う。もっとも、それは彼らにとっての"治安"だが……。
そしてそれら企業、もとい学園を統括する連邦生徒会はほぼ全ての業務の鍵を担っていたらしい連邦生徒会長が現在失踪しており、機能不全に陥っているとのこと。
ただ、つい最近外部から来た大人、"先生"という人物が現れ、キヴォトスを統括する鍵、サンクトゥムタワーは最近再び動作し始めたらしい。連邦生徒会の再稼働は目前とのこと。
そしてここからが本題。さきほど彼女たちが銃を携帯していたので驚いたが、これはキヴォトスでは普通のことらしい。むしろ銃を携帯しないほうが不自然らしい。
個人で程度の差はあれど、銃弾を受けても痛い程度、らしい。にわかには信じられないが、改めて銃器を見て見ると、不思議と恐怖を感じない。撃たれても平気な気さえしてくる。
頭の上にある輪、ヘイローというらしいが、これのせいなのだろうか。618にもよく分からないらしい。
そもそもこれに関しては私たちの頭で理解できることでもないのかもしれない。
「だから、便利屋の人も銃を持ってるけど、敵じゃない。」
「…そっそうよ!何だかよく分からない間に話が進んでるけど!」
「ん~イチハちゃんの時も思ったけど、変な子たちだね。」
赤髪の人…アルさん、この4人組のリーダーで社長らしいが、その人と白髪のポニーテール、ムツキさん(室長らしい)が続ける。
この人たちは便利屋68、依頼を受けて報酬で動く所謂何でも屋、独立傭兵部隊に近い人達らしい。なんとなく親近感がある。
聞けば最初に618を砂漠で拾ったのもこの人たちとのこと。ひとまず信用して良いだろう。
そして618は自分がいた砂漠に通い、私達を見つけたらしい。何故私達が砂漠で倒れていたのかは618にも便利屋68にも私達にも分からないが、とにかくこれは夢ではなく、私達は生きていそうだ。なら、生きるべきだ。
「…私達の銃があるとか言ってたけど、どういうこと?」
「銃を渡す前に、いくつか聞いておきたい。貴方たちは何者なのか、イチハとどういう関係なのか。それを知っておきたい。」
620が聞くと、白黒髪、カヨコさん(課長らしい)が訝しげな視線と共に確認を要求した。当然だ。撃たれても死なないとは言え、銃が"牙"であることに変わりはない。
引き続き説明しようとする618を制して、変わって私が口を開く。ハウンズのことだ。私達が何者なのか。ハウンズの小隊長として、私が表に立って説明するべきだ。
「私達は、独立傭兵部隊ハウンズだ。私が小隊長で、C4-617という。」
「C4-620と言います。」
「C4-619です。よろしく。」
「617、19、20ですか……、や、やっぱり番号、なんですね……。」
「C4、618、だっけ?イチハも本名…って言っていいのか分からないけど、はそれだっけ?」
「うん。」
C4-617。第四世代強化人間の617番。第四強化世代手術の617人目。強化手術の後、強化人間としてブローカーに回され、私達は連番で番号付きで売られていた。元の名前は、もう忘れてしまった。強化前の記憶は曖昧で、名前はそもそもあったのかも分からない。どちらにせよ、私の意味はそこには無い。
──お前たちに、意味を与えてやる
…ハウンズとは言ったが、ウォルターがいない今、ハウンズを"猟犬"と言って良いのかは分からない。主人のいない犬は猟犬と言えるのだろうか。
「人は番号で呼ばれるものじゃないわよ。」
アルさんが真顔で静かに言った。それが当然と思っていて、つい口に出てしまったように。この人にとって、人を番号で呼ぶことは少なからず忌避感を覚えるようで、先ほどまでの話に置いて行かれて狼狽していた姿とは全く違う。その目線には哀れみすら感じる。
しかし、私に哀れみを感じられるような謂れはない。少なくとも私にとっては。
「哀れに思われるのは心外です。」
「え!?ごめんなさい……。じゃなくて!私が哀れみなんて持つわけないじゃない!私は悪のカリスマ!アウトローよ!」
雰囲気が元に戻った。忙しい人だ。しかし、アウトローと言っているが、そうだったのか。そのレベルで説得力が無い。
「…でも、それでも人は番号で呼ばれるものじゃないはずよ。」
アルさんはいたって真面目な面持ちで少し考えた後に続けた。
「名前で呼ばせて頂戴。イチナ、で良いかしら?」
「イチナ……。」
──名前が増えたな。
そんな声が聞こえた気がした。どことなく、嬉しそうな声色がする。
名付けには明るくないが、良い響きだと、そう思う。…嬉しい。
「あ、嫌だったかしら!?」
「不服なら変えてあげるよ~。アルちゃん次第だけど。」
「嫌なわけ、無いですよね?」
視界が少しぼやけた、少し目が潤んでいた。紫髪のハルカさん(平社員らしい)の言う通り、嫌なわけがない。
新しい名前だ。
イチハが嬉しそうにその名で呼んでほしそうにするのも、頷ける。
「ありがとう。嬉しい。」
感謝の言葉を言う。ウォルター以外に感謝の言葉を言うのはあまり慣れていないが、なんだか、とても嬉しい。
それらしい名前が付くということで、…実際は目が覚めて間もないのだが、キヴォトスの一員になれたような、そんな気がする。
「それでアルちゃん、あと2人だよ?」
「そうね、って私で良いの?」
2人が頷く。なんとなく楽しみなようにも見える。
「なんか責任重大な気がするけど…イチクちゃんと…ニゼロ、いえニオちゃんで良いかしら?」
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」
619と20…いや、イチクとニオもお礼を言う。
ハウンズ全員の新しい名前。ウォルターがどこにいるのかは分からないが、きっと喜んでくれる。
……最期の惑星封鎖機構の拠点襲撃、そのミッションは完了した。本当ならその後開通したルートを使って3人でルビコン3に密航する予定だったのだが、私達はルビコン3ではなく学園都市に来ることになってしまった。ウォルターの「友人」の私的な依頼。ルビコン3への密航の理由。そして、それはまだ完遂できていないはずだ。開いた航路で、ウォルターの方は無事先に進めているのだろうか。きっと、ウォルターなら無駄にはしてくれていないはずだ。
「イチハちゃんの時も思ったけど、そのまんまだね。」
「う、うるさいわね……。」
「えへへ、アル様、私は良い名前だと思いますよ……。」
「とりあえずは、分かった。それで銃のことだったね。ムツキ、ハルカ、持ってきてくれる?」
「分かりました。」
3人をよそに、カヨコさんが一旦置いていた銃の話に持っていく。
私達の銃とは一体どういうことだろうか?タキガワやベイラムも、RaDもキヴォトスには無いだろうし、第一、ここで目覚めたのだからキヴォトスに来てから銃を買ったわけもない。
そう思っていたのだが、隣の部屋からハルカさんが一つずつ持ってきた銃の形には、とても覚えがあった。
「これで全部…ですね……いかがでしょう……。」
「ありがとうハルカ。…まず、貴方たちはアビドス砂漠で倒れてた。それをイチハが見つけて私達と一緒にここまで運んで来た。そして、貴方たちと一緒にいくつか武器が散乱してた。イチハの時もそうだったけど。この武器に見覚えはある?」
見覚えがある。明らかに小さくなっているのと、手持ち武器として簡素化されているものの、これは私達の武器だ。
大豊製ガトリング…のような手持ち式のマイクロガンと頑丈そうな盾、銃身が四角形の特徴的な拳銃が二丁、4連装の迫撃砲の計5つだ。
それぞれのACで使用していた主武装のような武器を前に、3人で目配せし、自分の武器と思われる武器を取る。私がマイクロガンと盾を、ニオが拳銃二丁を、若干不服そうにイチクが4連装迫撃砲を。…4連装迫撃砲に関しては消去法でイチクの武器だと思うが、本当は12連装ミサイルだった気がする。ACでもあの武装は積載超過していたのだから、実際の使用用途的にも、手持ち武器になったらこうなるのかもしれない。しかし、不承不承と言った様子だ。イチハの方を見ると、いつの間にか速射型リニアライフルを手に持っていた。イチハの主武装だった銃だ。
「へえ、見覚えはあるみたいだね。結構決まってるじゃん。」
「そうでしょうか。」
「傭兵部隊ですから。」
イチハが自慢げに言う。
「何よ、いきなりアウトローっぽくてカッコいいじゃない。」
「アル様も立ち姿も…カッコいいと思います……。」
護身用のハンドガンがACに備え付けられている程度で自分の手で銃を持ったことはほぼなかったのだが、こうして銃を持つと、頭の上に輪があるせいかもしれないが、ACに乗った時と同じような自信が湧いてくる。
「なんか特殊部隊みたいだね~。逮捕はされたくないけど。」
「4人の特殊部隊、か……。」
カヨコさんが特殊部隊という言葉に何かを思いついたのか、パソコンに向かい始める。
それをよそにムツキさんが話題を移す。
「で、次だねアルちゃん~。この子たちの"学籍"どうする?」
「…あ。そ、そうだったわね……。」
「まだイチハちゃんの分も解決してないのに~。」
「う……。」
学籍?キヴォトスは学園都市だったが、この4人も学園に通っているのだろうか?
ムツキさんから学籍と聞いて、アル社長の面持ちが沈む。イチハも目をそらしている。
「…学校に行くんですか?」
「ん~?別に行かないよ。」
速攻でムツキさんに否定された。違うらしい。ではなんのために学籍が必要になるのだろうか。
学校に通わないのであれば学籍は必要ないのではないだろうか。
いや、もしかして学園は企業だが国家とも言えるのか?
「もしかして、戸籍ですか?」
「は、はい。私達も最近は学園には行っていないのでそこは問題ないのですが……。これでは戸籍が、皆さんに無いので……。ごめんなさい……。」
「へ、ヘルメット団と同じはさすがにわが社の威厳に関わるわ…!」
ニオが何かを察したらしく、ハルカさんに質問した。
戸籍。戸籍が無いのは少々問題と言えるかもしれない。ルビコン3Aではウォルターの猟犬、ハウンズという名の傭兵集団として仕事をしていたが、傭兵名義はともかく前提となる市民権が無いのは少々マズいかもしれない。野良では猟犬にはなり得ない。それはただの野良犬だ。
しかし、ヘルメット団とかいう連中は団である以上徒党を組んでいるはずだが、まさか全員戸籍が無いということだろうか。大丈夫なのか?それ。
「社長、ハルカ。学籍は何とかなるかもしれない。」
「え、本当!?」
「どうするの?学籍。」
「イチナとイチクとニオだったね。」
先ほどパソコンに向かったカヨコさんは名前を確認し、さらにパソコンに何かを入力する。
驚いてカヨコさんのパソコンをのぞき込むアル社長をよそに、淡々と続ける。
「アップロード完了。学籍、申請したよ。」
***
SRT特殊学園。連邦生徒会長直属の学園組織で、特殊部隊を養成するエリート校。通常の治安維持任務を担うヴァルキューレ警察学校よりも高度な作戦向きで、より強力な学園らしい。通常4人程度の小隊で編成され、並の集団では到底太刀打ちできないともされる存在らしい。
不法を働いた際はかなりの脅威となる学園である。…理屈上は。
連邦生徒会長直属の組織であったため、連邦生徒会長の失踪と合わせて学園自体が休止状態になっており、現在対応が協議されているらしい。カヨコさんによれば今のところ閉鎖が有力視されているようだ。
不憫なことだ。SRT特殊学園の生徒には同情せざるを得ない。顔も名前も知らないが、在籍中に学園自体が閉鎖されてしまうとは。
簡単に言えば、誰かが責任を負えば良いのだが、責任を負てくれるような人物、…ウォルターのような人物が連邦生徒会には今いないようだ。
「見えたよ。サンクトゥムタワー。」
しばらく歩いていると、現在連邦生徒会が管理し、キヴォトスのシステムを管理している塔、サンクトゥムタワーが見えてきた。
大きな塔だ。単純な高さで言えばACを明らかに上回るだろう。
ここに来た理由は簡単。学籍のためだ。カヨコさんは報道でSRT特殊学園の閉鎖…正確には現在協議中だが、SRT特殊学園が学園機能を停止することを聞いていたらしい。
そこで、SRT特殊学園の一時閉鎖に乗じて架空の人物の入学を申請すれば、身分を問う学園側は入学拒否の審議のしようがなく、無事SRTの学籍が取得可能というわけだ。難点は編入という形になるため、その人物の存在が確認できなければならず、それも編入という形になるためちょうど小隊規模、4人必要なこと。偶然にもハウンズはちょうど4人組、条件を満たしている。
実際にSRTの生徒になるかは分からないが、とにかく市民権は得られる。
ウォルターの次に頭が上がらない人ができてしまったかもしれない。
SRTが一時閉鎖中であるため、連邦生徒会が代理で受付をしているらしい。何故一時閉鎖中の学園が連邦生徒会に作業を移管させてまで入学をまだ受け付けているのかは分からないが、一時閉鎖を解除してSRTを再び稼働させようとする人物、もしくは勢力が、連邦生徒会にいるということだろうか。
何はともあれ入学申請をしてもらったので、連邦生徒会の施設で審査と学生証の受け取りが必要になる。
「だから!D.U.シラトリ区の11号線が一日中渋滞してて業務地区まで資材を運べないんだよ!」
「苦情はあちらの投書箱にお願いします。」
「受付番号を取ってお待ちください。」
「防衛室の方をもう半日は待ってるんだが……。」
「受付番号を取ってお待ちください。」
必要になる……。大丈夫か?かなりの喧騒だ。連邦生徒会は失踪した連邦生徒会長の捜索に全力を費やしているらしく、機能停止状態が機能麻痺状態になっただけとのこと。
これは、今日中に学籍の審査ができるのだろうか?
「とりあえず、受付番号を取って待ってようか……。」
「そうだね。」
偶然空いていた椅子に座る。喧騒で互いの声を聞き取ることすらあまり簡単とは言えない。
連邦生徒会の余りにも事務的で後回しとさえ言えるような対応に怒号が飛び交っている。
「封鎖機構みたいにコードでも言えば通してくれるのかな?」
「知るわけないじゃん封鎖機構のコード。」
「私も。」
「なんだそれ。」
雑談をしながら受付を待つ。輸送ヘリの中や、作戦領域までの移動中にも雑談していたことを思い出す。任務中も、任務ではないときも、ACのコックピット内で夜を明かしたことは何度もある。4人であればどこへでも羽ばたけるのかもしれない。そういう気分になる。
618…イチハにまた会えたことも改めて考えると奇跡のようなものと言えるかもしれない。あの任務でデータを回収したニオと共に撤退した後、残ったイチハが撃破されたと聞いて、ACのコックピットでそのまま丸1日は泣いていたと思う。ニオの方は2日間泣いていた。逆にイチクの方はと言えばその時の仕事を代わりにやってくれていたと思う。彼女も辛かったはずだ。それだけじゃない。皆には助けられてばかりだ。
そもそもイチハだけじゃない、私達自身だって本当なら死んだはずだ。
皆が生きていて良かったと、心からそう思う。
「…皆、ありがとう。生きてて、良かった……。」
「どうした?いきなり。」
「まあ、そうだね。」
「…そうね。」
イチハが隣から寄りかかり、イチクが椅子の後ろから肩に手を置いて握り、ニオがイチハとは逆の右隣から肩を組んでくる。
あたたかい。
***
イチナと肩を組んでいると、寝息が聞こえて来た。横を見ると、寝てしまったらしい。寄りかかっていたイチハも一緒に寝ている。十数万COAMくらいの大きなミッションが無事に終わった時のような安らかな寝顔と言えるだろう。
「ニオ、2人寝ちゃったね。」
「そうだな。」
後ろからまだ起きているイチクが話しかけてくる。私はポケットから端末を取り出しつつイチクに返した。
いつの間にかポケットに入っていたこの端末。スマホというらしい。
…キヴォトスに来てからCOMの声を聞いていない。起きた時に「C4-620、覚醒しました」くらい言ってもよさそうなものなのだが。私の持っている二丁拳銃がscav620RFの代わりだというなら、これがCOMの代わりなのだろうか。
少なくとも気は利かない。
「ニオ、なんか考えてる?」
相変わらずイチクは大人しいのに気は回る。
「生活のこと。」
「ああ、確かに。ニオらしいけど。」
このスマホとやらがCOMの代わりなら稼いだCOAMの一つくらい引き出せてほしいのだが、どこをタップしてもCOAMの残高は表示されず、ままならない。COAMは企業保証通貨、ベイラムやアーキバスが製品との価値を担保することで通貨としての価値を成立させているものなので、ベイラムやアーキバスがいなければ価値が無いというのは、頷けるのだが、それにしたってというものがある。
先ほどからスマホをいじってみているのだが、幸運を呼ぶゲルマニウムブレスレットに、しぼんだ時に身体が元気になる風船?ふざけている。こうして誰かを騙して搾取する製品には吐き気がする。
「なんかあった?」
「何もないな。めぼしいものは。」
「COAMが無いのが辛いねー。」
「さっさと何か依頼を受けるしかないな。」
「ばらまき依頼があれば良いんだけど、便利屋さんの事務所を見る感じそんなになさそう。」
そうだろうか?便利屋68のオフィスは周辺から見てもかなり良い物件だったと思う。それこそ、経営状態は悪くなさそうに見えたのだが、何か察知したのだろうか?
「そうか?良い部屋に見えたんだが。」
「冷蔵庫のコンセント抜かれてたし、事務所なら赤ランプが光ってるノートPCは電源に繋げば良いのに、そうしてなかった。電気代の節約だろうし、依頼あんまりなさそう。置いてあるもののセンスは良いし、物件も良かったと思うけど。」
「目ざといな……。」
「そうかな。」
外見に反して本当に勘が冴えている。事務所を構えるときはコンセントに注意した方が良いかもしれない。イチクに見抜かれるということは本職にはさらに筒抜けかもしれない。せっかく綺麗にしても見抜かれては台無しだ。嘘をつくなら最後までつき通さなくてはいけない。
「事務所、ね……。」
そう、目下の問題は事務所だ。ウォルターのヘリと格納庫ほどの豪華さは無いにしても、最低限寝る場所が必要になる。最悪野宿で良いのだが、住所は必要になる。
…しかし改めて考えるとウォルターの資金源は一体どこだったのだろう。
「公園で良い気がするけど。」
「なんか縄張り争いになる気がするから却下。」
私もイチクも、しばらく情報収集にスマホを見続ける。
***
「受付番号63番の方、3番窓口までお越しください。」
「お、イチク、そいつらを起こしてくれ。先に行ってる。」
「了解。」
アナウンスで目が覚める。目を開くと隣でイチクがイチハの身体を揺すっていた。
時計を見ると2時間くらい経っていた。半日待たされていると聞いた時はどうなることかと思ったが、思ったより早いかもしれない。周囲を見渡すと、先ほどの…柴犬?はまだ待っている。あの人はいつになったら呼ばれるのだろうか……。
「SRTへの…編入……!?」
「はい!小隊規模での七囚人の捕縛、感嘆しました!ぜひお願いします!」
先行しているニオの元に行くとニオがよく分からないことを言いながら困惑している受付を押し切ろうとしていた。口八丁は任せた方が良い。
SRTは閉鎖間近なので、編入窓口がここに移管されているとは言え、編入希望など普通はいないだろう。気持ちは分かる。
しかし、私達には学籍が必要だ。後ろめたさはルビコン星系に置いてきてしまった。
「か、構いませんが……少々お待ちください。」
連邦生徒会の人は受付の後ろに下がっていった。受理されると良いのだが。
しばらく待っていると、受付が戻ってきた。
「Hound1、イチナさんと、Hound2、イチハさん、Hound3、イチクさんとHound4、ニオさんですね。最後に保証人の欄に記入をお願いします。」
…保証人?
「…聞いてないんですが。」
「規則ですから、お願いします。」
ニオが先ほどの熱量の演技を忘れた素で反論する。どう見ても受け入れられる構えではない。ニオの手が止まる。
「保証人がいないのですか?でしたら、入学は出来ません。」
全く変わっていないが冷たい気がする声量で念押しされる。ニオの近くに寄り、聞こえないようにこっそり耳打ちする。
(べ、便利屋68とか?)
(さっき調べたが、あそこは口座が無い。ブラックリストかもしれないから、書かないほうがマシかもしれない。)
なんてことだ。ブラックリストは保証人とは真逆の概念かもしれない。今のところ唯一書ける名前と言っても過言ではないのだが。
「忙しいので、お早めにお願いします。」
(こうなっては仕方ない……。)
(ど、どうするんだ?)
誰も名前が浮かばない中、ニオがゆっくり手を動かし始める。書いているのはHの文字、aの文字……。まさかハンドラー・ウォルターと書く気か?連絡がつかない上に勝手に名前を書いてしまうのは気が引けるが……。やむを得ないかもしれない。
あとで皆で謝ろう。…会えたら。
だが、連絡がつかない以上確認を取られたら絶望的かもしれない。全員良い案が浮かばず、ニオが案を待つようにゆっくりと名前を書く。
…しかし何も思いつかず、書き終わってしまった。全員の心臓の鼓動が高まる中、ニオが"r"の文字を書き終わった。
その時、後ろから声がした。
「"保証人がいないなら、私が保証人になるよ。"」
***
連邦捜査部S.C.H.A.L.E。発足直後、私もここに来たばかりなのだが、連邦生徒会長がいないせいか、生徒からの投書は留まるところを知らない。デジタルで送ってきてくれたものはある程度アロナに仕分けてもらっているが、現実は非情、デジタルですべてが完結するものというのは意外なほど少ない。印鑑に署名、契約書。それらは私が見る必要がある。
当番として、ユウカ達が手伝いに来てくれるものの、人手不足と言わざるを得ない。私一人ではどうやっても捌けないので、現実逃避としてシャーレのオフィスから出て、D.U.の地理を覚えるのも兼ねて散策していたところ、困っていそうな生徒がいた。
「保証人の欄に記入をお願いします。」
そう言われて手が止まっている4人の生徒を見て、近づくと、保証人の欄を書き淀んでいるようだった。
シャーレは超法規的機関であり、全ての生徒のためにある。保証人くらいお茶の子さいさいだ。名前を貸すだけで生徒4人の道筋を照らせるなら、迷わずそうする。
「"保証人がいないなら、私が保証人になるよ。"」
そう言うと、4人が振り返る。特殊部隊のような雰囲気の四人の女の子だ。
「貴方は…?」
「もしかして、シャーレの先生!?」
書類の前にいたガトリングと盾の重装備のグレーの髪の子とペンを持っていた金髪の子が振り向いて言った。金髪の子はシャーレを知っているようだ。発足したばかりなのにもう知られているとは、今後書類はもっと増えるのかもしれない。
「"そうだよ。"」
「"書類を貸して。"」
「…良いんですか?」
「"もちろん。"」
「"困った時は私を頼ってくれて良い。"」
若干怪しまれているが、しっかりした子なのだろう。書類をその子から受け取る。
書類に目を通す。連邦生徒会の書類なので大丈夫だとは思うが、どんな契約書でも中身を読んでおかないといけない。連邦生徒会の……SRT特殊学園。この学園の子からの投書はいくつかある。閉鎖が検討されているらしい。この子たちも入学できるように、閉鎖が解除されると良いのだが。
名前は、イチナ、イチハ、イチク、ニオ。書いてある内容に不備が無いことを確認しつつ、保証人の欄に目を移す。
が、既に誰かの名前が書いてあった。
「"ハンドラー・ウォルター?"」
ハンドラー。支援者、扱う人、もしくは調教師。ただの名前である可能性もあるが、通常子供の保証人の欄に書かれているような単語ではない。誰だろうか。
名前を読み上げると、慌てたように先ほどまでペンを持っていた生徒、ニオが反応した。
「そ、それは……に、二重線で消して大丈夫です!い、今は連絡がつかないので!」
「"そう?"」
「"じゃあ、私の名前に変えるよ。"」
ハンドラー・ウォルターに二重線を引き、取り消す。取り消したとき、4人の顔が少し暗くなったように思えた。ただ適当に書いた名前ではないかもしれない。何者かは分からないが、後で聞いておく必要があるかもしれない。
保証人の欄に私の名前を記入してニオに返す。
「あ、ありがとうございます……。」
「"気にしないで。"」
「"何かあったらシャーレに来てね。"」
困惑しながら紙を渡し、ニオが受付に返す。
「先生が保証人になってくれるのであれば、分かりました。学生証を発行します。」
連邦生徒会の子が奥に下がり、学生証を用意する。あっけにとられている4人だったが、重装備の子、イチナが我に返った様子で頭を下げて来た。
「ありがとうございます、先生。助かりました。」
お礼を言われるようなことではないのだが、ひとまず素直に受け取っておくことにする。
続いて迫撃砲の子、イチクがスマホの画面を見せて来た。
「私達はハウンズと言います。傭兵部隊なので、用があれば是非連絡をください。名刺が無いので、これで失礼します。」
スマホ画面にはハウンズの連絡先が書いてあった。
傭兵部隊…SRTが閉鎖状態だから、副業だろうか?それとも、傭兵部隊がSRTに入ろうとしているのか。何はともあれ、傭兵はかっこいい…。ロマンだ。
人手は間違いなく足りていない。シャーレの予算でしばらく雇っても良いかもしれない。
「"分かった、覚えておくよ。"」
「発行が完了しました。皆さんの学生証です。」
学生証の発行が完了したようで、受付の方が戻ってきた。学生証を受け取って4人が嬉しそうに光にすかしたり、眺めたりしている。
先生としてもうれしいものだ。
「これが学生証……。」
「ありがとうございます!」
「"それじゃ、私はこれで失礼するよ。"」
そう言って去ろうとした瞬間、外で爆発音がした。
「大変です!また暴動です!」
……。
今の時間、シャーレに当番はいないが、暴動を何とかしないと帰れない。
「"…皆、早速依頼しても良いかな?"」
傭兵の依頼料とはいくらなのだろうか?あまり高いとユウカに怒られてしまう。
しかし、4人はまだしも、さすがに8人も一気にエミュするのは無理あるんじゃないかな