現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~   作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中

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第15話 生きる理由をくれた人

<三人称視点>

 

「いくぞ──【空間断絶】」

 

 カナタは、地面に向かって剣を振るう。

 崩れた地面はドドドドと音を上げ、下へ(りゅう)()のように流れ出した。

 意図的にダンジョンシフトを起こしたように。

 

「よし、行こう」

 

 【超感覚】で大体の構造も読み取っている。

 これに乗れば、勝手に下層まで連れてってくれるのだろう。

 巨大な滑り台のようだ。

 

「いやっほーう!」

 

 しかし、角度が急すぎる。

 特に配下(視聴者)にとっては。

 

《どわああああああ!?》

《ぎゃああああ!》

《ほぼ垂直じゃねえか!》

《こええええ!》

《死ぬ死ぬ死ぬーっ!》

《魔王様、どうかお加減をおおお!》

《従魔もやべえけどカナタ君も大概だわ》

《これは魔王》

 

 また、従魔にとっても。

 

「主様、ココネが(そば)にいます!」

「お姉さんが掴んでるからね!」

「わたしが支えてます!」

 

「君たち怖いの!?」

 

 三人はカナタにくっ付いて離れない。

 プライドが許さないのか、自分が怖いとは一切言わずに。

 むぎゅりと三人にしがみつかれ、カナタもバランスを崩し始めた。

 

「「「くうっ!」」」

「ちょっ、動きにくいわアホどもー!」

 

《なんだよこのハーレム空間!》

《ちくしょう、ずりいぞ!!》

《柔らかそう……色々と》

《良い匂いしそう》

《美女スクラム》

《カナタ君てめえ! い、いや魔王様!》

《↑配下だから強く言えなくなってるやん》

《あんな強いのに滑り台怖いのかわいいw》

 

 高性能カメラは落下速度に対応し、映像の恐怖を低減させている。

 結果、ハーレムな光景を堪能(たんのう)できていた。

 ──カナタの安全と引き換えに。

 

「おわああああっ!」

「「「きゃーーー!」」」

 

 “おしくらまんじゅう”の圧に負け、カナタの尻はついに浮く。

 姿勢はひっくり返り、頭から落下している形だ。

 どんどんとスピードが速まる中で、なんとか剣を抜いた。

 

「くっ、断絶!」

 

 瞬時に滑り台の(もろ)い点を見抜き、一部をくり抜いて鈍角へと変える。

 そこに剣を差し、少しずつ減速していく。

 やがて勢いはなくなり、なんとか落ち着きを取り戻した。

 

「「「はあ~」」」

「死にかけた……」

 

 しかし、剣はそこまで優れたものではない。

 ──パキっ。

 

「「「「ん?」」」」

 

 全員の重圧に耐えられるはずもなく、あっさりと折れた。

 つまり、再落下だ。

 

「「「「うわああああっ!」」」」

 

 だが、すでに下層は見えていた。

 この程度の高さなら、従魔たちも怖がることはない。

 三人は能力を発揮した。

 

「主様!」

「お姉さんが守る!」

「カナタ様は傷つけさせない!」

 

 下層にいた魔物に向けて。

 

「「「ギャアアアアアアッ!」」」

 

 氷、炎、血。

 それぞれの得意分野で、魔物を瞬殺する。

 同時に、魔物でクッションを組み立てた。

 

「うおっと」

 

 カナタはボヨンとバウンドするように着地。

 なんとか一命を取り留める。

 すると、従魔たちはドヤ顔を浮かべた。

 

「「「ふふ~ん」」」

「いや、君達のせいでピンチになったんだからね?」

 

《魔物をクッションにすんなww》

《またも魔物が犠牲に……泣》

《相変わらず魔物使いが荒いw》

《スリリングな映像だったぜ》

《こいつら普通に移動できねえのかw》

《イチイチ騒がしくて草》

《エルヴィも加わって手に追えんなw》

《ドヤ顔かわいい》

《終わり良ければすべて良し》

 

 なんだかんだ丸く収まったようだ。

 だが、カナタはふと考える。

 

(まさか滑り台が怖いとは。ダンジョンみたいな構造は異世界に無かったとはいえ、俺も確認すべきだったか)

 

 元々、【空間断絶】を使って安全に着地する算段だった。

 そのはずが思わぬ形で死にかけたのだ。

 カナタも自分を見つめ直す。

 

(ここは、戦いに明け暮れた異世界じゃないんだ。戦い以外にも、もっと従魔たち(こいつら)の事を知らないとな)

 

 そうして、わちゃわちゃしつつも下層についた一行。

 改めて辺りを見渡すと、気づくことがある。

 

「しーんとしてますね」

「ええ、やけに静かだわ」

 

 ココネとルーゼリアはきょろきょろとしていた。

 だが、カナタだけは右を見ている。

 

「いや──いる」

「「「……!」」」

 

 その方向から歩いてくるのは、一匹。

 否、一人(・・)だ。

 

「くっくっく……」

「え、あれって」

 

 孤高のゴウマ。

 昨日、放送事故の張本人となった迷惑系配信者だ。

 

《え、ゴウマじゃん》

《何してんのこいつ》

《よく下層に来れたな》

《てかボコボコにされたんじゃなかったのか》

《病院とかいるんじゃないの》

《なんか様子おかしくね……?》

 

 視聴者にも違和感を覚える者がいた。

 いる場所や雰囲気、回復速度など、何を考えても“妙”だと言える。

 そして何より、彼の態度だ。

 

「グゥゥ……」

「!」

 

 まるで魔物。

 ケモノのような背筋で、目付きも鋭くなっている。

 すると、エルヴィが一歩前に出た。

 

「昨日はせっかく殺さないであげたのに」

「……」

「諦めが悪いの──ねっ!」

 

 エルヴィは、カナタの隣から瞬時に移動した。

 目にも止まらぬ速さで、遠くのゴウマの首元に剣を迫らせる。

 だが、エルヴィの赤い剣は(はじ)かれた。

 

「グオッ!」

「……!」

 

 まさか防御されるとは思わなかったのか、エルヴィは一度後退。

 身軽に着地すると、後方からカナタが声をかけた。

 

「エルヴィ! そいつ昨日とは違うぞ!」

「そうみたいね」

 

 今の一手でエルヴィも感じ取ったのだろう。

 昨日のゴウマとは、人が変わったように強くなっている。

 それでも、エルヴィは引かない。

 

「ふふふっ、火の不始末はしっかりしないと」

 

 エルヴィは両手を顔を当て、妖艶(ようえん)な笑みを浮かべる。

 目の光は失われ、背中の翼は(ふか)(むらさき)に染まっていく。

 本気の形態へと姿を変えていくのだ。

 

(見ててよね、カナタ様ぁっ!)

 

 ふとエルヴィの頭を巡るのは、カナタと出会った時のことだ。

 

 

────

 異世界、とある日。

 

「はあ~あ」

 

 木の上で、エルヴィは退屈そうな声を上げた。

 

 吸血鬼は(ゆう)(きゅう)の時を生きる。

 亜人の中でもかなりの長命種だ。

 また、他種族よりも“闘争本能”が強く、最後は誰かに敗れる形で殺されたいと願っていた。

 

「つまんない」

 

 しかし、エルヴィは強すぎた。

 ゆえに、殺してくれる者がいない。

 

 ──そんな日々を過ごす中、出会ったのだ。

 勇者カナタに。

 

「君が噂の吸血鬼さん?」

「……へえ」

 

 そして、敗れた。

 

「すごく強かったよ」

「……っ!」

 

 エルヴィは生まれて初めての敗北だった。

 強い闘争本能から、悔しさをにじませる。

 だが、同時に違う思いも持った。

 

(でも、これで……)

 

 やっと死ねると思った。

 (じゅう)(りん)し尽くした退屈な日々から、ようやく解放されると思ったのだ。

 

 しかし、カナタはすっと手を差し伸べた。

 

「そんな悲しい顔しないで」

「え?」

「剣筋から伝わってきたよ。君はもしかして、死にたいと思って戦ってない?」

「……!」

 

 図星だった。

 退屈とは感じながらも戦いに明け暮れていたのは、死にたかったからだ。

 

「それがなに。短命の人間に、わたしの気持ちが分かるわけないでしょ」

「ごめん、分からない。でも、もったいなって」

「はあ?」

 

 対して、カナタは提案した。

 

「死ぬために生きるなんて、もったいないよ」

「……!」

「今日からは、生きるために生きてみない?」

「でも、わたしには生きる理由なんて……」

 

 まだ下を向くエルヴィには、カナタは笑いかける。

 

「じゃあ、俺のために生きてよ」

「!」

「俺は仲間と魔王討伐を(こころざ)してる。そのために一緒に生きてくれないか。いつでも相手になるからさ」

「……っ」

 

 いつからかエルヴィは、剣を重ねても相手の顔は見ていなかった。

 相手の武器が自分を殺すに(あたい)するかどうか、それだけを考えていた。

 しかし、ここで久方ぶりに相手の顔を見る。

 

「あなたの、名前は……?」

「俺はカナタだ」

「カナタ……ふふっ」

 

 強くてたくましくて。

 幼い顔の割に、案外クサいことを言って。

 そんなカナタの姿が、(いと)おしくてたまらなくなった。

 

「カナタ様ぁっ!」

「おわっ! ていうか“様”!?」

「えぇ! 今日からわたしは、あなたのために生きる!」

 

 そうしてエルヴィは、カナタと最も重い従魔契約を交わす。

 “血染めのエルヴィ”が下に付いたという噂は、大きく世間を揺るがすこととなるのであった。

 

 

 

 そして、カナタが処刑されて数日。

 

「もぅ。ココネとルーゼリアがやりすぎちゃったせいで、召喚士が足りないじゃない」

 

 天変地異を起こすほど()んだエルヴィだが、ココネから世界を渡る方法を聞いた。

 すると、一気に元気を取り戻し、カナタを召喚した王国を訪れていた。

 しかし、生贄(いけにえ)にするだけの召喚士の命が足りない。

 

 そこでエルヴィは思いつく。

 

「そぉ~だっ!」

 

 要は、召喚回路を発動させるだけの魔力があればいい。

 召喚士ほどではないが、貴族ならば多少の足しになる。

 エルヴィはすぐに行動を起こした。

 

 彼女が行ったのは──

 

「「「うおおおおおおお!」」」

 

 王国の革命だ。

 

 力を持ちすぎたカナタは、貴族以上の位を持つ者たちに迫害された。

 だが、民衆には強く支持されていたのだ。

 それを利用し、エルヴィは民衆に手を貸す。

 

「あはははっ、いい気味だわぁっ!」

 

 カナタを(おとし)めた、王国の上層部に報復をするために。

 エルヴィは民衆を先導し、腐った貴族たちを一蹴(いっしゅう)

 結果、革命を成したのだった。

 

「さーてと」

 

 その後、国は民衆によって民主主義に進む。

 今までとは違った良い方向に進んだそうだ。

 だが、エルヴィは全く興味がない。

 

 この革命の目的は一つ。

 召喚回路を発動させる魔力を集めることのみ。 

 

「わたしも行くね、カナタ様っ!」

 

 こうして、エルヴィも少し遅れて現代へ飛んだ。

────

 

 

 そんな光景を胸に、エルヴィは本気の形態を見せる。

 

「再びカナタ様に見せられるなんてっ!」

 

 両手を広げると、周囲にたくさんの赤い結晶が浮かび上がる。

 血から生成された刺々(とげとげ)の刃物だ。

 全体的に赤と深紫に包まれた彼女は、その真の力を発揮する。

 

「あははははっ!」

「ぐおお……!?」

 

 目で追うことすら叶わぬ猛攻だ。

 自身の速さに加え、血から生成された多すぎる攻撃手段。

 たとえ人が変わろうと、ゴウマに防げるはずもない。

 

「終わりね」

「ぐああああああああっ!?」

 

 最後は背を向けたまま。

 エルヴィの周囲に浮く、赤い刺々がとどめをさした。

 一応、殺してはいないようだが。

 

《うわああああああ!!》

《エルヴィちゃんつえええ!》

《速すぎるだろ!》

《ゴウマ乙!w》

《サンドバッグありがとな!》

《ゴウマは二度刺される》

《エルヴィちゃんかっこかわいい……》

《怖えけど》

 

 そんな時、さらに遠方から歩いてくる者がいる。

 

「さすがですねえ」

「「「……!」」」

 

 パチパチと拍手をして現れたのは、細めの男。

 だが、所々に違和感が見られる。

 角や尻尾など、魔物の特徴を持っているのだ。

 

 その姿に、カナタは目を見開く。

 

「あれは……魔人?」

 

 魔人とは、魔物から進化を果たした上位種族。

 魔物の身体能力と、人に匹敵する脳を持つ。

 この魔人の頂点が“魔王”であり、異世界では苦労した相手である。

 

 ならば、ゴウマについても予想がつく。

 

「まさか、お前が!?」

「ふっふっふ……」

 

 おそらくゴウマに何かを(ほどこ)し、魔物の特徴を持たせた。

 その結果、身体能力が上がっていたのだ。

 元の能力が低いため、エルヴィには瞬殺だったが。

 

 対して、魔人の男はふっと笑う。

 

「その疑問には、ここを乗り越えたら最後にお答えしましょう」

「……!」

「「「ギャオオオオオオッ!!」」」

 

 魔人が両手を広げると、周囲から魔物があふれてくる。

 まるで操っているかのように。

 下層がやけに静かだったのは、この魔人が魔物を忍ばせていたからだ。

 

「では、私は奥の方で」

「──待てよ」

「……!?」

 

 だが、背を向けた魔人の真横を、大きな剣閃が走る。

 カナタの【空間断絶】だ。

 剣閃はガラガラッと壁を破壊し、魔人の逃げ道を(ふさ)いだ。

 

「最後に答えるだと?」

 

 ゴウマのことはぶっちゃけどうでもいい。

 だが、魔人が異世界で行った非道な数々は知っている。

 カナタは魔人へ刃を向けた。

 

最初(・・)の間違いだろ」

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