現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~ 作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中
<三人称視点>
「いくぞ──【空間断絶】」
カナタは、地面に向かって剣を振るう。
崩れた地面はドドドドと音を上げ、下へ
意図的にダンジョンシフトを起こしたように。
「よし、行こう」
【超感覚】で大体の構造も読み取っている。
これに乗れば、勝手に下層まで連れてってくれるのだろう。
巨大な滑り台のようだ。
「いやっほーう!」
しかし、角度が急すぎる。
特に配下(視聴者)にとっては。
《どわああああああ!?》
《ぎゃああああ!》
《ほぼ垂直じゃねえか!》
《こええええ!》
《死ぬ死ぬ死ぬーっ!》
《魔王様、どうかお加減をおおお!》
《従魔もやべえけどカナタ君も大概だわ》
《これは魔王》
また、従魔にとっても。
「主様、ココネが
「お姉さんが掴んでるからね!」
「わたしが支えてます!」
「君たち怖いの!?」
三人はカナタにくっ付いて離れない。
プライドが許さないのか、自分が怖いとは一切言わずに。
むぎゅりと三人にしがみつかれ、カナタもバランスを崩し始めた。
「「「くうっ!」」」
「ちょっ、動きにくいわアホどもー!」
《なんだよこのハーレム空間!》
《ちくしょう、ずりいぞ!!》
《柔らかそう……色々と》
《良い匂いしそう》
《美女スクラム》
《カナタ君てめえ! い、いや魔王様!》
《↑配下だから強く言えなくなってるやん》
《あんな強いのに滑り台怖いのかわいいw》
高性能カメラは落下速度に対応し、映像の恐怖を低減させている。
結果、ハーレムな光景を
──カナタの安全と引き換えに。
「おわああああっ!」
「「「きゃーーー!」」」
“おしくらまんじゅう”の圧に負け、カナタの尻はついに浮く。
姿勢はひっくり返り、頭から落下している形だ。
どんどんとスピードが速まる中で、なんとか剣を抜いた。
「くっ、断絶!」
瞬時に滑り台の
そこに剣を差し、少しずつ減速していく。
やがて勢いはなくなり、なんとか落ち着きを取り戻した。
「「「はあ~」」」
「死にかけた……」
しかし、剣はそこまで優れたものではない。
──パキっ。
「「「「ん?」」」」
全員の重圧に耐えられるはずもなく、あっさりと折れた。
つまり、再落下だ。
「「「「うわああああっ!」」」」
だが、すでに下層は見えていた。
この程度の高さなら、従魔たちも怖がることはない。
三人は能力を発揮した。
「主様!」
「お姉さんが守る!」
「カナタ様は傷つけさせない!」
下層にいた魔物に向けて。
「「「ギャアアアアアアッ!」」」
氷、炎、血。
それぞれの得意分野で、魔物を瞬殺する。
同時に、魔物でクッションを組み立てた。
「うおっと」
カナタはボヨンとバウンドするように着地。
なんとか一命を取り留める。
すると、従魔たちはドヤ顔を浮かべた。
「「「ふふ~ん」」」
「いや、君達のせいでピンチになったんだからね?」
《魔物をクッションにすんなww》
《またも魔物が犠牲に……泣》
《相変わらず魔物使いが荒いw》
《スリリングな映像だったぜ》
《こいつら普通に移動できねえのかw》
《イチイチ騒がしくて草》
《エルヴィも加わって手に追えんなw》
《ドヤ顔かわいい》
《終わり良ければすべて良し》
なんだかんだ丸く収まったようだ。
だが、カナタはふと考える。
(まさか滑り台が怖いとは。ダンジョンみたいな構造は異世界に無かったとはいえ、俺も確認すべきだったか)
元々、【空間断絶】を使って安全に着地する算段だった。
そのはずが思わぬ形で死にかけたのだ。
カナタも自分を見つめ直す。
(ここは、戦いに明け暮れた異世界じゃないんだ。戦い以外にも、もっと
そうして、わちゃわちゃしつつも下層についた一行。
改めて辺りを見渡すと、気づくことがある。
「しーんとしてますね」
「ええ、やけに静かだわ」
ココネとルーゼリアはきょろきょろとしていた。
だが、カナタだけは右を見ている。
「いや──いる」
「「「……!」」」
その方向から歩いてくるのは、一匹。
否、
「くっくっく……」
「え、あれって」
孤高のゴウマ。
昨日、放送事故の張本人となった迷惑系配信者だ。
《え、ゴウマじゃん》
《何してんのこいつ》
《よく下層に来れたな》
《てかボコボコにされたんじゃなかったのか》
《病院とかいるんじゃないの》
《なんか様子おかしくね……?》
視聴者にも違和感を覚える者がいた。
いる場所や雰囲気、回復速度など、何を考えても“妙”だと言える。
そして何より、彼の態度だ。
「グゥゥ……」
「!」
まるで魔物。
ケモノのような背筋で、目付きも鋭くなっている。
すると、エルヴィが一歩前に出た。
「昨日はせっかく殺さないであげたのに」
「……」
「諦めが悪いの──ねっ!」
エルヴィは、カナタの隣から瞬時に移動した。
目にも止まらぬ速さで、遠くのゴウマの首元に剣を迫らせる。
だが、エルヴィの赤い剣は
「グオッ!」
「……!」
まさか防御されるとは思わなかったのか、エルヴィは一度後退。
身軽に着地すると、後方からカナタが声をかけた。
「エルヴィ! そいつ昨日とは違うぞ!」
「そうみたいね」
今の一手でエルヴィも感じ取ったのだろう。
昨日のゴウマとは、人が変わったように強くなっている。
それでも、エルヴィは引かない。
「ふふふっ、火の不始末はしっかりしないと」
エルヴィは両手を顔を当て、
目の光は失われ、背中の翼は
本気の形態へと姿を変えていくのだ。
(見ててよね、カナタ様ぁっ!)
ふとエルヴィの頭を巡るのは、カナタと出会った時のことだ。
────
異世界、とある日。
「はあ~あ」
木の上で、エルヴィは退屈そうな声を上げた。
吸血鬼は
亜人の中でもかなりの長命種だ。
また、他種族よりも“闘争本能”が強く、最後は誰かに敗れる形で殺されたいと願っていた。
「つまんない」
しかし、エルヴィは強すぎた。
ゆえに、殺してくれる者がいない。
──そんな日々を過ごす中、出会ったのだ。
勇者カナタに。
「君が噂の吸血鬼さん?」
「……へえ」
そして、敗れた。
「すごく強かったよ」
「……っ!」
エルヴィは生まれて初めての敗北だった。
強い闘争本能から、悔しさをにじませる。
だが、同時に違う思いも持った。
(でも、これで……)
やっと死ねると思った。
しかし、カナタはすっと手を差し伸べた。
「そんな悲しい顔しないで」
「え?」
「剣筋から伝わってきたよ。君はもしかして、死にたいと思って戦ってない?」
「……!」
図星だった。
退屈とは感じながらも戦いに明け暮れていたのは、死にたかったからだ。
「それがなに。短命の人間に、わたしの気持ちが分かるわけないでしょ」
「ごめん、分からない。でも、もったいなって」
「はあ?」
対して、カナタは提案した。
「死ぬために生きるなんて、もったいないよ」
「……!」
「今日からは、生きるために生きてみない?」
「でも、わたしには生きる理由なんて……」
まだ下を向くエルヴィには、カナタは笑いかける。
「じゃあ、俺のために生きてよ」
「!」
「俺は仲間と魔王討伐を
「……っ」
いつからかエルヴィは、剣を重ねても相手の顔は見ていなかった。
相手の武器が自分を殺すに
しかし、ここで久方ぶりに相手の顔を見る。
「あなたの、名前は……?」
「俺はカナタだ」
「カナタ……ふふっ」
強くてたくましくて。
幼い顔の割に、案外クサいことを言って。
そんなカナタの姿が、
「カナタ様ぁっ!」
「おわっ! ていうか“様”!?」
「えぇ! 今日からわたしは、あなたのために生きる!」
そうしてエルヴィは、カナタと最も重い従魔契約を交わす。
“血染めのエルヴィ”が下に付いたという噂は、大きく世間を揺るがすこととなるのであった。
そして、カナタが処刑されて数日。
「もぅ。ココネとルーゼリアがやりすぎちゃったせいで、召喚士が足りないじゃない」
天変地異を起こすほど
すると、一気に元気を取り戻し、カナタを召喚した王国を訪れていた。
しかし、
そこでエルヴィは思いつく。
「そぉ~だっ!」
要は、召喚回路を発動させるだけの魔力があればいい。
召喚士ほどではないが、貴族ならば多少の足しになる。
エルヴィはすぐに行動を起こした。
彼女が行ったのは──
「「「うおおおおおおお!」」」
王国の革命だ。
力を持ちすぎたカナタは、貴族以上の位を持つ者たちに迫害された。
だが、民衆には強く支持されていたのだ。
それを利用し、エルヴィは民衆に手を貸す。
「あはははっ、いい気味だわぁっ!」
カナタを
エルヴィは民衆を先導し、腐った貴族たちを
結果、革命を成したのだった。
「さーてと」
その後、国は民衆によって民主主義に進む。
今までとは違った良い方向に進んだそうだ。
だが、エルヴィは全く興味がない。
この革命の目的は一つ。
召喚回路を発動させる魔力を集めることのみ。
「わたしも行くね、カナタ様っ!」
こうして、エルヴィも少し遅れて現代へ飛んだ。
────
そんな光景を胸に、エルヴィは本気の形態を見せる。
「再びカナタ様に見せられるなんてっ!」
両手を広げると、周囲にたくさんの赤い結晶が浮かび上がる。
血から生成された
全体的に赤と深紫に包まれた彼女は、その真の力を発揮する。
「あははははっ!」
「ぐおお……!?」
目で追うことすら叶わぬ猛攻だ。
自身の速さに加え、血から生成された多すぎる攻撃手段。
たとえ人が変わろうと、ゴウマに防げるはずもない。
「終わりね」
「ぐああああああああっ!?」
最後は背を向けたまま。
エルヴィの周囲に浮く、赤い刺々がとどめをさした。
一応、殺してはいないようだが。
《うわああああああ!!》
《エルヴィちゃんつえええ!》
《速すぎるだろ!》
《ゴウマ乙!w》
《サンドバッグありがとな!》
《ゴウマは二度刺される》
《エルヴィちゃんかっこかわいい……》
《怖えけど》
そんな時、さらに遠方から歩いてくる者がいる。
「さすがですねえ」
「「「……!」」」
パチパチと拍手をして現れたのは、細めの男。
だが、所々に違和感が見られる。
角や尻尾など、魔物の特徴を持っているのだ。
その姿に、カナタは目を見開く。
「あれは……魔人?」
魔人とは、魔物から進化を果たした上位種族。
魔物の身体能力と、人に匹敵する脳を持つ。
この魔人の頂点が“魔王”であり、異世界では苦労した相手である。
ならば、ゴウマについても予想がつく。
「まさか、お前が!?」
「ふっふっふ……」
おそらくゴウマに何かを
その結果、身体能力が上がっていたのだ。
元の能力が低いため、エルヴィには瞬殺だったが。
対して、魔人の男はふっと笑う。
「その疑問には、ここを乗り越えたら最後にお答えしましょう」
「……!」
「「「ギャオオオオオオッ!!」」」
魔人が両手を広げると、周囲から魔物があふれてくる。
まるで操っているかのように。
下層がやけに静かだったのは、この魔人が魔物を忍ばせていたからだ。
「では、私は奥の方で」
「──待てよ」
「……!?」
だが、背を向けた魔人の真横を、大きな剣閃が走る。
カナタの【空間断絶】だ。
剣閃はガラガラッと壁を破壊し、魔人の逃げ道を
「最後に答えるだと?」
ゴウマのことはぶっちゃけどうでもいい。
だが、魔人が異世界で行った非道な数々は知っている。
カナタは魔人へ刃を向けた。
「