現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~   作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中

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第25話 現代の『魔王軍』たち

 「「「きゃああああああっ!!」」」

 

 ここはB級『紅蓮(ぐれん)ダンジョン』の東入口付近。

 

 B級ともなると、入口付近には装備屋や素材屋などの商業施設が立ち並び、一つの街のようになっている。

 有名探索者が訪れ、それを見に来るファンも多くいるからだ。

 “ダンジョン(がい)”とも呼ばれる。

 

 現在は休日の昼下がり。

 いつも通り(にぎ)わっていたダンジョン街は──一瞬(いっしゅん)で地獄に変わった。

 

「「「グオオオオオオオオッ!」」」

 

 少し前、魔物が地上に侵攻を始めたのだ。

 初めての緊急事態に、人々はパニックに(おちい)っている。

 さらに、出現したのは『紅蓮ダンジョン』の魔物たちだ。

 

「逃げろおおお!」

「あんたは探索者でしょ!?」

「バカ、あんなの相手にできるか!」

 

 そのレベルと戦える者など、探索者でも上位のみ。

 ダンジョン街にいた探索者たちも、一般人と同様に逃げ(まど)っていた。

 そんな中でも、立ち上がる者はいる。

 

「ぬうんっ! ──【山カチ割り】」

「「「グオオオッ!?」」」

 

 魔物の一部を食い止めていたのは、“黄昏(たそがれ)のジジヤ”。

 先日、新事務所『魔王軍』に所属した特級探索者だ。

 上級以上の資格に与えられる、“緊急時の能力行使権限”を使用し、その名に恥じない働きをしていた。

 

 しかし、魔物の数が多すぎる。

 

「「「ギャオオッ!!」」」

「ぐぬ……!」

 

 視認できる限りでも、三百を超える魔物の軍勢だ。

 また、そのどれもが平均B級。

 いくらジジヤとは言え、抑えられる数ではない。

 

「年は取りたくないものじゃのう……!」

 

 また、魔物が出現したのは全三カ所。

 紅蓮ダンジョンの他二つの入口からも、侵攻が始まっている。

 一か所すら抑え切れないのに、かなり絶望的な状況と言えた。

 

 これには、コメント欄も騒がしさを増す一方だ。

 今日はジジヤの初配信の日だったのだ。

 

《ジジヤあーーー!》

《頼む、なんとかしてくれえ!!》

《この人でも止められないのか!?》

《伝説の特級探索者なんだろ!?》

《数が多すぎるんだよ!》

《戦いになってねえよ……!》

《他の探索者は何してんだ!?》

《このままじゃジジヤも……》

 

 元々の密かな人気に加え、最近は特に話題になっていたジジヤ。

 彼の初配信が、こんな形になるとは誰も思わなかっただろう。

 ジジヤも踏ん張るが、限界は近い。

 

「「シャアアッ!!」」

「ぐ、ぐおぉっ……!」

 

 力を解放し、ムキムキとなった自慢のボディも悲鳴を上げている。

 この数を一人で抑えることは不可能だったのだ。

 

 ──“災厄”でも起こらない限りは。

 

「【朱雀(すざく)(えん)()】」

「……!?」

「「「グアアアアッ……!」」」

 

 突如、大量の魔物が激しく燃え上がる。

 真っ赤で綺麗な炎だ。

 

 さらに、飛び散った魔物の血は一点に集約された。

 手を広げる少女の元へ。

 

「あはっ、大量だぁ! ──【血染めの夜】」

「「「ギャアアアッ……!」」」

 

 すると、赤く大きな棘々(とげとげ)が雨のごとく降り注ぐ。

 魔物たちは串刺しになり、バタバタと倒れていった。

 その際の血も回収され、周りは一切汚れない。

 

「ちょーっとやりすぎちゃったかしら」

「いいんじゃない? 急いでるし」

「お、お主たちは……」

 

 聞こえてきた声に、ジジヤはゆっくりと振り返る。

 駆けつけたのは、カナタの従魔二人。

 ルーゼリアとエルヴィだ。

 

 途端に、ジジヤの配信は湧き上がった。

 

《ルーゼリアお姉さん!?》

《エルヴィもいるぞ!?》

《うおおおおおきたあああああ!》

《間に合ったのか!?》

《途中でカナタ君と別れてたけど!》

《それにしても速すぎだろ!!》

《こいつらなら……!》

 

 この二人を含め、カナタ達は別のダンジョンにいた。

 だが、そこを脱出し、駆けつけるまで約十分。

 同じ市内とはいえ、ありえない速さだった。

 

「ま、お姉さんの炎なら余裕よね」

「わたしのブーストも使ってたじゃん」

 

 カナタが上級探索者資格を取得したことで、従魔にも“緊急時の地上での能力行使権限”は付与される。

 彼女たちの能力ならば、この移動も可能だ。

 

 その姿に、ジジヤは乾いた笑いを浮かべる。

 

「た、頼もしい限りじゃわい」

 

 上級試験では、ジジヤは彼女たちに降参した。

 その判断は、改めて間違っていなかったと思い直す。

 従魔一人にさえ、自分など足元にも及ばない。

 

 不思議な安心感と同時に、肩の荷が下りた。

 

「なんとか、この地点の被害者は出なかったかの」

 

 これはジジヤの功労のおかげだろう。

 だが、辺りを見渡したエルヴィは少し残念そうにした。

 

「んー、ルーゼ。こっちはハズレ(・・・)みたいだね」

「ええ、お姉さんちょっとガッカリ」

 

 残っている魔物はもはや眼中にない。

 ルーゼリアは、別地点へと視線を向けた。

 

「じゃ、どちらかにいるわね」

 

 

 

 

 紅蓮ダンジョン、南入口付近。

 

「くうううう……!」

 

 リラは仲間と共に、魔物に立ち向かっていた。

 実力を(かんが)みて、正面からではなく周り道をさせるように。

 だが、侵攻を遅らせることはできても、抑えることはできない。

 

「も、もう限界かも……!」

「「「グオオオッ!」」」

 

 リラは、このダンジョン街でイベントを行っていた。

 その途中で事態が起こり、地続きで配信をしている。

 自身のためではなく、現場の状況を伝えるために。

 

《リラちゃんもう退こう!》

《十分よくやったよ!》

《それ以上はダメだ!》

《お願いだから!》

《取り返しがつかなくなるよ!》

 

 上級探索者の仲間共々、すでに限界は近かった。

 しかし、コメントが心配の声で埋まるも、リラは退かない。

 

「私だって『魔王軍』だもん……!」

 

 その胸に思い描くは、意中の人だ。

 

「カナタさんなら、きっとこうするはずだから!」

 

 『魔王軍』の一員。

 その誇りが、リラを奮い立たせていた。

 ただカナタと同事務所に入りたいだけでなく、肩を並べられるようにと。

 

 それには、仲間も意気も上がる。

 

「リラちゃん!」

「最後まで付き合うわよ!」

「ええ、ありがとう……!」

 

 リラは上級資格を持っていない。

 地上ではサポートしか出来ないが、陽動に作戦立案と、大いに役に立っていた。

 しかし、リラ達の力は及ばない。

 

「グオオッ!」

「はっ……!?」

 

 防衛網(ぼうえいもう)をかいくぐられ、リラの元に一匹の魔物が迫る。

 足が武器のB級魔物だ。

 とてもリラには()けられない。

 

 死を予感したリラは、目を(つむ)って咄嗟(とっさ)に願った。

 王子様の名を。

 

(カ、カナタさん……!)

 

 その叶うはずのない願いは──届く。

 

「断絶」

「グアアッ!」

「……ッ!」

 

 リラに迫った魔物が、宙で真っ二つにされた。

 すると、リラの前に少年が降り立つ。

 

「ありがとうリラさん。侵攻を止めてくれて」

「カナタさん……!?」

「後は任せて」

 

 この地点にはカナタが駆けつけた。

 リラの配信はコメントであふれる。

 

《魔王様ああああああ!!》

《来てくれると思ったああ!》

《ありがとう;;》

《やっぱお前は王子様だよ!》

《魔王様はこっちに向かってたか!》

《カナタ君の配信は速すぎて分からなかったからw》

 

 カナタも先程のダンジョンから配信を続けている。

 しかし従魔を含め、カナタ達の本気にはカメラが追いつかなかった。

 

 すると、カナタの隣にもう一人が並ぶ。

 共にきたミカママだ。

 

「カナタちゃん、いる(・・)?」

「……いや、いない」

 

 【超感覚】で探知するも、敵の大将は見当たらない。

 カナタは確信を得た。

 

(やっぱり【超感覚】との戦い方を知ってるな)

 

 魔人によれば、敵の大将の名は『ガルドル』。

 異世界の魔王軍で、“四天王”の一人だった男だ。

 当然カナタも知っている。

 

 異世界で倒した相手なのだから。

 

(なんであいつが生きてるんだ……)

 

 四天王と魔王は、カナタが直接手を下したはず。

 となれば、様々な疑問は浮かんでくる。

 だが、今は先にやることがある。

 

「ミカママ、片付けよう」

「そうね」

 

 ミカママは優しくうなずくと、宙に飛び立った。

 そのまま前方へ柔らかい波動を放つ。

 

「【バブみの波動】」

「「「……ッ!」」」

 

 軍勢の大半が波動に包まれる。

 そうなれば、起こることは一つ。

 

「「「ギャブゥ」」」

 

 幼児退行だ。

 素直になった魔物たちは、ミカママの言う事を聞く。

 

「みんな~、後ろに悪い子たちがいるわよ~」

「「「ギャブゥッ!」」」

「「「グオオッ!?」」」

 

 甘やかした前方の魔物を、波動範囲外の後方へ向かわせたのだ。

 二分された魔物の軍勢は、お互いに争い合う。

 

「うふふっ、いい子いい子」

 

《ママぁ!》

《いやママやってることエグいてww》

《やっぱりミカママも大概だわ》

《強すぎんだろ……》

《そうやって壊滅させるのか……》

《ママぁ?》

《今だけは笑顔が怖く見えるぜ》

 

 しかし、全てが上手くいくわけではない。

 

「ギャウウ……」

「あらま」

 

 【バブみの波動】に(あらが)う者がいるのだ。

 そういう種族か、あちら側が何らかの対策をしているのか。

 だが、残った魔物は倒せばいい。

 

「【空間断絶】」

「「「ギャウウウッ!」」」

 

 カナタが【超感覚】で複数のターゲットを視認。

 連続の【空間断絶】を放ち、大半を殲滅(せんめつ)した。

 

《うわああああああ!》

《さすが魔王様だ!》

《瞬殺ぅ!》

《かっけえええええ!!》

《リラちゃん達もよく守ったぞ!》

《魔王様の安心感やべえ!》

《魔王様バンザーイ!》

 

 すでに事態を収めた空気感だ。

 だが、カナタは違う地点へ目を向けた。

 

「残るは、あっちか」

 

 

 

 

 紅蓮ダンジョン、西入口付近。

 

「これ以上は難しいかもしれませんね」

「「「グオオッ!!」」」

 

 魔物の侵攻を止めているのは、ロメン。

 先日『魔王軍』に所属したイケメン装備職人だ。

 

 アイテム製作もしている彼は、試作品を確認しようと隣のダンジョンに来ていた。

 その最中で事態が起こったのだ。

 

「これで最後のアイテムか」

 

 手に持つのは、強力な爆弾。

 これ以外にも、ロメンは頭のネジが外れたとしか思えないアイテムで、なんとか場を対処していた。

 

 スライムでヌメヌメにする爆弾。

 魔物が服を着てないことに羞恥(しゅうち)(しん)を覚える爆弾などだ。

 しかし、それらも尽きてしまった。

 

「私もここまでのようだな」

「「「グオオッ!」」」

 

 様々な爆弾を受け、魔物の軍勢は怒り狂っている。

 ならば、少しでも魔物を減らそうとロメンは決意した。

 自爆特攻だ。

 

 ロメンに後悔があるとすれば、一つだけ。

 

我が神(・・・)をもう一度だけ見たかった)

 

 思い浮かべるのは、水色の少女。

 その信仰心は──現実となった。

 

「【氷獄(アイス・ヘル)】」

「「「ギャアアアッ!」

「……!?」

 

 ロメンの前方の魔物たちが、一斉に凍り付いたのだ。

 カナタの配信を、舐めまわすように繰り返し見ているロメンはすぐに気づいた。

 

「まさか──我が神!?」

「……うわ」

 

 現れたのは、ココネだ。

 ロメンの態度に嫌な顔を浮かべるも、ロメンは構わない。

 

「ココネたそおおおおお!」

「邪魔です」

「ごはっ! ……フッ、これもご褒美か」

 

 ココネは近づいてきたロメンを()り飛ばし、上に視線を移す。

 その先から来たのは──四天王ガルドル。

 

「ふふっ。主様、ココネがアタリ(・・・)を引いたみたいです」

 

 ガルドルは宙を移動しながら、ゆっくりと姿を見せた。

 そのままフッと笑みを浮かべる。

 

「アタリか。それはこちらのセリフだが?」

「そうでございますか」

 

 ココネはくるくるっと氷の槍を回し、ガルドルと対峙(たいじ)した──。

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