現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~   作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中

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第27話 ココネと主様

「ごめん、俺が悪かった」

 

 意識を催眠(さいみん)状態にされたココネに、カナタは向き直る。

 そのまま剣を抜いた。

 

「もう二度と君を一人にはしない」

 

 ココネと一対一でやる気だ。

 だが、当然ガルドルも動く。

 

「ふはは! くだらん友情ごっこは──ぐあっ!?」

「邪魔はさせないわよ」

 

 それにはカナタの周りが対処した。

 ルーゼリア、エルヴィ、ミカの従魔三人だ。

 三人はカナタの指示を忠実に守り、ガルドルとココネを分断させる。

 

「お姉さん、空気読めない人は嫌いなのよね!」

「カナタ様の邪魔はさせないっ!」

「ゆっくりといたぶってあげるわ」

 

「チィッ!」

 

 カナタは必ずココネを取り返すと信じて。

 そうして、カナタとココネは相対(あいたい)する。

 今からは二人だけの戦いだ。

 

「待ってろ。ココネ」

「排除します」

「……! ぐうぅっ!」

 

 その瞬間、ココネが(もう)吹雪(ふぶき)を放つ。

 今までにない火力だ。

 

 ココネのポテンシャルは、従魔で最も高い。

 普段は性格から、全力を解放できないだけだ。

 もし100%のココネが相手となると、誰よりも強敵と言える。

 

 それでも、カナタは前に踏み出した。

 

「うあああ! ──断絶!」

「!」

 

 吹雪の隙間を見つけ、【空間断絶】で道を切り(ひら)く。

 ほんの一瞬生まれた隙に、カナタはココネに向かって跳んだ。

 しかし、これは誘い込まれた罠だ。

 

「終わりです」

「……!」

 

 大きな氷の槍が、カナタの装備を貫く。

 これには従魔三人も声を上げた。

 

「カナタ君!」

「カナタ様!」

「カナタちゃん!」

 

 体ごと貫通したように見えたのだろう。

 だが、カナタは口を開いた。

 

「心の無い単調な攻撃にやられるかよ」

「……!」

 

 ほんの数ミリ、体を()らしていた。

 【超感覚】はここまで全てを読み切っていたのだ。

 すると、カナタはぎゅっとココネを抱きしめる。

 

「返ってきてくれ、ココネ」

「……っ!」

「俺には君が必要だ」

 

 その言葉はココネの心の奥底に届く──。

 

 

「こ、ここは……?」

 

 ココネがふと目を覚ますと、暗い空間。

 周囲には何も見当たらない。

 催眠によって、ココネの意識は心の奥底に沈んでしまっていた。

 

 そんな時、上から光が差し込むように声が聞こえた。

 

『返ってきてくれ、ココネ。俺には君が必要だ』

「あ、主様……!」

 

 すると、先程のガルドルとの攻防を思い出す。

 

『元奴隷のお前をか?』

 

 ガルドルの言葉に(まど)わされ、心の隙を突かれた。

 しかし、これはその時にできた隙ではない。

 ココネが元より、奥底に隠し持っていた不安が浮き彫りになっただけだった。

 

「主様、ココネは……」

 

 ココネの頭を巡ったのは、カナタとの異世界での日々だ。

 

 

────

 異世界。

 

「おら、さっさと歩け!」

「きゃっ!」

 

 ココネは奴隷(どれい)商人に()られる。

 

 ここは亜人の奴隷市場。

 ココネは売られる存在として、この場所で生まれた。

 かつての大戦で竜は人間に敗れ、ココネたち竜人族は、先祖代々より奴隷取引の対象とされていたのだ。

 

「こいつ変だな。妙に翼が長え」

「うぐっ」

 

 竜人族は、竜の特徴を残しつつも、力が弱まるよう制御される。

 人間に反抗できなくするために。

 竜人族は力も奪われ、ただ(しいた)げられるだけの存在だった。

 

 ただ一つの救いは、両親と三人で市場にいたことだろう。

 

「ごめんね、今日も守れなくて」

「ううん……」

 

 ただし、この時のココネに名前は無い。

 自ら名乗ることも許されず、ただ顔で認識されているのみ。

 そんな中でココネ達は、とある大富豪に買われることになる。

 

「これが竜人族か。なんとも素晴らしい!」

 

 太った男の権力者だ。

 とても逆らえる存在ではない。

 男は早速、割り振りを始めた。

 

「男は運搬(うんぱん)係、女はあの部屋へ連れて行け。ガキは……もう少し育ってからだな」

 

 父は力仕事、母は(なぐさ)み者。

 だが、ココネに非道な行いはされなかった。

 今よりさらに幼い見た目であり、権力者の対象にならなかったのだ。

 

 しかし、月日が経つと、いよいよ母の後続となる日が訪れる。

 

「さーて、じっくりお楽しみといくか」

「な、なにをするんですか……」

 

 ココネは何をされるか分からなかった。

 母が日々受ける仕打ちを知らされてなかったのだ。

 この時に特大の絶望を味わわせるために。

 

 そんな時、ココネの母は初めて抵抗した。

 

「お願いします! 娘にはそういうことはしない約束では!」

「黙れ奴隷が」

「……っ!!」

 

 すると、母は目の前で殺された。

 権力者は続けて父にも発砲する。

 

「あとは娘だけでよい。力も使えないしなあ?」

「がはぁっ!」

「……!!」

 

 目の前で倒れた両親に、ココネは膝から崩れ落ちた。

 

「おかあさん? おとうさん……?」

 

 そんなココネに、権力者は舌打ちする。

 

「おい娘。早く汚い死体をどけろ。興奮が冷めん内にな」

「──ッ!」

「ん?」

 

 その瞬間、ココネは自我を失った。

 

「「「うわあああああああっ!!」」」

 

 辺りは一瞬で凍り付き、屋敷の者たちを次々に刺す。

 破滅的な氷は、領土全てを巻き込む勢いで広がった。

 大戦時代、猛威を振るった氷竜のように。

 

 先祖返りだ。

 かつての竜の力が(よみがえ)り、暴走したココネ。

 自分でも制御ができず、自らの体も滅ぼす勢いで力を行使する。

 

 そして、次に意識を取り戻した時には──

 

「もう大丈夫だよ」

「……うっ」

 

 カナタに保護されていた。

 

 勇者としてココネの暴走を止めたのだ。

 だが、ココネには深く傷が残った。

 両親のことも、自分自身の力のことも。

 

「……私は、なんなのですか」

 

 生まれた時から(しいた)げられ、自分は何者か分からない。

 ココネは大戦時代のことなど知るはずもないのだから。

 すると、カナタはココネを(なだ)めた。

 

「大丈夫。君は一人の人だ」

「え?」

「両親のために怒った。優しい心の持ち主じゃないか」

「……っ」

 

 袖をぎゅっと握ってきたココネに、カナタは口にした。

 

「優しい“心”の持ち主。君の名前はココネだ」

「ココネ……」

「ひとまず君は俺が保護する。もう二度と君を一人にはしない」

「……はいっ」

 

 カナタがくれた大切な名前だ。

 だからココネは、自分をココネと呼ぶ。

 一度でも多く、その名前を使いたくて。

 

 そして、共に旅を始めてしばらく。

 

「ココネを従魔にしてください」

「なっ、でも……」

 

 従魔と言われれば、どうしても奴隷を連想してしまう。

 そのためカナタは、一度も言い出したことはなかった。

 しかし、ココネが従魔になりたかったのだ。

 

「これからはしたいことをしよう。そう言ってくださったのは、あなたです」

「そうだけど……」

「だからお願いします。これはココネがしたいことです」

「……わ、わかった」

 

 もう他の誰のものにもなりたくない。

 そんな想いから、ココネは自ら従魔を志願した。

 カナタは何度も聞き返し、やがて(しょう)(だく)してくれた。

 

「これからは主様ですね!」

「ははっ。ったく」

 

 それからも二人は旅を続ける。

 朱雀女に会ったり、吸血鬼に出会ったり、魔族を倒したり。

 幸せな日々を送っていた。

 

 だが、ココネはどこかでずっと引け目を感じていた。

 

(ココネなんかが主様にふさわしいのでしょうか)

 

 共に旅をするほど、カナタは立派な勇者だと感じる。

 彼が一つ成し遂げるごとに、ココネは自分はふさわしいのかと疑ってしまった。

 幼少期に根付いた奴隷精神は、簡単に消えるものではない。

 

「どうした? ココネ」

「い、いえ! なんでもございません!」

 

 従魔契約を願ったのは、そんな不安からでもあった。

 だからココネは日々くっついた。

 

「主様っ!」

「おいおい、くっつきすぎだろ」

 

 どれだけ引き()がされても、どれだけ離れろと言われても。

 心の奥底では、離れ離れになることへの不安を持っていた。

 そんな想いが、ココネを動かしていたのかもしれない。

 

 しかし、終わりは訪れる。

 

「戦いの日々は終わった。これからはみんなの道を生きてほしい」

 

 魔王討伐は成された。

 カナタは従魔に最初で最後のお願いをした。

 もう自分に付いてくる必要はないと。

 

 後になって思えば、カナタは処刑を予感していたのかもしれない。

 また、従魔たちはもう独り立ちできるだろうと。

 これはカナタの優しさだ。

 

 だが、従魔たちは想像以上に依存していた(・・・・・・)

 

「ココネは一生付いていきます」

 

 ココネはカナタが生きていると信じた。

 方法を探して探して、元の世界に飛んだのではと仮定した。

 

 だから、すぐに行動を起こした。

 しかし、自信の無さはここまで表れていた。

 自分一人ではカナタに嫌な顔をされるかもと、偶然居合わせたルーゼリアにも世界を渡る方法を伝えたのだ。

 

 だけど、一番先は自分がいい。

 そうして、ココネは真っ先に世界を渡った。

 

 ────

 

 

 そんな日々を思い出し、ココネは思い直す。

 

「主様を信じ切れていなかったのは、ココネの方でした……」

 

 カナタはいつだって自分を見てくれた。

 言葉では嫌がりつつも、自分を離さないでいてくれた。

 

 幼き頃の奴隷のトラウマゆえ、仕方ない思考とも言える。

 だが、カナタは決してひどいことはしない。

 現代まで付いてきた自分すら、仲間として受け入れてくれる。

 

「主様、ココネは……!」

 

 今一度、あの頃を見つめ直したココネ。

 今ならカナタを信じることができる。

 その想いは、心の(から)を破った──。

 

 

 再び、現代。

 

「主様……!」

「ココネ……!」

 

 ココネの(ひとみ)に光が戻った。

 催眠が解け、心が戻ってきたのだ。

 カナタはココネを抱きしめたまま謝る。

 

「ごめん、俺が離してしまったばかりに!」

「いいえ。催眠にかかったのはココネの弱さです」

「そんなことはない!」

 

 お互いに思いを打ち明け合う。

 どちらも悪いとこがあったと。

 再び相まみえたココネに、カナタは再び言葉にした。

 

「こんな俺でもよければ、そばにいてくれ」

「……!」

「今度こそ離しはしない」

「~~~っ! はいっ!」

 

 ココネが返ってきた瞬間だった。

 その光景には、ルーゼリア達もふっと笑う。

 

「なーんだ、帰ってきたのね」

「ライバルが一人減ると思ったのになあ」

「ココちゃん、おかえりなさい」

 

 こうは言いつつも、三人とも喜びを隠せていない。

 みんなココネを仲間だと思っているのだ。

 すると、ココネはキリッと目を切り替える。

 

「主様、ココネは前に進みました」

「……!」

 

 その瞬間、周囲に猛吹雪が広がった。

 この火力、(まと)うオーラ、雰囲気。

 全てが先ほどのココネと同等、もしくはそれ以上だ。

 

「おいおい、まじかよ……」

 

 ココネは乗り越えた。

 今ならば100%の力を解放できる。

 従魔でも最も高いという“最強のポテンシャル”を。

 

《ココネちゃんが返ってきたああ!》

《うわああああココネたーーーーん!!》

《よくやった魔王様!》

《ありがとう、本当にありがとう;;》

《しかも普段より強くなってねえか!?》

《覚醒ココネちゃんきたあああ!!》

《うおおおおおやってまええ!!》

 

 そして、ココネはガルドルに目を向けた。

 

「お覚悟を」

「だってよ、ガルドルさん」

「……っ!」

 

 ここからは反撃の時間だ──。

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