現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~ 作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中
「失礼します」
ノックをして、大きな茶色の木扉を開く。
ここは探索協会の『会長室』。
中に入ると、椅子に座っていた女の人がこちらを向いた。
会長さんだ。
「よくぞ来て──」
だが、会長さんは流れるような動作で床に膝をついた。
「くださいましたぁ!」
「会長さん!?」
この人は探索協会の会長さん。
探索者を取り仕切る探索協会で
……姿勢のせいで、全くそうは見えないけど。
「頭を上げてください!」
「久遠くん……」
いつもの光景に、俺は
でも、後ろの従魔たちはぞろぞろと部屋に入ってくると、長いソファにくつろぎ始めた。
「このお菓子美味しそうですね」
「もーらいっ」
「ママ友のお土産にしようかしら」
「君達に恐れてるの分かってる?」
この部屋もすでに慣れたらしい。
会長さんとは、すでに何度も顔を合わせている。
こんなにへりくだっているのも、従魔の恐ろしさを知るからだ。
会長さんは対面のソファに座ると、話を始めた。
「毎回こちらに来てもらう形でごめんなさいね」
「いえいえ。事務所も近いわけじゃないですし、全然来ますよ」
「そう言ってもらえるとありがたいわ」
従魔たちはお菓子に夢中なので、俺が会長さんと話を進める。
「では本題だけど、また調査してほしいところがあるの」
「……! 最近多いですね」
「ええ。異変が増えてきてるみたいで」
会長さんに(俺だけが)渡された資料を眺めながら、思考を巡らす。
この一か月間、俺は
内容は『魔人に関する調査』だ。
異変があったダンジョンへと向かい、報告を行っている。
最初に協会が接触してきたのは、魔物侵攻から数日後。
ガルドルという存在を見て、協会も魔人対策を始めたのだろう。
あんな災害がポンポン起きれば、日本も
「それにしても、本当に久遠くんが味方でホッとしているわ。敵側であれば、こちらは降伏しか残されていなかったもの」
「ははは……」
会長さんは、従魔たちをチラ見しながら
前に聞いた話だと、最初は俺を少し疑って接触したらしい。
魔人とは違っても“
世間の呼ばれ方(魔王)からも理解はできる。
でも、こちらから協力すると言うと、会長さんは安心してくれた。
未だに異世界のことは話していないけど。
「久遠くんにも事情があるのよね」
「そうですね。……あと
従魔が「深くは聞くな」と目を光らせているからだ。
実際、異世界のことを話すかは慎重に考えるべきだろう。
話した相手にも、危険が及ぶ可能性があるもしれないからな。
そんなこんなもありつつ、会長さんは俺を信頼してくれた。
もしくは、信頼するしかないといったところか。
協会側も、なんとしても従魔たちの味方でいたいことだろう。
「協会としては、引き続き協力してくだされば何も追及しませんので」
「ありがとうございます」
会長さんはまた深々と頭を下げた。
疲れた顔なのは気づいてます。
すみません。
そうして、会長さんは今回の件に話を戻した。
「今回なのだけど、資料通りに異常が検知されているの。念のため、調査をお願いできないでしょうか」
「わかりました」
今回は、とあるA級ダンジョンで異変が起きているらしい。
現在はそこを一時閉鎖し、俺たちに調査を行かせるようだ。
「今回も
「任せてください」
杞憂というのは、調査で魔人が出現したことはないからだろう。
ガルドルの件以降、現代で魔人は目撃されていない。
原因は俺も分からないままだ。
派遣が止まったのか、異世界側で何かあったのか。
色々考えられるけど、どれも推測に過ぎないので、現在は協会の調査を手伝っている。
それから、実は目的がもう一つ。
この調査は、俺の『七つの能力』の
『七つの能力』どれも強力だ。
【超感覚】はダンジョンシフト、【共奏】は魔物侵攻を起こされたりと、一つだけで災害を起こせるほどに。
すなわち、誰かの手に能力が渡っていれば、異変が起きている事が多い。
そんな考えもあって、協会の調査に積極的に協力している。
この事は会長さんには内緒だけど。
と、思考を整理していると、会長さんは再び口を開いた。
「けれど、今回はもう一つお願いがあるの」
「ん?」
会長さんは細い目で続けた。
「どうやら、この調査依頼が他のギルドにバレ始めているみたいでね」
「あー」
「責めているわけではないけど、久遠くん達はどうしても目立ってしまうから」
「それはまあ……はい」
それには
従魔たちは見た目も派手なら、歩くだけで災害を起こす。
調査を内密にするのも、そろそろ限界かもしれない。
「そうなると、色々と苦情が入ってきてね。協会と魔王軍がズブズブなんじゃないかとか。協会が舞台装置を設定してるんじゃないかとか。もうほんとに色々と」
「……あぁ、聞いたことあります」
そんな苦情は、俺に届くこともある。
でも、会長さんの疲れた顔を見てると、苦情の数が比じゃないんだろうなあ。
すると、会長さんの口が回り始める。
「こちらとしては、魔人調査はすごく危険で、久遠くん達が事情を知ってそうだから頼んでいるだけなのに!」
そのまま頭まで抱え始めた。
「ていうか何が
探索協会は公務員だ。
税金で給料をもらっているんだから好き勝手言ってもいいと、本気で思ってる人も世の中にはいるんだよね。
「そもそも、久遠くんたちに依頼するのがどれだけ怖いことか!」
「……」
「最初の接触なんて寿命が百年縮まったわよ! って、百年縮まったら、私もう死んでるやないかーい!」
自分でツッコミまで始めた。
いよいよ
そうして、会長さんは頭を抱えて声を上げた。
「従魔さんにビビって協会にばかり苦情を送り付けて! 一番
さすがに限界を迎えてそうなので、俺は隣に指示を出した。
「ミカママ」
「ええ」
ミカママは手の平をふうっと吹いて、黄緑の波動を放つ。
「それなのに、苦情を送ってくる皆さんは好き勝手に……! ──ママあああ」
「少しはストレス解消できますように」
会長さんは途中で幼児退行した。
ストレス解消にはこれが一番だ。
こんなに頑張ってる会長さんに、「情けないですね」とはとても言えなかった。
少し経ち、バブみの効果が切れたところで話を再開させる。
「会長さん、どうかお顔を上げて下さい」
「バブ──こほん。お見苦しい所を失礼したわ」
「いえ、いつものことですので」
会長さんは話を続けた。
「苦情が来ている内、一つ厄介な連中がいるの」
「厄介?」
「彼女たち
「あぁ、なるほど」
なんとなく言いたいことが分かった。
「そこで次の調査は、一度彼女たちと共に調査をしてくれないかしら。それも“配信付き”で」
「わかりました。それで“教えてやれ”というわけですね」
「そういうことよ」
今までの調査は、内密のために配信をせずにやっていた。
だけど、それが周りにバレつつある。
だったらいっそのこと、配信上で調査することで警告するわけだ。
“このレベルじゃないと調査はできないんだぞ”と。
やはり会長さんも頭が回る(冷静になれば)。
俺は立ち上がり、会長さんに手を伸ばす。
「では、この調査を受け──」
「ちょっと待ったあ!」
だが、ずいっとルーゼリアが間に入った。
「甘いわよカナタ君」
「はい?」
「こんなの情につけこんで、タダで案件を増やされてるじゃない。カナタ君は優しいけど、お姉さんはそうじゃないわ」
別につけこんでるわけじゃないだろ。
とは思ったが、エルヴィも続いて立ち上がった。
「まったくだね。カナタ様が許してもわたしが許さない。今度こそカナタ様の酷使は止めてみせる」
「ヒョエッ……」
二人は腰に手を当て、会長を上から
君たち人の心ないんか。
いや、亜人だったか。
「なあ、二人とも──」
「カナタ君は黙って」「カナタ様は黙って」
「……っす」
会長さんを
だけど、二人の目を見て直感した。
これは俺のために言ってくれているのだと。
異世界では、俺が酷使されて最終的に処刑された。
それを繰り返さないため、どこまでも公平な取引を望んでいるんだ。
会長さんは
会長さんは、少し考えて答えた。
「……協会
「「!」」
すると、ルーゼリアとエルヴィはくるりと背を向けた。
「さーて行こうかしらね!」
「そろそろ体を動かしたかったんだよねー!」
「……」
余裕で釣られたみたいだ。
こいつら単純なんだよなあ。
でも、会長さんの青ざめた顔は隠しきれていない。
「すみません。ほどほどにするように強く言っておきますので」
「はは……いいのよ。これで日本が守れるのだったらね」
あなたは本物の英雄だよ。
何かしてあげたくなった俺は、もう一度ミカママに声をかけた。
「ミカママ、最後に」
「そうね」
ふわっと会長さんを包んだのは、【バブみの波動】だ。
「バブぅ」
これで心を休めてください。
こうして、今回の調査内容を聞いた俺たちは、明日の準備を始めるのだった。