現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~   作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中

34 / 57
第34話 脳筋集団

 「はあっ、はあっ……!」

 

 マイコは息を切らしながら、全力でダンジョンを駆ける。

 対決開始からは、およそ二十分が経っていた。

 

 舞台はA級『わなわなダンジョン』。

 その名の通り、たくさんの“(わな)”が存在する。

 魔物は大したことないものの、厄介さを考慮されて評定されているようだ。

 

 マイコもそんなダンジョンに苦戦して──ではなく、後ろから追って来る者から必死に逃げていた。

 

「つ、付いて来るんじゃないわよお!」

「一本道なので……」

 

 マイコが死ぬ物狂いで走る中、ココネは(すず)しい顔で移動していた。

 氷の道を作り、スイ~とアイススケートの要領だ。

 カナタ達も“ソリ”を作り、快適にココネの後ろを滑っている。

 

「楽ぅ~」

 

 この状況に、マイコは歯を食いしばる。

 

「こ、こんなはずじゃ……!」

 

 マイコは対決のため、このダンジョンを死ぬほど予習をしてきた。

 カナタ達は初探索らしいので、余計に序盤で差を付けたいと考えたのだ。

 先に足を踏み入れたのもそのためである。

 

 しかし現状、カナタ達は訳の分からぬ攻略法で次々と罠を突破している。

 加えて、「先に行くわよ!」と堂々と宣言した割に、案外早く追いつかれてしまった気まずさもある。

 

 端的に言えば、マイコは(くつ)(じょく)的だった。

 さらに、カナタ達は余裕までかましてくる始末だ。

 

「マイコさん、無理せずソリに乗ったらどうですかー」

「死んでもお断りよおー!」 

 

 だが、マイコはふと気づく。

 

「って、ミイコは!?」

 

 一緒に隣を走っていたはずの妹、ミイコがいない。

 嫌な予感がしたマイコは、再び後方を振り返った。

 すると、ミイコが呑気に手を振ってくる。

 

「マイコ(ねえ)、これ楽ちんだよ」

「裏切ったなこの野郎おおお!」

 

 ミイコは快適さの欲望に敗れていた。

 

《ミイコちゃんwww》

《マイペースなんだよなあ》

《頑張ってるのマイコだけで草》

《欲望に(あらが)えなかったかーw》

《人って楽な方に流されるんだよね》

《快適な移動で釣るとかひどすぎるよ!》

《もう二度と戻れないねえ》

《ミイコちゃん手中に収めてて草》

《これ魔王の所業だろwww》

 

 開始時から、両者はずっとこの調子だ。

 そんな中、マイコの前に大きな罠が出現する。

 

「これは……!」

 

 巨大なチェスのような罠だ。

 あちこちに怪物の石像『ガーゴイル』が配置されており、手順を間違えると(おそ)ってくるのだろう。

 

 マイコはこちらも予習してきたが、一人では苦戦しそうだ。

 すると、ミイコは後方のソリから降りる。

 

「ありがとうございます。快適でした」

「またどうぞー」

 

 もはや相手と言えるか怪しいが、ミイコはマイコの隣に並ぶ。

 マイコはじと目を向けながらも、罠について指示をした。

 

「ミイコはそっちを持って。同時に動かすのよ、せーの!」

「うん」

 

 毎回パターンが変わる盤面(ばんめん)だが、マイコは順に解いていく。

 この対応力も、予習の賜物(たまもの)とも言えるだろう。

 また、この罠には踏んではいけないマスがあった。

 

(中央だけは踏まないように……!)

 

 中央マスには、ドクロマークが刻まれている。

 “絶対踏むな”という警告の印だ。

 これを避けながらお題を解く、というのが罠のコンセプトである。

 

 難解な罠だが、マイコの指示で二人は見事に突破した。

 

「はぁ、はぁ。どうよ!」

 

 罠の向こう側で、マイコはドヤ顔を浮かべる。

 罠はリセット・パターン変更がされたため、勝ち誇った態度だ。

 カナタ陣営に解ける者はいないと思ったのだろう。

 

 対して、ルーゼリアが前に出た。

 

「ふふっ。じゃあここはお姉さんが」

 

 邪悪な笑みだ。

 後ろのカナタも「ろくなこと考えてないな」と遠い目をしている。

 その予想通り、ルーゼリアはふわっと降り立った。

 

 ──中央のドクロマークへと。

 

「な、なにをしてるの!?」

 

 コンセプトを無視したルーゼリアに、マイコは声を上げた。

 辺りには警報が鳴り響き、ゴゴゴゴとガーゴイルが動き始める。

 最上級ペナルティの『一斉攻撃』だ。

 

 普通のペナルティは一体が襲ってくるだけだが、全三十二体のガーゴイルが一斉にルーゼリアへ向いた。

 

「「「侵入者、排除スル」」」

「へえ?」

 

 しかし、ルーゼリアは一歩も引かない。

 それどころか、両手に炎を灯して威圧した。

 

「やれるものならやってみなさい」

「「「……!」」」

 

 あまりの殺気に、ガーゴイル達はビクッと体を震わせる。

 数秒の(せい)(じゃく)の後、顔を見合わせたガーゴイル達は──走って逃げ出した。

 

「「「ニゲローーーー!!」」」

「あら、つまらないわね」

 

 もはやペナルティも関係ない。

 災厄の名にふさわしい力で、正面から罠をぶち壊した。

 

 向こう側のマイコは、口をあんぐりさせている。

 

「うっそお……」

「マイコ姉。魔王様を相手にするってこういうことだよ」

 

《罠の方が逃げ出してて草》

《罠くんさあ……》

《機能しろよwww》

《賢明な判断だ!笑》

《これ罠の概念根本から(くつがえ)してるだろwww》

《ズルいとかそんなレベルじゃねえよww》

《お、これで攻略法がわかったな!》

《※誰も真似できません》

 

 さらに言えば、このルーゼリアクラスの従魔が三人、そしてその(あるじ)が相手なのだ。

 絶望的な力量差を実感するが、それでもマイコは首を左右に振る。

 

「こ、これで諦めてたまるものですか!」

 

 気持ちはまだ負けてないようだ。

 しかし、この先もカナタ達は、罠を破壊し尽くした。

 

 

 

 レーザートラップのエリア。

 赤いレーザーに触れると、天井から針の山が降ってくる。

 

「あれ、引っ()かっちゃったか」

 

 大して体をひねるでもなく、エルヴィはレーザーに触れてしまった。

 しかし、そんなもの関係ない。

 

「ま、わたしの棘の方が強いでしょ」

 

 降ってきた無数の針を、自身の(とげ)で全て弾いた。

 というより、破壊した。

 一本残らず針がぶっ壊れたのだから。

 

 これにはマイコも真顔になる。

 

「えぇ……」

 

 自分は腰を痛めながら頑張って避けたのに、まるで意味がなかった。

  

 

 

 転がる岩のエリア。

 坂道の頂上に近づくと、巨大な石が転がってくる。

 

「ミイコ、こっちよ!」

 

 石が飛び出ると同時に、マイコは横の抜け穴に身を隠した。

 予習で安全地帯を知っていたようだ。

 このままいけば、後方のココネ達に直撃する。

 

 だが、このままはいかない。

 

「なんですか、この石──【氷塊(ブロック)】」

「……!?」

 

 ココネは瞬時により巨大な氷を創り出し、岩を砕いた。

 本来避けるべき罠のはずを、正面から破壊したのだ。

 ことごとく違う攻略をするカナタ達に、マイコは顔を抑えた。

 

「もうやだ、この脳筋集団……」

 

 

 

 そうして、中層後半に差し掛かった頃。

 心が折れたマイコは、ついにソリに乗っていた。

 

「ママぁ、魔王(まおー)にいじめられたぁ!」

「よしよし。よく頑張ったわね」

 

 ミカママにあやされながら。

 

《ママに甘えてんじゃねえかww》

《降伏しちゃった》

《アラサーがおぎゃってるw》

《あんなに張り切ってたのに笑》

《ミカママも魔王の一味なんですけどねw》

《罠さんも不憫だなあ……》

《脳筋集団ガチでオモロイwww》

《言い得て妙だな》

《ぜーんぶ正面から破壊してて草》

 

 配信が平和になった中、ミイコもカナタと雑談している。

 

「すみません魔王様。こんな姉で」

「いえ、心意気は立派ですよ」

 

 だが、しばらく進んだところで()は起きた。

 

「「「……!」」」

 

 突如、従魔四人が一斉にある方向に目を向けた。

 何かを感じ取ったかのように。

 四人はそれぞれ顔を見合わせ、互いにうなずき合う。

 

「ココネ、これは……そうよね」

「ええ、主様の匂いです」

 

 相変わらず主様の匂いは逃さない。

 この先に、カナタの“能力”を持った魔物がいると感知したようだ。

 すると、マイコを抱えるミカママもすっと立ち上がった。

 

「ごめんなさいね。ママも行かないと」

「え、ママ? ……じゃなくて、どうしたって言うのよ!」

 

 波動の効果が切れ、マイコは顔を赤くしながら声を上げた。

 同時に、ピンと思い付く。

 

「そ、そういうことね! この先に異変があるんでしょ!」

「あ」

 

 ニヤリとしたマイコは、勢いよくソリから飛び出した。

 すぐさま放ったのは、温存していた特大の“隠し玉”だ。

 

「これで私たちが解決よ!」

 

 異変の内容は、異常個体の魔物が目撃されたこと。

 そのために、マイコは特製の『魔力結晶』を持参していた。

 あらゆる属性を詰め込んだ、魔力の(かたまり)だ。

 

 それを壊すことで、前方に多属性のレーザーが飛んでいく。

 貯金をほとんど使い果たしたが、A級魔物ならぶっ飛ばせる程の大威力だ。

 

「──え?」

 

 しかし、多属性レーザーがそのまま返ってきた(・・・・・)

 すでに加速されたそれは、マイコでは避けることはかなわない。

 

(私、死ぬの……?)

 

 その瞬間、マイコの頭には走馬灯のように記憶が(よみが)る。

 

 

────

 

 マイコは何も持っていなかった。

 努力で上級探索者になったが、より上へいける才能は無い。

 あるとすれば、その強気な性格と口調だけ。

 

 しかし、妹のミイコには才能があった。

 

「ミイコすごいじゃない! 剣も魔法も、私よりずっと!」

「そ、そうかな……」

 

 褒められたことが嬉しくて、ミイコは探索者を志す。

 

 そして、心に決めた。

 “ダンジョンでは自分が姉を守る”と。

 

 ミイコはおとなしく、昔から友達ができなかった。

 周りから「暗い」とからかわれることもあった。

 その時は、いつもマイコが守ってあげていた。

 

 ミイコはその恩を忘れず、努力を重ねた。

 結果、探索者としての才能が花開き、優秀な功績を残すまでになった。 

 そんなミイコの可能性を、マイコは誰より信じている。

 

「ミイコはきっとすごい存在になるわ!」

 

 だからこそ、協会には依頼や信頼を熱望する。

 ミイコは“認められるべき存在”なのだと。

 

 実際、会長にはいくつか依頼をもらった

 だが、難しい依頼は受けさせてくれなかった。

 そんな時に耳にしたのが、カナタ達の内密調査の件だった。

 

「どうして、こんな奴らなんかに!」

 

 どれだけ言っても受けられなかったレベルの依頼を、ぽっと出の奴がもらっている。

 マイコは悔しくて仕方がなかった。

 何より、ミイコの可能性を信じてもらえなかったのが悔しかった。

 

 カナタたちの評判はもちろん知っていた。

 だが、それでもマイコはミイコを信じている。

 

「だったら、直接対決で見せつけるまでよ!」

 

 そうして、今回の件に至る。

────

 

 

 マイコの暴走気味の行動は、姉妹愛が空回りしてしまった結果だ。 

 

 しかし──

 

「……!」

 

 そんな美しい家族愛すら、ダンジョンは容赦(ようしゃ)なく刈り取ってくる。

 視界がゆっくりになる感覚の中、一際早い剣筋が下から見えた。

 

 カナタの剣だ。

 

「大丈夫ですか」

「……っ!」

 

 カナタが返ってきたレーザーを弾くと、マイコは正気を取り戻す。

 

 それと同時に、気づいてしまった。

 今までの自分は甘かったと。

 ここから先は文字通り、“次元の違う世界”なのだと。

 

「うぅあ……っ」

 

 腰が抜けてしまったマイコを、後ろからミイコが支える。

 

「マイコ姉、これが魔王様たちが戦ってる世界だよ」

「ミイコ……」

「私ですら足元にも及ばない」

 

 ミイコは固唾(かたず)を飲みながら、魔王一行を後ろから眺める。

 先頭に立ったカナタは、前方から来る魔物と相対(あいたい)した。

 

能力(それ)は返してもらおうか」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。