現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~ 作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中
「はあっ、はあっ……!」
マイコは息を切らしながら、全力でダンジョンを駆ける。
対決開始からは、およそ二十分が経っていた。
舞台はA級『わなわなダンジョン』。
その名の通り、たくさんの“
魔物は大したことないものの、厄介さを考慮されて評定されているようだ。
マイコもそんなダンジョンに苦戦して──ではなく、後ろから追って来る者から必死に逃げていた。
「つ、付いて来るんじゃないわよお!」
「一本道なので……」
マイコが死ぬ物狂いで走る中、ココネは
氷の道を作り、スイ~とアイススケートの要領だ。
カナタ達も“ソリ”を作り、快適にココネの後ろを滑っている。
「楽ぅ~」
この状況に、マイコは歯を食いしばる。
「こ、こんなはずじゃ……!」
マイコは対決のため、このダンジョンを死ぬほど予習をしてきた。
カナタ達は初探索らしいので、余計に序盤で差を付けたいと考えたのだ。
先に足を踏み入れたのもそのためである。
しかし現状、カナタ達は訳の分からぬ攻略法で次々と罠を突破している。
加えて、「先に行くわよ!」と堂々と宣言した割に、案外早く追いつかれてしまった気まずさもある。
端的に言えば、マイコは
さらに、カナタ達は余裕までかましてくる始末だ。
「マイコさん、無理せずソリに乗ったらどうですかー」
「死んでもお断りよおー!」
だが、マイコはふと気づく。
「って、ミイコは!?」
一緒に隣を走っていたはずの妹、ミイコがいない。
嫌な予感がしたマイコは、再び後方を振り返った。
すると、ミイコが呑気に手を振ってくる。
「マイコ
「裏切ったなこの野郎おおお!」
ミイコは快適さの欲望に敗れていた。
《ミイコちゃんwww》
《マイペースなんだよなあ》
《頑張ってるのマイコだけで草》
《欲望に
《人って楽な方に流されるんだよね》
《快適な移動で釣るとかひどすぎるよ!》
《もう二度と戻れないねえ》
《ミイコちゃん手中に収めてて草》
《これ魔王の所業だろwww》
開始時から、両者はずっとこの調子だ。
そんな中、マイコの前に大きな罠が出現する。
「これは……!」
巨大なチェスのような罠だ。
あちこちに怪物の石像『ガーゴイル』が配置されており、手順を間違えると
マイコはこちらも予習してきたが、一人では苦戦しそうだ。
すると、ミイコは後方のソリから降りる。
「ありがとうございます。快適でした」
「またどうぞー」
もはや相手と言えるか怪しいが、ミイコはマイコの隣に並ぶ。
マイコはじと目を向けながらも、罠について指示をした。
「ミイコはそっちを持って。同時に動かすのよ、せーの!」
「うん」
毎回パターンが変わる
この対応力も、予習の
また、この罠には踏んではいけないマスがあった。
(中央だけは踏まないように……!)
中央マスには、ドクロマークが刻まれている。
“絶対踏むな”という警告の印だ。
これを避けながらお題を解く、というのが罠のコンセプトである。
難解な罠だが、マイコの指示で二人は見事に突破した。
「はぁ、はぁ。どうよ!」
罠の向こう側で、マイコはドヤ顔を浮かべる。
罠はリセット・パターン変更がされたため、勝ち誇った態度だ。
カナタ陣営に解ける者はいないと思ったのだろう。
対して、ルーゼリアが前に出た。
「ふふっ。じゃあここはお姉さんが」
邪悪な笑みだ。
後ろのカナタも「ろくなこと考えてないな」と遠い目をしている。
その予想通り、ルーゼリアはふわっと降り立った。
──中央のドクロマークへと。
「な、なにをしてるの!?」
コンセプトを無視したルーゼリアに、マイコは声を上げた。
辺りには警報が鳴り響き、ゴゴゴゴとガーゴイルが動き始める。
最上級ペナルティの『一斉攻撃』だ。
普通のペナルティは一体が襲ってくるだけだが、全三十二体のガーゴイルが一斉にルーゼリアへ向いた。
「「「侵入者、排除スル」」」
「へえ?」
しかし、ルーゼリアは一歩も引かない。
それどころか、両手に炎を灯して威圧した。
「やれるものならやってみなさい」
「「「……!」」」
あまりの殺気に、ガーゴイル達はビクッと体を震わせる。
数秒の
「「「ニゲローーーー!!」」」
「あら、つまらないわね」
もはやペナルティも関係ない。
災厄の名にふさわしい力で、正面から罠をぶち壊した。
向こう側のマイコは、口をあんぐりさせている。
「うっそお……」
「マイコ姉。魔王様を相手にするってこういうことだよ」
《罠の方が逃げ出してて草》
《罠くんさあ……》
《機能しろよwww》
《賢明な判断だ!笑》
《これ罠の概念根本から
《ズルいとかそんなレベルじゃねえよww》
《お、これで攻略法がわかったな!》
《※誰も真似できません》
さらに言えば、このルーゼリアクラスの従魔が三人、そしてその
絶望的な力量差を実感するが、それでもマイコは首を左右に振る。
「こ、これで諦めてたまるものですか!」
気持ちはまだ負けてないようだ。
しかし、この先もカナタ達は、罠を破壊し尽くした。
レーザートラップのエリア。
赤いレーザーに触れると、天井から針の山が降ってくる。
「あれ、引っ
大して体をひねるでもなく、エルヴィはレーザーに触れてしまった。
しかし、そんなもの関係ない。
「ま、わたしの棘の方が強いでしょ」
降ってきた無数の針を、自身の
というより、破壊した。
一本残らず針がぶっ壊れたのだから。
これにはマイコも真顔になる。
「えぇ……」
自分は腰を痛めながら頑張って避けたのに、まるで意味がなかった。
転がる岩のエリア。
坂道の頂上に近づくと、巨大な石が転がってくる。
「ミイコ、こっちよ!」
石が飛び出ると同時に、マイコは横の抜け穴に身を隠した。
予習で安全地帯を知っていたようだ。
このままいけば、後方のココネ達に直撃する。
だが、このままはいかない。
「なんですか、この石──【
「……!?」
ココネは瞬時により巨大な氷を創り出し、岩を砕いた。
本来避けるべき罠のはずを、正面から破壊したのだ。
ことごとく違う攻略をするカナタ達に、マイコは顔を抑えた。
「もうやだ、この脳筋集団……」
そうして、中層後半に差し掛かった頃。
心が折れたマイコは、ついにソリに乗っていた。
「ママぁ、
「よしよし。よく頑張ったわね」
ミカママにあやされながら。
《ママに甘えてんじゃねえかww》
《降伏しちゃった》
《アラサーがおぎゃってるw》
《あんなに張り切ってたのに笑》
《ミカママも魔王の一味なんですけどねw》
《罠さんも不憫だなあ……》
《脳筋集団ガチでオモロイwww》
《言い得て妙だな》
《ぜーんぶ正面から破壊してて草》
配信が平和になった中、ミイコもカナタと雑談している。
「すみません魔王様。こんな姉で」
「いえ、心意気は立派ですよ」
だが、しばらく進んだところで
「「「……!」」」
突如、従魔四人が一斉にある方向に目を向けた。
何かを感じ取ったかのように。
四人はそれぞれ顔を見合わせ、互いにうなずき合う。
「ココネ、これは……そうよね」
「ええ、主様の匂いです」
相変わらず主様の匂いは逃さない。
この先に、カナタの“能力”を持った魔物がいると感知したようだ。
すると、マイコを抱えるミカママもすっと立ち上がった。
「ごめんなさいね。ママも行かないと」
「え、ママ? ……じゃなくて、どうしたって言うのよ!」
波動の効果が切れ、マイコは顔を赤くしながら声を上げた。
同時に、ピンと思い付く。
「そ、そういうことね! この先に異変があるんでしょ!」
「あ」
ニヤリとしたマイコは、勢いよくソリから飛び出した。
すぐさま放ったのは、温存していた特大の“隠し玉”だ。
「これで私たちが解決よ!」
異変の内容は、異常個体の魔物が目撃されたこと。
そのために、マイコは特製の『魔力結晶』を持参していた。
あらゆる属性を詰め込んだ、魔力の
それを壊すことで、前方に多属性のレーザーが飛んでいく。
貯金をほとんど使い果たしたが、A級魔物ならぶっ飛ばせる程の大威力だ。
「──え?」
しかし、多属性レーザーがそのまま
すでに加速されたそれは、マイコでは避けることはかなわない。
(私、死ぬの……?)
その瞬間、マイコの頭には走馬灯のように記憶が
────
マイコは何も持っていなかった。
努力で上級探索者になったが、より上へいける才能は無い。
あるとすれば、その強気な性格と口調だけ。
しかし、妹のミイコには才能があった。
「ミイコすごいじゃない! 剣も魔法も、私よりずっと!」
「そ、そうかな……」
褒められたことが嬉しくて、ミイコは探索者を志す。
そして、心に決めた。
“ダンジョンでは自分が姉を守る”と。
ミイコはおとなしく、昔から友達ができなかった。
周りから「暗い」とからかわれることもあった。
その時は、いつもマイコが守ってあげていた。
ミイコはその恩を忘れず、努力を重ねた。
結果、探索者としての才能が花開き、優秀な功績を残すまでになった。
そんなミイコの可能性を、マイコは誰より信じている。
「ミイコはきっとすごい存在になるわ!」
だからこそ、協会には依頼や信頼を熱望する。
ミイコは“認められるべき存在”なのだと。
実際、会長にはいくつか依頼をもらった
だが、難しい依頼は受けさせてくれなかった。
そんな時に耳にしたのが、カナタ達の内密調査の件だった。
「どうして、こんな奴らなんかに!」
どれだけ言っても受けられなかったレベルの依頼を、ぽっと出の奴がもらっている。
マイコは悔しくて仕方がなかった。
何より、ミイコの可能性を信じてもらえなかったのが悔しかった。
カナタたちの評判はもちろん知っていた。
だが、それでもマイコはミイコを信じている。
「だったら、直接対決で見せつけるまでよ!」
そうして、今回の件に至る。
────
マイコの暴走気味の行動は、姉妹愛が空回りしてしまった結果だ。
しかし──
「……!」
そんな美しい家族愛すら、ダンジョンは
視界がゆっくりになる感覚の中、一際早い剣筋が下から見えた。
カナタの剣だ。
「大丈夫ですか」
「……っ!」
カナタが返ってきたレーザーを弾くと、マイコは正気を取り戻す。
それと同時に、気づいてしまった。
今までの自分は甘かったと。
ここから先は文字通り、“次元の違う世界”なのだと。
「うぅあ……っ」
腰が抜けてしまったマイコを、後ろからミイコが支える。
「マイコ姉、これが魔王様たちが戦ってる世界だよ」
「ミイコ……」
「私ですら足元にも及ばない」
ミイコは
先頭に立ったカナタは、前方から来る魔物と
「