現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~ 作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中
<三人称視点>
時は少しさかのぼり。
「「「うわああああああああああ!」」」
イレギュラー発生直後、集団が逃げてきた。
ありえない強さのサイクロプスが出たとのこと。
その様子に、ある青年は目を見開く。
(イレギュラーだって!?)
青年の名はアキラ。
ガタイは強そうではないが、彼はあるスキルを持っていた。
(僕の出番だ!)
アキラはすーっと姿を消す。
スキル【隠れ身】である。
S級の探索者ですら、この状態のアキラに気づくことは難しい。
姿を消したアキラは、カメラを使って配信を始める。
チャンネル名は『緊急のアキラ』。
彼は、“戦場カメラマン”のような配信スタイルをしていた。
「はい今、緊急で配信を回しているんですけども!」
《お》
《アキラが始まったか》
《緊急なら見ます》
「『青玉ダンジョン』でイレギュラーが発生したとのことです!」
《まじかよ緊急じゃん》
《速報から来ました》
《掲示板から来ました》
《緊急はアキラに限るな》
青玉ダンジョンは、カナタ達が探索しているダンジョンだ。
アキラは活動方針に従い、集団と逆行する。
【隠れ身】と慣れた動きで、逃げる者を邪魔することはない。
ただ、万人受けする配信ではないのは確かだ。
《またコ○キ配信かよ》
《野次馬でお金稼げていいね^^》
《今日もドサ周りですか》
「……」
何十、何百と書かれたコメントだ。
このスタイルを貫くのは、もちろん金のためでもある。
しかし、アキラにはしっかりした想いもあった。
数年前、彼はイレギュラーで父を失う。
その時、対処法があれば父は助かったかもしれない。
そんな思いから、アキラはこの活動を始めた。
イレギュラーという誰もが逃げ出す事態で、少しでも記録を残すために。
記録を残すことで、少しでも対処法を伝えるために。
その強い信念を持って、アキラは戦場カメラマンをしていた。
「今回はどんな記録が──って、なんじゃこりゃああああああ!?」
しかし、飛び込んできた光景は、その信念をいとも簡単にへし折った。
火と氷。
階層を二分する超常的な力。
まるで“終末”のような光景が広がっていた。
『ココネちゃん、遠慮はいらないのよ?』
『あなたも
炎を
氷を操る竜少女。
神話の魔物にも思える者同士が、激しく戦っていた。
《なんだこれ!?》
《これが今回のイレギュラーか?》
《イレギュラーにも程があるだろ!?》
《バカ、違えよ!》
《こんなの聞いた事ねえって!》
《こんな魔物が存在していいのか?》
《ありえねえだろ》
《終末じゃん……》
《S級の魔物か?》
《いや、S級で収まるか……?》
数秒映ったのみで、コメント欄は大混乱。
イレギュラーを見慣れているであろう彼の視聴者ですら、この反応だ。
よっぽどの事態と言える。
当然、アキラも腰を抜かしていた。
「な、ななな、なにごと……!?」
来る途中、イレギュラーは異常個体のサイクロプスだと耳にしていた。
しかし、そのサイクロプスは──
(瞬殺されてるうー!?)
その辺で丸焦げになっていた。
考える間でもなく、ルーゼリアと呼ばれる者に倒されたのだろう。
《イレギュラーって結局何だったの》
《掲示板ではサイクロプスって情報あるぞ》
《てことは、あの黒焦げが!?》
《多分そうだろ……》
《じゃあ、あの二人は……?》
《それ以上の何かってこと?》
《やばすぎだろ》
《なあアキラ、フェイク映像なんだろ?》
《偽ものだって言ってくれ》
異常個体のサイクロプスを瞬殺した女。
それと
化け物としか表しようのない者たちが、戦いを繰り広げていた。
「こ、ここ……」
かつて、何度もイレギュラーの現場に
魔物とは直接戦わなくても、記録に収めるという大仕事をしてきた。
その意地でも動かない彼の体は──即座に動いた。
「これは無理だあああああああ!」
アキラは抜けた腰を必死に動かそうとする。
その瞬間だった。
さらなる“化け物”が現れたのは。
『二人ともやめろー!』
──ザンッ!!
「……ッ!?」
世界を二分していた火と氷。
それが一瞬で消滅した。
近くにいた少年の一刀によって。
《は?》
《え!?》
《何が起こった?》
《火と氷が消えた?》
《てか空間が斬れた?》
《あの少年がやったのか……?》
そして、今まで戦っていた二人は少年にくっつく。
まるで少年を
『主様!』
『カナタ君!』
「あ、主様のカナタ君……?」
アキラにはもう正常な判断能力は無い。
彼の頭には、ただ一つの方程式が浮かんだ。
『二人の女<カナタ』と。
アキラは叫びながら逃げ出した。
「ま、魔王だああああ! うわあああああ!」
《あのカナタって奴が黒幕かよ!》
《あんな優しそうな顔して!?》
《人は見た目によらないって言うが……》
《二人より強いのか!?》
《あの二人を従えてんの……?》
《やばすぎるだろ》
《魔王だ》
《間違いない》
《あの二人を使って何をする気なんだ》
《そりゃ世界征服だろ》
こんな流れはいざ知らず。
カナタはふと後方を振り返った。
『ん? 今何かいた?』
『うふふっ。きっと気のせいよ』
だが、ルーゼリアの視線は明らかにアキラを追っている。
どこまで芝居だったかは、彼女のみが知る。
こうして、戦場カメラマンのアキラによって、カナタと従魔二人の恐ろしい姿が世間に晒されてしまった。
この映像は『切り抜き』や『掲示板』で話題となり、大きな注目を集める。
結果、話題が話題を呼び、徐々に尾ひれがつき、カナタは噂されていく。
災厄級の従魔を従える“魔王”であると──。