現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~   作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中

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第42話 最後の願い

 「ショータイムの始まりです」

 

 異世界魔王軍、四天王の一人マウロは両手を広げた。

 死んだはずの師匠ヴァレリアは、死霊術師(ネクロマンサー)の異名を持つマウロによって、死者蘇生させられていたのだ。

 つまり、ヴァレリアはマウロの意のままだ。

 

 結果的に、カナタは最も傷つけたくないヴァレリアと相対(あいたい)することとなった。

 

《師匠どうしたんだ!?》

《あれに操られてるのか!?》

《そんな……》

《嘘だろししょー!》

《魔人ってこんな奴ばっかなのかよ!》

《正々堂々と戦えよ!》

 

 カナタは表情を(ゆが)めながらも前に出る。

 

「師匠とは俺がやる。従魔(みんな)は周りを頼む」

「「「……!」」」

 

 従魔たちも無言でうなずいた。

 相手はヴァレリアだけでなく、マウロが召喚した複数の魔物もいる。

 

「「「ギャオオオッ!」」」

 

 全身が黒ずんだ巨大な(もう)(じゅう)だ。

 “古代魔族”と呼ばれる種族である。

 異世界でかつて存在した強大な存在だが、今回のために用意してきたのだろう。

 

 従魔たちも役目を(まっと)うするべく、各々の力を振るった。

 

「【螺旋(らせん)(えん)()】」

「【赤雨(あかさめ)】」

「「「グギャアアアッ!!」」」

 

 ルーゼリアとエルヴィの先制攻撃だ。

 超威力を誇る上、ヴァレリアから習ったことも実践している。

 魔物はあっけなく倒れるが、マウロが手持ちのランタンを操作した。

 

「さすがですねえ。ですが──【死霊術(ネクロマンス)】」

「「「……!」」」

 

 すると、倒したはずの魔物は体を再構築され、再び起き上がる。

 マウロの()(りょう)(じゅつ)により、魂を呼び戻されたのだ。

 この挙動を見るに、おそらく“不死身”だ。

 

《うああああああ!?》

《よみがえっただと!?》

《あの魔人の能力か!?》

《まじかよ強すぎるな……》

《じゃあもうこれって……》

 

 ならば、勝つ方法は一つしかない。

 カナタはマウロに視線を向けた。

 

「お前を倒すしかないということか」

「その通りです」

 

 同じ四天王のガルドル(しか)り、マウロ然り、魔人は知能を持つ。

 一度正面から戦って敗れているカナタ一行には、とことん非道な策を用いてくる。

 人の弱点である“仲間“を突いてくるのだ。

 

 対して、そんな相手には屈しないと、カナタは跳び上がった。

 

「うおお!」

「これはお早い。しかし──」

「!」

 

 マウロへ確実に一撃を与えられるタイミングだ。

 だが、手を止めたカナタは後退する。

 すぐ近くから気配を感じたからだ。

 

「カナタ!」

「くっ……!」

 

 ヴァレリアがマウロに引き寄せられていたのだ。 

 ほんの一瞬でも反応が遅れていれば、カナタの剣はヴァレリアを斬っていた。

 その光景に、マウロはニタアッと笑う。

 

「惜しかったですねえ。もう少しで面白いものが見られたのですが」

「この……!」

 

 しかし、ヴァレリアはカナタに声を上げる。

 

「何をしている! そのまま攻撃せんか!」

「師匠!?」

「ワタシなどどうでもいい! それよりもこいつを倒せ! キミなら出来るだろう!」

「で、でも……!」

 

 ヴァレリアの言う通りだ。

 カナタが全力を出せば、マウロは倒せる。

 だが、カナタは全力を出せない。

 

「無駄ですよ。彼は甘すぎる」

「くっ、カナタ……!」

 

 派手すぎる攻撃は、ヴァレリアを傷つけかねない。

 【空間断絶】、【反射領域】はほとんど封じられたと言える。

 決め手に欠けるカナタだが、マウロも待ってはくれない。

 

「来ないのなら、こちらからいきますよ」

「カナタ受けろ!」

「……! ぐっ!」

 

 マウロのランタンに操られ、ヴァレリアがカナタに向かってくる。

 なんとか応戦するカナタだが、ヴァレリアは叱咤(しった)した。

 

「この(なん)(じゃく)(もの)が! こんな風に教えた覚えはないぞ!」

「……っ!」

 

 優しいヴァレリアのことだ。

 あえて()(とう)することで、カナタを奮い立たせているのだ。

 だが、そんなことはカナタも理解している。

 

 それでも、カナタは本気で剣を振れない。

 

(し、師匠……!)

 

 ヴァレリアと剣を交える度、様々な記憶が(よみがえ)ってくる。

 異世界での日々、修行の日々、かけてくれた声など。

 そんな思い出がカナタの剣を鈍らせる。

 

『キミは剣の筋がいいな!』

『特製の即席スープだ。おっと、味は期待するなよ?』

『キミを元の世界に戻してみせる。必ずな』

 

 そして、最後の瞬間も鮮明に覚えていた。

 

『生きろよ、カナタ。キミは幸せになるんだ』

 

 その言葉を残し、ヴァレリアは魔族に斬られたのだ。

 あの時救えなかった事を、カナタはずっと後悔していた。

 そんな師匠と再会できた今、剣を向けることなど出来るはずもなかった。

 

「俺には、できない……」

「カナタ……!」

 

 交差しているカナタの剣が、徐々に下がっていく。

 手に力を入れられていないのだ。

 すると、マウロはウヒッと笑った。

 

「まさかここまで(もろ)いとは! 終わりですよお!」

「……! カナタぁ!」

 

 マウロはヴァレリアの魂を操る。

 カナタにとどめを刺すように。

 

 だが、その一振りは──寸前で止まった。

 

「ぐああっ!」

「師匠……!?」

 

 ヴァレリアは右腕に小刀を刺すことで、物理的に剣を手放した。

 力が入らなければ、剣を持つこともできない。

 だが同時に、これは剣を持てないほどのケガを自ら負ったということだ。

 

 それでも、ヴァレリアは何一つ痛そうにせず笑った。

 

「聞けカナタ。この数日は、ワタシにとって夢のような時間だったんだ」

「……!」

「キミの今の姿を見られて、楽しそうな姿を見られて。師としてこれ以上の幸せはない」

「そ、そんな……」

 

 しかし、その表情の中にも思い残しは見られる。

 

「願わくば、キミと従魔ともっといたかったが……これ以上は見過ごせない」

「……っ!」

 

 ヴァレリアが視線を移した周りでは、従魔たちも苦戦している。

 

「【死霊術(ネクロマンス)】」

「「「ギャオオオッ!」」」

 

 相手にしているのは、決して倒れない不死身の魔物集団だ。

 

《まじで無限復活なのかよ!?》

《燃やしても凍らせてもダメなのか》

《バラバラにしても再構築するしな……》

《感情がないからバブみも効いてないぞ》

《ガチで天敵じゃねえか!》

《どうしたらいいんだこれ……》

 

「ココネはどれだけでも……!」

「でも、ちょっとお姉さんでも大変かもねえ」

 

 今は圧倒しているが、ずっと続けば従魔たちの体力も尽きる。

 そうなってからでは遅いのだ。

 

 そして、もう罵倒は効かないと考えたヴァレリアは、カナタにただ一言告げた。

 

「師として最後の願いだ。マウロ()を倒してくれ」

「師匠……っ!」

 

 弟子ならば聞かないわけにはいかない。

 だが、やはり一歩が踏み出せない。

 

 そんなカナタの体に、一つの能力が(うった)えかけてきた。

 

(……! これは!?)

 

 仲間の能力を借りる【共奏】を通して、強く主張してきたのだ。

 しかし、カナタは見たことがない能力だ。

 

 カナタが勢いよく振り返った先には──ミカ。

 

(信じて、いいのか……?)

(ええ)

(わかった!)

 

 二人はアイコンタクトを交わすと、カナタの目に炎が灯った。

 覚悟を決めた目で、再び強く剣を握る。

 

「師匠、待ってて」

「カナタ!?」

 

 その瞬間、カナタが消える──否、本気で跳び上がったのだ。

 真っ直ぐ向かった先は、マウロの方向。

 

「なっ……!?」

 

 マウロは反応が遅れながらも、とっさに防御態勢を取る。

 同時に、先程と同じくヴァレリアを引き寄せた。

 しかし、今のカナタには関係ない。

 

「断絶」

「がはあっ……!」

 

 ヴァレリアのすれすれを通るように、カナタは【空間断絶】を放った。

 【超感覚】で弱点(ウィークポイント)を見抜いた斬撃は、マウロを防御の上から一刀両断する。

 

「お前は初めから取るに足らない」

「さすがだ……だがいいのか!?」

 

 死に際のマウロは、ニヤリと笑った。

 

ヴァレリア(その女)も私と共に()ちるぞ!」

「……っ!」

 

 言葉通り、隣のヴァレリアの体も分解され始めた。

 己の死を察したヴァレリアは、そっとカナタに手を向ける。

 しかし、そこに暗い顔は無い。

 

「カナタ、ありがとう」

 

 心からそう思っている表情だ。

 自分の願いが届いたこと、これ以上カナタを傷つけずに済んだこと、そしてカナタが勝ったことに喜びを感じているのだろう。

 

 最後に師匠の役目を果たせたヴァレリアは、ふっと笑った。

 

「元気でな、カナタ」

「いや、まだだ!」

「……!?」

 

 だが、カナタは諦めていない。

 

「ミカ!」

「ええ。ママに任せて」

 

 カナタが振り返ると、両手を包んだミカが祈るように立っていた。

 

(本当はカナタちゃんに取っておいたんだけどね)

 

 異世界でカナタの処刑を知らされた後、ミカは何か出来ないかと必死に考えた。

 地母(ちぼ)(しん)という特異な存在を生かし、もう一度カナタに会う方法を模索したのだ。

 

 そこで至ったのが、この“奥義”である。

 

(いいんだね、カナタちゃん)

(ああ、頼む)

 

 もう二度と使えないため、カナタ用に取っておいた。

 【共奏】とアイコンタクトにより、カナタもそのことを理解したが、迷わず首を縦に振る。

 ミカも主の判断ならばと解放した。

 

「【大地の息吹(いぶき)】」

 

 辺りを包み込むよう、ミカから優しい黄緑色の光が広がった──。

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