現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~   作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中

52 / 57
第52話 吸血鬼の想い

 「うふっ。また会えて嬉しいわ」

 

 深淵(しんえん)ダンジョン、西地点。

 ココネとエルヴィの前に、一人の魔人が現れた。

 その姿に、エルヴィが口を開く。

 

「ピエラ……!」

 

 魔力で形作られた、ピチピチのスーツ。

 目は吸血鬼らしく赤く染まり、背からは青紫の両翼が生えている。

 エルヴィの赤紫の翼と(つい)をなすかのように。

 

 ピエラは、四天王の一角にして、エルヴィの親的存在だ。

 エルヴィは少し顔をひきつらせる。

 

「他が復活してるから、もしかしてって思ったけど……本当に現れるとはね」

「うふっ、そう(おび)えなくても」

「……驚いてるだけだよ」

 

 すると、事情を知るココネは心配そうな目を浮かべていた。

 以前、異世界で戦った時に二人の関係を知ったのだ。

 

「エルヴィっ」

「大丈夫。ピエラは敵だ。カナタ様の邪魔をするなら容赦はしない」

「……! わかりました」

 

 しかし、エルヴィに迷いはない。

 敬愛するカナタに立ちはだかるなら排除するのみ。

 その覚悟を持って、先制攻撃を仕掛けた。

 

「ピエラ、あなたはここで倒す!」

 

 高く跳び上がり、発動させたのは【血染めの夜】。

 全方位から無数の赤い(とげ)(おそ)いかかる、エルヴィの代名詞だ。

 だが、ピエラはふっと口角を上げた。

 

「うふっ。それは私が教えた技じゃない」

「……ッ!」

 

 対するピエラは、青い(・・)無数の棘を周りに放出した。

 それらはエルヴィの棘を打ち落とし、見事に全て防いでみせる。

 

《棘を全部弾いた!?》

《あいつできるぞ……!》

《これは強敵がきたな》

《格好はえっちだけど!》

《ていうか同じ技?》

《あっちも吸血鬼だ!》

 

 今の攻防を皮切りに、エルヴィとピエラの戦いが開幕した。

 

「その程度で消えてもらうなんて、1000年早いわ」

「そうでもないと思うけどね!」

 

 ピエラも勢いよく跳び上がり、エルヴィに迫った。

 繰り広げられるのは、(すさ)まじい攻防だ。

 両者の間を赤と青の鮮血が飛び交っている。

 

 ならばと、ココネも氷の杖を持ち直した。

 

「ココネも!」

「うふっ。あなたにはこれよ」

「……!」

 

 だが、ピエラは対抗手段を用意していた。

 

 指を鳴らすと、大きなゲートが開いたのだ。

 これは参謀の元に出現していたものと同じ。

 その中から、数体の“上位()(じゅう)”が出現する。

 

「「「ギャオオオッ!」」」

 

《なんじゃありゃあああ!!》

《あれも未確認魔物たちだな……》

《化け物みたいのめっちゃ出てきたぞ!?》

《あのゲートやばくね!?》

《ミカママの相手の所にもなかったか?》

 

 魔物たちに、ココネは目を見開く。

 

「あれは、魔王城の……!?」

 

 上位魔獣とは、魔王城の敷地内で飼われていた魔物。

 番犬のごとく教育された凶暴な魔物たちで、ココネ達も苦労した記憶がある。

 この決戦に向け、異世界魔王軍は再び準備してきていた。

 

「これでは──」

「任せてよ、ココネ」

「!」

 

 たじろぐココネには、エルヴィが声をかける。

 

「ピエラはわたしが倒す。だから、ココネはそいつらを!」

「……! はい!」

 

 方向性は決まったようだ。

 役割を分担し、それぞれ激しい戦闘を繰り広げる。

 それでも、鍵になるのはエルヴィだろう。

 

「はああああッ!」

「うふっ、そう熱くならずに」

「くっ……!」

 

 エルヴィとピエラ。

 どちらも()(とう)の攻めだが、両者には余裕の差が見える。

 それもそのはず、エルヴィは少なからず動揺していた。

 

(なんで、また現れるのよ……!)

 

 以前の異世界の戦いで、ピエラとはお別れをした。

 倒したのは自分ではないが、討伐報告を聞いて踏ん切りをつけたはずだった。

 思うことが無かったわけではないが、もう会う機会はないと無理やり忘れたはずだった。

 

 それなのに、今回は自分の前に現れた。

 

(わたしは……!)

 

 倒すべきと理解していても、エルヴィの体は勝手に縮こまる。

 100%を出すことが阻まれるのだ。

 すると、ピエラは一瞬怖い目を浮かべた。

 

「吸血鬼の真髄(しんずい)は教えたはずでしょう」

「……!」

「吸血鬼は“想いの強さ”で成長する。あなたの想いはこの程度なの?」

 

 想いとは、時には愛情、時には覚悟を指す。

 愛する者のため、自らの目標のため。

 理由は様々だが、そういった感情が吸血鬼として成長を促進させる。

 

 エルヴィの場合は、異常なほどの“闘争心”だった。

 誰よりも強くなると気持ちが、エルヴィをここまで強くした。

 やがて周りに敵がいなくなる程に。

 

(じゃあ、わたしは成長していない……?)

 

 エルヴィは一瞬自分を疑う。

 だが、疑念はすぐに(ぬぐ)い去る。

 

(いや違う! わたしはカナタ様のために、もっと強くなると決めたんだ!)

 

 カナタに出会い、敗れた日。

 エルヴィは再び闘争心に目覚めた。

 カナタより強くなることを目指して。

 

 エルヴィがカナタに心酔したのは、吸血鬼としてもう一度成長するためでもある。

 自分の想いを改めて認識し、エルヴィは力を強めた。

 

「そのためにもあなたを倒す!!」

 

 エルヴィは無数の棘を一点に集中させ、巨大な槍を形成した。

 このまま戦っても(らち)が明かないと考えたのだろう。

 数で押せないなら、一撃で(ほうむ)るつもりだ。

 

 対して、ピエラも動きを見せる。

 

「嬉しいわよ。その技に達してくれて」

「……! 面白いわ!」

 

 ()しくも同じ構えだ。

 これが吸血鬼としての最高到達点なのだろう。

 二人は色違いの同じ技を繰り出した。

 

「【真紅の巨槍(クリムゾン・グングニル)】」

「【深青の巨槍(ラピス・グングニル)】」

 

 ──ドガアアアアアアアアッ!!

 

 紅と青の巨大な槍がぶつかり、辺りに激しい衝撃が広がる。

 

《うわああああああ!?》

《カメラ越しでもやばい衝撃伝わるぞ!?》

《これがエルヴィの奥義か!》

《でも相手も同じ技だぞ!?》

《えっち吸血鬼さんもやべえ》

《エルヴィいけえええ!》

 

 二つは拮抗(きっこう)し合い、互いに全く譲らない。

 

「ぐうぅっ……!」

「うふっ……!」

 

 よほど力が釣り合っているのだろう。

 だが、そんな中で一瞬──“紅”が押した。

 

「あなたをここで超えていく!」

「……ッ!」

 

 その一瞬の(ほころ)びが勝負を決定づける。

 

「はああああああッ!」

 

 エルヴィが徐々に押し始めたのだ。

 ピエラの槍は押し戻され、もう自身の寸前まで迫っている。

 すると、ピエラはふっと笑みを浮かべた。

 

「……うふっ」

「!?」

 

 エルヴィはその笑みを見逃さない。

 そして、時間がゆっくり流れる感覚の中でふと思った。

 

(そういえば、ピエラの想いって……?)

 

 エルヴィはカナタへの想いの強さで負けるつもりがない。

 ならば、エルヴィと対等に戦ったピエラは、それと同等の何かへの想いを持っているはず。

 すると、エルヴィの頭に直接声が響く。

 

(ようやく私を超えるのね、エルヴィ)

(……!?)

 

 ピエラの声だ。

 理屈では説明できないが、ぶつかり合う槍を通して伝わってきている。

 エルヴィはそう直感した。

 

 ピエラはかつての優しい声で続ける。

 

(前は伝えられなかったけど、今回は伝えられそうね)

(なんの話なの!)

(……私はあなたが心配だった)

(!) 

 

 エルヴィは特別闘争心が強い。

 悠久の時を生きる中で、どこまでも闘争を求めてきた。

 

(一時期のあなたはつまらなそうだった。遥か遠い寿命を待っているようだったわ)

(…………)

 

 しかし、エルヴィは強くなりすぎた。

 同じ吸血鬼では敵無しと言えるほどに。

 ただでさえ寿命が長い中で、ただ死を待つばかりの人生は生きているとは言えない。

 

 ならばと、ピエラは敵になろうと考えた。

 

(だから、敵としてあなたを迎えることで、あなたの成長を見ようと思った)

(じゃあ、ピエラの想いって……!)

(うふっ。恥ずかしいけど、あなたの事ね)

(……っ!!)

 

 ピエラはエルヴィを想い、強くなった。

 自らエルヴィの力を確かめるために。

 ピエラはエルヴィの成長を我が身で実感し、誇らしく思う。

 

(あなたの生きる糧が見つかって良かった)

(ピユラ……!)

 

 ピエラの技が弱まる。

 彼女の体が()ちてきているのだ。

 魂を注がれたものの、急ピッチで進められた復活は未完全だった。

 

(生きる理由を見つけたのね)

(……うん)

 

 ピエラはどの道長くない。

 ならば、エルヴィは決意する。

 

「ありがとう。安心して眠って」

「うふっ、そうするわ」

 

 エルヴィの鮮血の棘が、ピエラを貫いた。

 ピエラの体はまもなく崩れ去っていく。

 

《うおおおおおおおお!!》

《勝ったあああああああ!!》

《最後は従魔が勝つんだよなあ!》

《やっぱエルヴィも強えわ!》

《えっち吸血鬼さーーーん!》

《エルヴィは最強の吸血鬼だろうな》

 

 その中で、ピエラの体から溢れた青い光が、エルヴィに宿った。

 

「これは……」

 

 エルヴィは使わなくても理解できる。

 宿ったのは、ピエラの青い棘の力だ。

 これからは両刀使いになるだろう。

 

 すると、後方からパチパチと拍手が聞こえる。

 

「さすがエルヴィですね」

「ココネ──って、……!?」

 

 だが、エルヴィは振り返るとぎょっと目を開く。

 上位魔獣たちが見事に凍らされていたのだ。

 いつものように氷の彫刻まで始めている。

 

「これは……」

「うるさかったので黙らせました」

「……あははっ!」

 

 ココネの強さを再認識すると、エルヴィは笑みがこみ上げてくる。

 

(ほんっと、カナタ様の周りは退屈しないわね!)

 

 ピエラの遺言にも答えるように、エルヴィはまた闘争心を高めた。

 だが、一つ言いたいことはある。

 

「てか、終わったなら何か言ってくれてもよくない?」

「まあ、いいではないですか。解決されたのでしょう? 色々と」

「……まあね」

 

 ココネも、青い光がエルヴィに宿るのを見ていたのだろう。

 

 エルヴィは最後の悔いを乗り越え、しがらみも消えた。

 これからはピエラの想いも一緒に生きていく。

 それを噛みしめ、まずは今の目的を果たす。

 

「じゃ、カナタ様のところへ向かおう!」

「はい!」

 

 四天王の一角を落とし、エルヴィとココネは下へと足を進めた──。

 

 

 

 

 深淵ダンジョン、最下層付近。

 

「あー、やっぱそうだよな」

 

 穴を掘り進め、カナタは広い場所に出た。

 その前に現れたのは、最後の四天王だ。

 

「お前を倒してチェックメイトだ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。