現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~   作:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中

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第54話 救済と反撃 

 「なっ、あれは……!」

 

 異世界魔王軍、最強四天王のゼブル。

 彼はここまで能力が不足するカナタに優勢を築いていたが、状況が一気に変わる。

 カナタ陣営の援軍が到着したのだ。

 

「お待たせ、カナタちゃん!」

「遅れたな!」

 

 ミカとヴァレリアである。

 その後方には魔人の集団を従えていた。

 

「「「ママ様あーーー!」」」

 

 異世界魔王軍、参謀とその仲間達だ。

 ミカ・ヴァレリアと対峙していた彼らだが、ミカに()ちていた。

 すでに従順な“()(ぼく)”と化している。

 

 すると、カナタは苦笑いを浮かべた。

 

「最初は【バブみの波動】が効かなかったみたいだけど……まさか使った(・・・)のか?」

「ふふっ。帰ったらカナタちゃんにもやってあげようかしら?」

「やめてくれ。一生戻ってこれないから」

 

 カナタはここに来る前、コメントからミカの戦況を知っていた。

 しかし、それも序盤まで。

 その後は情報を追えていなかったが、参謀達の様子からミカの行動を理解した。 

 

「あの──【バブみ乱高下(ジェットコースター)】からは」

 

 時は少しさかのぼる。

 

────

 

 深淵ダンジョン、西地点。

 

「ありがとうね。準備が整ったわ」

 

 時間を稼いだヴァレリアに、ミカは感謝を伝える。

 地獄の特訓で【バブみの波動】が効かなかった参謀達に対し、ミカは次の策を用意した。

 

「使うのは初めてだけどね」

「そ、それは……!?」

 

 ミカの両手には、それぞれ違う色の波動が灯っている。

 片方は【バブみの波動】、もう片方は【怒りの波動】だ。

 ミカはその相反(あいはん)する波動を組み合わせた。

 

「【バブみ乱高下(ジェットコースター)】」

 

 ミカが包んだ両手に禍々(まがまが)しい光が生まれる。

 黄緑と黒が混ざり合い、混沌(こんとん)と化した光だ。

 ふっと笑ったミカは、それを魔人達に差し向ける。

 

「沼に(おぼ)れていいのよ」

「「「……!?」」」

 

 ミカの手から波状に広がったそれを避ける術はない。

 参謀を含めた全魔人が混沌の光に包まれた。

 その直後に起こるのは──幻覚症状だ。

 

「「「う、うわあああああああああ!」」」

 

 【怒りの波動】の効果により、まずは悪夢を見せられる。

 悲哀、絶望、根源的恐怖。

 ありとあらゆる負の疑似体験をさせ、心をえぐる。

 

 そして、(いちじる)しく精神を削られた後には、救済が待っている。

 【バブみの波動】の効果だ。

 魔人達が見ている幻覚の空間では、天から母神となったミカが降りてきた。

 

「苦しかったですか? ママを信じれば全てが救われます」

「「「……!」」」

 

 もう二度とあの地獄を味わいたくない。

 その想いから、半数の魔人がすぐに墜ちた。

 だが、参謀をはじめとする上位陣はぐっと(こら)える。

 

「わ、私は地獄の修行に耐えてきたのだ! この程度で!」

「ではもう一度いってらっしゃい」

「え?」

 

 耐えた者に待っているのは、再びの悪夢。

 幻覚の母神は、笑顔でもう一度悪夢へ送った。

 

「後でまた来るわね」

「ま、待って! うわああああああっ!」

 

 以降は、その繰り返し。

 幻覚で“悪夢と救済”を交互に見せ、弱みを見せた者から心身を掌握していく。

 混沌の光に一度包まれてしまえば、幻覚空間を抜け出す方法は存在しない。

 

 正と負の感情を(らん)(こう)()させる精神支配。

 これがミカの最終奥義──【バブみ乱高下(ジェットコースター)】だ。

 

 そんな光景を(はた)から見ていたヴァレリアは、戦慄(せんりつ)していた。

 

「な、なんなんだこれは……」

 

 ヴァレリアの前では、魔人達が幻覚に襲われている。

 悪夢で病む者、救われた者、あるいは狭間で苦しむ者など、様々なリアクションがあるが、総じて“異常”だ。

 幻覚の内容を想像するだけでも恐ろしい。

 

 ミカは次々に堕ちる魔人を見ながら、笑みを浮かべる。

 

「ヴァレリアちゃんにもやってあげましょうか?」

「い、いや結構だ! 今度こそ私が私でなくなってしまう!」

「ふふっ、冗談よ」

 

 そうして話す内に、全ての魔人がミカに(ひざまず)いた。

 全てが救済の道を選んだのだ。

 つまり──ミカに堕ちた。

 

「あら良い子たちね。じゃあカナタちゃんの元へ向かうわよ」

「「「ママ様あ!」」」

 

 ミカの指示に従い、魔人達は意気揚々と地面を掘り始める。

 ヴァレリアは呆然としながら改めて誓う。

 

(ママ……じゃなくて、ミカには逆らわないようにしよ)

 

 こうして、ミカ達は援軍に駆けつけるのであった。

 

 ────

 

 なんとなく状況を察して、カナタはゼブルへ剣を向ける。

 

「てことで形勢逆転だな」

「……ほう」

 

 戦力は整った。

 【(ぜつ)()()(もん)】の弱点も暴いた。

 あとは的確に詰めていくのみ。

 

 カナタは地面を()り、周囲に指示を出す。

 

「ミカ、俺に合わせて魔人を動かしてくれ!」

「ええ」

「師匠は俺のサポートを頼む!」

「任せろ!」

 

 カナタの反撃開始だ。

 

《よっしゃあやったれ!!》

《逆襲の時間だあああああ!!》

《フンニキ倒してくれえーーー!》

《これは総力戦なんだよなあ!》

《戦力差えっぐwww》

《さすがに勝ち申した》

《カナタ君いけええええええ!!》

 

 カナタはミカ()てに、魔人達を先行させる。

 

「まずは特攻!」

「ええ、魔人ちゃん達!」

「「「はーい!」」」

 

 ミカが指を向けると、魔人達はドドドドと全力でゼブルに向かっていく。

 

《はーいで笑うwww》

《全力の進軍で草》

《ドドドドでワロたww》

《なんて素直な魔人たちなんだ!》

《俺も昔は素直だったのかなあ……》

《この数の進撃こわすぎるww》

 

 しかし、対するゼブルは焦りが見えない。

 余裕の態度を崩さぬまま、カナタに視線を移した。

 

「残念だな、貴様ほどの者が。これは悪手ではないか?」

「!」

「今に目覚めさせてやろう──【絶無の波紋】」

 

 ゼブルは周囲に衝撃波をもたらした。

 能力を無効化する最強の技だ

 ズオッと広がった衝撃波は、魔人たちに波及する。

 

「「「うああっ!」」」

「さあ、かえってくるがよい」

 

 彼らがミカの能力で操られているなら、それを無効化すれば良いと考えたのだ。

 そうなれば戦力差は(くつがえ)る。

 ゼブルはむしろ、魔人を送り届けてくれたことに感謝しているほどだ。

 

 ──しかし、その思惑通りにはならない。

 

「「「うおおおお!」」」

「なっ……!?」

 

 魔人達は再び進撃を始め、ゼブルに全力疾走で向かう。

 なんならその勢いは増している。

 すると、ミカは口角を上げた。

 

「ふふっ、無駄ね」

「!?」

「彼らは操られているんじゃない。自分の意思で(・・・・・・)私に従ってるの」

「バカな……!?」

 

 これは能力うんぬんの話ではない。

 魔人達は心の底からミカを信仰している。

 完全なる信者を生み出す、ミカの恐ろしい力だ。

 

 その隙に、ゼブルの背後から剣が差し迫る。

 

「こっちだ」

「……! くっ──【絶無の波紋】!」

 

 焦ったゼブルは周囲を吹き飛ばした。

 だが、迫ったのはカナタではない。

 

「残念、私だ」

「……ッ!?」 

 

 仕掛けたのはヴァレリアだった。

 師匠だけあり、カナタとあまりに似た動きだったのだ。

 焦りと師弟関係がゼブルを狂わせた。

 

 そして、間髪入れずにカナタ(本命)が姿を現す。

 

「いけカナタ」

「ああ!」

「……ッ!」

 

 ゼブルの死角からの攻撃だ。

 すでに防御は間に合わず、対抗手段も持ち合わせていない。

 ゼブルは時間がゆっくりと進む感覚の中、カナタの周囲のものが視界に入った。

 

(まだ【絶無の波紋】がないというのに──!)

 

 カナタの周りに、複数の巨大な斬撃が浮かんでいた。

 準備に時間のかかる【空間断絶・集約】ではない。

 最近得た【重力操作】を用いた合わせ技だ。

 

「来い!」

 

 カナタが剣を振り下ろすと共に、複数の斬撃が(すさ)まじい速度でゼブルへ迫る。

 【空間断絶】の弱点は斬撃が速くないことだった。

 それを解決したのが【重力操作】である。

 

「うおおお!」

「……ッ!」

 

 カナタは重力を操り、複数の斬撃を一時的に留めておいた。

 それを今度はゼブルへ重力を集める。

 すると、斬撃は本来の速さを超え、ゼブルをめがけて飛んでいく。

 

「【空間断絶・重力加速(グラビティブースト)】」

「ごはあッ……!!」

 

 複数の方向から斬撃を浴び、ゼブルは血を噴き出す。

 

《うおおおおおおおお!!》

《決まったああ!!》

《新技じゃねえか!》

《重力の能力使ったのか!》

《かっけええええ!!》

《やったか!?》

《これはいったやろ!》

 

 しかし、直後にゼブルは衝撃波をぶっ放した。

 

「【絶無の波紋】……!!」

「ぐっ!」

 

 クールタイムの二秒が経ったのだ。

 カナタは勢いに飛ばされつつ、一度後退。

 それでも、剣に確かな感触を覚えていた。

 

「今のは致命傷のはずだ」

「ぐっ……ハァ、ハァ……」

 

 (きょう)(じん)な肉体を持つゼブルがふらついている。

 もう一度攻撃を与えれば間違いなく倒せるだろう。

 だが、ゼブルは最後まで抗う姿勢を見せる。

 

「我が最後の砦なのだ。我が負けるわけには──……!!」

「「「……!?」」

 

 その瞬間、場にいる全員が下層から強力な気配を察知する。

 ゼブルのものではない。

 それよりもさらに(・・・)おぞましい何かだ。

 

 カナタはとっさに叫んだ。

 

「全員衝撃に備えろ!」

「「「……!」」」

 

 ──ドガアアアアアアアアアア!!

 

 カナタ達が察知してまもなく地面が崩壊する。

 下から禍々しい力が噴火したかのように。

 カナタは思わず下に視線を移すと、その目を大きく見開く。

 

「ま、まさか……!」

 

 深淵ダンジョン、最下層。

 そこに見えたのは、漆黒の炎を膨れ上がるように宿す“巨大な魂”だった──。

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