聖園ミカが空崎ヒナのスタンドみたいな守護霊になった世界線 作:レイトウカイトウ
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今ココ
羽沼マコトの騒動から一週間が経った。
「『ミカ』!」
「任せて!」
ヒナの合図に、私は応えるように拳を振るう。風紀委員会の仕事として、今はテロリストを制圧中だ。
私の拳を受けたテロリストは、訳がわからなさそうに痛がっている。
「ここなら隕石を落としても大丈夫よ。ただし、できるだけ規模の小さいのをお願い」
「オッケー!」
周りの状況を確認して、私は隕石を落とす。今は他の風紀委員も、民間人もいない。
隕石が落ちると、大きいクレーターができた。それと同時に、テロリストも降伏といわんばかりに手を挙げている。
テロリストを拘束して、動けないようにした。
「ふぅ、これで終わりね」
「お疲れ様」
一息をついて、ヒナに
不意に、ヒナの頭上にある、立体的な冠のようなヘイローに目を向ける。ナギちゃんやセイアちゃんとか、他の生徒のヘイローはあまりはっきり見えない。だけど、この子だけは別。本来だったらぼんやりとしか見えないと思うけど、今起きているこの不可解な現象の間だけは、はっきりと見える。
「私のヘイローがどうかしたの?」
「いや、他人のヘイローをはっきり見る機会がないからさ、じっくり見とこうって」
「どうして今なの……?」
不可解な現象に遭遇したように、ヒナは怪訝そうな表情を浮かべた。
今、というより、ヘイローが気になったら見ている。他人のヘイローを見る機会がもっとあるのなら、高い頻度で見ようとは思わない。
「別に良いよね。ヒナも私のヘイローがはっきり認識できるから、目に焼き付けといた方が良いと思うよ。いつこの状況がリセットされるかわからないし」
「……そうね」
一言残して、ヒナは前を向いた。
羽沼マコトの騒動で、私とヒナは心が一体になったような気がする。なんとなくヒナの意志に沿って行動していたのが、私の意志としても顕現するようになった。
共通の敵が、私たちの心を一つにした。
「それじゃあ、テロリストを牢屋に入れるために戻るわ」
「はーい」
そう言って、ヒナは拘束したテロリストに近づいた。
◇◇◇◇◇
翌日。
「最近のゲヘナは静かだよねー」
「おかげさまでぐっすり眠れるようになった、感謝してる」
シャーレに向かう途中、静かになったゲヘナを考えていた。
どうせ私がいない間にゲヘナは大変な事になる、そんな心配すらしていないヒナの様子から、今のゲヘナが平和そのものだという事が伺える。混沌としているゲヘナが平和になるなんて、世界は可笑しい。
「絶対に私のおかげだよね! ゲヘナ生を破壊しまくっていたし」
「あまり誇らしげに言う事ではないと思うのだけれど……」
得意げに言う私に対して戸惑いながらヒナは言ってくる。
合法的にゲヘナの角付きを殴る機会を楽しむ、もといテロリストを制圧していたら、彼女らが大怪我をしてしまった。特に羽沼マコトは酷くて、意識は取り戻したけど最低でも一か月は起き上がれないなんて結果になっている。私はもちろん、毎回やり過ぎたって後悔しているヒナですら自業自得なんて言われる始末。正直な話、腹を抱えて笑いたいくらいには面白い。
「認識されないって、意外と悪くないね。誰からも無視されるのは寂しいかなって思ってたけど、ヒナがいてくれるし、先生も信じてくれるし」
「ミカの、私への信頼ってどこから来ているの?」
「うーん、私は今ヒナの一部って感じだから、とか?」
「……そう」
私の渾身の仮説に、何か引っかかっているような表情をするヒナ。結構自信満々だったけど、不評みたい。
そうこうしている内に、シャーレに着いた。
「ヒナ、いらっしゃい……あとミカもかな?」
「えぇ、いるわ」
「お邪魔しまーす」
柔らかい笑みで迎えてくれる先生に、思わず見惚れてしまう。
「それで、調子はどうかな?」
「最近は良い方よ。良すぎて逆にそわそわしてる」
「それは良かった」
先生と話しているヒナは、とても穏やかな心持だ。
私は直接話せないというのに、羨ましい。意志とかは共有してるんだし、ヒナの口を乗っ取って話せるとか、そういう都合の良い事は起きないのかな。
考えるだけだと何も起こらないから、試しにやってみる。
「先生はどう?」
「あー、最近は忙しいんだ。ヒナを抱きしめないと気力が持たないくらい」
「せ、先生……」
ダメっぽい。先生の変態みたいな言動に、ヒナが照れるだけ。
これは理不尽。先生は私の事を一切考えていないっぽいし、ヒナは存在を忘れてそう。だけど、ヒナは先生と話す意志しか持っていないから、存在感を示す事ができない。
触るのがオーケーなら、話す事ができても良いと思うんだけど。見ているだけでイライラしてくる。
「まあ、そんな事を言っている余裕がないくらいにはヤバい状況なんだけどね」
「何があったの?」
「最近、トリニティで銀行口座がゼロになる事件が多発してるんだ」
「え!?」
そんな事を聞いて、イライラが吹き飛んだ。代わりに焦らされている感覚に陥る。
「特に、パテル派の子達が被害に遭ってる。このまま被害が拡大し続ける前に、手がかりを探しているんだ」
「何か見つかったの?」
「ううん、一向に見つからなくて。必死に探してるけど、何一つ痕跡が無いんだ」
先生も焦っているらしくて、鬼気迫る表情で、早口気味に言った。
「最近は余裕ができたの、だから協力する」
「私も! これは他人事じゃないし!」
「ヒナ、あとミカもかな、ありがとう」
意志が伝わったらしい、先生がお辞儀をする。
トリニティの銀行口座が危ない。今はパテル派だけで済んでいるかもしれないけど、このままナギちゃんやセイアちゃん、コハルちゃんにも被害が広がってしまったら、取り返しがつかない。
「とりあえず、トリニティに行ってみた方が……でもヒナがゲヘナ生だしなぁ……」
「私は生半可な事では倒れないから、心配は無用よ」
「そういう問題じゃなくて」
考えた事を言葉に発してたらしくて、ヒナから返事が返ってくる。
トリニティの危機とはいえ、ゲヘナが協力するのはあんまり気に食わないと思うけど、今は考えるだけ無駄か。
「よし、行こう。付いてきて」
先生が手招きすると、ヒナがそれに続く。私は歩く必要がないから、そのままでいい。
移動しなくて良いって、結構楽かも。歩く必要はないし、実体が無いから壁をすり抜けられる。
ヒナに引っ張られながらそんな事を考えていると、
「いや、自分で動きなさい」
責め立てるように言われた。
仕方なく、ゆらゆらとヒナに付いて行く。引っ張られている感覚が邪魔だったのかわからないけど、ケチで嫌になっちゃう。
そういえば、先生はヒナと私をどこに連れて行く気なのだろう。トリニティではなさそうだけど。
「そういえば、どこに向かってるの?」
「ミレニアムだよ」
「?」
ヒナが私の疑問を察したのか、先生に訊く。すると、予想外の目的地が判明した。
「証拠は無いけど、犯人の見当がついてるんだ。まだ確定したわけじゃないけどね」
「その犯人がミレニアムにいるの?」
「いや、今は行方不明なんだ。ミレニアム生ではあるんだけど」
「ますます意味がわからないわ」
どこか確信を得たような表情で、先生は言う。
これは根拠のない自信みたいなものなのかも。証拠は無いしまだ確定していないはずなのに、日頃の行いとかで判断しちゃうタイプ。
でも、こういうのは危ないと思う。真犯人がいたときに混乱するし、何より決めつけだ。情報を精査しないと、後で痛い目を見る。
「とりあえず付いてきて」
「先生が言うなら……」
渋々と言った感じで、ヒナは先生に付いて行った。
◇◇◇◇◇
「先生、丁度いいところに来ましたね。コユキの足取りが掴めました。トリニティです」
「コユキちゃんの不正操作の跡もありました。ほぼ確定で犯人だと思われます」
「よし、本格的に捜査開始だね」
「?????」
連れて来られたのは、ミレニアムのセミナーだった。
「その方は……」
「ゲヘナの風紀委員長である空崎ヒナだよ。訳ありで協力してくれる事になったんだ」
「なるほど、了解です」
「えっと、話が飲めないのだけれど」
勝手に進んでいく話に、ヒナと私は置いてけぼりにされている。
「一刻も早く捕まえたいから簡潔に言うわ。犯人は黒崎コユキよ」
「証拠も押さえています。あとは捕まえるだけです」
「私を信じて、付いてきて」
「……そう」
「展開が早いなー……」
あまりの展開の早さに、ヒナと私は茫然としている。
確かに、被害が広がる前に捕まえる必要があるのはわかる。だけど、何が起きているのか把握くらいはさせてほしい。
「C&Cは犯人の居場所を特定した瞬間に出動しました。私は先生に連絡を入れてから追うところでした」
「既にトリニティに連絡しております」
「わかった」
「……」
用意周到すぎて、ヒナが黙ってしまった。そんな私も喋る事があんまりない。
「ヒナも付いてきてね。あとミカも」
「わかった」
「はーい」
セミナーの人達と先生に導かれながら、ヒナが付いて行った。
◇◇◇◇◇
「コユキ!」
『にはははは、もう遅いですよユウカ先輩!』
案内されて来た場所には、変な巨大ロボットがいた。
変なロボット……腕が四本あって、変顔をしたセイアちゃんみたいな顔をしている巨大ロボット。多分、これを作った人は独創的な感性をしているのだと思う。
「変なロボットですね」
「かっこいい……いや、絶妙にダサいね」
「今すぐ降りてきなさい!」
『嫌ですぅ、にはははは!』
おかしなロボットに乗った人は、余裕そうに高笑いしている。
本当にこんな人がトリニティの銀行口座を狙った犯人なのか、甚だ疑問だ。
「こりゃダメだ。銃弾が効かねえ」
「ネル!?」
「攻撃したけど全部効いてないよー!」
「本当に!?」
『試してみたら良いんじゃないですか?』
確かコユキって呼ばれていた人が乗っているであろうロボットに、セミナーの会計さんが銃を撃つ。
放たれた銃弾は、ロボットに当たった瞬間に消えた。どうやら、ミレニアムの治安維持組織っぽい子達の言っている事は正しいらしい。急に現れたから一瞬ビックリしたけど。
「本当に効いてない……?」
「そんな、銃弾が……!」
会計さんと先生が絶望したっていう表情をしている。
『あとはノア先輩をどうにかすれば完璧です!』
「私を?」
『食らえ!』
勝ちが宣言された直後、ロボットからビームみたいな物が放たれた。それは、見事に白くて長い髪を持っているセミナーの人、生塩ノアちゃんに当たる。
「きゃっ!?」
その後、可愛らしい悲鳴と共にノアちゃんから煙が発生した。
煙が晴れると、真っ白なシマエナガがいた。頭上にはヘイローがぼんやりと見える。
「ノア!?」
『にはは、私がトリニティのお金を奪いつくすまではその姿でいてもらいますよ!』
「何が起こっているのかわかんねえな」
「……?」
赤髪の小さい子が言った通り、状況を理解する事が難しい。
とりあえずまとめると、あのロボットに乗っている人はトリニティのお金をむしり取った犯人で、そのロボットから放たれたビームでセミナーの一人がシマエナガになった、みたいな。
『ノア先輩シマエナガ化ビームも上手くいきましたし、私の勝ちです! 諦めて降参してください!』
「何をしているの! 早く元に戻しなさい!」
『私のトリニティ・ゼロ計画が終わったら元に戻しますよ! お金を使い切った後に説教されれば勝ち誇れますからね!』
「私の説教が待っているわ!」
『にはははは!!』
「……ねえ、ヒナ。状況をもっとわかりやすく説明して」
「これ以上どう説明すれば良いの……?」
もはや置いてけぼりにされたどころか、逆側に押されているような気がする。
「銃弾も爆弾も効きません。一応物理も試しましたが掠りもしませんでした」
「ならどうやって……?」
火炎放射を持ったメガネの人が冷静に言った事に、先生は言葉を絞り出すように返す。
まあ、普通に考えたら絶望的な状況だ。犯人が無敵で、対策をする術がないような状況は、流石に打つ手がない。
「絶望的状況のようですね」
「まるでリオのセンスで作られたみたいな大きいロボットだね」
「ナギちゃん!? セイアちゃん!?」
最近会っていない二人の親友が現れた。
二週間弱、意外と短い期間だけど、体感的には二か月は経過してる。久しぶりに二人を見て驚いた。
「……ティーパーティ」
「なぜ風紀委員長が?」
ゲヘナの風紀委員長とトリニティのトップが会合して、緊張感が流れる。
「今は気にしている暇ないよ。あれを何とかしないと」
「そうだね」
「あれに乗っているコユキって子がトリニティのお金を奪った犯人なんだ。だけど、あのロボットは無敵で、銃弾とか爆弾が効かないんだ」
「なるほど……」
先生が気を利かせてくれたのか、今の状況を簡潔に説明してくれる。ナギちゃんとセイアちゃんもとりあえずは納得してくれたらしい。
「んで、どうするんだ?」
『今の私を止める事は誰にもできませんよ! この間にも私はトリニティ・ゼロ計画を進めていますからね!』
「くっ、ノアが小鳥に変えられたし、どうすれば……」
「正義実現委員会を呼びますね」
「そうだね、どうにかできるかわからないけど」
お通夜みたいな雰囲気が流れている。ナギちゃんが正義実現委員会を呼ぼうって、先生も同意してるけど、来ても何も変わらない気がする。
「呼ぶ必要はない」
「なぜ?」
ヒナが無表情に言う。それに疑問を感じたナギちゃんが訊き返してくる。
「ここには大きなロボットがあるだけ。確かに中には強盗犯がいるけれど、あれ自身が被害を出しているわけじゃない」
答えになっているのかわからないけど、ヒナは冷静に答える。
トリニティの銀行口座を狙っている犯人がいるんだったら呼ぶべきだ思う。だけど、正義実現委員会を出動させるとめんどくさい事になるとも思う。
結論、呼ばなくても良いならそうしたい。ティーパーティもナギちゃんとセイアちゃんしかいないし、めんどくさいやり取りは二人に任せよう。
「コユキ! 今ならまだお説教で済むから! 今すぐ降りて!」
『嫌です!』
「いつもはセミナーから横領していくのに、どうしてトリニティの人達から奪うのよ!」
『え、お金をたくさん持っているからですけど。セミナーの総資産を軽く超えるような資金が集まりましたよ?』
「確かにトリニティにはお嬢様が多いですが……」
先生の説得を拒否した子が、倫理観の無い答えを言う。
なんて言えば良いのだろう、頭の中に蛇を飼っているっていう表現が似合う気がする。倫理観が破綻した犯罪者で、自分の行動に何一つ責任を持っていない子どもみたいだ。
「百合園セイア、少し良いかしら」
「何かな?」
ヒナが、セイアちゃんに声をかける。
激しい怒りを感じる。何が起こっているのか完璧に理解していない中で、それでもロボットに乗っている子の倫理観に、吐き気を催す邪悪を感じている。
「あれ、聖園ミカなら壊せる?」
「質問の意図が見えないが」
「良いから、答えて」
「……
凄い剣幕で迫るヒナに、セイアちゃんは意味深な答えを出した。
「なぜだかわからないけど、今のミカなら壊せる気がする。しばらく行方を
「そう。それだけ聞ければ大丈夫、ありがとう」
「……私からも一つ良いかい?」
質問に答えたセイアちゃんが、今度はヒナに訊く。
「君の近くにミカがいるような気がするが、ミカについて何か知っている事があったら、教えてほしい」
「……」
全てを見透かしたように目を細めて、セイアちゃんは言った。
セイアちゃんは未来予知を失った代わりに勘が良くなった。だから、私の居場所も勘でわかっているのかもしれない。
ヒナが、セイアを触ろうという意志を持つ。
「流石セイアちゃん。察しが良いね」
「……!?」
ヒナの意志通りに、私はセイアちゃんに触れた。
ビックリしたのだろう、セイアちゃんは体をピクリと震わせて、耳をピンと真っ直ぐに伸ばした。
「これは、答えになったかしら?」
至って冷静に、ヒナは言う。
「なるほど、状況はわからないが、意図は伝わったよ」
何かを察したように、柔らかい笑みを浮かべてセイアちゃんは答える。
そうして、ヒナは確信を持って、ロボットに向き合った。
『おや、あなたは誰ですか?』
「ただの一般通行人よ。丁度ここを通ろうとしていたところなの」
『そんな事あります?』
犯罪者紛いの子が怪訝そうな顔を浮かべた。
それもそうだ、巨大なロボットがある場所はただの平原で、余程の事がない限りは通らない。通行するにしても、ロボットを避ければ良いだけ。
「ヒナ……?」
先生も困惑の表情を浮かべてる。
一見すると意味不明なヒナの行動だけど、私にはすっごい理解できる。意図がとっても伝わってくるし、私は既に準備をしてる。
「それにしてもロボットが邪魔ね……桐藤ナギサ」
「なんでしょう?」
「もしこれが壊れたら、困るかしら?」
「困るのは困りますが、あっても困りますから、壊れても問題ありません」
『壊れませんよ!』
「……早瀬ユウカは?」
「コユキを中から連れ出せれば後はどうにかするわ」
「わかった」
一通り確認して、ヒナは歩みを始める。
『なんですか、あなたには壊せるって言うんですか。C&Cの先輩方も壊せなかったのに』
「勘違いしないで。私はここを通りたいだけよ」
『意味がわからないですよ!』
そうして、ロボットに一歩ずつ進んでいくヒナ。その確固たる自信を持った歩みに、思わず相手の子も困惑してる。
「あいつ、何がしたいんだ?」
「わ、わからない……」
後ろで、困惑している生徒と先生の声が聞こえてきた。
『はあ、何もわかっていない人は痛い目を見てください』
「あんたが言うのねそれ」
『ユウカ先輩は黙っててください!』
そんな駄弁りを聞きつつ、遂に巨大ロボットの目の前に来た。
「ここを通りたくて本当に仕方ないのだけれど、やっぱりロボットが邪魔ね」
『逸れて歩けば良いんじゃないですか?』
「何を言っているかわからないわ」
「本当に壊せるのかなー?」
厚い装甲に、特殊なベールが見える。ヒナは確信めいて壊せると思っているらしいけど、実行するのは私だから、もっと考えてほしい。
いや、私も壊せるとは思うけど、痛いのはあんまり好きじゃない。人使いが荒いのを抗議してみようかしら。
「はあ、これが崩れてくれれば良いのだけれど」
『何度言わせる気ですか? これは無敵で――』
「『ミカ』!」
「はーい」
ヒナの合図と同時に、攻撃の意志が伝わってきた。それに従って、試しに硬そうな装甲を一回殴ってみた。
一言で表すなら、意外と痛くない。てっきり激痛が襲ってくるものとばかり思っていたけど、杞憂だった。
『!?』
「私は何もしないけど、都合よく崩れてくれないかしら」
「よーし、壊しちゃおっと☆」
気合を入れて、私はいつも通り両手で拳を振るう。一応意識しているのは、できる限り同じ所を殴る事。
殴るときに空気抵抗は無い。しかし、殴った際に衝撃波は発生する。それが風を発生させて、ヒナに吹き付けている。まあ、ヒナは意に介していないっぽいけど。
『な、何ですかこの衝撃波は!? まるで誰かに強い力で殴られている気がするんですけど!?』
「さあ、私にはよくわからない」
『絶対に何か知っている気がしますけど!?』
精一杯に叫び声をあげてくる犯罪者は気にせずに、私は殴り続ける。
ちなみに、後ろの人達の声は全く聞こえてこない。だって、装甲の悲鳴、風の喝采がうるさいから、仕方ない。耳が破裂しそうな音を聞き続けていたら、何も聞こえなくなりそう。
セイアちゃんの小言が聞こえなくなるっていう点の除くと、最悪の気分。
『さ、流石に、大丈夫……ですよね?』
「あら、ひびが入ってきた」
『え……本当に!? ちょ、え、無敵のはずじゃ……』
「そろそろ崩れそうね。ここに立っているだけなのに、何が起こっているのかしらね」
『あ、ちょ、ノア先輩とネル先輩の対策を徹底してるのに……』
「あ、そろそろ壊れそう」
『はえ?』
段々と装甲に窪みが出てきた。遂に限界を迎えてきたらしい。
後ろの反応が凄く気になる、特にナギちゃん。セイアちゃんは理解者の顔をしてムカつきそうだから見たくないけど、先生とかどんな反応しているんだろう。
まず声を出しているのかな、全く聞こえてこないけど。無反応だとそれはそれで嫌だけど、ドン引きされてたら私が傷ついちゃう。
『こうなったら、脱出用ポッドで逃げてやります!』
上の方で大きな音がした。巨大ロボットの上部が開いたらしい。球状の何かがそこから出た。
そして、巨大なロボットから鈍い音がしたかと思ったら、遂に崩れ始めた。
案外呆気なく粉砕できて、ロボットは玉砕して、崩れてく瓦礫は大喝采をあげる。ヒナがその瓦礫を上手に避けた後、凄い勢いで飛ぶ。
「あら、どこに行くの?」
『ど、どうしてここに!?』
「『ミカ』!」
「行っくよー!」
一気に球状の、脱出用ポッドに追いついた。ヒナはそれにしがみつく。
ヒナから攻撃の意志は来ておらず、代わりにこの犯罪者を捕まえる意志が来ている。
つまり。
『な、え……?』
「捕まえたよ☆」
『誰かに捕まっている気がするんですけど!?』
私がポッドの壁をすり抜けて中に入って、ロボットの操縦者の腕をがっしりと掴むと、驚いたようにこの子は暴れ始める。ただ、力はそんなに強くなくて、抵抗されている気はしない。
実体がないからポッドはすり抜けるのに、操縦者は掴めるというのは何というか、矛盾を体験している気がする。
「うーん、この子はすり抜けられるのかな?」
「やってみなさい。できなかったら壊せば良いから」
「そうだね」
『やっぱり何かしていますね!? トリックは何なんですか!!』
「さっさと出てきなさい」
『うわぁぁぁあああぁぁん!!』
実体がある子を中から取り出せるのか、甚だ疑問だった。
とりあえず試してみよう。網から後ろ向きで這い出るように、この子を
「……あ、いけそう」
『体がすり抜けてる!?』
信じられない物を見たときくらいに目を大きく見開いて、このピンク髪の子が驚く。
ビックリするくらいにスムーズに事が進んで、私も驚いている。私自身がすり抜けられるのはわかるけど、どうしてこの子まですり抜けられるのか、実は私と同じだったりして。
「引っ張りだせたよ☆」
「よくやったわ、ミカ」
「なんで―――――――!?!?!?」
ピンク髪の子をがっしりと持ち上げながら、自慢をするようにヒナに見せた。そうすると褒めてくれた。
それは置いといて、ヒナが脱出用ポッドから離れる。持前の羽を使って滑空して、丁寧に地上へと降りていく。とても繊細な動きで、鳥になった気分だ。
「ふぅ、私は何もやってないけど、この子がなぜか私に付いてきてくれて助かったわ。これであそこも通れる」
「本当にどうやってるんですか……?」
ヒナが地上に着地する。まるで自分は何もしていないと言った態度でいるので、捕まっている子も困惑してる。
「えっと……?」
「な、何が起きているのでしょうか?」
先生たちが待機していた場所に向かうと、状況を飲み込めていない人しかいなかった。
ナギちゃんは目を真ん丸にして、可愛らしい表情を浮かべてる。一方、セイアちゃんは一人でに笑みを浮かべててムカつく。
「はい、捕まえたわ」
「は、はぁ……」
ミレニアムの会計さんも、肩に乗っているシマエナガも、釈然としない様子だ。
とりあえず、捕まえている子を渡す。
「は、離してください!」
「……まあ良いわ。早くノアを元に戻しなさい!」
「も、戻しますから! 殴らないで!!」
理解を拒んだらしい会計さんは、ピンク髪の子を殴り始めた。とてもお怒りらしく、拳の一発が重くて、鈍い音がする。
「えっと、今のはミカがやったの?」
「え?」
先生の質問に、ナギちゃんは普段出さないような声を出した。
先生ったら、私の居場所をバラしちゃうなんて、意地悪だな。こんな面白い状況にいるのに、ナギちゃんに知られたらめんどくさい事になる。
「さぁ? 少なくとも私はやってない」
「……あ、そうだったね」
「待ってください。ミカさんが近くにいるんですか?」
「ごめん。ミカは関係ないよ」
「先程の口ぶりからして、関係ないとは思えないのですが」
「関係ないわ。実際にいないし」
「……それもそうですね」
だけれど、ヒナがわからないフリをしてくれたから、何とかなった。
いや、普通は何とかなるはずなんだけれど、ナギちゃんは疑い深い事があるから、もしかしたら気づかれるって事があったかもしれないし、結果オーライ。
「あのロボットが壊れているのに、セミナーの書記を戻せるのか?」
「……あ」
赤い髪で背の低い女の子の問いに、ピンク髪の犯罪者がうっかりしていたという声を出した。
瓦礫と化したロボットがノアちゃんをシマエナガにしてたって事は、戻せるのもロボットだけ。それは今瓦礫になって散らばってる。
つまり、戻せない。
「ちょっと、そこは自信を持って直せるって言うところでしょ」
「……ノア先輩には悪いですが、しばらくはそのままで――」
「!!」
「ごめんなさーい!!!!!」
ミレニアムの子達が騒いでいる。シマエナガにされてしまった子がパタパタと犯罪者の子に飛びついて抗議してて、ちょっとだけ笑える。
だけど、戻せなくなった理由は私があのロボットを壊しちゃったのもあるから、罪悪感が湧いてきた。
「あのロボットは誰に作ってもらったの?」
「羽沼マコトっていう人ですけど」
「マコトってあんなロボット作れるの!?」
「リオではなかったのか……」
意外と衝撃な事実に、先生はおろかセイアちゃんまで驚いてる。
ゲヘナの議長って、トリニティと風紀委員が嫌いだってヒナが言ってたけど、ここまでするんだ。本気でトリニティを潰すために、他校の生徒に協力を煽るだなんて、やって良い事と悪い事があると思うんだけど。
もしかして、羽沼マコトって常識がないのかな。
「……もう一回殴りに行こう」
「賛成☆」
本気で呆れたっていう感情がヒナから伝わってくる。
いつやったかなんてわからないけど、あれだけ殴られたのに懲りてないだなんて、逆に尊敬ができる。
「用事ができたから、失礼する」
「ミカによろしく頼むよ」
「……えぇ」
セイアちゃんが周りに聞こえないくらいの声量で、ヒナに囁いた。
やっぱり、何か察してるっぽい、なんか嫌だ。
「私はユウカと一緒に、コユキに対してお説教するから、またね」
「はい……」
「後でマコトにもお説教に行くから。ノアは、エンジニア部にあのロボットを直してもらって、それからどうにかするよ」
「わかった」
先生とその他生徒たちに別れを告げて、ヒナと私はゲヘナの方向に戻った。
その後、入院中の羽沼マコトを再起不能にした。
本編の二週間程前
「お前が黒崎コユキか」
「そうですけど、あなたは誰ですか?」
「羽沼マコトだ。お前に提案がある」
「なんでしょう」
「お金が欲しくないか?」
「欲しいです」
「なら、トリニティから奪えば問題ない」
「ユウカ先輩に怒られるんですが」
「バレても問題無いようにすれば良いだろう。このマコト様はその方法を知っている」
「本当ですか!?」
「キキキッ、付いてこい」
「はい!」
トリニティの某所に移動
「なんですか、このダサいロボット」
「こいつは、あらゆる全ての攻撃を受け付けない最強ロボットだ。ゲヘナの風紀委員長の攻撃すら通さん」
「ほぇ~」
「こいつの中に特殊な端末がある。それからお金を強奪しろ」
「なるほど」
「最初はパテル派の奴らからだ。あいつらはゲヘナに対しての敵対心が強い」
「そうなんですね」
「つまり、そいつらは危険思想の奴らだ。だから、先に無力化すれば良い」
「はい!」
「それと、逆らえ無さそうな奴がいるときは、シマエナガ化のビームを使え。そうすれば何も問題無い」
「戻せるんですか?」
「キキキッ、もちろんだ」
「にはは、これがあれば私は無敵っていうわけですね!」
「存分に暴れて、トリニティを弱体化させてしまえ」
「これで私の人生の楽しみがより増えます!」
「キキキッ、ロボットをミレニアムの会長っぽいセンスにし、ミレニアムのセミナーがお金を強奪すれば、トリニティの矛先は完全にミレニアムに向く。その間にトリニティを破壊してやる」
なお、本編の後
「マコト、わざわざお見舞いに来てあげたわ」
「おい、嫌な予感がするんだが」
「『ミカ』!」
「はーい☆」
「うべぷっ!?」
マコト、再起不能