聖園ミカが空崎ヒナのスタンドみたいな守護霊になった世界線   作:レイトウカイトウ

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※ジョジョ要素はほとんど無し

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遅刻してごめんなさい


聖園ミカが空崎ヒナのスタンドみたいな守護霊になった世界線~後編~

 黒崎コユキの一件から、一週間が経った。

 

「コユキちゃん、どうなったんだろうね」

「さぁ、普通に考えたらヴァルキューレの案件なのだろうけど」

 

 風紀委員の執務室で、ミカと私は暇を持て余していた。

 

「テロリストたちも、そろそろ病院を退院する頃。また忙しくなるわ」

「そっか、今からボコボコにしに行こうよ」

「マコトだったら一考するけど、他は良い。問題を起こしたときにまた制圧するから」

「せっかく平穏な暮らしを手に入れたのに、良いの?」

「なんだか逆に落ち着かなくて」

 

 私がそう言うと、ミカは驚いたように口を開けた。

 

「毒されちゃってる!?」

「……それにしても仕事が少ないわね。風紀委員が今巡回しているけれど、小さい問題以外は特に起こってないらしいから、平和ね」

「暇すぎてリストラされちゃったり?」

「それはない」

 

 耳が慣れた小さい爆発音を聞きながら、私は一週間前を思い出していた。

 黒崎コユキの一件があった後、羽沼マコトをこれでもかとボコボコにして、再起不能にした。入院期間も延長で、しばらくは出てこない。

 その後、なぜか万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)の知名度が急上昇していた。トンデモニウム・バラエティならぬバカげた展開に最初は驚愕していたけれど、理由が議長の大怪我で納得した。

 

「なんだっけ、トンデモニウム・バラエティ? の知名度を上げたのなら、怪我も喜んでするんじゃない?」

「パンデモニウム・ソサエティよ。というか、マコトの知名度が低いだけで万魔殿の知名度はむしろ高い方なの」

「そうなんだ。やっぱり羽沼マコトっていらなくない? 失脚させて罪被せてヴァルキューレの矯正局に突っ込んだ方が良いと思うな」

「そんな事をしたらめんどくさい事になるに決まってる。こういうのは黙っていれば良い」

「うーん、でも定期的に殴らないとストレス発散ができないよね」

「そんなサンドバッグみたいに……」

 

 表情を一切変えずに言うミカが少し怖くなった。しかも笑顔とかではなく、真顔。

 

「まあ、最近はストレスが溜まる事の方が少ないんだけど」

「ただ殴りたいだけよね?」

「ご名答☆」

 

 今度は満面の笑顔を浮かべて、ミカは得意げに言った。

 この子の良い所なのか悪い所なのか、表情がコロコロと変わっていく節がある。さっきまで悲しんでいたと思ってたら急に怒り出すし、かと思えばなんか喜んでいるし。情緒が不安定なのかしら。

 

「せっかく誰にも見えないから、やっぱり羽沼マコトは殴っておきたいよね。ついでに先生を誑かしてそうな赤髪女にデカパイ痴女、先生のあられもない姿を撮ってそうなカメラ女……あの金髪の女の子以外は消し去ってやろうっと」

「ついでが大きすぎるわ」

「私だって先生とあれやこれをしたいの! ゲヘナの連中には譲らない!」

「あら残念。先生は今ミカの事を認識できていない。つまりあなたはゲヘナに勝てない敗北者よ」

「言って良い事と悪い事があるよね?」

 

 なんだか冗談が事実になりそうだったから、ヘイトを私に向ける。

 ミカのゲヘナ嫌いは本物だ。誰かから認識できているのだったらここまで自我を出さないのだろうけど、今は暴走中。私の制御が効かなかったら、きっとゲヘナは崩壊してる。

 タイミングよく、スマホが鳴った。ミレニアムのセミナーから連絡が来ている。

 

「そんな事より、ミレニアムに行く。よくわからないけどお礼がしたいって連絡がきた」

「そんな事!?」

「良いから、行くよ」

「……はーい」

 

 不満そうに口を尖らせながら、ミカは私に付いてきた。

 

◇◇◇◇◇

 

「空崎ヒナさん、わざわざここまで来ていただいてありがとうございます」

「あら、元に戻れたのね。良かった」

 

 ミレニアムのセミナーに着いたら、この前シマエナガにされていた人が初めに挨拶をしてくれた。

 

「はい、一時はどうなる事かと思っていましたが、無事に戻れました」

「早瀬ユウカは?」

「件の犯人であるコユキちゃんの所に行ってます」

「そう」

 

 闇がありそうな笑顔を浮かべて、白い髪の、生塩ノアが言う。

 あまりにも慈悲が無さそうで、ほんの少しだけ怖いと思った。だけど、もし私がシマエナガにされたのなら確実に怒るから、同情もしてる。

 

「先生も本当に怒ってたみたいで、コユキちゃんが無気力になるくらいにお説教したらしいです。それで今、何に対しても無気力になってて、ユウカちゃんと私で頑張って励ましてます」

「そうなのね」

「先生に会う事を拒否してしまうくらいなので、本当に重症なんです」

「自業自得だけれど、憐れね」

「そうですね、ふふ」

 

 さらっと言われた事に対して、拒否反応が出た。

 先生が本当に怒ったとき、私もきっとそうなるのだろう。何もやる気が出なくなって、最終的には自決も考えてしまうかもしれない。

 

「そういえば、羽沼マコトさんはどうなってるんですか?」

「寝てる」

「そうですか、先生がお説教をするのを諦めたと聞いているのですが」

「先生の事だから、もう必要ないって判断したと思う。あんな状態を見たら、先生ならきっとそうする」

 

 現状のマコトを思い出しながら、先生の事を考えた。

 正直、ミカは嘲笑、私は激怒の気分になってしまうのだけれど、それに先生が追撃を加える事は無い。

 

「なるほど」

 

 生塩ノアは、納得したかのように頷いた。

 

「ねぇ、私もお話したい。できないなら早く帰ろうよ」

「黙ってなさい。後でたくさん構ってあげるから」

「約束だからね」

「どうかされましたか?」

 

 ミカとお話していたら、生塩ノアに怪訝な顔をされてしまった。

 それはそれとして、黒崎コユキの現状が気になる。先生に会いたくないだなんて相当だし、末路を見てみたい。

 

「なんでもないわ」

「そうですか。では、これはお礼です」

「……?」

 

 ミカとの会話を誤魔化したら、いかにも高級そうな一つのプリンを貰った。

 

「ゲヘナ生はプリンが好きだと、万魔殿の方々がおっしゃっていましたので、用意しました」

「……ありがとう」

「ふーん」

 

 生塩ノアに、とりあえずお礼を言う。

 まあ、私はあそこを通ろうとして、その結果ロボットが崩れたって感じだったから、この程度で良い。むしろ、お礼の品がある事に驚くべきだ。

 ミカもそういうスタンスであるらしい。

 

「本当は謝礼金にする予定でしたが、コユキちゃんの件で今ミレニアムに余裕が無くて」

「補填?」

「はい。大分使い込んでいたらしく……」

「……やっぱり無気力になって正解じゃないかしら?」

「あはは……」

「うーん、一発くらい殴っとく?」

 

 あまりに驚きの事実が発覚して、ミカが思わずそう言った。

 

「うん、万魔殿に請求して。拒否しても、私が通す」

「そ、そこまでしていただかなくても……」

「いいえ、マコトも共犯だったのなら、こちらにも非があるから」

「……そうですね」

 

 本当ならもっと早く連絡してほしかったのだが、忙しかったと思うから仕方ない。

 とりあえず、帰ったらまずは万魔殿に寄って、請求書を出そう。マコト以外の子たちが可哀そうだけど、そんな事を言っている場合ではない。

 

「少々お待ちを、被害額の請求書を作成して参ります」

「五枚くらい作っておいてほしい」

 

 絶対にマコトを逃がさないという意志を持って、生塩ノアの事を待った。

 

◇◇◇◇◇

 

「ふぅ……」

 

 風紀委員の執務室で一息つく。

 あれから、受け取った請求書を万魔殿に見せて、経緯を説明した。そうしたら、あのイブキがマコトを糾弾した。イロハも釣られて毒を吐いたし、サツキとチアキはドン引きしてた。

 

「金髪の女の子、あの子ってああいう性格なの?」

「そんな事無い。マコトが全て悪い」

「うーん、結構優しそうな少女から出る罵倒の数々が気持ち良すぎて、耳が気持ちよかったな」

 

 イブキがラップで罵倒をし始めるくらい――言い換えるならキャラ崩壊するくらい――怒っていた。そんなイブキを筆頭に、これでもかと私怨をぶつけるイロハの姿は中々に面白かった。その後にミレニアムに謝罪の連絡している時もマコトへの暴言が止まる事無く、ミカはゲラゲラと笑っていたし、私も途中で噴出した。

 

「赤い髪の女の子、結構面白かったよね」

「そうね、電話相手の生塩ノアも困惑してたし」

「マコト像の予算がゼロになって、羽沼マコトのプリン代もゼロになって、挙句の果てにはポケットマネーも献上されてたから、お腹が痛くなっちゃったじゃんね☆」

 

 お腹を押さえながら、ミカは言った。

 正確に言うのなら、マコトが全て悪いわけではない。黒崎コユキに変なロボット――もちろん風紀委員の予算を横領して作っている――を献上しただけだ。もちろんそれ相応の罰は必要だけれど、普段の行いを見直そうと思えるきっかけとしては優秀な出来事である。

 

「あなたも、あんな事にはならないように気を付けなさい」

「もう経験してるんだよね」

「え、それなのにあんな笑って……?」

「いやぁ、だって、人の落ちぶれた所を見るのはなんか面白いっていうか、ゲヘナだし……」

「自分を棚に上げて笑う人を初めて見た……」

 

 目線を逸らしながらほざくミカに呆れる。

 

「こ、この話はおしまい!」

「はぁ……まあ良いわ」

 

 強引に話を逸らすミカの方が面白いと、ぼんやりと思った。

 

◇◇◇◇◇

 

「私って、いつまでこの状態だと思う?」

「急にどうしたの?」

 

 ずっと疑問に思ってた事を、何となくヒナに訊いてみた。

 最初にここに来た時とは打って変わって、仕事はすぐに終わっている。夕方で、ヒナがミレニアムから貰ったプリンを食べているところだ。

 

「そろそろ飽きてきたっていうか……」

「そんな事を言われたって、私にはわからない」

「だよねー……」

 

 食べてもいないプリンの甘みを感じながら、これからの事を考える。

 流石に、そろそろ戻りたい。セイアちゃんはいろいろ察してるからどうでも良いとして、ナギちゃんはそろそろ私を捜し始めそう。というか、もう捜している可能性だってある。

 

「ナギちゃん、そろそろ本気で私を連れ戻そうとする頃合いだからなぁ」

「そろそろ先生の制止も無視する頃合いって事ね。なら対策しないと」

「どうやって?」

「百合園セイアにやった事を、桐藤ナギサにもする」

「それで納得してくれるかな……」

 

 ナギちゃんの顔を思い浮かべながら、反応を予想してみた。

 何が起こっているのかわからない顔、全てを察してドヤ顔してる顔、私の悪戯だと思って怒った顔、いろいろ予想できるけど。

 

「どこか不安要素があるの?」

「うん。ナギちゃんは結構強引で疑い深い所があるっていうか、前よりはマシになったけど、まだその兆候があるっていうか……」

「うん」

「まあ、好奇心が強いのはあるけど、それにしてもこの状況を信じてくれるかはわからないよね」

「前にも言ったけれど、先生と一緒に説明したら信じてくれるはずよ」

「うーん……」

 

 私が不安になっている要素を挙げると、ヒナはそう返してきた。

 

「ヒナは何にもわかってない! いや当たり前だけど!」

「それで?」

「好奇心旺盛で疑心暗鬼気味だから! ナギちゃんの行動が予測できなさすぎて! わからない!!」

「ミカですらわかってないのなら私もわからないわね」

「……うん。だから直接姿を現したいって事」

「めんどくさい……」

 

 説明すると、ヒナはげんなりしたように呟く。

 それはそう。ティーパーティって私を含めてめんどくさい人の集まりなんだから、特に私。ナギちゃんは絶対に押してはいけないボタンを押すくせに人を疑うし、セイアちゃんは比喩ばっかりで話が長いし、私は……うん。

 

「……だけれど、このままだとミカの捜索が始まる。この状況の終わりが読めない以上は、伝えてみるしかないと思う」

「うぅ……」

「それに、今はマシになったのなら、悪い想定が当てはまらない可能性もある」

「……」

「百合園セイアも呼んで、先生と一緒に説明しよう。それで上手くいかなかったら、気絶でもさせれば良い」

「物騒だなぁ……」

 

 淡々に、それでいて心優しく言うヒナ。ゲヘナ生のはずなのに輝いて見える。

 

「あなたの幼馴染を信じなさい。そうしたら、きっと応えてくれるわ」

「……わかった」

 

 本当にゲヘナ生なのかわからなくなる程の声色で、ヒナは言った。

 確かに、この状況を信じてくれるはずがないっていうのは、単なる思い込みだ。同じ過ちをもう一度犯してしまうところだった。

 

 まずは信じる、その後にどうにかする、そう自分に言い聞かせて、ナギちゃんにこの状況を伝える事を決めた。

 

 これから一週間、ナギちゃんと会えない事を、私は知らなかった。

 

◇◇◇◇◇

 

『速報です! ただいまシャーレが炎上しています!!』

 

 普通に仕事をして、普通に休憩して、いつも通りを謳歌しているときに限って、そういう報せはやってくる。

 テレビに映ったニュース画面を思わず見る。

 

『先生は中に取り残されている状態で、安否が不明です!!』

 

 聞いて、すぐにスマホを取る。そして、先生に連絡する。

 しかし、いくら待てども、先生に繋がらない。

 

「っ……!」

 

 迷っている時間はない。今すぐシャーレに向かって、先生を救出しないと。

 だけど、事はそんな上手くいかない。

 

「委員長!」

「アコ?」

 

 扉が壊れそうになるくらいの勢いで開けて、執務室にアコが駆け込んできた。

 

「謎の巨大生物が暴れているとの事で、イオリたちから救援が来ています!」

「え?」

「銃弾が効いておらず、苦戦を強いられているらしいです!」

「……」

 

 なんていうタイミングだ、先生を助けに行きたいっていうのに。

 シャーレは今炎上していて、先生の安否がわかっていない。だけどゲヘナでは巨大生物が暴れていて、銃弾が効かない。本音では先生を助けに行きたいけど、問題を放っておく事はできない。

 

『シャーレの炎上は酷くなっています! 先生は無事なのでしょうか!?』

「……は?」

『あーっと!? 巨大な黒い犬でしょうか!? シャーレに変な巨大生物がいます!!』

 

 執務室にあるテレビに映像が変わる。そこには、炎上しているシャーレの上空から撮られている映像が映っていて、黒い巨大生物がシャーレの建物を襲おうとしていた。

 

「くっ、やはりゲヘナは私たちで……」

「……」

「委員長はシャーレに行ってください!」

「……」

「委員長?」

 

 アコの言葉が耳に入って来ない。

 どうすれば良い。先生を助けないと、でもゲヘナにも巨大生物が……ダメ、考えがまとまらない。

 

「……どうすれば良いの?」

 

 頭が真っ白になる。早く行動しないといけないのに、動けない。

 頭を抱える。何もわからない、どうすれば、早くしないと――

 

「ヒナ!」

「……っ!」

 

 不意に、ミカが大声で私の名前を叫んだ。

 

「迷わないで!」

「……そうね」

「えっと、大丈夫ですか、ヒナ委員長?」

 

 ミカが私を現実に戻してくれた。アコの言葉が鮮明に聞こえるようになる。

 今は迷っている場合じゃない。

 

「すぐに終わらせる」

「え?」

「アコ、準備して」

「は、はい!」

 

 さっさと終わらせて、先生を助ける。ゲヘナの風紀委員長で、先生に頼られている私なら、これくらい余裕だ。

 それに、今はミカがいる。あと、これだけ大事にニュースで報道されているのなら、他の学園だって動くはずだ。自分の学園の問題を終わらせてから、そっちに合流すれば良い。

 

「ミカ、良い?」

「準備は万端だよ☆」

「……アコ、案内して」

「わかりました!」

 

 巨大生物を倒すべく、アコを扇動した。

 

◇◇◇◇◇

 

「……シャーレを襲っている犬みたいな奴と一緒?」

「そうかも」

 

 ゲヘナの市街地、暴れている巨大生物を見て、そう呟く。

 先程のニュースで見た、シャーレを襲おうとしていた大きな犬、それと双子とでも言いたげな生物で、周りに炎を纏っている。周りには黒い沼みたいな物が広がっていて、複数の目がこちらを覗いている他、小さな犬が無数に群がっている。

 

「なんか、気持ち悪い」

「熱そうだし、銃弾が効かないんだよね。どうするの?」

「とりあえず撃ってみる」

 

 言って、相手に銃弾を撃ち込んでみた。しかし、あまり効いている様子がない。

 銃弾は体を貫通するが、すぐに再生していく感じ。このままでは埒があかない。

 

「住民は避難させたのですが……」

 

 アコが、絞り出すように言った。

 

「……これは強敵ね」

 

 今まで戦った事のない敵、どうやって対処しようか。先生はいないし、今はどうにもできそうにない。

 

「隕石打ち込んでみるね」

「やってみて」

 

 攻撃の意志を持つと、ミカがすぐに隕石を落とした。

 隕石は黒い犬に直撃する。

 

「……少しは効いてる?」

「うーん、銃弾よりは……ってところかな」

「そうね」

 

 大きめの隕石なはずだが、あまり手ごたえがない結果に、ミカが首を傾げる。

 黒い犬が少しへこんだくらい、あと小さい犬が三匹くらいは減ったと思う。あんまり変化が無くて、普通に萎えそうになる。

 

「イオリたちは?」

「負傷しています。今は前線が壊滅状態でして」

「わかった。一度皆を後ろに下げて、私が一人で前に出る」

「い、委員長?」

「任せて」

 

 心配そうに言ったアコに一言返して、私は巨大な黒い犬の下に広がっている黒い沼みたいな物の前に出る。

 なんか、マコト像が小さい犬に群がられていて、悲惨な事になっている。それが囮になっているからなのか、私の方に小さい犬が来ない。

 風紀委員が、前線から下がっていく。

 

「グギャァァァァァァァ!!!!!」

 

 犬が私を見下して、大声で威嚇してきた。マコトならきっと気絶しているくらいの迫力だ。

 その犬を睨みながら、観察する。

 

「……いける?」

「うーん、わかんない」

「飛んで射程距離に入る」

「はーい」

 

 ミカにそう告げると、私は思いっきり黒い犬に向かって飛ぶ。

 深く考えても仕方がない、銃弾が効かないのなら別の手段で攻撃するのみ。

 

「ギャァァァァァァ!!!!!」

「『ミカ』!」

「うん!」

 

 相手がこちらに咆哮してきたから、私も負けないように叫ぶ。それが合図となって、ミカが犬に拳を振るい始めた。

 攻撃の意志を、相手に対して強く向ける。

 

「……」

 

 ミカは今犬を殴り続けている、そのはずだ。残像が見えるくらいの速さで、凄まじい威力を誇っているはずの攻撃だ。だけど、手にその感覚が無い。

 今のミカと私は、感覚を共有しているはず。それなのに、攻撃している気がしない。

 攻撃の意志はある、だけれど、相手にダメージを与えられてない。

 

「うーん、効いてないかな」

「……落ちるわ」

「ちょっとまずいね、終わったかな☆」

「黒い沼、不気味な目がたくさんある所に落ちるのは、まずい」

「茶化してる場合じゃないよね、うん」

 

 ミカの拳で犬を倒す算段が崩れて、一気にピンチの状態になる。

 

「委員長―――――!!!!!」

 

 アコの叫び声を聞きながら、黒い沼に着地した。

 

◇◇◇◇◇

 

「……黒い」

 

 周りが漆黒に囲まれて、目の前には巨大な犬がいる。おそらく、この犬が作った領域に閉じ込められたのだろう。

 

「これ、大丈夫かな」

「……四つの黒い柱が、犬の周りを囲むように出てきたわ」

 

 四つの柱、そこから黒い鎖みたいなのが出ていて、犬の四肢に縛りついている。

 犬は苦しそうにしている感じじゃない。逆に、自由に動いている気がする。

 

「グギャァァァァァァァ!!!!!」

 

 犬の咆哮と共に、無数の小さい犬が発生する。

 

「……黒くて小さい犬が大量に出てきた」

「急いで攻略しないと、ヘイローが無くなるどころか身体が無くなりそう」

「怖い事を言わないで」

 

 世にも恐ろしい事を口走るミカを黙らせて、周りを見渡す。どこを見ても小さい犬がいて、逃げ場は無い。

 このままでは先生を助けに行くどころか、ここで食われて最悪の最後を迎える。さっきあったマコト像と同じ末路は嫌だ、この危機を脱しないと。

 

「あはは、ヒナが食べられたら私の身体も無くなっていくんだ、グロくてR18G指定を貰っちゃうかも」

「駄弁っている暇があったらちゃぶ台返しの方法を考えなさい」

「無理だよ! もう絶望すぎて勝てないよ!」

「寝言は寝てから言いなさい」

「うぅ……」

 

 会話をしている間にも、犬は群がってきている。もはや諦めているミカを叱りながら、とにかく考える。

 銃弾は効かない、隕石もあんまし、ミカの拳も効果なし、どうやって逆転してやろうかしら。

 

「……逆に実体が無かったら効く?」

「どういう事?」

 

 思いついた事を呟いたら、ミカが深堀してきた。

 

「……試す価値はある……ミカ」

「えっと……」

「私はここでジッとしてる。あなたが何とかしなさい」

「丸投げ!? それは無いじゃんね!?」

 

 ミカの抗議を無視して、私は目を閉じて瞑想した。

 

◇◇◇◇◇

 

「ちょっと? ヒナー? ヒナちゃーん?」

「……」

「無視は良くないよね!?」

 

 目を閉じて何も考えなくなったヒナ、初めて殴りたいって思ったかも。

 いやいや、おかしい。私が何とかするって何、黙り込んで何も教えてくれないし、何なら何も考えてないし、ふざけないでって感じ。

 

「うぐぐ……もうどうにでもなれ――――――!!!!!」

 

 自暴自棄になって、近づいてきた犬を殴ってみた。

 

「……え?」

 

 手に攻撃の感触が伝わってきて、びっくりする。

 ヒナの意志は伝わってきてない。それどころか、ヒナは眠っているって勘違いしそうなくらいに何も考えてないし、意志が無い。

 それなのに、犬を殴った感覚が伝わってきた。

 

「……とりあえず周りの雑魚を蹴散らして……」

 

 犬を殴れたから、とにかく殴っていく。ヒナの意志が介入していないけど、犬を攻撃できるならそうする。

 食べられたくない、無残な死に方をしたくない、とにかく抵抗する。

 

「……いや、無限に湧いてるね!?」

 

 だけど、ダメそう。小さい犬が無限湧きするから、身動きが取れそうにない。

 

「って、大きい犬が何か準備してる! あれ絶対炎吐いてくるよね!? ヒナ! ジャンプ! 避けて! 丸焦げになっちゃう!!」

 

 寝ているはずは無いのに、寝てそうなヒナに声をかける。だけど、全く返事が無い。

 これはいつかセイアちゃんが言ってた――返事が無い、まるでしかばねのようだ――って事かな。そんな事考えてる場合じゃない。

 

「……」

「起きてよ! 助けて! ねえ!」

「……」

「もう! どうにかなって!!」

 

 ヒナが何もしてくれないから、私は上に飛ぶように動く。

 

「……空、飛べるんだ」

 

 驚愕な事実、いや、宙に浮かんでたって事だったら常時その状態だったけど、ヒナ諸共(もろとも)宙に浮いた。

 まるで私の意志でヒナを動かしてるみたい。私の意志はほとんど無い状態だったから、久しぶりの感覚。

 

「グァァァァァァ!?!?!?!」

 

 四つの柱に縛られた犬が、意味不明そうに吠えた。それの影響か、炎が口から飛び出す。

 ヒナの身体がそれに当たらないように避けながら、空を飛ぶ。

 

「それにしても落ち着いてるね!? 空飛んでるのにどうして!?」

 

 さっきから何もしてくれないヒナを糾弾する意味もこめて、疑問を叫んだ。もちろん、何も言ってくれない。

 もういい、怒った。私の事を無視するならともかく、大ピンチの場で寝るような子には後で文句を言いまくってやろう。

 腸どころか全身を茹でるかのように湧いてくる怒りは、あの犬に向けてやる。もとはといえばこんな状況を作った犬が悪い、吹き飛ばしてくれるわ。

 

「……オラァ!!」

 

 大きな犬に近づいて、自分でもびっくりするくらいドスが効いた声を腹から出しながら殴ろうとする。だけど、四つの柱が悪さしてるのか、何かに阻まれた。

 

「チッ、あの鎖? 良いよ、引き裂いてあげる」

 

 八つ当たりを失敗して、怒りがさらに湧き上がる。周りが発火しそうなくらいに身体が熱い。

 鎖を引き裂くだけじゃ足りない、柱を壊してやる。どうせなら、普段から溜まってるセイアちゃんへの鬱憤も一緒に吐き出してやろう。

 

「……わぅ?」

 

 なんか、急に犬が弱気になり始めた。

 そんなのは無視だ。柱を壊して、壊して、壊して、壊す。鎖も引き裂いて、引き裂いて、引き裂いて、引き裂く。一瞬の作業で、四つの柱を壊してやった。

 

「ふふふ、後はワンちゃんだけだよ?」

 

 どうせ聞こえてないのだろう、だけど私は犬に話しかける。

 

「……ワン!」

「あはは!」

 

 犬が、覚悟を決めたように叫んだ。抵抗する気が無さそう。

 なら、もう遠慮はいらない。はは、気分が良い。今から熱を放出できるって考えると、犬が硬くても許せそう。

 

「あはははははははははははは!!!!!!!!」

 

 殴る、殴る、とにかく殴る。動物愛護団体が泣いてしまうくらい、容赦なく。

 ただ拳を振るっているだけなのに、このまま犬を消し炭にできてしまいそう。私の身体に溜まった熱は、どんどんと冷めていく。

 

「ワン、ワン、わぅ……」

「……あれ、消滅しちゃった」

 

 殴ってからあまり時間が経たずに、犬が消滅してしまった。周りを見ると、小さい犬たちも消滅してる。

 熱が冷めきってない。それなのに、早すぎる。セイアちゃんへの鬱憤も全然残ってるのに、勿体ない。

 とりあえず、ヒナを着地させた。

 

「……終わったのね」

「起きた? よくも私を無視してくれちゃって、絶対に許さないからね?」

「あ、元に戻って来た」

「話聞いて? 私の怒りは全く収まってないからね?」

「委員長!!」

「アコ!」

 

 ヒナは私を無視して、寄ってきた天雨アコに抱き着かれた。殴っても良いかな。

 それはそうと、私たちを覆っていた黒い空間からは抜け出せたみたいだ。

 

「無事で良かったです……!」

「……心配かけてごめん」

 

 アコが寄ってくると、他の風紀委員も群がってきた。私、完全に蚊帳の外なんだけど、

 しかも、ヒナの意志が復活したからなのか、暴れられない。

 

「……イオリとかはまだ回復しきってないんだっけ」

「はい……」

「今からシャーレに向かう。動ける子たちで腕に自信がある子は付いてきて。自信が無い子はここに残って、市街地の消化活動をお願い」

「私はもちろん付いていきます!」

 

 ヒナがそう言うと、天雨アコはそう言った。。

 ……もう良いや、とりあえず先生を助けに行こう。




無気力になったコユキと励ますユウカの一幕

「うぅ……先生に嫌われて……」
「本気では嫌ってないわよ」
「いえ! 今回は本当に怒ってて、もう終わりです……」
「いつもの元気はどうしたのよ」
「ユウカ先輩は先生に嫌われても問題無いんですか?」
「私はコユキみたいに嫌われるような事をしないから」
「こういう時に正論を言われると萎えますね」
「自業自得じゃない。今回は本当に反省しなさい」
「はい……」

先生とユウカが一緒にコユキを説教した後、先生はコユキと二人きりの状態でお説教をした。
先生のマジ怒りはどんな物だったのか、想像したくないと、ユウカは思った。
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