ここは、イッシュ地方南西の街、ヒオウギシティ。
南西の端に位置するこの街から――物語は始まる。
「……じゃ、母さん行ってきます」
「いってらっしゃい」
いかにも『お母さん』らしい優しそうな女性に言われ、少年は外に出た。
少年の名前はキョウヘイ。このヒオウギシティに暮らす少年だ。
ポケモン世界では11歳になればポケモントレーナーと認められ、初めのポケモンを手に入れ、晴れてポケモントレーナーとなり、旅に出ることが可能となる。
だが、この少年、11歳をもう半年過ぎようとしているのにもかかわらず、ポケモンをまだ手にしていなかった。
彼がポケモントレーナーを目指そうとしたのは、2年前にみたとあるバトルビデオからだ。父親は大のバトルマニアでよく東方にあるバトルサブウェイなどに出向いて、ビデオを撮っているのだという。
その中にいた、エンブオーを持つ少年。
その存在に彼はあこがれというものを持っていた。
「――ポケモントレーナーになって、彼と戦いたい」
そんな夢を、彼は昔から持つようになっていた。
そんな彼の、物語である。
「よう! キョウヘイ! どうしたんだ今日は!」
「ああ。博士からポケモンをもらえるらしくてね」
「やっとだな。俺もさ」
そんな調子で話しかけてきたのは幼馴染のベズである。
「ああ、ベズ。――それはわかるが妹を連れてくるのはどうかと思うんだが……」
「だって、いいだろ? こいつがついてきたいっていったんだし」
「……まあ、一人くらい連れてっても博士も怒らないだろうしな」
そう言ってキョウヘイはベズとその妹とともに博士のもとへ向かった。
博士との待ち合わせはヒオウギの北にある高台となっていた。博士は東方でポケモン研究をしていたらしいが、現在はライモンシティの方に研究所を移したらしい。
二年前、イッシュ地方は氷に包まれた。
理由は解らず、二年経った今でもイッシュの東半分は、氷が解けておらず区々は対応に追われていた。その中、謎の団体が暗躍していたことが国際警察により明らかになった。
エクス・プラズマという『プラズマ』の名を冠する組織。それは、二年前解体されたプラズマ団と何らかの関係があるのだろうと捜査を開始している――のだという。
「へぇー。でもよ、ベズ。なんでもかんでもよく知ってるよなぁ?」
「……そりゃ、父さんのパソコンを……」
そこまで言って、ベズの口は静かに閉じた。
「……お前、また父親の……」
「いいだろ! 別に俺が見たって! 父さんの敵をとる、と俺は決めたんだ! だから……ポケモンを手に入れて、強くなって……」
「組織を倒す、と?」
「あぁ!! 当たり前だろう……!!」
ベズは走るのをやめて、キョウヘイの方を見る。
「仮にお前が何と言おうと俺は止まらねぇ。……もし、俺が止まることがあったら俺をこてんぱんにでもするがいいさ」
ベズの言葉にキョウヘイは頷く。
「……そうだな。とりあえず……待たせちゃまずい。急いで行ってポケモンを貰いに行こうぜ」
「……あぁ、そうだな!」
そう言って二人はまた駆け出した。
高台には一人の女性が立っていた。小さなカプセルを持った小柄な女性だ。女性はキョウヘイたちがやってくるのに気が付いて振り返った。
「待ってました! ……あなたたちがキョウヘイくんにベズくんですか?」
女性の言葉にキョウヘイとベズは頷く。
「わぁ……。会えてよかったぁ……!!」
そう言って女性はカプセルを開く。そこに入っていたのは、
三個のモンスターボール――即ち、最初のパートナーだった。
「……これは……」
「ポケモン?」
二人は突然のことに驚いてしまったようで多少顔がひきつっていた。
それを見て、女性は話を続ける。
「そうよ〜! あなたたちの最初のポケモン、そしてパートナー! 私も二年前にあったんだぁ……」
女性はそう言ってニコニコと笑っていた。それを見てベズは溜め息をひとつついた。
「……キョウヘイ、お前から先だ。お前が先に選べ」
「いいのか?」
「あぁ、男に二言はない」
そう言ってベズは何も言わなくなった。トウヤはベズが昔からこういう性格というのは知っていたので、なんだか慣れてしまっていた。
「……それじゃあ、キョウヘイくん。ポケモンを、好きなポケモンを一体選んで下さい!」
そして彼は躊躇わず――ひとつのモンスターボールを掴んだ。
その中に入っていたのは、ポカブだった。
「なあ、ベズ。俺ずっと言いたかったことがあるんだ。それが……やっと出来る!!」
「解ってるさ。俺もだ」
そして――キョウヘイは声高く叫んだ。
「ベズ、ポケモンバトルしようぜ!」
そう言ってすぐ、ベズはミジュマルを、キョウヘイはポカブを取り出した。
「うまい具合にタイプ相性がひどいでやんの」
「俺は知らねーぞ!」
ベズはそう言って、一歩下がる。
「ミジュマル、『はたく』!!」
その声と共にミジュマルはポカブの頬を一発叩く。そして、ポカブはまるでギャグ漫画のようにぷっくりと膨れ上がった。
「……っ、ポカブ!! 『しっぽをふる』んだ!!」
その言葉を聞いて、ポカブは精一杯しっぽを振る。
それを見たミジュマルは目を回してしまい(幸運にも)混乱状態へと陥った。
「これで――決める!! ポカブ、『たいあたり』!!」
そして――ポカブは渾身の力でミジュマルに体当たりをした。
「……負けちまった……」
「あらら、だいじょうぶ?」
ベズに近づいたのはベルだった。彼女はすぐに傷薬を取り出し、ミジュマルに散布する。
ベルは治療を終え、立ち上がると二人の方を見た。
「……すごかったわ。あなたたちの戦い!」
「いや……そう言われると照れる……」
「……どこへ向かうか決まっているの?」
「とりあえず北のサンギタウンに行こうかと」
「サンギタウンかあ……。それじゃ私もついて行っていいかな?」
ベルは唐突に告げた。それはキョウヘイにも予想外の発言だった。
「えっ?」
「まあ、なんかあったら大変だし! さ。行きましょう?」
「……、」
ベルの言葉に――キョウヘイはゆっくりと頷いた。
そして――キョウヘイの物語が始まるのだった。