ライモンシティを出たあと、キョウヘイが持っているライブキャスターが着信メロディを鳴らした。しかし最初は聞き覚えのないものだったからか、それが自分の持つものだとは解らなかった。
「そういえばジムの前でライブキャスター拾ったんだっけか……。どうしようこれ……」
そう言って彼は着信に応答した。
『……あの、すいません』
ファーストインプレッションから行くに、可愛らしい女の子だろうかとキョウヘイは考えた。掠れた声には、どこかアイドル染みた明るさが滲み出ている。
「はい、どうしたんですか? もしかして、このライブキャスターの持ち主ですか?」
『……えぇ。そうです。名前はまだちょっと言えないんですが……、そのライブキャスター暫く預かって戴けないでしょうか?』
「取りに行けない、と?」
『はい、ホントに申し訳ないです。仕事が立て籠っていて……。あ、先輩が呼んでる。すいませんこちらからかけたのに駆け足になってしまって……』
「大丈夫ですよ、それならこのライブキャスターは暫く預かっておきます」
『……よろしくお願いします。では、』
そして着信が切れた。空を見るとスワンナの群れが飛んでいた。
「……俺も次の街に行かないとな」
そう言って彼は西へと歩き出した。
ホドモエシティはイッシュ地方の西部に位置する街である。かつては冷凍コンテナなど工業的一面を見せたこの街も、今やホテルが軒を連ね、カジノやゲームコーナーもある娯楽の街としてある。
そんな街に辿り着いたキョウヘイだが、一先ずは街を探索することとした。ホドモエは温暖な気候もあり、少しだけ汗ばむ。着ている服がくっつくが、もはやそんなことは仕方無い事で片付けた。
「……ジムは休みかぁ……」
街の北東に聳えるポケモンジムはどうやらジムリーダーが忙しいらしく、お休みとなっていた。
「なんかめんどくさいな……。今日はここで……」
「トウヤ……?」
キョウヘイがホテルにでも休みに行こうと考え、そこから離れようとしたそのときだった。そこにいたのは、ピンクの髪をした、どこか気品のある少女だった。
「トウヤ……? いや、それは違いますよ」
「そうですか……。すいません、面影が似ていて……」
女性は頭を下げてふと思った。
「……今から時間は取れないですか?」
「え?」
「いえ、少しだけお話をしたいなと思いまして。ダメでしょうか?」
「……別にダメじゃ」
「そうですか。……ならば、ついてきては戴けないでしょうか」
その声を聞き、キョウヘイは確りと頷いた。
ホドモエシティ北部にある教会、それが彼女の行き着いた先だった。しかし、何故ここなのかということはまだキョウヘイは解っていない。
「こちらです。……こちらにロット様がいます」
キョウヘイがそこへ入ろうとしたその時だった。
妙齢な顎髭を蓄えた男性が、その入口を塞ぐように立ち尽くした。
「ロットさま! お身体の様子は……?」
女性はそのロットと呼んだ壮年の男に寄り添い、尋ねた。
「大丈夫だ。……N様が帰ってくるまで私は死んでも死にきれない。……ところで、お前は何者だ?」
「あぁ俺は……」
――連れ去られてここにきたんだけど、と言おうとする前に女性が答えた。
「彼の眼、何処と無く二年前の彼を想像させないでしょうか?」
それを聞き、ロットは訝しげになんどもキョウヘイの顔を見つめてきた。キョウヘイはもうめんどくさいという感情しか持ってなかった。
「うむ……、確かに言われてみればそんな気がしないでもないが……それでも私は疑わざるを得ない。……私の格好、みたことがあるだろう?」
その言葉を聞いて、キョウヘイは頷いた。それは――プラズマ団の服装であることは解りきったことだった。
「七賢人は、二年前に逮捕されたのと聞いた」
「……我々の名前を知っているか。如何にも我々は二年前に国際警察により逮捕された。コードネーム・ハンサムによってな。だが、実際は行方知らずとなったN様の居場所を聞かれたのみ。あとはすぐに釈放された。……まぁ、それからだろう。プラズマ団が、変わり始めたのは」
気付けばロットは歩き出し、キョウヘイを中へ誘った。キョウヘイはそれに従い、中へ入っていった。
中にいたのは無数のポケモンに、騎士のような格好をした人間。そしてその奥には一枚の肖像画がかけられていた。
「……ナチュラル?」
その名前を呟くとロットは血相を変えて、キョウヘイの肩をがっちりと握った。
「……何処でその名前を」
「本人と会ったんだよ、確か……一番最後に会ったのはライモンだよ」
その言葉を聞き、ロットは深く溜め息をついた。
「……ということは帰って来られたのだな、このイッシュへ……!!」
「待て。ナチュラルって……何者なんだ?」
「プラズマ団の王と呼ばれた存在です」
答えたのはロットの隣にいた女性――確か、愛の女神というらしい――だった。
「プラズマ団の……王?」
「ゲーチスに操られていただけなのです、彼は」
そして――愛の女神は二年前に起きた昔話について語り出した――。