――それは、ポケモンと呼ぶには巨大過ぎた。何故このポケモンが今までここに居たのか、解るはずもなかった。
午後三時四十一分、掘削を任されたリーダーの腕に巻かれたCギアにはそうデジタルで書かれていた。
始まりと言えば、それは小さな石碑だった。発掘時に物は大事に保存する、そのためにシッポウ博物館から人間を派遣するという二つの条件を言われ、その通りにリーダーは従った。ただ、それだけだったのだ。
午後三時二十七分、初めに異変が起きたのは、その時だ。異様にその場所が暑かったのである。
リーダーは最初こそは疑ったが、特に何もないだろうとこの問題を放置した。
午後三時三十二分。初めのことから五分後の事である。液体発火、燃焼の発生によりリーダーは近辺を調査することとなった。
そして、熱源が石碑であることが判明、リーダーが調査を行おうとしたのだが……、直ぐにそれは出来なくなった。
そこに現れたのは――巨大なポケモンだったからだ。リーダーの身長をゆうに越えるそれはただ立ち尽くし、存在を誇っていた。それでも、リーダーはそこから動けなかった。身体が『逃げろ』と言っているのは充分に理解出来たが、それでも動かない。動けない。
何とか、必死に逃げようと体を捩る。素早さが無かったのが幸いして、攻撃は無かった。それでも、それに対する恐怖心が拭えた訳ではない。寧ろ逆だ。逆なのだ。消えてしまいたかった。何故自分自身がこの場所にいるか、悔やみたくなった。けれど、そんなものは死んでしまえば元も子もなかった。
だから、彼は逃げる。夢見でもいい。それでも彼は生きたかった。
彼は急いで行った道を戻り――ホドモエの空を見た。何だかそこにいたのは数十分であったのに、永遠にも感じられた。
そして、ヤーコンロードからそれが飛び出たのは、キョウヘイも目視していた。
「あんなでかいポケモンが……」
「まさかあやつらネジ山の地下を通すと聞いたときはもしやと思ったが掘り起こしてしまったのか……」
「……あれを知ってるのか」
「知ってるもなにもあれはもともとプラズマ団が発掘したものだ。だが、強大過ぎる力を誰にもコントロール出来なくなり、封印し地下に埋めた。……まぁ、私の知っているのはこれだけなんだが」
キョウヘイの少しだけ後ろにいたロットはそれだけを言い、キョウヘイの隣にゆっくりと歩いてきた。足腰が弱くなったのだろうか、木で出来た杖を利用していた。
「あれは、プラズマ団の仕業か?」
「恐らくそうだろう。あの場所と覚醒させる方法を知っているのは我らしかいない。……エクス・プラズマの仕業だ」
「ちくしょう、あいつら……。ここで何を仕出かすつもりだ?!」
そう言ってキョウヘイは駆け出そうと、そのポケモンを見た。
「……待ってくれ」
「?」
「私も、一緒に向かおう。……私がやったわけではない。しかし、かつて私の仲間だったものがやったのは事実だ。……だから、私にも行かせてくれ」
その言葉にキョウヘイは無言で頷き、駆け出していった。ロットはそれを見て、ゆっくりだがキョウヘイについていった。
ホドモエシティの南にはかつて冷凍コンテナがあったが、現在建設中の『ポケモンワールドトーナメント』のために、南西にあるタチワキの方に施設を移動した。つまり今、ホドモエの南はただの空き地といっても過言ではない。
ポケモンの動きはまるで何者かに操られているかのようにゆっくりかつ確実にそちらの方へ向かっていた。
「真っ直ぐに向こうへ向かっている。……まるで何かに操られているかのように……」
「それが案外正しいかもしれぬな……。エクス・プラズマは二年前当時のプラズマ団の人員も科学技術もばっさり持って行かれたからな」
ようやく追いついたロットは息を切らせながら、そう言った。キョウヘイにはその言葉の真意が掴めなかったが、それはそれとした。
「……あの先には何が?」
「確か冷凍コンテナ、否。今はポケモンワールドトーナメントと言った方がいいな、それがある。世界各地から様々なポケモントレーナーを集め、トーナメントが出来る施設と聞いている」
「じゃあ沢山の人間とポケモンがいるのか?!」
「いや、実際のオープンは一週間後の筈だから、居るのは恐らくスタッフだけだろう」
「それだけ聞ければいい」
そう言ってキョウヘイはポケモンワールドトーナメントへ向かうゲートを潜った。
確かにロットの言う通りそこはまだ未完成な部分が多かった。幾つかならぶ資材の塊もその証拠だろう。工事が遅れてでもいるのだろうか、とキョウヘイは考えた。
「……あの黒い帆船は、なんだ?」
しかし、キョウヘイの目に止まったのはそれではなかった。そこにあったのは時代を間違えたのではないかと疑う程の巨大な帆船だった。
「これは……プラズマフリゲート! 昔プラズマ団で開発してたものの、莫大なエネルギーがかかる故に開発が中止されたそれが……なぜここに!!」
「教えてあげましょうか?」
プラズマフリゲートの帆の上には黒ずくめの服装の女がいた。その格好の人間に、キョウヘイは見覚えがある。
「エクス・プラズマ……!!」
「あははっは!! ……もうあなたたちは御仕舞いよ!!」
そう言ってエクス・プラズマは二十個程のモンスターボールを虚空に投げた。
そして――そのモンスターボールひとつひとつからガントルが現れた。
「……そのポケモンをどうするつもりだ……!!」
エクス・プラズマが得意気に笑うのを見て、ロットは奥歯を軋ませながら訊いた。
「どうするって?」
エクス・プラズマはフリゲートに入っていくポケモンを見て、誇るように笑ってみせた。
「簡単なこと。私たちの目的……世界征服をするための“道具”として扱う! それが一番効率がいいもんねぇ!!」
「き、さまぁ……!!」
キョウヘイは怒りに震えていた。ポケモンを、そんな手段で使うだなんて!! ポケモンはそんなもので使っちゃ駄目だ!! とキョウヘイの眼から感じ取れる程にエクス・プラズマを睨み付けた。
「……ルカリオ、“はどうだん”!!」
そしてルカリオはキョウヘイの命令に従い、手を被せ――そこから生み出されたエネルギーをガントル目掛けて撃ち放った。
「もう遅いわ。レジギガスはフリゲートへの収容を完了した。もう……ここには用はない」
そう言って、プラズマフリゲートは大量のガントルをも置き去りにして、ホドモエの港を後にした。
残されたのは、ただ立ち尽くすロットとキョウヘイだけだった。