電気石の洞穴。
フキヨセシティの南西に位置しており、沢山の電気ポケモンが住み着いている。その理由とは――ここが世界的に貴重な電気石の鉱脈だからである。適度に放たれる静電気は人体に健康をもたらすためか、毎日観光客が後をたたない。
……そんな場所にキョウヘイはやってきた。
「すごいところだなぁ……。身体中がビリビリしてらぁ」
キョウヘイはそんなことを実際に体験しながら、奥へと進んでいく。
「……何かがおかしい」
キョウヘイが異変に気づいたのは、その直ぐだった。
この洞窟は観光客で人気の場所――なはずである。
ならば、なぜ? ここに誰も居ないのだろうか。
「……誰が隠れている! 隠れてないで、さっさと出てこい!!」
キョウヘイの声が洞窟に虚しく響いた。
その直後。
「……確かに隠れるのは申し訳ないよね。……それじゃあ、正体を教えてあげるよ」
その言葉から直ぐにそう遠くない距離(恐らく少しだけ離れた場所にある岩陰あたり)から足音が響いた。無機質に近く、無知にも近く。それでも、機械のような一定のペースを保ってこちらへ向かってくる。
そしてその姿がゆっくりと露になった――。それは……ナチュラルだった。
「ナチュラル……どうしてここに?」
「二年前を思い出してね……。ここは相変わらずポケモンが多い、いいところだ……」
ナチュラルはそれだけを言って、帽子を深く被り直した。
「キョウヘイ、君には『夢』があるか?」
「……夢?」
ナチュラルが急にそう言ったので、キョウヘイは思わず聞き返した。
「そう、夢さ。……かつて二年前、トウヤという少年にも夢について尋ねた。彼は笑って頷いたよ」
「夢か……。確かに俺にも夢はある。大きい夢で驕ってるかもしれないけど……それでも達成したい、夢が」
「……君は似ているな。彼に……」
「そこまで……似ているのか? 俺は、トウヤさんに」
キョウヘイの言葉に、ナチュラルは頷いた。
「ああ。君は生き写しじゃないか、ってくらいに似ているよ。ほんとうに。君ならば、このイッシュを再び救う存在……そうさ、英雄にでも慣れるかもしれない」
「ナチュラル。……お前、プラズマ団の、王、だったって?」
「……ああ、そうだ。隠すつもりはなかったのだが」
ナチュラルは申し訳なさそうに、うつむいて言う。「誰から聞いた?」
「ホワイト・プラズマは知っているよな?」キョウヘイは続ける。「その人から聞いた。なんだか女神みたいな風貌だったけれどな」
「……! 女神に会ったのか?!」
ナチュラルは『女神』というワードに反応したらしく、キョウヘイの肩をつかんだ。
「そうだ」
「そうか。……女神に、会ったのか」
キョウヘイはナチュラルの足元を見た。連れ歩きをしているのか、ゾロアが彼の足に頬を擦りつけていた。そのゾロアを見る限り……彼には敵意が感じられなかった。
「……なぁ、ナチュラル。お前はいったい何者なんだ?」
「――それは、今は。言うことは出来ない」
ナチュラルはそれだけを言い、ゆっくりと歩いてどこかに向かっていった。
「結局は情報ナシか……。そういえば、なんでここにいたんだろなあいつ?」
キョウヘイは少しだけ考えてみたが、結果としてその答えは浮かばなかったのでうやむやにしていった。
ナチュラルが居た場所には、洞窟の出口と思われる場所だった。なぜそうかと言えるかといえば、そこから陽射しが漏れていたからだ。
「よし、行こう」
そしてキョウヘイはその穴の中に足を踏み入れた。
フキヨセシティ。
町の西側には飛行場がある。かつては荷物のみを運ぶ貨物機だけが運行していたのだが、現在はヤマジタウンとここを旅客機が繋いでいる。
そこにキョウヘイはやってきた。
「うぅ……、なんだか少しだけ寒いな……。チャオブー、ルカリオ、お前らはどうだ? モンスターボールの中は暖かいか?」
キョウヘイが少しだけ震えながら、自身の持つモンスターボールに話しかけた。すると中もそれほど変わらないらしく、チャオブーもルカリオも震えながら頷いた。
「あはは、だよなぁ。……とりあえずポケモンセンターを探さなくちゃな」
というわけで町の探索をしようとしたその時だった。
「あれ、キョウヘイくんじゃない?」
その言葉に思わずキョウヘイの顔は強張り、行動を停止した。そして――少しの沈黙のあと、ゆっくりと振り返った。
そこにいたのはベルと――もう一人隣には若々しい白衣を着た女性が立っていた。
「ハーイ! 直接会うのは初めてかな、キョウヘイくん!」
「あの……どちら様……?」
「あぁー、そっか。えーと、私の名前はアララギといいます。これなら……何と無く解るかな?」
「あ、アララギ博士……」
「そっ、私がベルに頼んで、あなたにポケモン図鑑とポケモンを授けた張本人、ってわけ」
アララギ博士は小さく微笑んだ。
「しかし……もうフキヨセ? これじゃ、あと1ヶ月、いや2週間くらいでイッシュリーグ制覇も有り得るんじゃない?」
「そうですか?」
「そうよ、ベルだって3ヶ月くらいかかったのに」
「あの時は街のあれも違ってたじゃないですかぁ。ジムの場所も違ってましたし」
「そう言えばそうだったかしら……」
アララギ博士とベルの話にキョウヘイは少しだけ置いていかれていた。何故ならば、彼女たちが話しているのはキョウヘイが知るはずもない二年前の出来事だからだ。
「……あの、何を言ってるのかさっぱり解らないんですが……」
キョウヘイは話に割り入るように話した。しかし、そこまで効果を発揮しなかったようで二人の会話が終わることはなかった。
「……何処ぞの井戸端会議だ?」
その状況に思わず呟いたが、それでもこの状況を打開する策は見つからなかった。
どうすればよいか? キョウヘイは頭の中で考えることしか出来なかった。
「なにしてるんですか、アララギ博士?」
それを止めたのは意外な人物だった――少なくともキョウヘイにとっては。
「……あ、フウロちゃん!」
ベルは仲が良いらしく、その女性の名前を呼んだ。
そこにいたのは水色の恐らく彼女専用だと思われるパイロットスーツを着た女性だった。外に出る仕事なのか、肌はすっかり小麦色に焼けていた。
「博士! いったいいつ出発なさるおつもりです? せっかく博士がソウリュウシティに向かいたいというから、ジムリーダーの仕事を休んでまで待っているというのに!」
「あ……そうだったわね……」
「そうだったわね、じゃありません! なるべく早くタワーオブヘブンの調査を終えてくださいよ!」
そう言うと彼女は足早に元来た道を辿って帰っていった。
「やれやれ……彼女のあれは二年経ってもなおらないものねぇ」
そう言ってアララギ博士は振り返るとキョウヘイに向けて、こう言った。
「そういえばキョウヘイくん。……ポケモン図鑑完成のためには様々な場所に向かってみるのもいいわよ。……ちょっとこの街の北にあるタワーオブヘブンに行ってみない?」
博士の笑顔は輝いているようにもみえた。
タワーオブヘブンは名前の通り、『天国の塔』と呼ばれるもので、死んだポケモンを祀り弔い、無事に天国へ行けるようにと建てられた塔である。世界では同様にカントーにもあるらしい。世界的にも鎮魂は文化として成立しており、イッシュ地方ではこの塔でそれが成り立っている。
「……けっこう高い塔ですね……」
「そりゃ、天国の塔と言うくらいだからね。最上階じゃ鎮魂の為の鐘があってね、それを鳴らすと鳴らした人間の心でその鐘の音が違うとも言われてるのよ」
アララギ博士がそう言っていたが、ふとキョウヘイはベルが小刻みに震えているのが目に入った。
「……もしかしてベル、怖がってる?」
「べ、別に怖くなんかないですよっ! ……さ、さぁ! 上にいきましょう!!」
「えぇ……そうね」
アララギ博士はなんだかベルの行動に笑いを堪えていた。笑いたくなる気持ちは解るが、せめてもう少し上手に欺くべきじゃないだろうか?
キョウヘイはそんなことを思っていたが、それがアララギ博士やベルの心に届くこともなく、二人は上に登っていったので、キョウヘイもその後を追った。
「ここも昔はヒトモシたちによる送り火が綺麗だったんだけど……、二年も経てば色々と変わるものねぇ」
アララギ博士は沢山のシャンデラの群れにも怯まずに登っていった。ベルや流石のキョウヘイもこれには驚いてしまい、一気に登っていくことはなかった。
そして、三人はタワーオブヘブンの頂上へと辿り着いた。