サザナミタウンは絶好のリゾート地として知られる。その理由は単純明解。――夏でも冬でも海水浴が出来るくらい外気温が安定しているところにある。
「あつい……冬だからもう少し涼しいもんだと思ってましたよ?」
「やっぱりサザナミはこうじゃなくっちゃなぁ!」
「アララギ博士いつの間に水着の上に白衣を着るということをしてるんですか?! ちょっとびっくりじゃ済みませんけど?!」
なんとアララギ博士は誰も気付かないうちに、水着への早着替えをしていたのだった。……まさかさっきのポケモンセンターに寄ったときに着替えたとでもいうのだろうか。ならばそれはそれですごいことなんだが。
「……まぁ、ここに来た理由も特にないからね、少しだけ休んだら先を急ぎましょ」
「ほんとにただのリゾート地なんですね、ここって」
キョウヘイが呆れ顔で呟いた。しかし……サザナミという町はキョウヘイは一度だけ来たことがある。それは五年程前、キョウヘイたち家族がリゾートとしてここに来たときのことだ。
【五年前】
「キョウヘイ、どっかお父さんと遊びにでも行くか!」
キョウヘイの父親、コウジは気紛れな男だった。どれくらい気紛れかと言えば、散歩しに行くと言ってから一週間も帰ってこず、行った場所を尋ねたらバトルサブウェイで入り浸りになっていた、という程。
「……どこに行くの?」
「そうだなぁ……じゃあサザナミはどうだ? あそこはリゾート地として有名だし、なにしろ気候が安定したいい場所だからな!」
その言葉に幼い頃のキョウヘイはワクワクしたもので、はっきりと頷いた。
「さぁ、キョウヘイ。ここが、サザナミタウンだ」
キョウヘイはようやくたどり着いたその場所を見て、歓喜に湧いていた。
初めて来た、はじめての場所。
ワクワクが止まらないのも、分かることだろう。
「キョウヘイは何処へ行きたい? 好きな場所を連れていってやろう」
「ちょっとあなた。荷物は……?」
「ああ! ちょっとキョウヘイと海に行ってくる! テキトーに頼んだ!」
がっはっはと豪勢に笑いながら、コウジはキョウヘイを連れて海へ駆け出していった。
もう、略す気しか起きないので一言で述べると、キョウヘイは迷子になっていた。しかも、海の上で。
「お父さん……どこ?」
キョウヘイはもう涙をこらえるのに、精一杯だった。
幼い少年にとって、それはどんなことより怖かったことだろう。
しかし。
「どうしたの?」
そこに――救世主は現れた。
そこにいたのは、ガブリアスに乗った女性だった。
「……大丈夫?」
その言葉を聞くこともなく――キョウヘイは安堵のあまり、気を失っていた――。
「キョウヘイくん?」
「あ、はい! どうしました?」
「どうしましたじゃないわよ。急にぼおっとして」
「あ、すいません……暑いからですかね?」
「暑いからですかね? じゃないわよ……、まあいいわ。向かうわよソウリュウシティに!」
そして、三人はサザナミタウンを後にした――。
キョウヘイたちは、カゴメタウンにたどり着いた。高い壁で周囲を囲み、夜は誰も外から出てくることもない、とても変わった風習をもつ町である。
キョウヘイは一日の疲れをとるため、ポケモンセンターへと入った。もうすっかり夜になってしまったからである。
「いらっしゃいませ、ポケモンセンターへようこそ!」
ジョーイさんの隣にはイッシュポケモンセンターのマスコットキャラクター、タブンネが笑ってキョウヘイたちを歓迎してくれた。タブンネは今やポケモンセンターで大人気だが、昔は高い経験値が手に入るとしてポケモントレーナーに倒されてしまっていた。
それを保護すべく、ポケモンセンターを運営するジョーイ家は『瀕死ポケモン保護条約』レッドリストにタブンネを登録し、瀕死になったら優先的にポケモンセンターで保護することとなった。
保護されたタブンネはそのままジョーイさんになついて、真似っこをしたらポケモンセンター自体に人気が出るようになり、タブンネはポケモンセンターでの恒久的保護対象となった――。
「……っていう都市伝説があってね、タブンネは昔よりはトレーナーに討伐されることはなくなったそうよ」
「へぇ……そんなこともあったんですねぇ……」
キョウヘイとアララギ博士は宿泊施設内に設置されてある休憩スペースでそんな話をしていた。それぞれミックスオレを飲みながら。
「……さて、そろそろ寝ましょうか」
「アララギ博士、ひとつ聞きたいことがあります」
「……なに?」
「アララギ博士は何か隠しているんじゃないでしょうか? 例えば……二年前のこととか」
「二年前、何があったか……知ってるの?」
「いえ、知りません。……でも、何かあったんだとは思います」
「来なさい。部屋で話してあげる」
そう言って不意にアララギ博士は立ち上がり、部屋のある方へ向かっていった。それを見て少しだけ遅れてキョウヘイも歩いていった。