ベルとトウヤは北にある街、サンギタウンへと向かおうとしていた――。
「……ところでキョウヘイくん。ジムって解るよね?」
「解りますよ。ジムバッジを八つ集めればポケモンリーグに挑む事が出来るってのも」
「まぁ、それくらいは解って当たり前、ってところもあるけれど。そこまで言うならリーグ制覇する気も?」
ベルの言葉に、キョウヘイは頷く。その目は真っ直ぐと透き通っていた。
「さっすが、博士が見込んだ子だねっ! ……やっぱりすごいなぁ。まるで二年前のトウヤみたい!」
「トウヤって」キョウヘイはその単語に烈火の如く反応した。「プラズマ団を倒したっていうあの?!」
「そ、そうだよ!」
ベルはなんとなく「しまった」とでも言わんばかりの困った表情を見せた。
しかしそんなことはキョウヘイには解っていないようだった。
「と、トウヤさんって凄いですよねっ!! プラズマ団を倒して四天王を瞬殺しちゃって、二年前に急に行方不明になっちゃうまで世界一のポケモントレーナーって呼ばれて!!」
「……彼が好きなんだね?」
「はい! もうサイコーですっ!!」
「そうか、ならば僕も全力をもって戦わなくちゃな」
不意に隣から声がかかった。
そこにいたのは――
ネクタイをつけた、まだあどけなさが残る少年だった。
少年は、驚くキョウヘイの顔を見て――笑った。
「なるほど、確かに似ているね。彼に」
少年は呟いて、小さく頷いた。その光景にキョウヘイはまだよく解らない状況でもあった。
「……久しぶりね、チェレン。実際に会うのは……二年ぶりかな?」
「あぁ。眼鏡……僕と同じカラーリングだね。一瞬気付かなかったよ」
チェレンとベルは短い会話を交わす。
「えっ、もしかして……チェレンさんとベルさんって……?」
「二年前……トウヤという少年がイッシュに蔓延っていた組織『プラズマ団』を解体させた。そこまでは知ってるだろう?」
チェレンの言葉にキョウヘイは頷く。
「……その彼と共に一緒に戦ったのが僕らさ。……尤も彼よりかはあまり注目こそされなかったけどね」
「……、」
「さて、キョウヘイ。僕はこの前にジムリーダーになったばかりだ。しかも……君が初めての挑戦者。ジム制覇の厳しさ……僕が教えてあげよう」
そう言ってチェレンは踵を返し、ジムの形には似つかわしくない小さな建物へと入っていった。
「……よし、」
そして――キョウヘイもそれを追って入っていった。
「……え?! もう入っちゃっていいの、キョウヘイくん?! 準備とかは?」
「準備なんていりませんよ、このポカブだけで充分です」
そう言って、キョウヘイはジムの扉を思い切り開け放った。
ジムの中は外見通りの広さだった。
しかもジムトレーナーが一人いるだけ。
さすがは最初のジム、簡素である。
「さぁさぁ、一気に行っちゃうか!!」
キョウヘイは先程の感じとは異なって張り切っていた。
その光景を見て、ベルは少し可笑しくなってしまった。
「オース、未来のチャンピオン! ヒオウギシティジム初挑戦者ってわけだな!」
ジム入口の脇にある『イッシュ地方公認ジム』の証である石像の脇に眼鏡をかけた細身の男がいた。
「はい!」
キョウヘイは男の言葉に答える。
男は、キョウヘイのその声に少しだけ押されてしまったようだった。
「おぉ、威勢がいいねぇ! それじゃ色々教えてやろう! このヒオウギシティジムはノーマルタイプのジムだ! 格闘タイプがいれば楽勝だが……、生憎このあたりでは格闘タイプは見つからない。ノーマルタイプは万能だが、特殊技で攻めるんだ!」
「特殊技、なるほど」
男の言葉にキョウヘイは短く呟き、そしてまた進んでいった。
すると、目の前にいたのは――今までのトレーナーとは明らかに目の色が違う短パン小僧の姿があった。
「ここを通すわけにはいかないのさ。……目と目を合わせたポケモントレーナーがお互いにする事……、なんだか解るよね?」
その言葉にキョウヘイは頷いて、モンスターボールを投げ出した。外から出てきたポカブも元気一杯な様子だった。
「君のポケモン、やる気満々だね! ……だけど、僕だって負けないよ!」
そう言って短パン小僧はマリルを繰り出した。
「マリル……水タイプだから……炎タイプのキョウヘイくんのポカブには相性が悪い……!!」
脇で傍観していたベルは二人の状況を観察していた。
確かにマリルは水タイプ。しかもその特性『あついしぼう』は炎タイプには苦しいものだ。
「そんなこと…… 解ってる!!」
そしてその言葉とともにポカブはマリル向かって駆け出した。
短パン小僧は考えていた。
いきなり、キョウヘイのポカブが突っ走ってきたからだ。
無計画なのか。それともなにか作戦があるのか。
だが、短パン小僧はそんなことを考えるのはやめた。
「マリル! 『まるくなっ』て、『ころがる『!!」
マリルはトレーナーの指示通り、丸くなり――そして転がった。
ポカブは走る。マリルは転がる。
そして――ただキョウヘイは笑うだけ。
「今だ、ポカブ。ジャンプするんだ!!」
その言葉通り、ポカブはマリルを超すほどのジャンプをする。
「な、なんだって?!」
「――そして、『ひのこ『!!」
ポカブはその命令どおりに火の粉を放った。
マリルは予想外の場所からダメージを貰ったためか、混乱に陥っていた。
「そして、ポカブ、『たいあたり『!!」
ドカッ!!
衝撃と共に、マリルは倒れた。戦闘不能。戦いの終了を意味していた。
「は、ははっ。つえーな、あんた」
「いやーまさかうまくいくとは」
「えっ?! まさか今のって」
「ノープランだよ。何にも考えてなかった」
「……、」
「ま、うまくいった。それはよかったよ。んで? ジムリーダーってどこにいるの?」
「ここの……突き当たり」
「そっか。ありがと!」
そう笑ってキョウヘイはジムの奥へと走っていった。