アララギ博士の部屋はポケモンセンター二階部分の北側にあった。他の町のポケモンセンターなら幾分景色が良いものだろうが、生憎この町は北側と東側が壁に接している(この町は高台があるため、そのような凸凹地形となっているのだ)ため景色は愚か太陽光がうっすらと入るくらいなので、昼間でも電灯をつけなければいけない。
「……二年前、プラズマ団がこのイッシュで何をしたのか、覚えているかな?」
「確か『ポケモンの解放』を謳って人間とポケモンを引き離し、すべてのポケモンをプラズマ団の手にしようとした、ですね」
「そう。だけど、そのときリーダーだったN……あなたはナチュラルと呼んでいた、あの子ね、と七賢人の主格で実質プラズマ団のトップだったゲーチス、この二人はその当時捕まえることができなかった。……まったく、イッシュ警察のミスで国際警察の登場も遅れて、挙句リーダーも行方を眩ますなんて笑っちゃうわよね」
「……つまり、捕まえることはできなかったんですか?」
「そういうことになるわね。仕方ないことかもしれない。……しかし、その数ヶ月後、恐れていた事態が起きてしまった」
「……それは?」
「ジャイアントホールの謎の凍結現象」
アララギ博士は端的に述べた。
「瞬間的に水分が凍るととても堅い氷ができるんだけど、ジャイアントホールはそれが完成していた。確かにジャイアントホールはイッシュの北側に位置するから雪が降っても、水に氷が張るのもそれほど間違いではない……当時のポケモン協会はそう判断を下した。しかし……実際は違ったの」
「……というと?」
「いくらイッシュの寒い場所だからって水全てが凍ることはほぼ有り得ないの。まるでその場所全体を冷凍庫に保管したような、そんな凍り方する場所イッシュには存在しないわ」
アララギ博士の話は続く。
「そして、ポケモン協会は再調査を開始し、最終的に一つの結果を出した」
「それは……?」
「あれは自然災害ではなく、ポケモンによる災害だ、とね」
「ポケモンによる災害……?!」
その言葉にキョウヘイは驚愕の表情を浮かべた。
それもそのはず。
「知らないのも当たり前ね。このことはポケモン協会で打ち止めになっている。箝口令も敷いていたから情報が漏れることもなかった」
さらに、とアララギ博士は話を継ぎ足していく。
「これで被害にあったのは……ジャイアントホールだけじゃない」
「他に被害にあったものがいる、と」
「そう。例えばどのようなのが居ると思う?」
「……なんでしょうね」
「人間よ」
アララギ博士はゆっくりと呟いた。
「それも二人」
遅れて、人数を提示した。
「二人……、まさか――!!」
「そうよ、そこで犠牲になった人間、その二人の名前はトウヤにホワイト。どれも、かつてイッシュを救った伝説のトレーナーよ」
そのころ、プラズマフリゲート船内。
「……アクロマよ」
アクロマは廊下を歩いていると不意に後ろから声がかかった。誰かと思ったが……、彼を呼び捨てにするのはあの人間しかいないことは明らかだった。
「なんでしょうか?」
振り返って――恭しく笑いながら――答える。
「プラズマ団、次は何をする?」
「あなたの言ったとおり、次は遺伝子の楔を回収に行きます。そのあとセイガイハ、ポケモンリーグからのルートを遮断します。そして、ジャイアントホールにてイッシュ氷河化実験を行います」
「……どうだ、成功しそうか?」
「どうですかね。何せ科学者ってもんは探求心もとにしてやるものですから。成功すれば、科学者としては嬉しいものはありません」
「そういえば海底遺跡は?」
「あれはですね……、あなたのとおり、あれはキュレムと対を為す巨大なエネルギー貯蔵庫でした。ですが、二年前にゲノセクトを復活させたことによって、一回エネルギーをカラにしたらしいですね。……とはいえ心配ですから一応プラズマフリゲートで回収するつもりですが」
「……素晴らしい、ではこれからもアクロマに任せる。よろしく頼んだ」
「ええ、解りました。ゲーチス様」
そして二人はお互いに笑みを溢し、逆方向に歩いていった。
そして、カゴメタウンでは朝を迎えていた。
「……さあ、行きましょうか」
「はい!」
「あら、元気ね?」
「トウヤさんにホワイトさんがそんな目に逢ってるなら尚更……ですよ」
そしてキョウヘイは大きな一歩を踏んだ。
カゴメタウンの高台……それを眺める一匹のポケモン、ケルディオもそれを見てキョウヘイたちの向かう先へと駆けていった。
次の目的地は……ソウリュウシティ!!