「……N様はあの二人に尊敬しつつも、決して関わってはならないとしていた。住む世界が違うことを、解っていたんだろう」
デウスはただ淡々と述べた。それが事実で、変えることは出来ないのだと言いたかったのかもしれない。
「N様はこのたった今でも二年前の事を悔やんでいる。……それほど辛いことだったのは私にだって解る。あの頃の落ち込んだ様子はとても見てられなかった」
「……そんなことが」
「自分の理念が父に作られた理念と解り、更に唯一出来た友でさえ失った――その辛さが解るか?」
デウスはそう言ってキョウヘイに微笑んだ。
ところは変わり、ヒウンシティ。
ジムリーダーのアーティが誰かに電話をしていた。
「……はい、ですから今こそジムリーダーホットラインで全員を集合させ……!」
『……そうしたいのは解る。戦力を集めるにはそれがいいからな』
「ならば!」
『アーティくん。シズイが行方不明になっているのは知っているかね?』
「……シズイが?!」
『あぁ。それもプラズマ団に捕まったとされている。即ちこちらの戦力は七、対して向こうの戦力は未知数、これは危険だとは思わないかね?』
「……要は仲間を増やせばいいんですね?」
『欠員を補うくらいはな』
そして相手側から電話は切られた。
相手側とはイッシュ地方のポケモン協会理事のことだった。
電話を切られ、アーティは直ぐに連絡をする。
短い呼び出し音のあと、繋がって相手の声が聞こえてきた。
「もしもし、アロエねえさん?」
「アーティか。あんたから連絡なんて珍しいね」
電話をかけたのは元シッポウシティジムリーダーのアロエだった。彼女は研究を優先し、ジムリーダーの職を辞した。それが二年前になる。昔はよくアロエの元に行ったものだが、その後からはあまり行かなくなっていた。
「二年も来なかったから心配してたんだが……、その感じじゃ元気そうだね」
「ただ、今回はちょいと大きな問題を抱え込んじゃってね」
「……私ゃ今はただの研究者だよ? そりゃ二年前まではジムリーダーとしてトレーナーと戦ったかもしれないけどさ」
「……実はシズイがあっち側に捕まってね。彼を助けつつ、そいつらを倒そうかと思ってるんだ」
「……誰だい?」
アーティはアロエの問いに静かに答えた。
「プラズマ団、だよ」
キョウヘイとベズはデウスとともに行動を開始した。
「しかしキョウヘイ、俺は信じられないな。こいつがいいプラズマ団だとは?」
「信じてくれなくとも構わない。私はただ……N様を助けてやりたいだけなんだ……」
「……まぁ、目的が同じってことならしゃーねぇな。共同戦線、って形だな。それでいいか?」
ベズの言葉にデウスは頷く。まだベズ自体デウスを信じていないのが理由の一つでもある。
「この先には……確かパスコードを持っている団員がいるはずだ」
「お前は知らないのか?」
「私が持っているのはパスコードを入力するためのカードキーだけだ。あの先にはゲーチス様とアクロマとかいう科学者の部屋があってな……。今は形だけアクロマがプラズマ団のトップになっている。しかし、」
「影で操っているのがゲーチス……?」
そういうことになる、と呟きデウスは頷いた。
「……しかし、ゲーチスの目的がキュレムを使ったイッシュ征服なら少し無理がある」
「なんだ?」
「あの海底神殿だ」
キョウヘイは足元を指差した。
「……あれはなんのために使う?」
「あぁ、あれは……」
デウスがその質問に答えようとした、
その時だった。
突如、床が揺れだし始めた。
「……な、なんだ?!」
キョウヘイは(他の二人とは比較的)冷静に近くの窓から外を眺めた。
そこに広がっていたのは――氷の世界。
キョウヘイはそこであることを思い出し……結論を導いた。
「ここが……ジャイアントホール……!」
ジムリーダーズホットラインというものがある。
それは、緊急時にジムリーダー全てをその一本の電話(ホットライン)のみで呼び出すことが出来る特殊回線のことをさす。
今までそれが使われたのは僅か一回、二年前にプラズマ団によるイッシュ征服を阻止するためな用いられた。
そして今――二回目が発動しようとしていた。
「コールナンバー5022、ヒウンシティジムリーダー、アーティだ。ジムリーダーズホットラインを使うのは実に二年ぶりだが……それが何を意味するか解るよね」
アーティは一息の余白を置いた。
「ジムリーダーズホットライン発動により、イッシュの全ジムリーダーを呼び寄せる! 場所はジャイアントホール、そして目的は……セイガイハジムジムリーダーシズイの奪還とプラズマ団の完全壊滅だ」
最後になるべく早く頼むこれはイッシュの危機だ、とも追加してアーティは電話を切り、直ぐにある場所へと向かった。
そして、イッシュのジムリーダーズも続々とジャイアントホールへと向かっていた。
ある町では、毒使いのジムリーダーがライブを全て中止させジャイアントホールに向かい。
またあるジムリーダーはファッションショーを途中で降板するに至った。
様々な仕事を抱えた彼らも、ジムリーダーであることには変わりはない。
そして、イッシュのジムリーダーたちが一堂にその場所にたどり着いた――!!
「何年ぶりかな。こうしてジムリーダーが全員集合するのは?」
「確かシズイさんのジムリーダー承認試験の頃だから一年半前でしょうか?」
「あたしがジムリーダーになってから初めてのだから……正直どうすればいいのやら」
「自然体でいいのよ。ジムリーダーの目的の根底はイッシュの平和を守ることにある。それを緊張で全力が出せないなんてダメじゃない?」
「それはその通りだ。……そういえばチェレン、この時間はトレーナーズスクールの授業があるのでは?」
「そうだったんですが、無理いって自習にしてもらいました。ジムリーダーズホットラインを休むわけにはいきませんからね」
「ふむ、それはそうだ。ところでアーティ、説明を頼む」
七人のジムリーダーが個々に話を交わし、最後にシャガがアーティに話を切り出した。
「プラズマ団は二年前に確かに解体されました。しかしその後、再編成され再びイッシュの脅威となろうとしています。これは、ジムリーダーとして戦うべき存在と思い、今回のジムリーダーズホットラインを呼び出した理由として……」
「なるほど、そこまで聞けば解った」
シャガは小さく頷いた。
「……して、お前が言うプラズマ団とはあれのことか?」
シャガが上を指差し、アーティもそれに従うとそこには巨大な帆船が浮かんでいて、今にもここに辿り着こうとしていた。
それを観てアーティは大きく頷いた。