「ゲーチス様、フリゲートに侵入者が数名……それと、幹部のデウスが裏切りました」
ゲーチスの部屋で一人のプラズマ団員が告げた。しかし、その言葉にゲーチスは慌てることすらなかった。
「幹部はもともとN派でしたからね……。いつ裏切るかも解らない状況だったわけですよ。……ということは侵入者はNに味方する人間、ということになりますかね?」
「はい、一般トレーナーだとは思われます。年齢は十四〜十七程度かと……」
その言葉を聞き、ゲーチスは眉を潜めた。
「……またトレーナーが……私のことを邪魔しにきたというわけですか……!」
「如何なさいますか?」
「もうジャイアントホール上空に着いているのです。こうなれば……キュレムの力を使う外ありません……!!」
ゲーチスの言葉にプラズマ団員は頭を垂れた。
その頃、キョウヘイたちはパスコードとカードキーを手にし、ロックを解除した。
「……なんだこれは……」
ロックされた扉の先に広がっていたのは、巨大な水槽だった。中は薄緑の液体で満たされており、さらにその中でポケモンがぐっすりと眠っていた。
「これがキュレムだ……。イッシュ最強のドラゴンポケモンとして伝えられたとされている……」
デウスが呟くと機体全体を揺らすような大きな揺れが起こり、そして停止した。そのあとは浮揚感が感じられなくなった。
「……到着したのか?」
「その通りですよ、キョウヘイさん」
キョウヘイはその声を聞き、声の聞こえた方へ振り返ると、
「アクロマ……!」
「こうしてちゃんとした場で会うのは初めてですかね。何せ今までは一研究者として会っていたものですから」
でも。
「今日はちゃんとした名前で名乗れますね。わたくし、アクロマといいます。プラズマ団の長を務めております」
そこでキョウヘイは初めてデウスが嘘をついていないことを悟った。
「……俺は信じていたんだぞ、あんたを……」
「おや? それは心外ですね」
キョウヘイの言葉にアクロマは解らないとでも言いたげな表情を示す。
「正直あんたの話はよく解んなかったけど……、それでもあんたのこと嫌いじゃなかったよ」
アクロマは一笑に伏した。
「……そうですか」
ですが。
「ここは戦場、敵が味方に、味方が敵になることだって充分に有り得るんですよ。……それを理解してない、あなたの方が悪いといいますか……。まぁ、ここは多めに見ましょう。今はキュレムのパワーを見るのが先です」
バシュ、と小さく音が響き、キュレムが入った水槽が水ごと落ちていることでようやくキョウヘイたちは先程の音がキュレムが入った水槽のハッチを開けたものということに気付いた。
「……何をする気だ……?」
「私を倒したら…………教えてあげましょう」
そしてアクロマはモンスターボールを投げ、レアコイルを繰り出した。
ジャイアントホール。
かつて隕石が落ちてきたため、今はこのようなクレーターになっている。クレーターの中も自然に緑地されている自然豊かな場所だ。
ゲーチスは着陸したプラズマフリゲートから降り立ち、息を吐いた。
「キュレムの配置、完了致しました」
「御苦労様です。……さてダークトリニティ、」
ゲーチスがその名前を呼ぶと一瞬で目の前に三人の人間が現れた。
彼らは孤児として育てられ、ゲーチスを親として慕っていた。そしてゲーチス自身も彼らに関してある一定の信頼をもっていた。
だから、ゲーチスは重要な任務に関しては普通の団員ではなく、ダークトリニティに任せていた。ゲーチスによる信頼からだろう。
「ダークトリニティ、遺伝子の楔をここに」
「……、」
何も言わず、それを差し出す。
「そしてあとは……!」
ゲーチスは立ち止まり、目の前にあった小さな洞窟に入っていく。洞窟内部には……何もなかった。
一番奥にキュレムが居る以外は。
「キュレムの力を解放し……ゼクロムとレシラムの力を手に入れる……!」
ゲーチスが遺伝子の楔を天に掲げた。
その時だった。
「そうはさせない……っ!!」
ゲーチス目掛けてエネルギーの咆哮が放たれた。
突然の事態だったにも関わらず、ササンドラのりゅうのはどうでエネルギーを無力化し、ゲーチスは微笑した。
「あなたなら来ると思ってましたよ。……N」
「……解っていたのか」
ゆっくりとゲーチスは振り返る。
洞窟の入口に立っていたのは……ゼクロムを従えたナチュラルだった。
「……何故止めようとするのです、N?」
ゲーチスは訊ねる。
「あなたのために世界を滅ぼすなんて出来ない……!」
だから、阻止する。
それがナチュラルが考えた、せめてもの罪滅ぼし。
「……所詮バケモノはバケモノ!! 人間に……私に敵うわけがありません……!」
そう言ってゲーチスは腕を掲げた。
取り出したのは――遺伝子の楔。
「――まさか?!」
「おや、解ってなかったのですか? このキュレムの真の力を完全に解放するには……」
ゼクロムまたはレシラムが必要だということを――!!
空が光った。天井があるはずなのに。
ゼクロムがその意志とは無関係に行動する。否、行動させられる。
「ゼクロム、何処へっ」
ナチュラルが問いかけるも、ゼクロムは引き摺られるようにキュレムの方へと近付いていく。
音もなくゼクロムは――浮いた。謎の力に恐れ、慌てる伝説。まるで、手を捻られた赤子のようだった。
「……ゼクロム……!」
「感謝しますよ、N。……いや、ナチュラル。あなたのお陰でキュレムの力を解き放つことが出来るのですからっ!!」
ゼクロムは小さく丸み込まれ、石と化した。そしてキュレムに真っ直ぐに近付き――
やがて、吸収された。
「あはっ、あははははは!! 二年前の伝説も所詮この程度! キュレムには敵わない!」
ゲーチスは高らかに笑う。
「さて……次は邪魔者を……おっと、ならどうせ動けないこちらからいきましょうか?」
ゲーチスはゆっくりと移動し、立ち止まった。そこにあったのは、トウヤとトウコの氷像。中にはまだトウヤとトウコがいるはずの――像。
「完全に……破壊してしまえ。サザンドラ、『はかいこうせん』!!」
「やめろぉぉ!!」
そしてサザンドラから閃光が放たれた――!!
場所は変わり、アクロマVSキョウヘイ。
「……なかなかですね」
「そっちもな」
アクロマが一体のみのバトルと提示し、お互いのポケモンはあと一撃で瀕死という辺りまで追い込まれていた。
「あなたのようなポケモントレーナーに会えて私は良かったと思ってます」
「……何を急に」
「ポケモンの力は何を基準とするか、そのポテンシャルは何か? 私がずっと問い続けてきた難問。普通のポケモンには引き出せない……トレーナーとポケモンだからこそ引き出せる力の正体が知りたかった」
アクロマはそう言ってレアコイルをモンスターボールに戻した。
「……まだ、勝負はついてないぞ!」
「私の負けですよ。そのポテンシャルに気付けなかった……私の、ね」
そう言ってアクロマは踵を返した。
「最後に一つだけ。海底神殿はもう使い物になりませんよ。使えるほどのエネルギーはないはずですから」
「……なら、何故あれを持ち出した?」
「あれはあるポケモンを用いて自然を操るというもう一つの力があったからです。……研究者として、研究してみたくはありませんか」
「……良く解らんが、お前はもうプラズマ団ではない、と」
キョウヘイが訊ねると、アクロマは肩を透かされたような、そんな笑い方をして、
「もともと私はプラズマ団ではないのでね」
そしてアクロマは去っていった。