二年後のあなたへ   作:natsuki

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第三十話 それぞれの未来へ

 

「……さて」

 

 キョウヘイはチャンピオンロードを抜け、ポケモンリーグへと辿り着いた。

 

「遂にここまで来たな」

 

 目の前にはトウヤが立っていた。

 

「……悪趣味ですね。自分だけそらをとぶですか?」

 

「10番道路側のチャンピオンロードが使い物にならなくなったらしいからな。……でも俺はそらをとぶでショートカットなどはしてないぞ?」

 

 キョウヘイはトウヤの言葉を半ば無視し、バッジケースを開けた。そこにはまだくすんでないバッジが八つ入っていた。

 

 

 

 

 ――あのあと、フリゲート内に捕らえられていたシズイを助けて、その直ぐ後にジムバトルを申し込んだ。急な話だったにも関わらず、シズイはすぐに了承した。

 

 バトルは三日後に行われた。それまでの間、キョウヘイはトウヤとトウコ、メイの監修のもと特訓に明け暮れた。勿論、途中から気配がなかった(逃げてたわけではない)ベズもその特訓を受けた。

 

「……そういやベズキョウヘイらは?」

 

「プラズマ団の尻拭いと言いますか、そういうのやってます。あいつの父親、国際警察なんですよ」

 

「そりゃ意外だな」

 

「たまに父親の調査書盗み見とかしてますけどねぇ」

 

「……ところでポケモンリーグに挑む挑戦者にチャンピオンから大事な報告だ」

 

「なんでしょう」

 

「チャンピオンには……油断するなよ」

 

「……僕がそんな油断するとお思いですか?」

 

「違う。そういう意味ではない」

 

 トウヤは反論したキョウヘイを遮る。

 

「……まぁ、実際に見ればいいだけか」

 

「へ?」

 

 その言葉も聞くこともなく、トウヤは去っていった。

 

 

 

 

 チャンピオンを見て、確かにキョウヘイは愕然とした。

 

「まさかあなたがチャンピオンだったなんて……」

 

「そんな畏まらなくていいよ! 肩の力抜いて!」

 

 そうと言われても彼女はチャンピオン。イッシュ地方の最強のトレーナーである。

 

 多少は畏まらないと礼儀作法上それはまずいものだ。

 

「それじゃ……お願いします!」

 

 そしてイッシュ最強の座を決める戦いが幕を開けた――。

 

 

 

 

『――今日は先日チャンピオンになられたキョウヘイさんの名前が冠せられたキョウヘイカップがここ、PWTで行われます! 観客の方にお話を聞いてみましょう。あ、あのっ、すいません~!』

 

 そこまで見てキョウヘイはテレビを消した。

 

 ポケモンリーグを制覇しチャンピオンとなったキョウヘイはヤーコンの協力のもと、キョウヘイカップを開催することにした。

 

 思えばたくさんのことがあった、とキョウヘイは追想していた。

 

 アララギ博士の助手、ベルからポケモンをもらったこと。

 

 初めてのジム戦、そしてナチュラルとの出会い。

 

 みかづきのはねで症状を治したり。

 

 海を渡り、プラズマ団との邂逅。

 

 ソウリュウシティの氷結現象。

 

 ジャイアントホールでの攻防戦。

 

 チャンピオンとのバトル。

 

「……思えば色々あったよなぁ」

 

 彼は考える。言われてみれば確かなことだ。彼は……もしかしたらそのために生まれたのかもしれない。

 

「キョウヘイ、開会式始めるよ!」

 

 ノックもなしにメイが入ってきた。

 

「め、メイ! そ……そうか、なら急がなくちゃな!」

 

 そう言ってキョウヘイは急いで部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 ある日。

 

「あら、キョウヘイどうしたの?」

 

「ちょっと出かけてくる」

 

 キョウヘイはそれだけを言って家を飛び出した。理由は二日前に彼に届いた手紙だった。

 

 ナチュラルからのもので、Nの城に来て欲しいとのことだった。

 

 

 ――あのあと、ゲーチスが全てを自白し、ナチュラルには罪がないことが証明された。

 

 

 七賢人も事実上の解体でエクス・プラズマは解散、トウコ・プラズマもナチュラルの帰還とエクス・プラズマ解散に伴いポケモン協会の管理下に措かれた。

 

 至って平和な世界。それは誰もが望んだ世界だった。

 

 しかし果たしてそうと言えるのか?

 

 キョウヘイは常にそんなことを考えていた。

 

 本当に全員が平和になれたのか? もう争いなんてないのか?

 

 そして彼はその答えを聞くために――チャンピオンロードへ向かった。

 

 

 

 

 その頃、トウヤ。

 

「……暇だなぁ」

 

「トウヤは帰ってからそればっかり言ってるよね……」

 

 トウヤとトウコがカノコタウンの端にある公園のベンチに座って話をしていた。

 

「にしても懐かしいよなぁ……。もう二年前になるのか……プラズマ団がゼクロムを捕らえようと、この辺りに来ていたのは」

 

「二年前、かぁ……」

 

 トウコは小さく笑った。

 

「……ねぇ、トウヤ。実はあなたにまだ言ってなかったことがあるの」

 

「なんだ?」

 

「実は私……未来から来たの」

 

 その言葉にトウヤは訳が解らなかった。

 

「な、何を言ってるんだ……? 冗談きついぜ……」

 

「正確には『あなたがプラズマ団に殺されてしまった』世界の二年後から来た。ハイリンクは知ってるでしょ?」

 

 その言葉を聞き、トウヤは頷く。ハイリンクとはイッシュの中心にある遺跡だ。辺りに不思議な力が働いていてたまにデルタマと言われるその力を濃縮したものが落ちているらしいのだが……。

 

「あそこは私の世界では大分解析が進んでいて、“自分が願う世界”に戻すことが出来る、というのが解っていた。……それで、私はそれを使った」

 

「……待ってくれ、話がついていけない。つまり君は……何者なんだ?」

 

「私は……」

 

 トウコは微笑み、そして答えた。

 

「私は、メイ。あなたの妹」

 

「まさか……っ」

 

「そんなこと信じられない、って?」

 

 トウコに言われて、トウヤは何も言えなかった。

 

「……確かにそうかもしれない。でも今ここにいることが事実。考えれば解るかもしれないけど、ならばどうしてカノコタウンに住んでいるのに私の家がないのか? どうして初めてなのにあなたのことを知っているのか、気付かなかった?」

 

 言われてみれば、証拠はたくさんあったのだ。いつでも違和感があると思えたのだ。

 

 しかし、トウヤはそれに気付かなかった。

 

「鈍感なのはこっちの世界でも変わらないなぁ、と思ったよ」

 

「……君の世界で俺は」

 

「ゲーチスとのバトルに敗れて死んだ……。そのあと私とチェレンとベルで倒したけど……、それでも忘れられなかった」

 

 トウコは笑うことはなかった。

 

 彼女もただの人間ではなかった。それなりの修羅場を潜り抜けた、トレーナーだったのだ。

 

「……ならば、君はどうするんだ?」

 

「私は帰るよ、元の世界に」

 

「……なんだと?」

 

「だって、私は別世界の人間だからね。さっさと元の世界に戻らないとこっちの世界に悪い影響を与えかねない。シンオウの影響がイッシュに色濃くあるのもそれが原因。だから私は還らなくてはならない」

 

「なんで君が還らなくてはならないんだ? いいじゃないか……一緒に居たって」

 

「その気持ちは有難いけど」トウコは笑った。「これ以上この世界に居たら帰りたく無くなっちゃうからさ。――お別れよ」

 

 トウヤはそれを言われ、何も答えられなかった。そして、一筋の涙を流した。

 

 トウヤは言いたいことがあった。だけど、それを言ったらトウコは本当に帰らなくなるかもしれない。

 

 けれど彼女だって家族がいる。世界がある。それを――一人の人間が引き裂いていいものなのか?

 

「それじゃ……ね」

 

 トウコは本当に申し訳なさそうに立ち上がり、その場を去ろう――

 

 

 ――として、トウコはトウヤの手にあるものを差し出した。

 

 

 それはモンスターボールだった。

 

「……これは?」

 

「私が連れてきたポケモン。幸か不幸かこれだけは世界が変わっても変わらなかったみたいね」

 

 モンスターボールの中にはアチャモが一匹入っていた。

 

「……それじゃ、今までありがとう、トウヤ」

 

 そう言ってトウコはトウヤの額に口付けした。

 

「……、」

 

「…………さよなら」

 

 トウコはそう言って立ち去った。トウヤはそのあとずっと涙を流していた。

 

 

 

 

 

「……そう、だからそろそろそっちに帰ろうかと思うんだ」

 

 ところは変わり、ヒウンシティのあるアトリエ。アーティストと思われる男が携帯電話で誰かと話をしていた。

 

『あんたが来るのは久しぶりだ。歓迎するよ』

 

 電話の奥からハスキーな、しかし優しい声が響いた。

 

「あぁ、久しぶりにいいものが作れそうでね。タイトルも既に決まってるんだよ」

 

『へぇ、どんなやつか気になるところだね』

 

「タイトルはね……『それぞれの未来へ』ってタイトルさ。なかなかにいいだろ?」

 

 男は笑って言った。

 

 電話を終えると彼は外に出た。隣ではジムの改築工事が進められていた。

 

 

 ――二日前、ヒウンシティジムジムリーダーのアーティは正式にポケモンジムを廃業した。だからここを大改装して新しいアトリエを作る計画だった。

 

 

「ここに……僕の作品を飾るんだ。そして、それぞれの未来へは……」

 

 そこまで言ってアーティは首を振り笑う。

 

「僕の未来はこんなものさ。……さて、頑張るか!」

 

 そう言ってアーティは再びアトリエ内に入っていった。

 

 

 

 

「……ここか」

 

 キョウヘイはチャンピオンロードにある洞窟の入口へキョウヘイってきた。

 

 彼は訊ねたかった。あることを。

 

 そして――Nはいた。

 

「ナチュラル」

 

「やあ、待っていたよキョウヘイ」

 

 ナチュラルは笑っていた。

 

 まるでこれからする質問を分かっているかのように。

 

「……今は平和なんだろうか」

 

「どうだろうね? 少なくとも僕はいま平和だと言えるけど」

 

「……まあ、そうだよな」

 

「……? 君は何を言いたいんだい?」

 

「おれは……今これが平和なのか解らないんだ」

 

「そうか」

 

 ナチュラルは笑って。

 

「……君が思えば平和なんだよ。僕が思っているから、今平和なんであって、僕が思わなくなればそれは平和じゃない。そもそも平和が生み出されるものじゃないんだよ。平和は、そう簡単には生まれないんだ」

 

「そんなもんなのかな」

 

「そんなもんさ」

 

 ナチュラルはそう言って近くの椅子に腰掛けた。

 

「まあ……君がそう思わなければ平和じゃないんだね。そのへんはトウヤと似てるよ」

 

「それは褒めていると受け取るぞ」

 

「ああ、そうかい」

 

 ナチュラルは立ち上がって、キョウヘイの方を見る。

 

「まぁ、これでさよならだ」

 

「は?」

 

「僕はまた旅を続けようと思う。プラズマ団のみんなもやっと普通に戻ってくれた。あとは……僕だけだ」

 

「……そうか。無事でな」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 少年たちは、それぞれの未来へ歩んでいく――!!

 

 




おわり
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