その頃キョウヘイは19番道路に着いていた。
なぜ彼はここにいるのか?
答えは簡単で、ジムをクリアしたあとベルにここに行ってみるよう言われたからだ。
「……誓いの岩……ねえ。なんともへんてこりんな岩だな」
そう言いながらキョウヘイは歩いていた。
誓いの岩。
それは伝説のポケモン、ケルディオが現れるとされる場所。
だが、今そんなものなどいない。
「……時間の無駄だったかな」
そう言って踵を返してサンギタウンへと戻ろうとしたとき。
ドドドドド……!!
不意に何かが走る音が聞こえた。
その方を振り返ると、そこにいたのは、
ムーランドだった。しかも何らかの理由で暴れているらしく。
それは、キョウヘイの方へと向かってきていた。
「間に合わない……!!」
キョウヘイは目を瞑った――。
「……?」
しかし、いくらたっても攻撃はこない。
気になったので目を開けてみると、そこにいたのはひとりの青年だった。年はキョウヘイより二つほど上に見える。
「大丈夫だったかい?」
青年はキョウヘイの方を見て、笑った。彼はどうやらポケモンを持っていないようだった。なのに、なぜ彼はポケモンを止めることができたのか?
「……おい、大丈夫かい?」
「あ、ああ……助けてくれたのか?」
「うん。なんだか昔会ったことあるような感じだったから」
そう言ってまた青年は笑った。
「ところで、あんた誰だ? ……俺はキョウヘイって言うんだ」
「僕の名前は、ナチュラル。ナチュラル・ハルモニア・グロピウス」
「へえ……変わった名前だな」
「よく言われるよ。……さて、そろそろいかなくちゃ」
「ああ、ありがとな」
ナチュラルはキョウヘイの言葉を背に、ヒオウギの方へ向かって歩いていった。
キョウヘイもひとまずサンギタウンへと戻ることにした。
その後ろから傍観している伝説のポケモン、ケルディオに気づかずに――。
◇◇◇
キョウヘイはタチワキシティへとたどり着いた。
タチワキシティは2年前、大規模なコンテナ街だったホドモエからその業務を引継ぎコンビナートとして建設されたのを皮切りに町が構成されていった、いわば工業都市である。
そこへキョウヘイはやってきたのである。
「……ええと、確かここには毒タイプのジムが……」
「おい、そこのトレーナー!」
不意にキョウヘイは声をかけられた。声の主は背中にギターを背負った女性だった。
「どうしたんですか?」
「少し頼まれてくれないか?」
「?」
そう言って女性の方へキョウヘイは歩いていった。
女性もキョウヘイの方に近づいた。
「……その顔じゃ知らなそうだな」
「……来たばかりですから」
キョウヘイは女性に対して少し顔を顰めた。
「まあいい。もしよろしければ頼まれて欲しい」
「何をです?」
「……プラズマ団。知っているだろ?」
その言葉を聞いて、キョウヘイの表情が凍りついた。
プラズマ団。
その正体は『ポケモンの解放』を謳ってイッシュを我が物にしようとしていた悪の組織だ。
しかし、二年前勇気ある二人のトレーナーによりボスを倒し組織は解散……したはずである。
その組織がなぜ、今? キョウヘイは彼女の話を聞き、そんなことを考えていた。
「……それでね、奴らコンビナートを拠点にしてるみたいなの。彼処は出来たばっかだから新米しかいないのをいいことにね」
「コンビナート……というとこの街の南の……?」
「そっ。ホドモエって街に昔コンテナ街があってコンビナートもそこに付随してたっぽいんだけど、ヤーコンって奴が『世界から色んなトレーナーを集めたトーナメントを開催する!』だなんて張り切って、コンテナを無理矢理売り払ったんだよ。んで、しゃーないからコンビナートは本社に近いここにした……まぁ、詳しいことはあんまよく解らんけど。とりあえずあんた、助けてくれないかな?」
「わかりました。やります」
キョウヘイの解答は明白だった。その解答は流石に予想していなかったようで、
「え? ほんとにいいの? だって赤の他人だよ?」
「困ってる人を助けなきゃ、これを持つ人間の名が廃りますよ」
そう言ってキョウヘイは申し訳なさそうに女性にポケモン図鑑を見せた。
「嘘……、あんた図鑑所有者なの?」
「まぁ、一応」
彼女の問いにキョウヘイは照れながら答えた。
タチワキコンビナートは歩いて数分の場所にある、とても小さなコンビナートだ。しかし、朝早くから煙突は煙を吐き出すし、夜は夜景が素晴らしいという。タチワキシティ有数の観光スポットとしても知られている、その場所にキョウヘイはやって来た。
「見た感じ誰も居なさそうだけど……居るとしたらここで作る電気を感知して寄ってきたコイルくらいか?」
そう言って辺りを見渡す。確かに彼の言う通り、周りには叢の他にコイルが普通では考えられない(つまり数匹ではなく数十匹単位)程いたりする。
タチワキコンビナートの奥には、海が見渡せる人工の岬があった。そこに佇む黒ずくめの人間が数名いた。
「……プラズマ団キョウヘイらは貴様らか」
キョウヘイはその連中に向かって呟いた。
「だったら、どうする?」
黒ずくめの連中はキョウヘイを蔑むように笑った。それを見てキョウヘイは無言でモンスターボールを取り出し、ポカブを繰り出した。
「……?」
「もし、お前らがプラズマ団なら倒す必要がある。……タチワキの人を困らせたのならな」
「はっ、なに言ってんだ。あいつらは弱いポケモンをトモダチみたいに可愛がってるんだぜ? ポケモンはこんな感じに強くなっていく道具だっていうのになァ」
「……俺が許さない」
「待ちなさい」
キョウヘイがポカブに戦闘開始を命じるその直前だった。紫に染めた服を着た男が現れた。
「……ヴィオ様……、どうしてこちらに……!!」
「貴様らが任務を達成させるのに時間をかけすぎているからだ」
「……、」
「……さて、少年よ」ヴィオと呼ばれた男はキョウヘイの方に振り返り、呟いた。「……ポケモンは返してやろう。お前のその気合いに免じて、な」
その言葉を聞き、プラズマ団員も少なからず動揺していた。しかしヴィオはそれを無視して、
「しかし、二度目はない。次は貴様を――永遠に動けないようにしてやる」
そう言ってヴィオは去っていった。それを追うようにプラズマ団員も去っていった。
残ったのは拍子抜けした気持ちが残るキョウヘイと、プラズマ団に捕まったポケモンだけだった。