ヒウンシティ。
イッシュ地方一の大都市として知られ、摩天楼の街でもあり、また異文化の交流の地でもある。
そこにキョウヘイたちはやってきた。
「うわぁ……広いなぁ」
「俺もテレビでしか見たことねぇけど、すげぇ街並みだぜ……」
キョウヘイとベズの二人がその広さ、巨大さに圧倒されつつあった、そんなところに、
「Oh〜! その感じじゃハジメテだね!」
後ろからやけに陽気な声がかかってきた。キョウヘイとベズが振り返ると、奇抜な衣装に身を包み、赤いボールのような鼻をつけた男だった。
「……ピエロ?」
「ハァイ! そうなのでっす! ワタクシこそはヒウンメダルラリー案内役のディラックとか言います!」
そのピエロはここに来て日が短いのか、少し意味の通りづらい(少し回りくどい、と言った方が正しいのかもしれない)言葉を陽気な口調で語る。
「面白そうだけど……、俺ら急いでいるんだ。悪いな」
そう言ってベズは立ち去ろうとする。
「あぁ、解った! じゃあこれだけでも貰っていかない? 最先端とかいう自転車デスヨ!」
「自転車……しかも最新型……。ほんとにもらっていいんだろな?」
キョウヘイは疑うことなく貰おうとしていたが、ベズの方はそれがどうも怪しいと思ったらしく(それが一般的な対応かもしれない)、ピエロの方に突っ掛かった。
「いやいや、確かに皆さんそう思われますが! それでも、保証しますよ! 安心の三年間無料保証っ! 電化製品はぜひヒウン電機に!」
「さらっと宣伝するなし?! まぁいいよ。乗ればいいんだろ、乗れば!」
ベズはさっさとここから離れたかったらしく、無造作に自転車を受け取ると躊躇なく乗り込み、漕ぎ出した。
「お、おい! ちょっと待てって!!」
キョウヘイもベズに追い付こうと大急ぎで自転車を組み上げ、少し遅れる形でベズが向かった方へ走り出した。
「……チョット慌てんぼな人達デスネ!」
ディラックはそんなことを呟いて、ヒウンの空を見上げた。
ヒウンシティの港は五つに別れており、その中のスカイアローブリッジに近いピアをサムピアという。なぜ言うのかは、その港が一番太く短いため、親指に見えるのだというからだ。
「……ここに何があるんだ?」
「ここには、下水道の入口がある。ほら、そこに」
ベズが指さした先には、不自然に出っ張った地面、そしてぽっかりと空いたマンホールがあった。
「あそこに入るしかないのか……」
「ああ、当たり前だろ! 行くぞっ!!」
「あれ、おにーちゃんたちなにしているの?」
「?!」
不意に声をかけられ二人は驚いた。そこにいたのは――天女だった。
否、人間だった。天女のようなレースを纏った少女はキョウヘイと同じくらいの年齢に見えた。
「……びっくりした。なにってこれからここへ潜るんだよ」
「もぐるの? ……そこにさっきアーティが入っていったけど」
「アーティって……ヒウンシティのジムリーダーの……!!」
「うん。もうだいぶ帰ってこないけど」
それを聞いて、ベズとキョウヘイは頷いた。
「……いこう、中へ」
下水道の中は中々な暗さだったが、歩きやすく(恐らく管理や点検、清掃のときに用いられるのだろうか?)なっていた。
「下水道って割には水も臭くないし、歩きやすく舗装された道もある。ここほんとに下水道なんだよな?」
「一応タウンマップにもそう書いてあるしなぁ。だから、間違ってはいないと思うんだけど……」
ベズが訊ねて、キョウヘイが答える。
「……まぁいい。きっとここにプラズマ団がいるはずだ。ジムリーダーが向かったというのなら尚更……可能性は考えられる」
ベズの言葉には怒りの感情が隠っているようにも見えた。
「しかし……なんでプラズマ団が未だに活動してるんだ? あいつらは二年前に解体されたはずじゃないのか?」
「……父さんのパソコンにはこう書いてあった」
ベズはそう前置きして、話し始めた。
二年前、プラズマ団は一人のトレーナーの手によって解体された。その時主格であるゲーチスとNが行方不明となった。団員はそれぞれの考えを元に分裂した。
片や、『ポケモンを使って世界征服』を考えているゲーチス派、エクス・プラズマ。
片や、プラズマの王であったNの考えを汲み、『ポケモンはトモダチだから共に生きること』を考えているN派、ホワイト・プラズマ。
この二派により現在対立し――今でなお膠着状態にある。
「――とまぁ、こんなところらしい。詳しいことはよく知らねぇけど、プラズマ団はその一件で白黒別れちまったんだと」
ベズの言葉にキョウヘイは頷いた。――が、彼には少し気になることがあった。
「なぁ、ベズ。……静か過ぎやしないか?」
「それは俺も思ってたことだ……、まさか……?」
そして、ベズたちは下水道の奥地に辿り着いた。しかし――誰もいない。
「誰も……いない。まさか間違いだったのか……?」
しかし、そこに一人の人間がいた。緑のポロシャツに、マフラーをつけた男性。怪しくはないが、何故ここに居るのかは気になる。
「……おや、君もプラズマ団を追ってここまでやってきたのかい?」
「誰だ?」
「僕はアーティ。このヒウンシティのジムリーダーだよ。……なんだか怪しい一団が街に居ると聞いてね。ここまで来たら居たからちゃちゃっと、ね」
「……そうか。なら、もうここには居ないんだな」
ベズがそう言ったそのとき、アーティは後ずさった。
「……誰かがいる」
そう言って見つめたのは――小さな穴、ちょうど大人一人が入れるくらいの大きさだ。
「いやはや、ばれてしまいましたか」
そこに現れたのは変わった風体の男だった。頭部を中心に水色の髪を渦巻かせ、細長いレンズは彼の目を透明に映し込んだ。
「……はじめまして。私のなまえは、アクロマ。ただのしがない研究者ですよ」
そう言って彼はパソコンを見ながらも、三人の方を見つめる。
「……なぜ、ここにいた?」
「私もポケモンの研究をしていましてですね。様々なポケモンを自分で探しに行くわけです。……フィールドワークとでも言いましょうか」
「……、」
アクロマの言葉には誰も返すことは出来なかった。なんというか、不気味な感じが立ち込めていたからだ。
「……何もないならば、ここから出たいのですが? 私の研究データをまとめるためにも一回研究所へ戻りたいのですよ」
「……わかった」
三人を代表して、アーティが頷いて、彼のための道を設ける。それに優越感を覚えたのかアクロマという男は皮肉混じりに微笑んで、歩いていった。
それを三人はただ見つめることしか出来なかった。