ライモンシティの南東にはイッシュ一の広さを誇る遊園地が存在する。そこにはファッションショーを行うファッションドームなるものが存在し、連日多くのモデルが鎬を削っている。
カミツレと呼ばれる人間もまたその一人で、このファッションドームのリーダーかつ『ライモンシティジム』のジムリーダーでもある。この場所はモデルが着る最先端の服が見られるファッションドームであり、白熱する高いクオリティーのバトルが見られるポケモンジムでもあった。
カミツレが休憩所で休んでいると、モデル(兼ジムトレーナー)の一人がノックもせずに慌てて入ってきた。
「……? どうしたの、騒々しいわね」
「カミツレさん、ヒウンのアーティさんから御電話です……!!」
「アーティから? ……珍しいことね」
カミツレはモデルからの言葉を聞き、受話器をとった。それを通して聞こえるのは、懐かしくも思えるヒウンのジムリーダー、アーティの声だった。
「どうしたの、アーティ」カミツレは手でモデルに出ていってもらうよう指示した。「……あなたから電話だなんて珍しいんじゃない?」
「あぁ、そうかもしれないね。だけど今は一大事なんだ。小さい芽かもしれないが、放っておけばイッシュを食い潰してしまう程の巨大な樹木の種が」
「……あなたが燃えてしまうほどの?」
「あぁ、その通りだ。……プラズマ団が復活した」
「?!」
カミツレは言葉にこそ出さなかったがそれを聞いて眉を潜めた。
「これは確実だよ、残念ながら。昨日ヒウン下水道でプラズマ団らしき人間に遭遇した。……最も二年前とは雰囲気が変わっていたけどね」
「……どういうこと?」
「つまりは、」アーティは息をついて、言った。「あいつらは二年前と同じこと、いやそれ以上の事を仕出かすつもりだ」
その頃キョウヘイはライモン遊園地まで辿り着いていた。遊園地は半ば当たり前のようではあるが、沢山の人(特に子供連れの家族が目立つ)が来ていた。
「……しかしまぁ、凄い所にジム開くよなぁ……」
キョウヘイはぽつり呟き、ふと地面を見てみた。そこには、何か時計のようなものが落ちていた。
「……なんじゃこりゃ……、ライブキャスターじゃん。しかも旧型の」
そこに落ちていたのはライブキャスターだった。それも半年前に出た新規モデルじゃなくて一世代前のやつ(だが発売は三年前だったりする)だった。
「なんでここにライブキャスターがあるんだか……?」
キョウヘイは一瞬考えて――そしてそれを手にした。
「……君、キョウヘイだよね?」
不意に自分の名前を呼ばれて、キョウヘイは振り返った。
「ナチュラル! 君もここまで来たのか?」
そこに居たのはナチュラルだった。ナチュラルは頷く。「ああ。ちょっとイッシュをまた巡ってみたくてね。……君はどうしてここに?」
「決まっているじゃないか、ジム戦だよ!」
「……あぁ。ジムか。ここのジムはたしかでんきタイプだったはずだよ。警戒したほうがいいかもね。あと、出来ることなら、『まひなおし』を大量に用意しておくことをお薦めするよ」
「そのアドバイス、確かにいただいたよ」
そう言ってキョウヘイは遊園地の奥にある――ライモンシティジムへと向かった。
ジムの奥にいるジムリーダーの場所まで辿り着くのにそう時間はかからなかった。
ジムはファッションドームと同じ仕組みを果たしており、即ちは沢山の一般観客がいる中でのバトルになるのだという。
キョウヘイは全てそれを潜り抜け、ここまでやって来たのだった。
「……まぁいいや、バトルしたいんでしょ」
カミツレは溜め息を一つだけ吐いて、モンスターボールの開閉ボタンを押した。
――そこから出てきたのは、ゼブライカだった。
「そっちがゼブライカなら……俺はこいつだ! 行け、ルカリオ!」
そう言ってキョウヘイが繰り出したのは、ルカリオだった。
「ルカリオ……でも私の電気ポケモンの攻撃に耐えられるかしら?!」
カミツレは叫んだ。それと同時にゼブライカもルカリオ目掛けて駆け出した。
「ゼブライカ、『ニトロチャージ』!!」
「ルカリオ、『はっけい』!!」
攻撃はゼブライカの方が僅かに速かった。ゼブライカの身体は炎に包まれ、そしてルカリオに突進した。
余談になるかもしれないが、ルカリオは鋼・格闘タイプのポケモンである。即ち……通常の鋼ポケモン同様炎が弱点である。
そんなことはポケモントレーナーの常識なので、キョウヘイも解っている筈である。なのに、彼はなぜその技、そのポケモンを選んだのか?
そんなことを考える間もなく、ルカリオはカウンターでゼブライカにアタックした。はっけいは相手を麻痺にさせる技、電気タイプにはあまりなりづらいものなので、何故これを選んだのか、カミツレには理解出来なかったのだが……。
それは直ぐに訪れた。
「……くっ、麻痺になるなんて、そんな馬鹿な?!」
彼はギャンブルに勝ったのだ。電気ポケモンになりにくい“とされている”麻痺に持ち込んだのだ。
「交代、シママ!」
シママはゼブライカの進化前であり、進化後のゼブライカとともに動物園に重宝されるポケモンとして知られている。カミツレはこのポケモンを出して、一気に決めてしまおうと考えた。
しかしいざ出してみると――シママの様子がオカシイことに気が付いた。
「ダメージを受けている、しかも毒状態だなんて……まさか!」
「その通りさ! ゼブライカからシママの交代を狙って、“どくびし”を撒いておいたんだ! そしてこのターンダメージを受けたポケモンはこの技だけで力尽かせることが出来る。……ルカリオ、『だめ押し』!!」
そしてルカリオの攻撃で完全にシママは倒れた。
「……負けた。私が……」
それを見て、カミツレは膝から崩れ落ちた。
「……大丈夫ですか?!」
「ああ。大丈夫だ……。ふふ、まさか……ああ、そうだ。この感じどっかで見たことのあると思えば、二年前戦った少年に雰囲気が似ているんだ」
カミツレはそう言って笑った。それを見るキョウヘイは一体彼女が何を言っているのか、分かっていないことだろう。
「……まあ、負けたのは確定事項。ならば、ジムバッジを与えなくちゃね」
そう言ってカミツレはポケットからジムバッジを差し出した。
「ふ~ぅ、ジム戦も終わったしこれからどうすっか……」
キョウヘイはジムを出て、ゆっくりしているとひとりの少年と出会った。
「やあ、また会ったね」
「ナチュラルか。……アドバイスは結局使わなかったよ。逆に麻痺にさせてやったからな」
「そうか、まぁ、戯言ではあるからね。……なんだかまた彼に似てきたね」
「その言葉をついさっき言われたばっかなんだけどね」
「そうか」ナチュラルは少し首を傾げた。「なら、申し訳ないことをしたかな」
「いいや。別に問題ないよ。もう慣れた」
「そうか、ならいい。……ところでキョウヘイあっちには何があると思う?」
そう言ってナチュラルは東の方に指差した。
「……たしかあっちと言えば、氷漬けになったイーストイッシュのことか? あそこには今んとこ行こうとは思ってないが……」
「そうか。なら、覚えていてはくれないか。君はきっとジャイアントホールへ向かう。そして、彼と出会う」
「……彼、って?」
ナチュラルは一息置いて、言った。
「トウヤさ」
「……トウヤ! 彼と会えるのか?!」
「ああ」ナチュラルは帽子を少しずらして、笑った。「きみがそこまでいける気合があるならばね」
「そうか…。盛り上がってきた!! ありがとう、ナチュラル!!」
そう言ってキョウヘイは居ても経っても居られなくなったのか、遊園地の出口向けて走っていった。
それをナチュラルはただ見つめて、笑っているだけだった。