️風の女神は我慢できない ~お供え物だけじゃ足りないので、分御霊になって直食いしに来ました~   作:月影 流詩亜

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第11話 :ダンジョン攻略、アグニの嫌がらせはスパイスの香り

 

 ◇ 資金難と灼熱の予感 ◇

 

 

 「……ムコーダよ。余の勘違いでなければ、今日の朝食、少しばかり『質』が落ちてはおらぬか?」

 

 カレリーナの街の宿。朝の光が差し込むテーブルで、ニンニンは不満げに皿を見つめていた。そこにあるのは、いつもの豪華な厚切りベーコンではなく、ネットスーパーでも安価な「業務用ソーセージ」であった。

 

「……気づいちゃった? いや、ほら、ニンニンちゃんの『故郷』への仕送りが最近凄まじいことになってるでしょ。一升瓶に箱買いのチョコ……俺の金貨、滝のように流れていってるんだよ」

 

 ムコーダは、げっそりと頬を落としながら通帳を突き出した。

 

「このままだと、次の街に着く前に路頭に迷うよ。……というわけで、今日はカレリーナ近郊のダンジョンへ行って、一気に資金調達をしてこようと思うんだ」

 

『……フン。妥当な判断だ。我も、そろそろ「オーク」くらいの歯応えのある肉を喰らいたかったところだ』

 

「……ダンジョンか。肉と、金貨が手に入るのじゃな? よかろう、余も加勢してやる。……全ては、故郷の飢えた家族のためじゃ(※酒飲みの女神共のためじゃ)!」

 

(……やっぱり。自分の食事を削ってでも、あの酒飲みの親戚にお酒を送りたいんだな。なんて健気な……!)

 

 ムコーダの目頭が熱くなる。だが、そんな彼女の脳内に、火の女神アグニの野太い声が響いた。

 

 

『――おい、ニンリル! 昨日のあの強い酒、もうねえぞ! 俺はもっと「燃えるような熱さ」が欲しいんだよ! 刺激が足りねえんだよ!』

 

(……わかっておる! 今から稼ぎに行くのじゃ、黙っておれ!)

 

 ニンリルは苛立ちながら念話を切ったが、これがアグニの「逆鱗」に触れたことを、彼女はまだ知らなかった。

 

 

 ◇ 変貌した「常緑の迷宮」 ◇

 

 カレリーナから数時間の距離にある『常緑の迷宮』は、本来は緑豊かな初心者向けのダンジョンである。

 

「よし、サクッと10階層まで行って、素材を回収しよう」

 

 だが、入り口を抜けた瞬間、一行を襲ったのは、常緑の迷宮らしからぬ「熱気」だった。壁の蔦は乾燥してひび割れ、通路の奥からはゆらゆらと陽炎が立ち上っている。

 

『……おかしい。植物の匂いがせぬ。代わりに、鼻が曲がるような硫黄の臭いがするぞ』

 

「ギギギィーッ!!」

 

 曲がり角から現れたのは、本来ここにいないはずの魔物、『フレイム・コング』の群れだ。

 

「えええっ!? 1階層にBランクモンスター!? 生態系、どうなってるんだよ!」

 

 ムコーダが悲鳴を上げる中、ニンニンの脳内にアグニの勝ち誇ったような笑い声が響いた。

 

『ヒャッハッハッハ! ニンリル、聞こえるか? 俺、お供えの質が上がるまで、そのダンジョンの属性をちょっとだけ「俺好み」に調整してやったぜ! 刺激が足りねえって言ってたもんなぁ!』

 

 

(……お、お主! なんという余計なことを! ムコーダが死んだら、酒は二度と届かぬぞ!)

 

『大丈夫だろ、フェンリルがいんだからよ! さあ、もっと熱く、激しく戦って、俺を満足させろよ!』

 

 

 ◇ フライパンの中の戦場 ◇

 

「……あの、アグニめ。……余の、優雅なピクニックを、サウナに変えおって……」

 

 ニンニンのこめかみに青筋が浮かぶ。次々と現れる火炎属性の魔物たちが、ムコーダの土魔法で作った防壁を叩き、周囲の温度を上げ続けている。

 

「熱い……。もうダメだ、アイス……アイス食べたい……」

 

 ムコーダがバテ始めたその時、ニンニンの堪忍袋が完全に弾けた。

 

「……(やかま)しいわぁぁぁ!! お主ら、余の『飯係』を熱中症にさせる気か! 昼飯が作れなくなるではないか!!」

 

 ニンリルが右手を一振りする。

 

「断絶の極光(アブソリュート・ゼロ)」

 

 凄まじい極寒の旋風が吹き荒れ、通路を満たしていた炎が一瞬で鎮火する。フレイム・コングたちは、火を消された衝撃で石像のように固まった。

 

「フェル! さっさと片付けるのじゃ! 余は今、猛烈に『辛い肉』が食べたくなったわ!」

 

『……うむ。ニンニン(ニンリル様)のキレ方は相変わらず理不尽だが、方針には同意だ。灼熱の肉、喰らってやろう』

 

 ニンリルは風を操り、ドロップした肉を宙に浮かせると、アグニが残していった「余熱」を利用して強引に調理を始めた。

 

 

「ムコーダ! ネットスーパーを開け! 激辛のソースと、あの赤い粉を出すのじゃ!」

 

「あっ、はい! 今すぐ!」

 

 ムコーダは慌てて、『エブラ・黄金の味(激辛)』と『一味唐辛子』を購入。ニンリルは肉に切り込みを入れると、ソースを豪快に塗りたくった。

 

 

「アグニよ、見ておれ! お主の嫌がらせを、そのまま『最高のスパイス』に変えてやるわ!」

 

 

 ◇ 煽りのバーベキュー ◇

 

 

「メニューは、アグニの熱で焼き上げた『フレイム・ボアの激辛ガーリックステーキ』なのじゃ !

……はふ、ハフッ!! 辛い! 痛い! じゃが、美味い!!」

 

 ニンリルは顔を赤くし、汗を流しながら肉に食らいついた。アグニの魔力がこもった炎で焼かれた肉は、不思議なほど柔らかく、脂の甘みが激辛ソースと完璧に調和している。

 

「ムコーダ! この『プレミヤム・マルツ』を寄越せ! 辛さをこの黄金の泡で流し込むのじゃ!」

 

「はい、どうぞ! ……俺も一本……くはぁーっ、効くぅ!!」

 

(……アグニ、聞こえるか? お前が送った炎で、今、最高に美味い肉を食べてるぞ。お前には、この『残り香』だけを転送してやろう)

 

 ニンリルは、神界への通信を開くと、肉の焼ける匂いとビールを飲む「イメージ」だけを送りつけた。

 

『……っ!? な、何だよそれ! ズルいぞ! 俺もその肉食いてぇ! 酒も! 今すぐ送りやがれぇぇぇ!!』

 

 アグニの絶叫が脳内に響くが、ニンリルは鼻で笑って念話を遮断した。

 

 

 ◇ 勝利の戦利品 ◇

 

 

 結局、魔物の質が上がったおかげで、手に入った魔石や素材は、通常の数倍の価値を持つものばかりだった。

 

「すごいよ、ニンニンちゃん。これだけで金貨50枚分はある。しばらくは安泰だ!」

 

「ふふん、当然じゃ。……さて、ムコーダ。約束通り、余には『ポリポリ君・ソーダ味』……それと、アグニを黙らせるための『激辛カラムーチャ』を五箱、発注するのじゃ」

 

「わかったよ。今日は特別だ」

 

(……ああ。ニンニンちゃん、故郷の親戚が仕組んだ『熱血特訓(嫌がらせ)』に耐えて、あんなに必死に肉を焼いて……。本当に、家族思いの良い子だよなぁ。よし、今夜は奮発して、もっといいビールを『故郷』に送ってあげよう)

 

 ムコーダの「聖なる誤解」が、ニンリルのパシリ業務を加速させていく。

 

 カレリーナの街へ戻る一行の影は、いつになく長く、そして満腹感に満ちていた。

 

 

 

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