️風の女神は我慢できない ~お供え物だけじゃ足りないので、分御霊になって直食いしに来ました~   作:月影 流詩亜

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第9話 天からの怪電波、あるいは女神たちの恐喝

 

 ◇ 宿屋の平和と、シュークリームの衝撃 ◇

 

 

 カレリーナの街に到着し、冒険者ギルドでの騒動を(お菓子で)揉み消した翌日。ムコーダ一行は、街でも評判の高級宿の一室で、束の間の休息を楽しんでいた。

 

「……んんんッ!! なんじゃ、この『しゅーくりーむ』という食べ物は! 噛んだ瞬間に、溢れんばかりの黄金の蜜が溢れ出してくるではないか!」

 

 ニンニンは、新しく買い与えられた青いスカートを揺らしながら、ベッドの上で悶絶(もんぜつ)していた。その口元には、ムコーダがネットスーパーで取り寄せた『不三家』の「ダブルシュークリーム」の生クリームが、あざとく付着している。

 

 

(わらわ)は知っておるぞ、ムコーダ。この白いのは生クリーム、黄色いのはカスタード。異なる二つの甘美が口の中で手を取り合い、輪舞曲(ロンド)を踊っておる……。これぞ神の、いや、余のための食べ物じゃ!」

 

 

「気に入ってくれたなら良かったよ。でもニンニンちゃん、鼻の頭にクリームがついてるよ」

 

 ムコーダは苦笑しながら、自分用のコーヒーを啜った。

 

(……本当に、あんなに美味しそうに食べるなんて。よっぽど故郷じゃ、お菓子なんて夢のまた夢だったんだろうな。こうして幸せそうにしてるのを見ると、こっちまで嬉しくなるよ)

 

 だが、そんな平穏は、唐突にニンニンの脳内を駆け抜けた「ノイズ」によって打ち砕かれた。

 

 

 

 ◇ 神界緊急通信(ホラー風味) ◇

 

 

「……うぐっ!?」

 

 突如、ニンニンが手に持っていたシュークリームを落とし、頭を抱えてのけ反った。

 

「ど、どうしたの、ニンニンちゃん!? 頭痛!?」

 

「……き、来た。……来てしまったのじゃ……。脳内に、直接、余を罵倒する悪魔の声が……!」

 

 ニンニンの瞳が激しく泳ぐ。彼女の脳内には今、凄まじいハウリングと共に「聞き慣れた、しかし今は一番聞きたくない声」が響き渡っていた。

 

『――リル! ニンリル! 聞こえているんだろう!?』

 

『ちょっと、あなただけズルいわよ! さっき食べてたあの「白いふわふわ」は何!? 私にも寄越しなさいよ!』

 

『……チョコ。……ニンリル、チョコ独り占め、許さない。……死刑』

 

「ひぃぃっ! アグニ! キシャール! ルカまで! お主ら、なぜここがわかったのじゃ!」

 

 ニンニンが虚空に向かって叫ぶ。ムコーダにはその声は聞こえないが、彼女の怯えようは尋常ではない。

 

(……悪魔の声!? もしかして、ニンニンちゃんを追い出唆した『悪い親戚』が、魔法か何かで彼女を監視してるのか!?)

 

 ムコーダの「認識阻害」脳が、恐ろしい陰謀論を組み立て始めた。

 

 

 ◇ パシリの契約と、深まる誤解 ◇

 

 

『ニンリル、いいか? 俺たちは心が広いからよ。おまえが「パシリ」として、定期的にあちらの品を神界へ送るなら、デミ様には黙っておいてやる。……さあ、選べ。協力するか、消滅するか!』

 

 脳内に響くアグニたちの高笑い。ニンニンに選択の余地はなかった。

 

「……わ、わかった。約束する。ムコーダに頼んで、お主らの分の供物……もとい、仕送りも確保させよう。じゃから、デミ様には絶対に……絶対にな!」

 

 ニンニンは涙目になりながら、三女神との「闇の契約」を交わした。通信が途切れ、彼女は深い溜息をついてベッドに沈み込んだ。

 

「……ムコーダよ。余は、とんでもない業を背負ってしまった」

 

「……ニンニンちゃん。大丈夫、俺は全部見てたから(※見えてない)。……君の故郷には、君を脅して食べ物を取り上げるような、悪い親戚がいるんだね?」

 

「……は? あ、いや……まあ、ある意味ではその通りじゃな。あやつら、食い意地だけは一人前で、余が少しでも良い思いをすると、すぐにこうして……」

 

(……なんてことだ。この小さな子に、街で手に入れた食べ物を横流しさせようとするなんて! きっと、酒浸りの親父や、欲張りな叔母さんたちが村で待ち構えてるんだ……!)

 

 ムコーダの目には、ニンニンが「家族のために自分を犠牲にする、健気な少女」として、聖母のように輝いて見えた。

 

 

 ◇ 聖なる仕送りの箱 ◇

 

 

「わかったよ、ニンニンちゃん。俺が力になる。……段ボールに詰めて、どこに置けばいい?」

 

「え? ……あ、ああ。部屋の隅でよい。余の魔力で、故郷へ転送する……」

 

 ムコーダは決意の表情でネットスーパーを起動した。

 

「プレミアムなビール三ダース! それに高級チョコ、ポテトチップスの箱買い! ……これなら文句ないだろ! 待ってろ、ニンニンちゃんの悪い親戚ども!」

 

(……お、お主、なぜそんなに気合が入っておるのじゃ?)

 

 ニンニンは引き気味だったが、届いた大量の物資を段ボールに詰め、神界への転送魔法陣を展開した。

 

 段ボールが光に包まれ、空間に消えていく。

 

 直後、ニンニンの脳内に三女神の歓喜の声が響いた。

 

 

『来たぜぇぇぇ! ビール、キンキンに冷えてやがる!』

 

『……チョコ。……美味しい。……許す。少しだけ』

 

 

 

「……ふぅ。これで、当座の危機は去ったな」

 

「よかったね、ニンニンちゃん。……でも、無理しちゃダメだよ。君の分は、俺が絶対に守るから」

 

 ムコーダが優しくニンニンの頭を撫でた。

 

(……この子、自分の分を削ってまで親戚に送ろうとしたんだ。なんて不憫な……。よし、明日の朝はもっと豪華な卵料理にしてあげよう)

 

 ムコーダの財布は、かつてないスピードで軽くなり始めていた。

 

 しかし、本人は「不遇な少女の家族愛」を支えているという充実感に満ち溢れていた。

 

 

 一方、神界……届いたビールを煽り、チョコを貪る三女神。

 

「ゴクゴクゴク、プハァー旨めぇぇぇ~生き返るぜ !」

 

「ふふ、ニンリルちゃん、いいパシリを見つけたわね。次はあの『しゅーくりーむ』を十箱くらい頼みましょうか」

 

「……賛成。……もっと、太らせる」

 

 女神たちの欲望という名の嵐は、ムコーダの「聖なる誤解」を燃料にして、さらに激しく燃え上がろうとしていた。

 

 

 

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